相川さんは秘密をもっている。   作:王子の犬

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時系列順だと「基地強襲」→「格差社会」→「この話」

眠れなかったので一筆書きでサラサラ2時間ほど。若干手直しあり。

※この話から文体が変わっています。



学級委員

 教科書を逆さまにしてみたが、良いアイディアが思いつかない。

 良い知恵がないか。自称天才に聞いてみようと電話をかけてみたが繋がらない。腕を組んで首をひねる。傍らにいる本音は指をグニャグニャさせながら箒の美巨乳を狙っている。

 

「わーん」

 

 泣きマネをしてみるが、周囲の反応がない。先日、ISに乗るまではよかったものの、どうやら相川清香にはセンスがない。経験者に上達の教えを請おうにもコネがない。担任の織斑先生と副担任の山田先生は忙しいときた。倉持技研からISが一機、急きょ搬入が決まって、その手続きで手一杯なのだと言う。

 

「どうしよ~」

 

 頭を抱える。清香は懐から四つ折りにした紙切れを取り出し、こっそり広げてみた。

 入学するちょっと前。合格通知が届いたので、自称天才な元家庭教師に礼を言いに行ったら篠ノ之基金への奨学金応募を勧められた。給付型奨学金。条件はIS学園に入学が認められた者、もしくは在校生であること。三年間で一〇八万円、三十六で割ると月三万円になる。

 

(月三万円は大きい)

 

 清香の財政事情は苦しい。生活費の捻出さえ苦労している。寮生活でよかったと心でほっとしていた。相部屋だけどルームメイトは別のクラスで接点なし。日本人、清香よりもはるかに美人でバイリンガル。そのうえ、ISランクAの才女。

 紙切れに緑色の蛍光マーカーが引いてある。給付の昇格条件。ISの搭乗時間に応じて金額も増える。在学中に代表候補生になれば金額は要相談とある。

 清香は紙切れを再びたたんで懐にしまう。窓辺を見やって軽くため息をついた。

 

(IS学園に入れば生活が楽になる、と思ったんだけどなぁ……)

 

 織斑一夏と篠ノ之箒が駄弁っている。鏡や谷本たちが囲んでいて、ときどき相づちを打っていた。

 一夏と箒はなぜか同じ部屋で、一夏が昨晩の非礼を謝っている。箒は一夏が口を開くたびに、軽くにぎった拳を振ってポカポカとたたいた。

 青春。

 史上初の男性IS搭乗者だからIS学園に強制入学させられたとのこと。

 

「ねーね~」

 

 指をグニャグニャするのに飽きた本音が話しかけてきた。男性がISに搭乗する条件を教えて欲しいと持ちかけてくる。

 

「なんで織斑くんなの~?」

「……答えにちょっと困るよー」

 

 プライバシー保護のため本当のことを口にできなかった。

 

(織斑くん、女子に囲まれて平気な顔してるくせに■■だなんて)

 

 年齢を踏まえると経験があるほうが珍しい。清香はなんとなく悟りを開いたような顔つきではぐらかした。

 

「本音~ISにたくさん乗るためのよいアイディア、ないかなぁ」

 

 本音がニヘラ……と表情を緩めた。何にも考えてない顔だ。清香は友のほっぺをデコピンする。

 

「う~ん、良い手があるよ~」

「どんな?」

「それはーね~」

 

 あ、と本音が口をふさいだ。視線の先を追いかけると織斑先生がいた。

 

「相川。布仏。駄弁ってないで席に着け」

「はぁーい」

 

 清香と本音は大きくかぶりを振って自席に戻った。

 追いかけるように、すぐチャイムが鳴った。他の者もバタバタ、少し騒がしい。山田先生も姿を見せる。こそこそ喋る生徒たちを見回して、「起立」「礼」

 

「よろしくお願いします」

 

 反射で口が動き、頭を下げる。山田先生が号令、「着席」

 織斑先生が板書を始めた。トメ・ハネ・ハライ、達筆。クラス委員、という大きな文字が躍った。

 入学式を終えてから今まで、ずっと山田先生が号令していたのを思い出す。クラス委員や日直がかけ声するもの。中学まではそうだった。

 

「今日のホームルームの主題はクラス委員を決めることだ。自薦を優先する。誰も挙手しなければ他薦。それでも駄目なら私が独断と偏見をもって決定する。では、立候補を募ろうか」

 

 ザワッ……。文字に表したらこんな感じだろうか。不安を隠さない生徒とは対照的に、織斑先生と山田先生はニコニコと笑顔。

 

(どうしよ~)

 

 とそこに一人が挙手。「先生」

 

「鷹月。立候補か」

 

 鷹月静寐が首を振った。「質問よろしいでしょうか」

 

「話せ」

「仮にクラス委員になったとして、有利な点があれば教えて欲しいです」

 

 周囲がざわつく。鷹月の質問に同調するクラスメイト、もちろん清香もそのひとり。

 織斑先生が咳払いした。

 

「肩書きがつく。卒業後就職する場合、履歴書に書ける。クラス代表を務めるから、クラスの代表としてISに優先搭乗してもらう……とまあ、仕事を色々頼むことになる。こんな感じでよいか」

「ありがとうございます」

 

 質問終わり。鷹月は静かに座席に着いた。

 

「立候補する者はいないか」

 

 すかさず誰かが挙手。清香は気になってふり向いた。豪奢な金髪。セシリア・オルコットさん。イギリスから来た淑女で日本語完璧。貴族ってすごい。

 

「わたくし、セシリア・オルコットがクラス委員に立候補致します」

「うむ。よいぞ、ほかにいないか」

 

 織斑先生がウキウキとした表情で教室を見回す。

 清香は頭の中がぐるぐるしていた。セシリアはイギリスの代表候補生で、専用機を持参して来日した。流ちょうな日本語でクラスにすぐなじんだ。専用ISを見せびらかすものとした予想に反して、入学してから一度もISを使っていない。もったいつけていると思ったけれど、本人は照れる雰囲気すらない。

 本音を見ると立候補する気はないらしく、誰がクラス委員になるのかにも興味がないようだ。ノートに落書きして遊んでいる。入学早々、他人の宿題を写している。何も考えていないだろうから、中間考査で泣きつくに違いない。どうやってIS学園へ入学したのか。入試、めちゃくちゃ難しかったような。

 

(まさか、裏口入学!?)

 

 現実逃避したくなってきた。清香は頭を振り、目を瞑ってから、ぷくっと頬を膨らませてピシャリ。

 

(イタタッ……)

 

 強く叩きすぎてジンジンする。本来の目的を忘れてはいけない。家計は火の車。大炎上。富士山が噴火したくらい。

 篠ノ之基金の紙をこっそり広げる。ISに乗れば乗るほど金額が増える。

 胸がドキドキする。清香は猫背になって、震えながらこっそり手を挙げた。

 立候補。清香も。

 

「――相川清香、と」

 

 セシリア・オルコットの隣りに清香の姓名が並ぶ。

 ザワッ……。またしても。ものすごく驚かれている気がした。だけど、顔は上げられない。

 

「ほかに自薦する者はいないか。他薦もいいぞ、誰かいないか」

「じゃあ」

 

 谷本が手を挙げた。「織斑一夏くんを推薦しまーす」

 

 一夏が目を見開いて、肩をふるわせた。

 山田先生が清香の隣りに彼の姓名を書く。画数が多いので、書くのに時間がかかっている。

 周囲が騒がしい。落書きに飽きた本音が箒を見てから手を挙げようとしたが、「やっぱりやめる~」と辞退した。

 箒が一睨み。ふたりのやりとりをみた一夏が「ずるい」とばかりに机に突っ伏す。セシリアは悠然として表情を動かさない。

 織斑先生が手をたたく。静まったところで鷹月が挙手。

 

「クラス委員の選考方法は?」

 

 織斑先生は清香を見た。セシリアと机に伏せる一夏も見やる。

 まだニコニコ。鷹月に目を向けた。

 

「投票形式だ。一週間後、この三人でクラス代表決定戦をやってもらう。試合を見てから誰がふさわしいか投票して決めるんだ」

「負けても投票していいのですか?」

「もちろん投票していいぞ。勝者を決めるだけだったら面白くないだろ」

「……そうですね。ありがとうございます」

 

 勝った者をクラス委員にするなら十中八九セシリアになる。清香は何度もうなずく。

 

「もう一点、よろしいですか?」

「いいぞ、どんな質問だ」

 

 促されて、鷹月は抑揚のない声で訊ねた。

 

「練習や本番で使用するISはどうしますか」

「何を使ってもよいだろう。オルコットには専用機が、織斑は間に合えば専用機を使ってもらうつもりだ。相川は……うーん」

 

(そこで唸っちゃうの!?)

 

 織斑先生はしばし考え込んでから、清香を見据えて明るく言い放つ。

 

「なんとかなるだろう!」

(ええええぇぇぇぇ……)

 

 清香は口をだらしなく開け、担任の適当さ加減を嘆いた。

 




地の文の書き方が前回と異なります。文体の統一をしてません。
ご容赦ください。
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