相川さんは秘密をもっている。   作:王子の犬

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長らくお待たせしました。
ゆっくりですが連載再開です。
一日で書けた分を投下します。


烈風怒濤

 視界が突如として揺さぶられた。

 紅眼睛(レッド・アイ)の体が浮き上がる。踏鞴(たたら)を踏んで、ようやく後方へ飛び退いたのだと知った。

 白煙が風に揺られている。根本に目を落とせば、地面に埋め込まれた硝子状の結晶が煌めいていた。

 同じ輝きが六点あった。先ほどまでいた場所から線を引けば、等距離になる。合計六条もの熱線が降り注いだ。地面に着弾するや土中の元素を硬化させたに違いなかった。

 清香は紅眼睛(レッド・アイ)に拳を構えさせた。一、二、三、……六。宙を漂う姿には、どこか見覚えがある。

 六基からなる熱源(ビット)は、いずれも三つの缶を接続していた。前を向く砲口を中心に後方へ等間隔に並ぶ。熱源は軸を一斉に一二〇度回転させた。黒焦げになった缶を除去《パージ》する。落下した缶は跳ねることなく地面奥深くにめり込んだ。

 先ほどの熱線を生じさせた代償なのだろう。

 残弾は六基×二発。

 清香は紅眼睛(レッド・アイ)の頭を持ち上げた。

 

(厄介かも……)

 

 そう考え、熱源(ビット)が再び飛び回る前に漸減するべく紅眼睛(レッド・アイ)を跳躍させた。

 が、二重の鎧を纏うがために地上戦限定の機体。どうしても人間の動きに似てしまう。紅眼睛(レッド・アイ)から見て右斜め上方、空を飛び交う駆逐型IS・燕二〇改の一機が突進した。

進路阻害(インターセプト)だ。サイレンのような音。あたかもJu-87(スツーカ)を彷彿とさせ、不安を煽り立てる。

 

「こっちを見ろ!!!」

 

 女は逆落としを仕掛け、猛るあまり、武漢語が口を突いて出ていた。

 超高速で距離を縮め、渾身の力で振るった刃と紅眼睛(レッド・アイ)の拳が交錯する。

 鋭く高い悲鳴。燕二〇改の両腕は無残に破壊され、断面からは黒い煙が生じている。飛行能力を失い、重力に引きよせられていく。

 

「してやったり!!!」

 

 女はまたしても武漢語を使った。これみよがしに中指を突き立てた。清香が眉根を潜めたとき、勝ち誇った表情の理由を悟った。

 熱源が腹の中にある。紫電改のランチャー・レールが突き刺さった場所に、熱源を押しこんだ犯人の腕が生えている。

 

(いけないっ)

 

 犯人――セシリア・オルコットの(くら)い瞳が大きく映し出された。

 清香の知る限り、学園生活ではついぞ見たことがない。憎しみやおぞましさといった感情があふれかえり、どう表情を造ってよいものか見当がつかない、といった表情だ。

 別人かのような雰囲気を漂わせている。密着し続ける危険を察知して、腹から生えた腕をつかみ取ろうとした。

 

「許しませんわ……」

 

 消し飛ぶような小さな呟きを拾った。清香の動揺が伝播したのか、紅眼睛(レッド・アイ)の動きが重くなる。セシリアが腕を引き抜き、同時に肩に背負った六七口径特殊レーザーライフル(スターライトmkⅢ)を顔面に押しつける。龍砲の射出口にライフルの砲口を押しこみ、零距離射撃を敢行した。

 

(……っう!)

 

 視界が真っ白だ。清香はすぐさま紅眼睛(レッド・アイ)と五感を繋いだ系を遮断する。遮断完了のメッセージが出現するのと前後して腹の中の熱源が爆ぜる。

 状態異常を知らせる警告文でいっぱいになった。事態を把握するべく視覚や聴覚を再接続する。

 自分も相手も惨憺たる状況である。

 紅眼睛(レッド・アイ)は下顎部を喪失し、龍砲が使用不能になっていた。腹部が避け、青色の骨格が露出している。拳を形成していたアタッチメントが竹が爆ぜたようになっている。黒い外部装甲は焼け爛れて原型を留めていない。内側にも損傷が及んでいるのは明らかだ。

 一方、セシリアのB3は肩に背負っていたはずの六七口径特殊レーザーライフル(スターライトmkⅢ)が架台ごと折れて、後ろへ垂れ下がっている。

 ロイヤルブルーに彩られた美しい機体は至近距離で膨大な熱量を浴びたためか、煤けて汚れただけでなく、ところどころ溶着していた。

 ゆっくりと立ち上がり、壊れた架台を切除した。近接ショートブレード(インターセプター)を顕現させ、大きく息を吸った。

 

「許しません! わたくしは! あなたを! 許しません!!」

 

 言葉が突き刺さる。だが、清香の心には困惑が広がった。憎しみを向けられる理由を認識できなかったからだ。

 

「あなたは! わたくしから! あの子を! 奪ったのです!!」

 

 セシリアの声が近づく。近接ショートブレード(インターセプター)を構えてにじり寄ってくる。

 誇りと優しさを讃えた、美しい少女が宿敵を討たんと大音声を張り上げる。

 

「愛する彼を! あなたは! わたくしの愛を! 踏みにじったのです!!」

 

 清香は紅眼睛(レッド・アイ)をなんとか立ち上がらせた。まだ左腕が健在である。とはいえ、腕に取り付けた音響兵器は非殺傷であるため用を為さない。

 紅眼睛(レッド・アイ)の瞳が明滅する。紅い光が徐々に弱まっていった。

 

「許しません! わたくしは! 決して! 許しませんわ!!」

 

 近接ショートブレード(インターセプター)を構え、身体ごと突貫する。

 セシリアが怒りと悲しみのあまり正気を失っているのは明らかである。瞬時加速を使ってきたが、単調な動きだ。足さばきで回避できる。

 どういうわけか紅眼睛(レッド・アイ)の動きが重い。

 カチカチカチ……。瞳の輝きがどんどん弱まっていく。

 

「どっ……どうっ……どうしよ……」

 

 セシリアは紅眼睛(レッド・アイ)を目の敵にしている。彼女はイギリス出身。本来の乗機はブルー・ティアーズ。そのブルー・ティアーズはお披露目中に破損して英国本国にドック入りしている。

 清香がずっと遠隔操作していた機体は紅眼睛(レッド・アイ)だ。紅眼睛(レッド・アイ)のミッションには敵国からISを奪取するというものがあった。よくあるゲームの序盤ステージ。二機とも奪えばSランク。どちらか一機を奪取すればAランク。一機を奪えずとも逃走に成功すればBランクだ。

 

「アヤカぁ……」

 

 傍にいる友人(ルームメイト)へ向けて弱々しい声をあげる。

 

「代わってぇ……」

 

 紅眼睛(レッド・アイ)はリモコンで動く。清香でなくとも動かせるはずだ。

 対物ライフルを構え、前を見据えている友人が口を開くのを辛抱強く待った。

 




毎日は厳しいので、週一か週二投稿でいきます。
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