相川さんは秘密をもっている。   作:王子の犬

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早めに投稿。
あと400字足せればよかったけど、時間切れ。


女子茶会

 立ち話。

 廊下の少し暗がりでセシリアの一挙一動を窺った。

 

「清香さんのご出身はどこかしら?」

 

 はい? 何度もまばたき。上を見てから下を見る。右を見てから左を見る。真ん中を見るとセシリアがやさしく微笑んでいる。

 

(そっか)

 

 深呼吸。今度は()せなかった。

 

「私はこっちのほうだよ。生まれは東京……の端っこ、川を渡ったら神奈川。中二の始めに引っ越してからおばあちゃんの家に世話になってたなー。岐阜県。織田信長のお城があった岐阜。おばあちゃんちは関ヶ原のほうなんだけど。それからIS学園受験のために上京して、またこっちに下宿してたんだー」

 

 今までの生活を振り返る。清香は細かい部分を端折って口にした。

 

「セシリアさんはロンドン? 貴族だし」

 

 イギリスの地名はロンドンしか知らない。虚勢を張る。ロンドンといえば物価が高い。物価が高い街に住んでいる人はお金持ち、という単純な論理だ。

 予想に反してセシリアが首を振った。ちょっと声を立てながらも上品に笑う。

 

「そう思うでしょう? ロンドンから列車で2時間と少しの片田舎ですの。使用人すら雇えない貧乏貴族。領地の手入れ、保全は自分たちでやるしかなく、小さな頃は父と母とわたくしで土いじりしていました。モノを売るにも買うにも不便な土地柄。自給自足の生活でしたわ」

「貴族って超お金持ちじゃないの? お城持ってるんじゃ」

「館をお城というならそうでしょうけれど……築五〇〇年、ですわよ? 外壁はオンボロ。しかも高所。危ないったら」

「セシリアさんも登ったの?」

「そういうのは父の仕事でしたわ。わたくし、やりたいと何度も頼みこみましたが、結局一度もやらせてくれませんでした」

「セシリアさんのお父さん、お父さまって、よく雑誌の表紙に載ってる、オルコット社……」

 

 オルコット社はIS産業を牽引するトップ企業のひとつだ。

 

「あれは母方の叔父ですの。それに叔父は貴族ではありませんわ」

「そうなの?」

「確かに叔父は裕福ですけれど、身内に対しては特にお金に厳しいのです。わたくし、叔父に家賃を払って、叔父の家に置いてもらっているのですよ」

「じゃあ、ご両親は」セシリアが首を振った。

 

 清香はとっさに謝った。失言を恥じ入る。

 

「清香さんのご両親はご健在ですの?」

 

 あいまいな顔つきのまま、首を振る。清香は意を決した。

 

「相川は母の姓なんだ」

 

 これでおあいこ。清香の父も社長だったが、自営業だ。

 清香は目を伏せたまま携帯端末を弄くる。

 セシリアに画面を見せた。

 

「これ」「それは」

 

 清香はふんわりした表情になった。セシリアがモデルデビューした広告を検索して見つけたのだ。メイルシュトローム、BTシリーズを開発・製造する英国IS公社がオルコット社と協同で製作したものだ。

 超美人。

 だが、セシリアは顔を赤らめ、眉を隠した。清香を手で招く。「なになに」清香はふんわりとしながら耳を近づける。

 

「これ、実は描いてますの。描かないとなりませんの」

「何を」

「わたくしの眉。薄いんです。生えているのかわからないくらい」

「全部描いてるの!?」

「遺伝ですわ。叔父も描いてます。毎日」

「外国の人は、ハゲが多いっていう」

「オルコットの遺伝子は眉が禿げるのです。ホルモンに関係なく……理不尽ですわ」

 

 睨めつけるような視線。清香は頭を覆う。記憶を探る。親戚の頭部。よし、禿げてない! 

 ニコニコ満面の笑み。けれども一抹の不安。父の親戚はどうなのだろうか。女の子は父親に似る。

 

(禿げやすさは遺伝しますわ)

(努力で補えるかも、かも……)

 

 視線が絡み合う。なんの話、してたっけ。

 メッセージ着信。本音から。「成功したぁ~。おねーちゃんの高級ブランド紅茶~」

 自撮り写真つき。セシリアにも画面を見せた。

 

「叔父がよくチェルシーに淹れさせている紅茶ですわね。なるほど、高いですわよ。……あらあら、後ろのほう」

 

 誰かの半身が映っている。本音を縦に伸ばし、眼鏡をかけ、あたかもキャリアウーマンのような雰囲気を持たせた女性。ただし般若の面。

 清香は試しに通話を試みる。

 ……かかった。

 

『うわぁぁぁぁあああん』

 

 切れた。

 セシリアと顔を見合わせる。

 

「紅茶。だめっぽいね」

「残念ですわね」

「ティーパックで良いなら私の部屋で、どう?」

 

 ティーパックはもちろんルームメイトの私物である。ルイボスティー。あとセイロン茶。

 

 

 

▽▲▽

 

 

 

「ということがあったんだ。アヤカさん?」

 

 フリーズ。次いで小刻みに振動……。才女にしては珍しい姿。

 再起動するまでのあいだ、清香は勝手にポットに白湯を満たす。「セイロン(ティー)もらうよー」セイロン茶は二人分。アヤカはルイボスティー派。

 セシリアが礼を言う。どういたしまして。

 

「このかたがアヤカさん?」「そう」

 

 ISの操縦を渋々教えてくれたこと。特に秘密でもないのでペラペラ話した。

 膝行して裾を引っぱる才女。「どうしたんだい?」耳を貸す。

 

(セシリア・オルコットじゃない。なんで連れてきちゃったの)

(ほかに茶葉持ってる子しらないもん。なんで?)

(何でって……)

 

 アヤカは言いにくそうに目をそらす。が、すぐさま切り替える。

 

「おいしい」セシリアはもみあげをすくい上げ、カップに髪が入らないよう気を遣う。

「でしょ」

 

 お気に入りのセイロン茶を褒められて、アヤカはまんざらでもない様子。

 気を取り直して箱に手を掛ける。マニキュアセット。メイクボックス。

 

「化粧。嗜みますの」

「明日、休みでしょ。街に繰り出すのよ。お洒落しなきゃ」

 

 セシリアが同意。キョトンとする清香。

 

「清香さんは明日、ご予定ありますの?」

「私も外出。友達の家に」清香の素っ気ない答え。

「女性? それとも殿方!?」セシリアの目がキラキラ。

 

 うーん。清香はチラッとアヤカを見やった。興味ない様子。今まで一度も男の話が出ていない。

 

「まぁ、男もいるかな。同い年の」

「幼なじみ、というものかしら」グイグイくる。

「友達のお兄ちゃん、かな。学校違ったし。私、弟いるから、まあ普通? セシリアさんも叔父さんと普通に話すでしょ? そんな感じ」

「まあっ」

 

 急に声が華やぐセシリア。

 アヤカは無言のまま驚き。いつもの不機嫌な感じで口を開く。

 

「で、目的地ってどこなのよ。腐れ縁って感じなら最寄り駅くらい言えるんじゃないの」

「友達の家、食堂やってる。(ふる)い、昭和の食堂って感じだったよ。()()()()()で検索してみてよ」

 

 清香はセイロン茶を口にしてから、携帯端末で画面を開く。大手グルメサイトにも一応載っている。レトロ食堂として。

 

「殿方にお会いになるんでしょう! でしたら、清香さんもお洒落をしなければ。どんな服がございますの?」

 

 セシリアが立ち上がってクローゼットに突撃。着せ替え人形。そうこうするうちに服が足りなくなってきた。背格好が同じくらいのアヤカから借りる。嵐だ。ふたりのこだわり。ギラギラ輝く。

 夕食までの時間。女子らしい会話に華を咲かせた。

 

 

 




ということで次は五反田食堂へ。
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