相川さんは秘密をもっている。   作:王子の犬

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因縁対決

 四組のISがピットへ帰還する。

 前の試合。三組健闘。されど勝利には届かず。打鉄零式が膝をついて、装甲の一部を解いて頭を垂れる。肩で息をして汗がしたたり落ちる。よほど厳しい戦いを強いられたか。

 回収機がISごと彼女を収容して去って行った。

 清香は打鉄を着装し、回収機のけたたましいエンジン音に聞きながらフィールドへ躍り出る。

 フィールドに着地。

 エンジン音が遠のく。砂煙が収まる頃には対戦相手が出そろった。

 

「ふっふーんだ」

 

 凰鈴音が(たの)しげに鼻を鳴らす。紫がかった装甲。甲龍を身にまとっている。以前は見なかった非固定浮遊部位(アンロックユニット)をも展開していた。

 小柄の打鉄が続く。拳の周囲を鉄甲で多い、右手に小さな円形盾を持っている。甲冑型装甲の大部分が取り去られ、思い切り軽量化した模様。

 

「一夏。今日は相手してあげる。相方をセシリア・オルコットにしなかったのが大失敗だったこと。思い知らせてあげる」

「鈴。簡単にはやられねーぜ」

 

 一夏が軽く応じる。いきなり清香に顔を向け、「なっ!」と笑いかけた。

 あわててうなずく。凰鈴音は一夏が見ていないのを良いことに不機嫌さを露わにした。

 

(うわーんっ。やっぱり目の敵にされてるよーっ)

 

 司会者が一組と二組のISについて軽く紹介。観覧席とフィールドを隔てる透明壁にプロジェクションマッピング。いつ撮影したのかわからない動画と写真が多数表示。甲龍の紹介。つづいて小柄と清香のカスタマイズ打鉄について。

 バケツを頭から被ったようなデザインはやはり不人気らしい。視界が極端に悪いというのも理由のひとつ。

 二機の踊り子IS【紫電改】がフラッグを携えて飛行する。派手なロゴが飛び交う。試合開始まで一分を切った。

 秒読み。その間、深呼吸。すっはー。すっはー。

 頭をコンコン小突く。セシリアの献身。効果大。頭はかつてなくスッキリ爽快。身体を動かすのにも一苦労していたのに、今は自分の身体みたい。

 装備を確認。武装を一部変更。VRで使い慣れていたもの。すべて要望通り。

 空を見上げて視界の中央に一夏を据える。拳を高らかに掲げてみせる。

 試合開始まで一〇秒。

 

「織斑くんっ! 手はずどーりにがんばろー!」

「相川もなっ!」

 

 凰鈴音も小柄(こづか)(しのぎ)に声をかける。

 

「小柄。一夏を抑えて。撃破しなくていいから」

「りょーかい。お代は中華でいいぜ」と鎬が茶化す。

「満漢全席おごってやるわよ」

 

【OPEN・COMBAT・試合開始(ビイイイィィィ――……)

 

 ブザーが鳴り響いた。観覧席が騒がしくなっていく。

 

▽▲▽

 

 小柄機目指して移動しながら、清香は異常を察して飛び退いた。一振りの青竜刀が足下に突き刺さる。小さな筒を実体化させ、急接近するISに備えた。

 

「残念。あんたの相手はアタシ」

「……そんなぁ」

 

 清香が落胆する。本当に裏をかいてきた。一夏の白式は甲龍よりも機動力に勝っていた。一夏と鈴音が戦えば、少しは勝ち目が見いだせるのだ。

 理論上、打鉄では甲龍には勝てない。それほどに第二世代と第三世代間の差は大きい。まして、素人と代表候補生。清香は腹をくくるしかなかった。

 

(わたしの腕、どこまで通じるんだろう)

 

 直接目視不要の計器戦闘。ジリジリと近づいていく。

 鈴音が地面に刺さった青竜刀を引き抜く。対となる青竜刀につなげ、双天牙月として脇に抱える。右手の人差し指で名指しするように突き出す。あまりに挑戦的な格好。

 

「ま、どー考えてもアタシが勝つのは目に見えてるけどっ。どうする? 何秒で倒してほしい? 言いなさいよ」

 

 口で煽って意識をそらす作戦か。清香は考えた。

 

「そっちこそ、残念。今日のわたしはひと味違うからっ」

 

 セシリアが見守るなか一度勝っている。感覚は鋭敏に。引き絞るように力をためる。清香の思いを感じ取ってか、打鉄のコアが自らの潜在能力を引き出さんとする。

 出力上昇。

 

(あったまってきたっ……)

 

 くるぶしの推進器を急噴射。遷音速に到達。一息に距離を詰める。自機の勢いを砲弾の初速に上乗せした。

 鋭敏な感覚。双天牙月は動いていない。

 

(やった……!!)

「……はッ、バーカ!!」

 

 突っ込んだのとは逆方向に吹っ飛んでいた。感じた直後に音が聞こえていた。打鉄の装甲に着弾する甲高い音。超音速子弾(スーパーソニック・バレット)

 

(なになにっ。なんなのーっ??)

 

 地面に落下。転がりながらPICの存在を思い出す。二転三転してから身体を(ひるがえ)す。

 ()()

 先に衝撃、後から音。歯を食いしばった口から悲鳴が漏れる。

 シールドエネルギー残量。思った以上に減っている。そのうえ、正体不明。

 

「バーカッ! バーカッ! あんた、やっぱり下手くそじゃないのよっ。何で一夏と組んでるのよっ!!」

 

 大気に状態異常。

 計器を見ながら正面を向く。三発目。またしても吹き飛んだ。

 跳ね転がりながら射線をたどる。甲龍の周囲に気圧の乱れ。赤外線の出方も変だ。考えるあいだに状態解析。吹き飛ぶ前後の違いは何か。結果が出るまでのあいだ、金属塊をふたつ実体化し、PICで転がる向きをねじまげて片方を投げつけた。

 次の動き。彼我の位置を把握。空中では一夏と小柄が超至近距離で小競り合い。

 不可視の超音速子弾(スーパーソニック・バレット)。螺旋を描くように跳躍しながらもうひとつの金属塊を投げる。着地時前転してから甲龍に向かって走った。もう一発撃ってきた。衝撃に身もだえ、後から聞こえる爆音に顔をしかめる。

 

(捉えたっ)

 

 大気のひずみ。超音速子弾(スーパーソニック・バレット)が発射された瞬間、非固定浮遊部位(アンロックユニット)の周囲の大気が急激に膨張している。

 地面に頭から叩きつけられた。甲龍まで五〇メートル。一度後退。甲龍に背を向ける。

 

「逃げんじゃないっての!」

 

 これ見よがしに双天牙月を振り回す。

 その間にも攻撃を見舞ってきた。打鉄の腹部に一発直撃。外部装甲が砕け散る。

 膝と手をつきながら着地。立ち上がろうとしたら、よろめいて再び膝をつく。

 

(攻撃を食らいすぎたかも……)

 

 胃が酸っぱい。筋肉が引きつりだしている。

 反応を遮断した。両手をついて身体を起こす。本音が磨いていた後付け装甲はひしゃげて凹んでいる。しかし、打鉄本来の装甲は無傷だ。

 一夏が助けに行く素振りを見せたが、小柄がしつこくはりついて救援できずにいた。

 清香は身体を引きずる振りをしながら呼吸を整える。

 

(さすが代表候補生。当たらないように努めても進路を先読みしてくるっ。だったら――……)

 

 物事は単純に。

 言語化するよりも速く。

 

(まわそーっ。まわそーっ。もっと速く、もっと、もっと、速くっ速くっ――……)

 

 IS適性は血液検査で計測できる。篠ノ之束が開発した試薬は、血液中に含まれる特定のタンパク質の反応を確かめることができた。陽性か、陰性か。陽性の顕著な例が織斑千冬。彼女に近い反応を示せば適性が高く、そうでなければ陰性。その度合いでランクを判定する。

 血液がISと人間とを繋いでいる。

 意思を強く持てば持つほど、ISは答えてくれる。適性が高ければ、より効率的に実現可能なのだ。

 

「こんな風にっ」

 

 清香の顔面と上半身を覆っていた外部装甲が外れた。

 機体の周囲に白い膜のような(もや)が出現。

 正面から真っ直ぐ突っ込んできた清香に向けて、不可視の攻撃を放つ。

 正面投影面積が最小の状況。身体をねじりながら跳躍。外れた装甲が当たって吹き飛ばされていく。

 拳が凰鈴音に届く。

 後から雷鳴が轟いた。音の壁を突き破った。

 

試合終了(ビイイイィィィ――……)

 

 もう一発。追撃するつもりだった清香は、何度も目を瞬かせた。

 

(……あれっ?)

 

 シールドエネルギー残量がゼロになっていた。外部装甲を外したのが裏目に出ていた。

 だが、負けたら表示されるはずの文字がない。清香の反撃は無駄ではなかったのだ。

 

▽▲▽

 

 負けはしなかった。勝ちもしなかった。

 プクーっと清香は片頬を膨らませた。

 

(負けはしなかったけどもっ――)

 

 栄冠を持ち帰れなくなった。残念な気持ちでいっぱい。

 空から一夏と小柄が降りてきた。それぞれの相方の元へ向かう。

 一夏は相川のそばに来るなり、合掌して頭を下げた。

 

「すまんっ! 助けに行けなかった!」

「気にしてないよーっ」

 

 助けに行こうとして何度も邪魔された。一夏は鋭く突いたが、小さな円形盾の向こうにいけなかった。鎬は凰鈴音が要望したとおりの仕事をしてのけた。

 

「満漢全席おごれよー」と鎬が凰鈴音の背中を何度もたたいた。

「分かってるわよっ!!」

 

 不機嫌な様子。打鉄の音速突撃を避けることもできずに直撃してしまった。不可視の攻撃を避けられないという確信があったから。

 会場整備のためのインターバル。ピットから二機の踊り子IS【燕二〇改】がフラッグを翻しながら飛び回った。

 

「覚えてなさいよっ!」「中華っ中華っ」

 

 凰鈴音は鎬に押されながらピットに戻っていく。

 結果は引き分け。清香は肩を落としたが、予想外の健闘に観客は盛り上がった。

 清香と一夏もピットへの舳先にたどり着く。

 まだ観覧席が騒がしい。後ろを振り返った。

 試合のことで頭がいっぱいで気づかなかった。

 会場は光に満ちていて、騒がしく、楽しい場所。クラスメイトがいる方角へ向けて手を振る。誰かが手を振り返してくれた。

 

(また、来たいなー)

 

 大きく息を吸う。少し埃っぽい。

 「相川!」一夏が呼んでいる。織斑先生たちが待っているらしい。

 清香はピット内へ戻るべく踵を返し――。

 

(えっ?)

 

 ――天蓋の中央から閃光。雷鳴が轟いた。

 突如として起きた地震。清香はよろめいて舳先から転がり落ちた。

 砂埃が舞い上がるなかで地面に背中を打ちつけた。打鉄を着装していなければ今ごろ死んでいただろう。

 

(なになにっ。なんなのーっ??)

 

 ハイパーセンサーが示す輝点。フィールドの中央にラグビーボール状の金属塊が着弾。塊が割れて、内部が露わになった。

 ふたつの白い光。小刻みに振動するソレは、首を左右に振っている。

 砂煙が収まり、巨躯の全容が露わになった。

 筋肉を象ったかのような灰色の曲線。その胴体は人間一人がすっぽり収まりそうな太さ。足先まで伸びた腕部、どちらも胴体並みに太かった。

 膝をがに股気味に曲げ、腕を怒らせて、拳を握りしめる。周囲を警戒するかのように顔を小刻みに動かしている。

 

(ば、化け物――……)

 

 腰を抜かし、縮み上がる清香。後ずさったが、輝点は巨躯の抜け殻を示しているに過ぎない。

 何度走査しても結果は変わらない。

 巨躯はハイパーセンサーに映っていなかった……。

 

 

 

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