グランブルーファンタジー クロスオーバーFエピソード集   作:第22SAS連隊隊員

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外伝 歴史の陰で

外伝 歴史の陰で

 

「うわー随分と混んでいるな……」

 

とある島に到着しグランサイファーを降りたラカムは、発着場の様子を見てなんとも嫌そうな声を漏らす。

発着場内は人でごった返しており、これから町に向かう者や島を出るものがひっきりなしに出入り口を行き来している。視線を動かして受付カウンターを見れば、予想通りそこは人で過密状態になっていた。

 

「ここで待っていてもしかたない。はやく番号札を受け取って入島許可証を発行してもらわないと」

 

「へいへい」

 

騎空団の団長であるカタリナに言われ、ラカムはどこか気の抜けた返事を返す。人と人の間をなんとかすり抜けながら番号札を発行している場所までたどり着き、係員に発券をお願いする。

 

「こちらが番号札になります」

 

礼を言ってラカムは受け取った番号札を見た。白い紙には印刷された数字が書かれており、この番号を呼ばれた時がラカム達の番だ。

問題は現在、番号がどこまで進んでいるかであり、これによってラカム達がここでどれだけ待たなければならないかが決まる。

――番の番号札をお持ちの方は、三番カウンターまでお越しください。

ちょうどその時、場内のアナウンスで次の番号が呼ばれた。どうやらしばらく時間を潰さなければならないようだ。ラカムは番号札を丁寧に畳み、無くさないように懐へとしっかりしまう。

さて、時間を潰すと言っても出来ることは極めて限られている。入島許可証が無ければ当然ながら島に入ることは許されない、つまりはこの発着場内で出来ることで時間を潰さなければならないのだ。

真っ先に思いついたのは団長であるカタリナとの雑談であるが、ここまでの長旅で二人とも疲れ切っており、とてもそんなことをする気力は残っていない。

ならば読書でもしながらのんびりといきたいところだが、自室にある本は全て読み終えてしまった物ばかりだ。カタリナは読書をするタイプの人間ではないので彼女から本を借りるということもできない。

なにか、なにか暇を潰せるものはないか。キョロキョロとラカムは視線を彷徨わせると、ある物を見てで動きが止まる。ラカムはそれを指差すと、カタリナは彼が言わんとしていることを理解したのか黙って頷いた。

二人は人混みの間をすり抜けながらどうにかして壁に掛けられている『ソレ』に辿り着く。

それは騎空団用の公共掲示板だった。木製の掲示板にはあちこちに貼り紙がしてあり、様々なことが書かれている。

 

『新騎空団員募集! 詳しくは団長の――』

 

『要らなくなった装備引き取ります。傷物、破損、なんでもどうぞ!』

 

『――島にて大型魔物目撃情報あり。注意されたし』

 

ラカムは所狭しと貼り付けられた紙を何気なく流し読みし、何か時間を潰せそうな面白い貼り紙はないか探した。

右から左へと目を動かし、端に辿り着く度に視線を一段下げ反対へとまた動かす。そんな往復を繰り返している内に、とうとう掲示板の最下段まで視線が下がった。そして掲示板の左下、つまりはラカムにとって最後となる貼り紙が目に入る。

 

「……ん?」

 

そこには他の貼り紙と違って人相書きが添えられており、その下に人相書きの人物に関する情報が書かれている。

 

尋ね人:上記の人相書きの二人を探しています。

特徴:男 金髪 年齢は二十代中頃 背はやや低め 瞳の色は茶

   女 金髪 年齢は二十代前半 背は低め 瞳の色は茶

 

ラカムは特徴の記述を全て読み終え、視線を一つ上げる。

 

「えーと、名前が……」

 

「そこのお二方、もしや人相書きの人物をご存知で?」

 

急に声をかけられ、ラカムとカタリナは若干驚きつつ振り返った。そこには軽装の騎士鎧を隙なく着込んだ女騎士が立っていた。

 

「突然申し訳ありません。私の名はアグリアス、騎空団の団長を務めています」

 

アグリアスと名乗った女騎士はそう言って軽く頭を下げた。それに合わせて後ろに結われた彼女の金髪が揺れる。

 

「私はカタリナ、騎空団の団長をしている者だ」

 

「俺はラカム、騎空挺の操舵士をやっている」

 

お互いに自己紹介を済ませると、神妙な面持ちでアグリアスは再び二人に問う。

 

「改めてお聞きしますが、お二方は人相書きの二人をご存知なのでしょうか?」

 

「いや、単に掲示板を眺めていたら人探しの貼り紙があったから、珍しくてつい……」

 

「そうですか……」

 

そう言ってアグリアスは一瞬だけ気落ちするような表情を見せる。しかし、すぐに凛とした騎士の顔に変わると、真剣な口調でラカムとカタリナの二人にこんな頼みをしてきた。

 

「お願いがあるのですが、もし人相書きの二人を見つけたら掲示板の貼り紙にどこで見たのかを書き込んでいただけないでしょうか?」

 

「別に構わないが……その二人をそんなにさがしているのか?」

 

「ええ、私は……正確には私の騎空団はその二人を探すために結成されたようなものです」

 

聞くだけなら冗談とも思える結成理由だが、アグリアスのどこまでも真剣な眼差しと表情が冗談では無いことを物語っていた。彼女の様子にただならぬ物を感じ取ったラカムがゆっくりと口を開く。

 

「そこまでするってことは、相当な理由があるんだな」

 

「差し支えなければその二人を探すために騎空団を結成した理由聞かせてくれないか?」

 

カタリナが遠慮がちに尋ねるとアグリアスは静かに頷く。

 

「まず私が率いる騎空団についてですが、団員は私を含めて全員がイヴァリース出身です」

 

「い、イヴァリース!? あんたそんな遠くから来たのか!?」

 

ラカムの驚きの声も発着場のざわめきに飲み込まれ、気にするものは誰一人としていなかった。カタリナはラカムの様に声こそ上げなかったが、かなり驚いた様子である。

 

「どんなに速い騎空挺でも数週間、下手をすれば数ヶ月はかかるという空の果てにある世界……そこは島が空に浮かんでおらず、アウギュステのように海に幾つもの陸地が広がっていると聞いたことがあるが……」

 

「ええ、その通りです。私もファータグランデを初めて訪れた時は、本当に空に島が浮かんでいる光景を見て驚きました」

 

そう言ってアグリアスは小さく笑う。すぐにその表情は凛とした女騎士の顔に戻った。

 

「我々が探している二人……ラムザ・ベオルブとアルマ・ベオルブ。ラムザは世界の破滅を阻止するために我々と共に戦った男であり、アルマはその妹なのです」

 

世界の破滅、という大仰な言葉が出てきてラカムは思わず眉を曲げた。そのような出来事があればいくら遠く離れている場所とは言え、ファータグランデにも噂程度は伝わるはずだ。だが、ラカムは今日に至るまでそのような話は聞いたこともない。

カタリナも同じ疑問を感じたのか、アグリアスに言葉の意味を尋ねる。

 

「世界の破滅とは一体……イヴァリースで何があったんだ?」

 

カタリナの言葉にアグリアスは僅かに顔を強張らせる。聞いてはいけないことだったかとカタリナ後悔しかけたところで、アグリアスは小さく息を吐き、静かに言葉を紡ぐ。

 

「今から私が語ることは全て真実です。こんな遥か遠くの地では決して意味を持たない真実ではありますが……」

 

そしてアグリアスは語り始めた。彼女の出身であるイヴァリースで起きた、決して明るみに出ることはないであろう出来事を。

五十年にも渡る戦争に敗北し疲弊しきったイヴァリース、その隙を狙いかつての権威を取り戻そうとする国教グレバドス教会。しかし、権威を取り戻すために教会が使った聖石は人を悪魔へと変える呪われた力であった。

さらに聖石によって現れた悪魔たちはこの世に破壊と混乱をもたらすことを目的としており、それを阻止するためにラムザ達は孤独な戦いを続ける。

最終的にラムザ達は、妹のアルマを依代として現れた悪魔達の主である聖天使アルテマを倒すことが出来たのだが、一連の事実は教会によって隠蔽され、更にラムザは「グレバドス教の重要人物を何人も殺害した人物」として異端者の烙印を押されてしまう。

 

「彼とその妹は表向きは死んだことになっています。しかし、とある人物から二人を見たという確かな情報を得て、我々は二人を探すことに決めました」

 

「そしてファータグランデにたどり着いたって訳か……」

 

――その通りです。言いたいことが言えて胸のつっかえが取れたのか、アグリアスはどこか晴々とした顔になっていた。

彼女が率いる騎空団結成の理由を聞いて、ラカムとカタリナは件のラムザという男とアグリアス達との絆の強さに感嘆し、同時に自分たちの罪を擦り付けて権威を取り戻そうとするグレバドス教会に強い憤りを覚えた。

 

「なるほどな。あんたがそのラムザって奴をファータグランデに来てまで探す理由がよく分かったよ」

 

「その……こんなことを聞くのはなんだが、二人を見つけたらイヴァリースに戻るのか?」

 

カタリナの質問にアグリアスはゆっくりと首を横に振る。

 

「もうイヴァリースに未練はありません。騎空団を結成する際に『二度と故郷の土を踏まない』と全員で誓いました。それに今頃は新しい王と王女が国を平和に治めているでしょう」

 

最後の言葉を口にする時アグリアスはどこか寂しげな表情を浮かべた。新しい王と王女が国を平和に治める。聞く限りなんとも喜ばしいことだが、なぜ彼女が寂しげな顔をするのかラカムとカタリナにはわからなかった。

そのことについて聞くべきか否か迷っていると、発着場の天井に設置されたスピーカーから軽やかなアナウンス音が鳴り響く。

――番の番号札をお持ちの方は、二番カウンターまでお越しください。

 

「おっと、ようやくだ。それじゃあな、探している人、見つかるといいな」

 

「私も見つかることを祈ります」

 

ラカムは片手を上げて、カタリナは敬々しく礼をしてアグリアスに激励を送る。アグリアスは礼として二人に深々とお辞儀をし、ラカムとカタリナはカウンターへ向かうべく、人混みへと消えた。

 

 

 

呼ばれてから数十分後、ラカムはようやく発行してもらった入島許可証を無くさないよう懐にしまい、カタリナと共にくたびれた様子で発着場の出入り口に向かっていた。相も変わらず通路は人でごった返しており先程から何度もぶつかっている。

せめてぶつかる回数を少なくしようと身を捩りながら前に進み続けていると、向こう側の太陽の光が眩しい発着場の出入り口がようやく見えてきた。

もう少しだ、と言わんばかりに息を吐くと改めて出入り口に向かう。人と人の僅かな隙間を縫いながら少しづつ、しかし確実にゴールへと向かうラカムとカタリナ。はやる気持ちを押さえながら無駄に体力を使わないように最小限の動きで身を捩り続ける。

まるで金糸のような金髪をなびかせながら、ラカムの脇を一組の男女がすれ違った。すれ違いざまに一瞬だけ見えた顔は、掲示板に貼られていた人相書きの顔に似ていた。

 

「え?」

 

ラカムは思わず立ち止まり、自分の後ろを振り返る。そこには大勢の人が行き来しており、先程の金髪の男女は見当たらない。目を凝らしてどこかに先程自分の脇を通り過ぎた男女がいないか探す。やはり見当たらない

 

「ラカム、どうした?」

 

「……いや」

 

――人違い、だよな。

そう自分に言い聞かせて無理やり納得させる。息を一つ吐き出すと、怪訝な顔をしているカタリナの脇を通り過ぎて島に続く出入り口へとラカムは向かっていった。

 

 

 

 

 

「ここにもいなかったな」

 

「なに、いつものことだ。また次の島で貼り紙を貼って、聞きこみをして、それでいなかったらまた次へ向かえばいい」

 

アグリアスはラカム達と別れた後、自分たちの所有する騎空挺に戻っていた。船の周りには大量の荷物が積まれており、それを団員たちが次から次へと騎空挺に運び込んでいる。

 

「なぁ、アグリアス。二人を見つけて合流としたとして、それからどうするんだ?」

 

彼女の隣に立つ長めの金髪を後ろで一纏めにし、作業着を着た男はそんな質問をした。当の本人はどこか遠くをしばし見つめた後、つぶやくようにゆっくりと答えを口にする。

 

「みんなでファータグランデを旅でもしようか。誰かを救う旅でも、世界の危機を救う旅でもなく、行きたいところに行く自由気ままな旅をな」

 

「いいな、それ」

 

金髪の男は快活に笑う。それにつられるようにアグリアスも小さく笑った。

 

「おーい、ムスタディオ。手を貸してくれ!」

 

「おっと、ラッドのやつか。ちょっと行ってくる」

 

騎空挺から聞こえた声に、ムスタディオと呼ばれた金髪の男はアグリアスに手を上げて声の方へと向かっていった。その姿を見届けたアグリアスは、近くに置いてあったクリップボードとペンを手に取り、積み込む物資の確認を始める。

荷物を一つ一つ確認し、数や量が合っていればボードに挟んだ目録にチェックを入れる。それをひたすら繰り返してしばらくの時間が過ぎた。物資の確認も一通り終わり、一息つこうとしたアグリアスの背後に人影が近付く。

 

「立派な船だね」

 

穏やかな声で人影はアグリアスに話しかけた。

 

「なにせ大所帯だからな、船はこれくらいないと……」

 

後ろから聞こえた声に思わず返事をしながらアグリアスは振り返る。そして声の主を見た途端に、彼女の手からクリップボードとペンが落ちた。

 

「久し振りだね」

 

「お久しぶりです」

 

「……」

 

声が出なかった。最初に何と言うかずっと決めていたのに、いざその時になったら頭が真っ白になって、様々な思いが駆け巡って言葉が出てこなかった。

 

「みんな元気そうでなによりだよ。アグリアスはちゃんと寝てる? なんだか顔が疲れてるよ」

 

アグリアスは自分の前に現れた二人の男女を、ずっと探し続けていた二人を力強く抱きしめた。

 

 

 


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