相川さんは秘密をもっている。   作:王子の犬

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開票結果

 織斑先生、満面の笑み。

 翌日のホームルーム。二重封筒をこれ見よがしに教卓へ置いた。

 生徒が挙手。能面のまま質問。

 

「先生」

「鷹月か、話せ」

「封筒の中身はなんでしょうか」

「山田君、頼む」

 

 山田先生が板書を始める。チョークが擦れる音が響くなか、織斑先生はゆっくりと話す。昨日集めた投票の結果。織斑先生は生徒の顔をひとりずつゆっくりと見回した。

 黒板には三人の名前と数字。

 

◎セシリア・オルコット 二〇票

・相川清香 六票

・織斑一夏 五票

 

 清香は少し残念な気持ちになる。数打ちゃ当たる。目を(つむ)って撃てば一発くらいは当たると思っていたのだ。

 

「一位はオルコット。さすがだ」

「ありがとうございます」セシリアが優雅に微笑んだ。

「二位は相川。三位は織斑――」

 

 セシリアと同じく褒めてもらえると思っていたのか、一夏がニヤけながら言葉を待つ。織斑先生がじっと彼の目を見つめたが、少し困ったように山田先生を見やった。

 

「あ、そうですね。がんばってましたよ、織斑くん。相手が悪かったと思いますよ」

 

 山田先生は気を遣って瞬殺の件には触れなかった。

 

「相川さんもよくがんばりました。いきなり斧が飛んできたら怖いですよね。先生も経験ありますよー。うん、わかります。そうそう、織斑先生、伝えることがあったんじゃ」

「ああ。無効票がいくつかあった。誰とは言わんが、字はもっときれいに、読めるように書け」

(字が汚いと言えば~)

 

 清香は本音をチラッと見た。当人は頬をかいて照れ笑いしている。メッセージ着信。「わたしのこと~」

 

「なお、入院中の生徒は総数から除外している」

 

 入学前に事故に遭い、一度も登校していない生徒だ。清香は後ろを振り返った。空席がいくつもある。ふうっと吐息をついて板書を見た。

 「クラス対抗戦」という文字。山田先生はトメ・ハネ・ハライがきっちりしている。

 

「クラス委員はクラス対抗戦に出場する。オルコット、いいか」

「先生」

 

 セシリアが挙手して立ち上がる。

 

「わたくし、()()()辞退しますわ」

「……ほう」

 

 教室中が騒然とする。清香も本音を見やった。本音はセシリアの胸元に注目して指をグニャグニャさせている。「あのね、あのね~」

 清香はあえて無視して前を向く。セシリアが辞退したとなればお鉢が回ってくるだろう。ちょっとドキドキしながら織斑先生の言葉を待つ。

 

「代表戦はどうする。考えはあるか」

「相川さんと織斑さんにお任せします」

 

 一夏が「え?」と呆けた声をだした。安全圏だと思って安心しきった顔つき。「どういうことだ? 俺、三番だぜ?」

 またしても鷹月が挙手。

 

「質問です」

「話せ」

「実はクラス対抗戦のルールを掴みかねています。できれば先生の口から説明をお願いします」

「よろしい。山田君。説明資料を」

 

 山田先生が教卓の棚からプリントの束を引っぱり出す。

 一列ずつ配る。清香は自分の分を取ってから後ろに渡す。余ったプリントは空席のなかにすべて収まった。

 

「クラス対抗戦は例年、クラスから一名を代表選出。四クラス四名がトーナメント戦を繰り広げるものだ」

「……ちなみに去年の優勝者はロシアの国家代表、準優勝はギリシャの代表候補生ですね」山田先生が補足した。

「国家代表、もしくは代表候補生を有するクラスはほぼ間違いなく勝利できてしまう。昨日の試合を見た者なら理解できるだろう。加えて、今年は例年になく専用機が異常集結してしまった。資料の第二項を見てくれ」

 

 清香は軽い気持ちで資料を見た。目を丸くして驚愕。同じく初めて事情に触れた者がざわつく。事情に明るいであろう本音にこっそり聞いた。

 

「この資料、ホント?」「ホント、ホント~」

 

 一瞬の後に平静が広がる。

 資料にはこうあった。

 

【クラス別専用機一覧】

◇一組

 ・ブラック・バーン・バッカニア

 ・白式

 ・他、三機が搬入待ち

◇二組

 ・アダージョ・レガート

 ・他、一機が搬入待ち

◇三組 

 ・ミナス・ジェライス

 ・打鉄零式

◇四組 

 ・打鉄弐式

 ・他、二機が搬入待ち

 

「今年のクラス対抗戦はタッグマッチとした。使用ISは二機。専用機は一機までとする。国家代表および国家代表候補生、予備代表候補生は一名までだ。重複は認めない。一名は経験が浅い、経験がない生徒を必ず選ばなければならない。なお、二名のうちひとりが敗退すれば自動的にクラスの敗けが決まる」

 

 セシリアが手を挙げた。

 

「すなわち、二人目が重要、ということですわね」

「そうだ」

 

 織斑先生が嬉しそうにうなずく。

 

「ですから相川さん。この対抗戦、あなたが鍵となりますの」

 

 セシリアから思いかけぬ言葉。清香は色を失う。右へ左へ視線を揺らし、不安そうに前を、横を窺う。

 セシリアが和やかに微笑んで挙手した。

 

「先生、わたくしからも確認したいことが」

「何だ」

「イタリアのIS、アダージョ(ゆっくりと)レガート(切れ目なく)は対抗戦に出場しますの?」

 

 何度も目をまばたきする織斑先生。山田先生と見つめ合ってから腕組みし直した。

 

「例のISはレギュレーション違反。あまりにも大きすぎる。どうやってアリーナに入れるんだ? ひっくり返しても入らないぞ? しかも三座式だぞ?」

「わたくしとしたことが。愚問でしたわ。タッグマッチですのに」

 

 雑談になりそうな雰囲気。緩みを感じ取った山田先生がすかさずまとめる。

 

「クラス委員はオルコットさん。副委員は相川さん。クラス対抗戦には織斑くんと相川さんが出場します。みなさん、よろしくお願いしますね」

「副委員!? 聞いてないよっ!?」

 

 清香はひとり素っ頓狂な声をあげた。

 

 

▽▲▽

 

 

 クラス委員の仕事。雑用。

 仕事を抱えすぎの山田先生はプリントの束を紙袋に入れて、段ボール箱を脇に置いたばかりのセシリアと清香に告げた。「いきなりごめんなさい」申し訳なさそうな声。

 清香は額の汗をぬぐった。手の甲がほんのり湿っている。振り向いて傍観者をひと睨み。「手が塞がってるから~ほらほら~」長すぎる袖が邪魔で掌が見えない。

 

「終わりましたわ」

「ありがとー。わっ、すごい。全部五十音順になってる。もう大丈夫だから、ふたりともありがとう」

 

 部屋をあとにする。きびきびと動くセシリアの後ろ姿。金色の三つ編みを眺めながら、ちょっと肩をすくめてついていく。並び歩いている本音が鼻唄に興じ、懐から取り出したあめ玉を口に入れて舌の上で転がす。

 

「あめあもあむむ」

「何言ってるかわかんないよ」

 

 ガリガリ……ゴクン、と本音は粉々に砕いたあめ玉を嚥下した。

 

「オルコットさん。できる女だね~」

 

 むっとする清香。「私ができない女だと言ってるー?」

 本音の満面の笑みが零れる。「清香は私よりもできるから大丈夫だよ~テヒヒヒ~」

 

 だからさぁ、と本音が続ける。性懲りなく宿題の模写を頼み込んでくる。

 清香は渋い顔つきになる。交換条件を提示されてあえなく撃沈。お菓子の誘惑に負けたのだ。

 本音は緩みきった雰囲気のまま、セシリアの前に回り込んだ。「ねえ~ねえ~」「ちょっと本音」「お茶して休憩しよーよ~」

 一時停止。

 セシリアが振り返った。

 

「ご一緒しましょう」

「じゃあ、おねーちゃん秘蔵の茶葉をくすねてくるね~。手に入ったら連絡する~」

 

 本音が清香たちと別れ、スキップして階下に消えた。

 二人になった。どうしたものか。清香は廊下の照明を見上げた。

 思いっきり深呼吸。

 

(グェホ、ゲホッ……)

 

 吸い過ぎてむせた。すかさずセシリアが背中をさする。優しい。

 

「大丈夫。だいじょーぶ」

 

 まだ口のなかが酸っぱい。清香は落ち着いてきたものの、歩きながら伏し目がちに話しかけた。

 

「ごめんね。騒がしくして」

「そうは思いませんわ。布仏さん、わたくしに気を遣ってくださったのでしょう」

「……そうなの?」

 

 そうかな~。清香は首をひねる。お菓子をつまむ正当な理由がほしいだけのような……。

 

「助かりました。わたくし、清香さんとお話したかったのですよ。立ち話ですけど、よろしいかしら。ふたりきりのうちに」

「大丈夫だよ、です」

 

 セシリアは気にせず、艶やかな笑みを浮かべる。

 清香は生唾を飲み込んでから真剣な面持ちで言葉を待った。

 

 

 

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