相川さんは秘密をもっている。   作:王子の犬

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鉄人起動

「……どれだけ通用するか……」

 

 何機撃墜できるか。

 マドカは難易度の高いゲームで遊んでいる気分だった。

 身体を傾かせ、ビットとともに急旋回に入った。鈍足のISがいたはずだ。

 ラファール・リヴァイヴ・クァッドファランクス。狙われていると知って、防楯である非固定浮遊部位(アンロックユニット)の傘を広げる。

 マドカは嗜虐的な笑みを浮かべる。

 

(……行けっ!)

 

 ビットからレーザー射撃。直後、ラファール・リヴァイヴ・クァッドファランクスが驚愕した。

 背部からレーザー直撃。四門ある多銃身機関砲(GAU-8/アヴェンジャー)のうち一門を支える架脚が半ば溶けていた。重量に耐えきれず折れて落下する。

 

「……なぜ、という顔だな……」

 

 直進するはずのレーザーを曲げた、かに見えた。

 実際のところ鎖交するよう二発同時に射出したにすぎない。

 西風(ゼフィルス)を開発した英国IS公社は偏向レーザー技術を実用化していた。しかし、中国IS工業集団公司は出遅れていた。西風(ゼフィルス)を解析してBTシステムのデッドコピーに着手していたが、実用の域に達していない。

 光の変調。ビットの位置を誤認させるまやかし。手品の(たぐ)い。

 

(……足りない)

 

 西風(ゼフィルス)は良い機体だ。第三世代機らしく応答速度に優れている。マドカの考えに追従する。

 

(……私を驚かせるほどの、(おぼ)れさせるほどの)

 

 圧。センサーに六つの輝点。

 背後から駆逐型六機の逆落とし。

 ランチャー・レールの先端からプラズマの刃が出現。西風(ゼフィルス)を囲み、長刀が襲いかかる。

 

(……力が欲しいッ!)

 

 六対一だ。

 織斑マドカは背中を倒し、大の字に四肢を広げながら回転した。刃と刃の隙間を縫い、さらに推力を加えて斬り上げる。淡い黄色の機体が【弐】と描かれた盾を取り落とした。

 さらに身体をひねりこむ。空中で踊るような舵取り。振り返ったとき、一条の黒煙が見えた。

 紫電改・弐が推進器を損傷。生じた火花が可燃性ガスに触れ、爆発したからだ。

 地面に降り、後退するかと思いきやラファールの群れに混ざった。

 空中で西風(ゼフィルス)が釘付けになっているあいだ、重装機があたかも土木工事を行うがごとく破壊を試みている。ラファールの群れが巨躯の周囲にたかった。戦槌(バトルアクス)を振り上げては叩きつけ、振り上げては叩きつけている。

 巨躯の外部装甲は損傷が進行していた。至る所に陥没と割れが生じている。脚部と腰部の装甲に巨大な杭が撃ち込まれ、地面から逃げられずにいるためだ。

 白い目を小刻みに揺らし、取り囲むIS群に対応できずにいる。

 

(……足らない……足らない)

 

 マドカは渇きを覚えていた。

 脆弱な輸送機を守る、盾扱いではないか。マドカのなかでフラストレーションが蓄積していく。

 紅眼睛(レッド・アイ)シュヴァルツェア・レーゲン(黒い雨)を相手取ったときのように、力と力の応酬を味わってみたかったのだ。

 マドカは直感にしたがって顔を上げた。カチ、という小さな音が聞こえ、確認せぬまま身体をひねりこんだ。

 燕二〇改がランチャーの砲口を向けていた。

 (まばゆ)い閃光。再び火災が発生した。

 あたりは爆炎と煙が立ちこめていた。地上の状態が(かす)かに見える。

 視界にちらつき。五条のプラズマ光に続いて、燕二〇改・壱、弐の敵意を露わに感じとったのだ。

 突き出された刃を避けるべく、マドカは高度を下げた。防御態勢のまま動けなくなった巨躯を見据える。

 崇明航空基地から出撃する直前、作戦指導部が直接マドカへ任務を説明した。ひとつは巨躯の監視。ふたつめは万が一巨躯が破壊されそうな事態が陥ったとき、介入して阻止することだ。

 

(指導部の連中、やけに無人機にこだわっていた……)

 

 亡国機業(ファントム・タスク)も一枚岩ではない。穏健派と積極派で大きく二つに分かれ、対立関係にあった。活動思想において、方向性が明確に異なるからだ。

 マドカの原隊は()()()である。スコール・ミューゼル率いるモノクローム・アバターは社会の裏側を暗躍する程度に留めている。スコール・ミューゼルが元米軍士官であったため、諜報部門の延長上という、ある意味常識的な路線を採っていた。

 現在の部隊は違う。()()()の呼び名が聞いて呆れるほどに狂っている。

 

狂信者(キチガイ)だらけだ……)

 

 なぜなら。

 ()()()()()()()()()()()()()。どのような手段を用いてでも、自らが信ずるところの悪を討ち滅ぼすことに全身全霊を賭けていた。

 スコール・ミューゼルがマドカに言い聞かせた言葉を正しいとするならば、転換期は三年前である。

 

(……同時期にシノノノ・タバネの名がIS以外で聞こえ始めた)

 

 篠ノ之束が独自のナノマシン技術を用いて医療・美容業界への華麗な転身を図ったのだ。医療用ナノマシンを題材にした論文を発表。博士号を取得する傍ら、数多のベンチャー企業、製薬、化粧品工場に至るまで、医療・美容に関連しそうな企業を次々と買収して傘下に収めた。

 ISコアを応用した、全世界通信インフラ整備事業で指折りの資産家となっていたが、買収額総額は保有資産を優に超えていた。さらに篠ノ之基金までも設立した。

 その資金はどこから。

 スコールは亡国機業(ファントム・タスク)内部にいながら、金の流れを細部にいたるまで調べあげていた。

 見えてきたもの、単純な答えだ。

 篠ノ之博士は研究者。同時に商売人でもある。

 

(……ISを、()()()

 

 そして亡国機業(ファントム・タスク)穏健派が買った。自らを正義のミカタだと信じ込ませてしまうほどの、とびきりの一機(IS)を。

 土煙のなか、マドカは反応しないはずのハイパー・センサーが励起する一瞬を見いだす。微細な糸。たぐり寄せた先に、何があるか。

 

(……私はコイツが欲しい。コイツは無人機としてではなく、()()()()()()使()()()()()()()()()()に違いない……)

 

 赤い光が浮かび上がる。巨躯の両眼が紅く染まった。

 

「遅かったな。紅眼睛(レッド・アイ)

 

▽▲▽

 

 戦槌(バトルアクス)が振り下ろされようとした。

 

「――ッ!!?」

 

 紅眼睛(レッド・アイ)が右腕を伸ばす。巨大な(てのひら)戦槌(バトルアクス)をつかみ取る。

 重装ラファール・リヴァイヴ・カスタムが力をこめる。

 だが、動かない。見かねた紫電改・弐が長刀を肘めがけて横合いに振るう。装甲を押し切らんとした。

 剥離し、ひしゃげ、破断し、落下する。内部が露わになってもなお、紅眼睛(レッド・アイ)が力を込め続ける。ギギギ……という音。形を保てなくなった。戦槌(バトルアクス)が粉々に砕け散る。

 上体を起こし、拳を造る。振りかぶって杭を叩いた。土に埋まるまでたたき続ける。貫通した杭が外部装甲を砕く。腰部と脚部の双方。

 

「こいつ!」

 

 重装ラファール・リヴァイヴ・カスタムの一機が叫んだ。心なしか、声がうわずっている。

 戦槌(バトルアクス)を鋭く打ち下ろす。紅眼睛(レッド・アイ)は避けすらせず、立ち上がった。

 カチカチ……という微弱な音がした。青色の小さな腕の姿。胴体ほどの巨大な腕を操っている。

 小刻みな振動が消えている。ゆっくりと周囲を睥睨(へいげい)し、仁王立ちとなる。

 重装ラファール・リヴァイヴ・カスタムらが後退。代わりにラファール・リヴァイヴ・クァッドファランクスが前進した。

 

「クァッドファランクス。砲撃、始め!」

「重装隊、(ツツ)構え。目標、アンノウン1。砲撃開始!!」

 

 指揮機が矢継ぎ早に叫んだとき、多数の発射炎が閃いた。

 多銃身機関砲(GAU-8/アヴェンジャー)七門による砲撃に加え、重装ラファール・リヴァイヴ・カスタムの三〇ミリ単砲身機関砲(リヴォルヴァーカノン)をも火を噴いた。

 無数の砲弾。装甲に激突するたび、火炎と爆発が生じた。

 胸部、腹部は筋肉を象った灰色の線は見る影もない。

 紅眼睛(レッド・アイ)は一歩を踏み出し、右拳をゆっくりと振りかぶる。

 土煙が静まっていき、逆に砲火が拡大する。

 大きな爆発。

 肩の装甲が崩落した。内側には青色の装甲。

 赤い瞳が明滅し、最も大きな目標を見定める。口を覆っていたマスクの留め金が砕け、おどろおどろしい咆哮がフィールドに響き渡った。

 砲弾が空を切る。

 今、いたはずの巨躯が消えている。一条の赤い残像が砲火のなかに残っていた。

 移動距離、わずか二〇〇メートル。

 紅眼睛(レッド・アイ)が熱の壁を超えた。

 遅れて雷のような鳴き声が聞こえ、多銃身機関砲(GAU-8/アヴェンジャー)四門が完全に沈黙した。

 視線が集中する。ラファール・リヴァイヴ・クァッドファランクスが膝をついた。黒いオイルが地面に流れ出している。

 紅眼睛(レッド・アイ)は勝ち誇るように右腕を天にかざした。ラファール・リヴァイヴ・クァッドファランクスの巨体が持ちあがる。銀色の金属杭(パイルバンカー)が、両足首を串刺しにしていたのだ。

 腕を振るい、もう一機のクァッドファランクスに向けて放り投げる。

 慣性のまま地面に横たわったIS。搭乗者が昏倒(こんとう)し沈黙している。

 装甲全体にパイルバンカーの衝撃が伝播した結果、無数のひび割れが生じ、戦闘不能に(おとしい)れていた。

 

 ――――()()()

 

 あたかも数えあげるように。

 紅眼睛(レッド・アイ)の瞳が一度だけ瞬く。

 掲げていた拳を引いて、腰を落とし、再び振りかぶった。

 

 

 

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