ますます大きくなっていく銃撃音。
相川清香は
「――どうしよう、かな」
片や集団戦闘に慣れたIS群。片や協力のカケラも見せない襲撃者たち。数の論理からすれば、統制のとれた制圧部隊が勝つに決まっている。
地面に転がった銀色の金属杭は、ねじ曲がり、能力を発揮できなくなっていた。
攻撃の対価――使用不能となった
――――ふたつ。
残存するラファール・リヴァイヴ・クァッドファランクスは、防楯を前面に突き出したまま身を強ばらせた。同時に、
「紫電改、急降下、行けぇッ!」
ほぼ同時に
コンマ数秒後、クァッドファランクスの装甲が波打つ。無数の皺とヒビが形成される。はっきり目で見えるほどの衝撃だった。
さらに、もう一歩踏み出す。クァッドファランクスの装甲が破断し、内部骨格に致命的な損傷が発生する。
吹き飛ばされながら、部品が散り散りに飛んでいく。その間、ISコアはただ、ただ、搭乗者の生命を守ることのみを優先した。
轟音と閃光。攻撃が次の段階に転じた合図だ。
打鉄高機動型、重装ラファール・リヴァイヴ・カスタムによる射撃が一斉に開始されたのだ。
――――次は、これとこれ、だよね。
相川清香は、
ハイパー・センサーの位置情報。アリーナ内の全ISがどこで何をしているか、意識下への展開を終えている。紫電改の約七五度からなる急降下突撃をはっきり認知していた。何度目かの打撃戦で
ゆえに、急降下突撃は成功する。ランチャー・レールの先端。プラズマ光を発生する長刀が、
腹部からランチャー・レールが突き出ている。有人機ならば即死ものである。生体保護を優先して外部骨格の稼働をやめるものだ。しかし、無人機は異常を是とした機体。
清香にとって、
頭部がクルリと一八〇度回転する。紫色の機体を視認し、紅い瞳を点滅させた。
カチカチという音。
胴体を引き裂かんと長刀を握りしめていたはずの紫電改が、胴を折り曲げる。
またしてもカチカチ、と明滅した。紫電改がランチャーから手を離差ざるを得なかった。搭乗者は理解できないという表情だ。強ばったまま身体が横回転し、脚をすくわれたように地面へと叩きつけられる。
「なぜ――」
という顔だ。気圧の急激な変化。
すなわち、
しかし、その勇気ある行動は徒労に終わる。盾一枚では
――――みっつ、よっつ。
「ハハ……」
頭上から哄笑。瞳を輝かせるのは、マドカ。面白い手品でも見たかのように唇を歪めている。燕二〇改の挟撃をいなしながら、二体が屠られる様を面白がっていたのだ。
(ああ――――ッ!!!)
清香の意識がマドカへと逸れる。
面識があった。実技試験の前日。確かに遭遇している。
入試の映像。ありえない動きをしていた自分。
(?)
マドカは地面を見るよう指し示す。バイザーから垣間見える唇が、よそ見するな、と動いた。
絶妙のタイミングで行われた、重装ラファール・リヴァイヴ・カスタム四機による
燕二〇改二機も呼応して上空から同様の網を投下する。うち一機の投網は
投網が派手に誘爆。無論、
網に爆薬が練り込まれていたのだろう。網を切り離すべく
閃光、続く轟音。爆炎が立ち上る。煙のなか、なおも紅い瞳は点滅し続ける。
投網の粘糸はすべて爆発に至らなかった。撚り合わせた糸がばらけて装甲の隙間へと浸透する。
清香は、ロボットの大きな手では細かい作業はできない、と考えていた。土いじりを実際にやってみて、うまくいかなかった体験から来ている。とりあえず「殴る」「掴む」「蹴る」しかできない。山型リモコンが操る、超合金製のロボットと大差ない、という認識だ。
カチカチ、と瞳を明滅させる。
重装ラファール・リヴァイヴ・カスタムは顔面と正対しない。散開しながら次の手を打とうとしているに違いなかった。
清香は、頭のなかに浮かぶいくつもの声に耳を傾けた。
――――落ち着いた、悪く言えばぼんやりとした言葉。自信たっぷりに剣呑とした声。慌てながらも必死に考えをまとめる声。べらんめえ調なのに理路整然と筋道だった声。つっけんどんな声。いろんな声。
「どうしよ~」と常に困惑していた自分とは、明らかに異なる意識に驚いてさえいた。ナノマシンの囁きは、それぞれの素体が持っていた人格的特性をも複写している。
(うんうん。そうだね)
清香は言った。
「ネバネバは本体にはほとんどくっついていない。だから、大丈夫。何も気にせず、爆発しても構わず、気にせず行こう」
今頃アヤカは独り言にギョッとしているだろう。彼女の姿を思い浮かべて笑みをこぼす。
清香は周囲の状況を確認した。炎が立ちこめるなか、銃撃は続いている。
清香は思った。マドカが視線が指し示す方角に違和感が……。
(あれれ、だいじょーぶだよね?)
ピットの方角。闇のなか、ISの青い足先が露わになる。
白煙が立ち上った。
清香は、激しく憤る、怨讐に満ちた蒼い瞳に貫かれた――。