グランブルーファンタジー クロスオーバーFエピソード集 作:第22SAS連隊隊員
【リベリオン】
よく晴れた日のこと、鎧を着た女騎士を先頭に山の中を数人の騎空士が歩いていた。彼女の後ろには男が二人、少女二人が縦一列になって続いている。二人の男は背中と両手に大荷物を持っており足取りに合わせて荷物が揺れていた。
女騎士は手に持つ地図と周囲の地形を見比べながら山道を歩き続ける。自分たちが進んでいる道が正しいか不安なのか、頻繁に地図を見ては周りの山の形や高さを確認していた。
「大丈夫だってカタリナ、目的の村までは一本道だから迷うなんてありえねぇよ」
その様子を見かねた、すぐ後ろを歩いている咥えタバコの男が笑いながらそう言った。しかし当の本人で女騎士カタリナは不安が拭えないのか、振り返らずにやはり地図と地形を確認している。
「いや、それは分かっているのだが万が一ということもある。それに私は地図の読み方がな……」
「団長でも後ろを歩いていいんだぞ、騎空団の長は常に先頭に立たねばならない。なんて決まりは無いんだからよ」
更に後ろを歩いている髭を蓄えた眼帯の男が茶化すようにそう言った。
「しかしだ、オイゲン。やはり長というものは皆の規範となって……」
「カタリナ、少しは楽にしようよ」
「そうよそうよ、いつもそんなんじゃ息が詰まっちゃうわ」
ねー、と蒼い髪の少女と褐色肌の金髪の少女は顔を見合わせてそう言った。
「ルリアとイオがそう言うなら……」
カタリナは地図を畳んで懐にしまうと歩く速さを緩め、相変わらず咥えタバコをしているラカムとオイゲンに先を譲った。カタリナは列の最後方を歩いている蒼い髪のルリアと金髪のイオと並んで歩く。
「それにしても、なんでこんな山奥に住んでいるんだ? 街から離れているし、こうやって物資を運ばなきゃならないほど人の行き来がないんだろ。なにか理由があるのか?」
「村人の先祖たちがその場所を開拓して住めるようにしたらしくてな。ご先祖様が必死に作ってくださった場所を離れるなんてとんでもない。という理由でずっと暮らし続けているそうなんだ。街の方はこっちに移り住まないかと何度も呼びかけているらしいがな」
なるほどな。カタリナから理由を聞いたラカムは呆れとも尊敬とも付かない苦笑を浮かべた。
騎空団は路銀を稼ぐために街で依頼を探していたところ、山奥にある村に物資を届けて欲しいという依頼を見つけた。運ぶ荷物はかなりの量であるものの、報酬は下手な魔物の討伐依頼より良いものであった。
カタリナ達は即座にこの依頼を引き受け、依頼主から目的地である村までの地図を受け取り、幾つかの注意事項を聞いて街を出発した。そして途中で何度かの小休止を挟みつつ現在に至る。
「あそこを曲がれば目的の村はすぐだ」
ラカムが顎で指した先には緩やかな坂道の果てに曲がり角がある。ラカムとオイゲンは荷物を持ち直すと、小さな掛け声を出しながら気合を入れて坂道を登る。その後ろをルリアとイオが鼻歌を歌いながら楽しげに続いた。
坂道を登り終え、角を曲がった先は斜面の上だった。騎空団が立つ場所から扇状になだらかな斜面が広がっており、その先に幾つもの家の集まり、目的地の村が見えた。村の中央には川が流れており、そこを通りとして左右に家が軒を連ねていた。あちこちには畑や家畜用の広場などが作られており、まさに絵に描いたような長閑な村である。
男二人は小さく息を吐くと、もうひと踏ん張りだ。と言わんばかりに荒い鼻息を吐く。少女二人は高い場所からの眺めを楽しんでいた。
オイゲンが村に向かうため、斜面を降りようと一歩を踏み出し、
「……ちょっと待て」
これから村へ行こうとした矢先にラカムが待ったをかける。どうした? とオイゲンが言うとラカムは目を凝らして村を見ていた。
「村の川、何か流れてる」
片方の荷物を地面に置き、空いた手で庇を作りながらラカムが言った。先程よりも顔をしかめ、眉間に更に深い皺を作りながら村を流れる川を観察している。
その様子を見てカタリナ達もラカムの見ている先に目を凝らした。確かに青い清流に混じって何かが流れている。ここからでは正確な大きさは分からないが、川幅から予測すればかなりの大きさだろう。やがて、ラカムが川を流れているものの正体に気が付き顔が驚愕に染まった。
ラカムよりも遅れて川を見始めたカタリナ達の視界はまだぼやけたままだった。出来る限り目を細め、額に手を当てて余計な光が入らないように庇を作る。徐々に目のピントが合い、霞がかかったような光景が鮮明になってゆく。太陽光を照り返す川の流れまで見えるようになったとき、遂に彼女たちも川を流れるものが何なのか悟った。
人が流れていた。顔を水中に沈めたまま背中を川面に浮かべピクリ共動かない。水の流れに合わせてゆったりと回っている。
どういうことだ。カタリナ達は全く同じことを考えていた。なぜ、人が川を流れているのか。もしや事故でもあったのか? 頼むからそうであってくれと、もう一つの可能性でないことを騎空団は祈る。そして村から聞こえた悲鳴でその祈りは脆くも打ち砕かれた。
川沿いの家の陰から一人の女性が飛び出してきた。かなり慌てており、足をもつれさせながら必死に何かから逃げている。遅れて家の影から何かが姿を現す、それは二足歩行するトカゲのような魔物だった。
魔物は前かがみになって逃げる女性を追いかけている。女性は後ろを何度も振り返りながら川沿いを走り続け、やがて何かに躓いて転んだ。すぐに立ち上がろうとするが、後ろから迫る魔物に腰を抜かしてしまったらしく、手を使って後ずさりしている。やがて手が川縁に触れた。それ以上後ずさり出来ないことを悟った女性の顔が絶望に歪む。
追いかけていた魔物は獲物がそれ以上逃げないことを悟ったのか、走ることをやめてゆっくりと女性に近付く。そして、とうとう女性の目の前までやってくると、鋭い鉤爪が並んだ右手を振り上げ――
「やめ――!」
カタリナの声は届かなかった、鉤爪が無慈悲に振るわれる。女性の体から何かが千切れ飛んだ。千切れたそれは川に落ちると、一滴のインクを落としたかのように一瞬だけ赤い色を見せ、すぐに清流の青に飲み込まれた。その傍で魔物が動かない女性を貪っている。
ラカムとオイゲンは持っていた荷物をその場に投げ捨て、代わりに愛銃を手に持つ。騎空団はカタリナを先頭に崖を駆け下りて村へと向かった。
村の様子はまさに地獄絵図と呼ぶに相応しい有り様であった。あちこちで村人が逃げ惑い、収穫間際だった畑は荒らされ、家畜は大地に赤い血を垂れ流して動かない。人々は魔物――全身が岩のような鱗に覆われた二足歩行するトカゲの魔物から必死に逃げていた。
「た、助けてくれええぇぇ!!」
一人の村人がカタリナ達に気が付き助けを求める。そのすぐ後ろには数匹の魔物が鋭い爪を振りかざして男に襲いかかろうとしている。カタリナ達は男を助けるべく得物を構え、彼を追いかけている魔物に向かおうとして、それは無駄となった。
村人の腹に丸太のような棒が叩き付けられる。同時に男から何かが折れる音と潰れる音が響き、男が口から血を吐き出した。丸太はそのまま男を後ろに吹き飛ばし、待っていたと言わんばかりに魔物が群がり貪り食らう。
カタリナは視線を動かして丸太の先を見た。その先には物陰に隠れていた魔物が姿を表し、先ほど尻尾で殴り飛ばした男の方を一瞥すると、新たな得物として騎空団に狙いを定めたようだ。カタリナが歯噛みする。
魔物が威嚇するように吼えると、次の瞬間には開かれた口に直剣が突き刺さっていた。柔らかい内部から突き立てられた剣の切っ先は貫通して魔物の後頭部から飛び出ている。愛剣を引き抜くとカタリナは振り返らずに怒りと共に言葉を吐き出した。
「散開だ! これ以上の犠牲を出すわけにはいかない!!」
それだけで彼女が何を言いたいのか団員達は理解していた。助けられるはずだった命を目の前で奪われ騎空団の心に正義と怒りの火が灯る。四人は一人でも多く救うべく四方へと散っていった。
ラカムは鱗の無い魔獣の胸を狙って引き金を引いた。轟音と共に鉛弾が撃ち出され、寸分違わず魔物の胸に命中する。胸から細い噴水のように血を吹き出す魔物は、やがてゆっくりと地面に倒れた。
周囲を警戒しながら銃に新しい弾を込める。辺りには血の臭いが漂っており、今の状況も相まって吐き気を催す。胸から込み上げてくる不快感を無理やり飲み込み、再装填が完了したところで新たな敵を探す。
「きゃああ!!」
子どもであろう甲高い悲鳴が響き渡る。ラカムは迷うことなく悲鳴がした方向へと駆け出した。
数軒の家の前を走り、恐らくはここであろう細い通りの前で立ち止まる。そこには仰向けに倒れた一人の少女が魔物に組み敷かれており、今まさに命を奪われようとしていた。
ラカムは咄嗟に銃を構え照星を少女に襲いかかる魔物に合わせるが、あと一手間に合わない。引き金を引いた時には、魔物は組み敷いた子どもに喰らいつき、一噛みでその命と肉を奪い去るだろう。
――間に合え。ラカムは今までの経験と本能から既に手遅れであることは悟っていた。それでも、ひょっとしたら偶然が、もしかしたら奇跡が起きてあの子は助かるかもしれない。そんなことを祈りながら人差し指に力を入れてトリガーを押し込む。魔物の牙が少女の髪に触れた。
蒼い影が横切り、体に大きな斬撃の傷を作りながら魔物が吹き飛んだ。撃鉄が倒れる直前でラカムの指が止まる。照星から目を離して視線を右に動かせば、そこには浅葱色の刀身を持つ大剣を構える青年の姿が。
「大丈夫か?」
「は、はい」
「早く外に逃げるんだ。他の人は既に避難している」
少女は何度も頷くと青年に礼を言って村の外へと走っていった。少女が無事に外へ逃げたことを確認すると、青年はラカムを見た。黒い髪にそれに似付かわしくない金色の瞳、刀身と同じ浅葱色の服に身を包んだ青年は、ラカムの顔を見ると何かを期待するような表情に変わる。
「もしかして騎空士の方ですか?」
「ああ、そうだ。そういうお前さんは?」
「この村で用心棒をしています。手伝ってください!」
「もちろんだ!」
会話する時間すら惜しい。最低限お互いの身分を確かめ合ったところでラカムは黒髪の青年と共に駆け出した。
二人は村の中を走り回りながらまだ逃げ遅れた村人が居ないか探す。道中で魔物に出くわせば容赦なく鉛弾を撃ち込み、斬り伏せた。
村人を探せど探せど見つかるのは既に物言わぬ死体ばかり。時間と共にラカムと青年の顔が険しくなっていき、魔物に対して振るわれる一撃が徐々に荒くなってゆく。これで何体目か、青年が魔物の腹に剣を深々と突き立て、引き抜いたところで遠くからラカムを呼ぶ声が響く。
「ラカム、村人の避難が終わった! 一旦退いて体勢を立て直すぞ!!」
「あいよ、すぐに行く! あんたも一緒に来い!」
オイゲンが避難が完了したことを告げる。ラカムはその知らせを聞いて返答すると短く息を吐き、張り詰めた緊張の糸を僅かに緩めた。
剣の血払いをしている青年に付いてくるようラカムは言うと、青年は黙って頷き、無残に貪られた村人の亡骸を一瞥してから二人で村の外へと向かった。
村の外、大きな岩影に逃げ延びた村人たちは集まっていた。誰も彼もが不安と恐怖で顔を歪めており、これからどうなるのか、村は元通りになるのかなど、あちこちから自分たちの行末を心配する声が聞こえる。
魔物が近付いてこないか片目を光らせるオイゲンは、村から何かが近付いてくることに気がつくと素早く愛銃を構える。目を細めて照準を覗き、引き金に指をかける。近付いてくる者の正体がわかるまでその状態を維持し、やがてトリガーからそっと指を放した。オイゲンが銃を降ろして直ぐにラカムと黒髪の青年がやって来る。
「おう、無事みたいだな。んで、そいつは一体……?」
「村の用心棒だ、さっき出会ってな。えっと、名前は……」
「空木レンカです」
ここで青年は初めて自分の名前を名乗った。と、最後の団員が戻ったことを確認したカタリナが集合をかけ、オイゲンとラカム、そしてレンカも団長である彼女の元へと向かう。
カタリナと会うなりレンカは簡単な自己紹介をし、カタリナも手短に挨拶を済ませる。団員全員が集結したところでカタリナは状況確認を始めた。
「村の長老と話し合ったが、ここまで大規模な魔物の襲撃は初めてらしい。村人の数を数えたが恐らく逃げ遅れはいないだろう。あとは魔物の群をどうするか……」
「街に救援を頼むか?」
ラカムの提案にカタリナは首を横に振る。
「そもそも街まで距離がありすぎる。仮に救援を要請したところで、討伐隊の編成や行軍でさらに時間がかかる。とてもじゃないがそんな余裕はない」
彼も試しに言ってみただけだろう。だろうな、と言わんばかりにラカムは顔をしかめる。
「だったら早く逃げましょ。急がないとあいつらがここに来るわ」
「ダメだ、このまま逃げても群が追ってくる。いくらなんでもこの大人数を守りながら逃げるのは無理だ」
一刻も早く魔物から逃げるべきだとイオは主張するが、カタリナはそれを制した。彼女の言うとおり、逃げたとしても魔物はすぐに追いかけてくるだろう。こちらは大勢の老若男女、さらには怪我人も混じっている上にそれを守るのはたったの五人だ。それを一人の犠牲も出さずに守り切るのはどう考えても不可能である。
「じゃあ、魔物を一匹残らず仕留めるか?」
「……それも無理だ、時間も人手も全く足りない」
オイゲンが魔物の殲滅を提案するが、カタリナは少し考えた後にこれを却下した。魔物は村中に散らばっており、それを一匹残らず仕留めるとなればいくら時間があっても足りない。仮に実行したとしてもその間にまた新手が村にやってくるだろう。そうなれば結果は言わずとも見えている。
何か、何かこの状況を覆せる手段は無いのか。カタリナは両目を閉じ、腕を組みながら眉間に皺を刻む。こうしている間にも魔物は村を破壊し、避難した村人に迫ってきているはずだ。時間の猶予も残されていない。
「……騎空士の方々、私に一つ考えが」
そしてその解決策は意外なところから出てきた。集まっている村人の中から皺だらけの手が挙げられている。誰が言うまでもなく村人たちは左右に割れてカタリナ達と挙手をした人物との間に道を作った。
村人たちの海の先に居た人物。それは胸に届くほどに髭を蓄えた一人の老人、この村の長老であった。騎空団とレンカは長老の元へと歩み寄り、彼の「考え」を聞く。
「長老、何か策が?」
「村に川が流れているのはわかりますな? 水源は上流にある湖からです。なんらかの方法でそれを決壊させれば……」
「待ってください、そんなことをしたら村が!」
村長が言わんとしていることを察したレンカは言い終える前に遮った。村長が下した決断、それは上流にある湖を決壊させ大量の水で魔物を一気に押し流すという方法だ。
確かにこの方法を使えば魔物は全て下流へと流される、今の危機的状況を打開するには間違いなく最善の方法だ。だが、それと同時に村の全てが共に流されるのは確実である。長年この土地に築いてきた営みの全てが失われるのだ。
「レンカさん、確かにあなたの言うとおり村の全ても流されてしまうでしょう。ですが、どう考えても今の状況を何とかするにはこれしかありません」
レンカ自身も今の状況に於いてこれ以外の策はないと胸中で確信しているのだろう。長老の言葉にそれ以上の反論はせず、悔やむような表情を浮かべ大剣を握りしめている。しかし、彼の言いたいことを村人の誰かが代弁した。
「長老! ご先祖様が汗水を流して開拓してくださった土地を捨てるというのですが!? それは先人への冒涜ですよ!!」
「……ああ、確かにそうだ。私はいま、先人へこれ以上無いほどの無礼を働こうとしている。祟り殺されても文句は言えないだろう。しかし、だ」
長老はゆっくりと辺りを見回し、自分を見つめる村人達の顔をしっかりと見た。そしてゆっくりと、諭すように、説き伏せるように言葉を紡ぐ。
「今回の襲撃で何人の命が失われた? このままこの場所に住み続けても、繰り返される襲撃でいずれ村人全員が殺されるのは間違いない。先祖はなんのためにこの場所を開拓した? 定住するためか? 違う」
次第に熱を帯びてくる長老の言葉に村人は聞き入り、騎空団やレンカもいつの間にか長老を真っ直ぐに見詰め、同じように聞き入っていた。
「先祖は我々に生きて欲しいから。生きて親から子へ、子から孫へと命を繋げてほしいからこの場所を作って下さったのだろう。それなのに土地を守るために全員が死んでしまっては本末転倒だ。我々はいかなる手段を用いても、それこそ長年住み続けた土地を捨てることになっても、生きてこの生命を次に繋がなくてはならない」
長老は両手を緩やかに広げ、まるで全てを受け入れるかのように穏やかな表情を浮かべていた。
「それでもなお、村を捨てることに反対するものはいるか? いるのであれば、いくらでも言い分を聞こう」
語り終えた長老は厳かに、そして堂々と反対意見を聞くと宣言した。辺りは水を打ったかのように静まり返っており、微かなざわめきも、ささやき声も聞こえない。村の総意は決定した。
「決まりですな……。騎空団の方々、あとはよろしくお願いします」
「わかりました。でも、どうやって湖を? 爆薬なんてどこにもない……」
作戦は決まったが、問題はどうやって湖を決壊させるか。濁流で魔物の群を押し流す以上一度に大量の水を流す必要がある。湖の河口を手作業で広げるという方法は時間も人手も全く足りず当然ながら却下だ。爆薬などで破壊できればいいのだが、生憎そのようなものは手元にない。
「あ、あの!」
周囲に再び重い空気が流れ始めた時、その空気を吹き飛ばすように一人の少女が声を上げる。村人たちやレンカは一斉に声を上げた少女、ルリアを見た。
「もしかしたら私なら何とかできるかもしれません!」
「何とか……もしかするとお嬢さんはなにか秘策がお有りで?」
「はい! 要するにどんな方法でもいいから湖の河口を壊せばいいんですよね? それだったら私ができるかもしれません!」
自分なら出来る、と言った少女に周囲は困惑する。果たしてあの少女に何ができるのか、場を和ませようとしたのか、それともこの状況でふざけているのか、様々な声が一気に溢れかえる。
しかし、彼女の持つ力を知る騎空団の面々は、任せたぞと言わんばかりに無言でその役割を了承した。
「では、私とルリアは湖に向かう。ラカム達は魔物が村から出ないように抑えておいてくれ」
「あいよ。それとカタリナ、こいつを持ってけ。湖に着いたら打ち上げろ。こっちも同じものを持っているから準備が出来たら打ち上げる。そしたら河口を破壊してくれ」
「わかった」
ラカムはカタリナに大口径の単発拳銃のようなもの、合図や自分の位置を知らせるために使う信号銃を渡した。念のためにと予備の信号弾も二つ渡し、カタリナはそれを懐にしまう。
「もしそっちが信号弾を打ち上げてから十分……いや、五分たっても応答がなかったら、その時は構わずに実行してくれ」
ラカムが言わんとしていることを察したカタリナとルリアは何も言わずに頷く。これで手筈は整った。あとは作戦を開始するのみ。騎空団とレンカは団長である彼女を見つめ、作戦開始の号令を今かと待っている。
「何が何でも成功させる。みんな、いく――」
「あの!」
役割が決まりカタリナが作戦開始の号令をかけようとするが、甲高い声がそれを遮った。騎空団や村人たちが声の主を探して見回すと、村人の中から細い手が挙げられている。
村人たちが再び割れてカタリナ達との間に道を作ると、挙手をした人物は一人の少女、ラカムとレンカが助けた少女であった。
「誰か私の弟を見ませんでしたか! さっきから探しているんですが、どこにも見当たらないんです!」
瞳を潤ませ悲痛と焦燥の入り混じった声で少女は叫ぶ。レンカは彼女のもとに近寄ると膝を折ってしゃがみ、少女と目線の高さを合わせた。そしてゆっくりと、少女の不安を和らげるように穏やかな声色で話しかける。
「最後に見たのは?」
「逃げているときです。途中ではぐれてしまって、探していたら魔物に襲われて……」
「弟さんが別の方へ逃げた可能性は?」
「それはありえません。以前から村で何かあったらこの岩陰に逃げること、というのが村の決まりでしたので……もしかしたら、もう……」
遂に我慢の限界を迎えた少女が嗚咽を漏らし始めた。両手で目を多い溢れ出る涙をせき止めようとするが、零れた涙は雫となって少女の足元に滴り落ちてゆく。
レンカは少女を宥めながら彼女の弟が今どこにいるのかを考えていた。被害を少しでも抑えるために村中を走り回り、同時に逃げ遅れた人がいないか捜索も行った。ラカム達も可能な限り村の中を確認してから撤退したため、見落としは無いはずだ。
だとすれば――
「まさか……」
レンカの頬を一筋の冷や汗が伝う。避難した村人は全員ここにいる、逃げ遅れたとすれば残されている可能性は二つ。魔物に喰われたか、村のどこかに隠れているか。前者の光景が一瞬頭を過ぎるが、レンカは頭を激しく振ってその光景を追い出す。こうしてはいられない、一刻も早く村に戻って探さなければ。
「お願いします、弟を探してください! 私の唯一の家族なんです!」
少女は泣きじゃくりながらレンカに縋り付く。レンカは少女を片手で優しく受け止め、強い決意を持って彼女に約束した。
「ああ、君の弟は必ず見つける。だからここで待っていてくれ」