相川さんは秘密をもっている。   作:王子の犬

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代表決定戦

 授業。練習(しごき)。睡眠。繰り返し。

 日が経つのは早く、疲労困憊(こんぱい)で合間があれば眠るようになっていた。

 昼食のあと、寝ぼけ眼のまま本音に手を引かれる。

 案内された先には巨大なバケツお化け。清香は言われるがままカスタマイズした機体を着装する。

 

「……んにゃ?」

 

 眠気が消えた。右に左に首を振る。今何時!?

 目の前は真っ暗。地図を模す抽象化した記号と線。

 織斑先生の声。試合内容の説明。三機でバトルロワイヤル。清香は宙に浮く二体のISへ気持ちを向ける。

 映像が出現。まずは織斑一夏の白式。練習を積んだのか、あふれる自信。大きな手につかんだ巨大な太刀は「雪片弐型」とある。日光で機体の白がキラリと映える。

 次にセシリア・オルコットのB3。シルエットがブルー・ティアーズと似ている。全体が丸みを帯びている。それもそのはず、かのBTⅡは燃費の悪さを改善した機体である。セシリアは涼やかな顔つき。普段と変わらない。

 

(もう本番だよーっ!)

 

 連日のスパルタ。基本動作はなんとか初心者から毛が生えた程度。アヤカや本音いわく、他の者はもう少し飲み込みが早いという。原因はISを操縦するには相性の悪い体質。本来なら入試で落とされる。

 

(戦技って、どうしよ~)

「放っておいたほうがよろしいかしら?」

 

 セシリアがオロオロする清香に向けたつぶやいた。腰が引けている姿が、二人にとって歯牙にかけるに足りないと思われたか。

 

「先に俺とやろうぜ」一夏が雪片弐型を中段に構える。

「では、参ります」

 

 セシリアが清香に背を向ける。一夏に向かって瞬時加速(イグニッション・ブースト)。攻撃。

 

(攻撃!?)

 

 清香は驚く間もなく尻餅をついた。足下に斧が刺さっている。あわてて起き上がると、二本目の斧が見越した位置に突き立つ。

 

「うわっ、わわわわ」

 

 短槍が飛来する。

 避けようにも頭が真っ白。後付けした装甲に当たって、伝播した衝撃をシールドが打ち消す。装甲の内側にシールドを展開するよう設定変更してあったためか、改造打鉄のシールドエネルギーは清香が思ったより減っていなかった。

 また尻餅をついて後ずさる。黒い視界に飛来物の白く象った輪郭と、その位置が示される。抽象化してあるとはいえ音は本物。

 

(怖いよーっ!)

 

 戦意喪失。少しでもその場から離れようとする。

 セシリアは近接ショートブレード(インターセプター)を実体化させながら舌打ち。曰く、「初心者ですわね」

 広域通信。笑い声が観覧席に広がる。

 

「おいおい。よそ見するんじゃないぜ!」

 

 一夏は左手を閉じたり開いたりさせながら、接近するセシリアを顔の左に捉えるように飛ぶ。巨大な近接ブレード、雪片弐型を右手でつかみ、一気に増速。回転して方向転換するセシリアへ言い放った。

 

「あんた、遠距離狙撃が得意なんだろ! 慣れないことをするもんじゃないぜ!!」

 

 吠える一夏。BTⅡ時代のデータだ。セシリアは(まぶた)を細め、さらに出力を上げる。排熱が追いつかず、機体のあらゆる隙間から白い煙が立ち上りだす。

 雪片弐型の形状が変わり、エネルギーブレードを展開。零落白夜。単一仕様能力(ワンオフアビリティ)、シールドエネルギーを切り裂く刃。五日間の練習で獲得した力だ。敬愛する織斑千冬の乗機「暮桜」と単一仕様能力(ワンオフアビリティ)を同じくする。一夏は昂ぶった。斬って、斬って、斬りまくる。一夏にもできる気がしたのだ。

 荒削りながら必要な戦技を習得。的確な教えを与えれば、その場で理解して実現する能力に、直接指導に当たった山田真耶は舌を巻いた。

 IS操縦センスのかたまりだ。千冬の再来に違いない、と思ったくらい。

 一夏は零落白夜を振りかぶった。上段で仕留める。女に武器を向けるのは信条に反するが、そこは勝負。勝たせてもらう。

 一方で、セシリアは接近をやめなかった。零落白夜を見ても顔色ひとつ変えず、激突する瞬間を待つ。零落白夜と近接ショートブレード(インターセプター)では刃の長さが違う。近接ショートブレード(インターセプター)の利点は取り回しやすさのみ。

 が、獲物を上段に振りかぶった姿を見て、セシリアは初めて笑みをこぼした。

 

「ウオオオオオォォォォ一本ッッッ!!!」

 

 一夏が零落白夜を渾身の力で振り下ろす。まっすぐ。一刀両断。

 セシリアが身体を低くして伏せるような姿勢をとる。頭を守って、あたかもおびえているかのよう。

 一夏は勝利を確信したのだ。が、手応えなく、全身に広がる激しい衝撃に困惑する。

 セシリアは低い姿勢から近接ショートブレード(インターセプター)を繰り出した。

 突く。突く。突く。繰り返し。突く。突く。突く。繰り返し。

 一夏が身体を守るべく防御姿勢をとった。構わず滅多突き。

 あっという間に白式が色あせる。シールドエネルギーを喪失した証拠だ。一夏脱落。

 セシリアは茫然としながら降下する白式を見やって、あたかも高飛車なお嬢様な顔つきになった。

 

「あら、何故という顔ですわね。血の気の多い殿方にひとつ、お教え致しましょうか」

 

 近接ショートブレード(インターセプター)を構える。

 

「剣は斬るものではありませんの。突くものです。太刀(ブレード)は長さや取り回しやすさが中途半端。あなたの負けは確定していたのですわ」

 

 ホホホ、と上品に笑う。自然な仕草、セシリア本来の表情か。

 

「さて」

 

 清香へ向き直った。「落ち着きましたか、あなた」

 

(うわーんっ、こっち見たーッ)

 

 清香は一夏瞬殺の一部始終を見ていた。セシリアが見せた戦い方は練習(しごき)でアヤカが実演してみせたものだ。曰く、「誰でも必ず勝てるIS」

 右往左往していると、空中浮遊していたセシリアが優しげに微笑んだ。

 

 「ティアーズ(インコム)」 

 

 ぼそっと言った。有線誘導ビット射出。勢いよくワイヤーコイルが回転し始める。初めは四基、さらに四基繰り出す。「踊りましょうか、円舞曲(ワルツ)を」

 光線が十字を描く。八基のビットは互いにワイヤーを絡ませないよう、広がりながら波状攻撃を仕掛ける。

 清香はなりふり構わず逃げ、転んだ。

 

「うわっ、うわっ、さっきからウワウワばっかり言ってるよ、わたしー!」

「あら、案外頑張りますの。では、律動的(リズミカル)音色(トーン)も少し変えましょう」

 

  背部の外部電源から白煙が立ち上る。有線誘導ビットのレーザー射撃。八基同時に繰り出せば、燃費の悪いB3では排熱が追いつかなくなる。急速冷却と再充電が始まった。

 位置を変えながら、斧を投げる。

 今度はBK27単砲身機関砲(リヴォルバーカノン)。四〇ミリ機関砲。投げては砲撃。

 斧が装甲にあたる。凹んで使い物にならなくなる。

 

「いやーっ! 怖ーいっ!」

 

 だが、清香は逃げてばかりではいられなくなる。セシリア・オルコットは本来射撃の巧手である。相手の行動を制限するのはお手の物だ。

 清香が意図に気づいたとき、すでに逃げ道を失っていた。有線誘導ビットのレーザー攻撃が再開したのだ。

 清香はなおも、必死で逃げ道を探した。装甲ではレーザー攻撃を防げない。直接シールドエネルギーが減ってしまう。

 また転んだ。飛来した短槍が装甲によって弾かれる。休む間もなく投げ込まれる斧と槍、弾丸。一挙に押し寄せて清香はうろたえる。

 攻撃のさなか、天を仰いだ。身体を傾け、装甲の傾斜で実体武器を弾いた。

 レーザーを避け、転びながら弾く。実体弾のなかを泳ぐように。装甲はどんどん裂けて凹んでいく。

 弾く。弾く。たくさん弾く。走りながらやっとの思いで金属塊を実体化。

 

(持ってけ、って言われた)

 

 誰の提案だったか。投げるなら、と勧められた。スリングショット。

 ISの膂力で繰り出された塊は、さながら砲弾のように。清香は当たったかどうかも確かめず、目を瞑って背中の装甲板を開錠した。願わくは当たってくれ。毎分一二〇発におよぶ嵐。四〇ミリ対空機関砲。

 

終曲(フィナーレ)、ティアーズに捧げます」

 

 うっとりとした夢見るような顔つき。セシリアは実体化したライフルに向けて愛をささやいた。彼はならず者(巨躯)に襲われ、自由を奪われた。六七口径特殊レーザーライフル(スターライトmkⅢ)蒼い雫(ブルー・ティアーズ)の半身に等しい。己が愛情を込め、必殺の一撃を放った。

 

「清香さん、あなた、幸せ者ですわ」

 

 

 

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