とうま1/2   作:通雨

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3話

 早速、獅子咆哮弾を見せてあげようと、キッチンからリビングに戻るインデックス。とうまと小萌も大人しくついていく。

 

「じゃあ、とうまに向かって放つから、こもえはちょっと離れておくんだよ。危ないから」

「危ないことをするのですか? それはダメなのです。怪我とかしたらどうするのです」

 

 そんなことは教師として見過ごせない、と小萌が止める。

 

「う〜ん、じゃあ、怪我しないように手加減するんだよ。それなら良いでしょ?」

「待て待て、何故俺に向かって放つのが前提になってるんだ。壁に放て壁に」

「え〜? 怖いの、とうま。男の子なのに意気地無しなんだね。あっ、今は女の子か」

 

 からかうように声音を上げて言うインデックスに、結構短気なとうまはカチンときた。

 

「別に怖かねぇよ。獅子咆哮弾だろうがなんだろうが、受けてやろうじゃねぇか」

「ちょっと、上条ちゃん。危ないことしちゃダメなのです」

「大丈夫ですよ小萌先生。俺には幻想殺しがあるし」

「上条ちゃんの右手が超能力を消せるのは知ってますが、魔術も消せるとは限らないでしょう?」

「そもそも、よく考えれば魔術なんて妄言です。結局なにも出来ずに、MPがきれたとかなんとかって言い訳するに決まってます」

「むむっ! まだ信じてないの? わかったんだよ、獅子咆哮弾、存分にくらわせてあげる」

 

 う〜ん、と唸りながら魔力をためるインデックス。仕方なく小萌は距離をとり、とうまも数歩下がって右手をインデックスに向けて構えた。

 

「ご飯が不味い、ご飯が不味い。イギリスのご飯は不味くて不幸なんだよ」

 

 インデックスは呪文でも唱えるかのように、ご飯が不味いと繰り返した。

 しゅうしゅうと、ヤカンから蒸気が抜けるような音を立てて、インデックスの手に魔力がたまっていく。

 

「くらえっとうまっ! 獅子咆哮弾!」

 

 轟っ!

 インデックスの右手から不幸を形にしたような、直径50センチ程の丸くて重い気弾が放たれた。その気弾は勢い良くとうまの方へと向かっていく。

 とうまは一瞬驚いて目を見開くが、構えた幻想殺しでその気弾を打ち消す。

 

「な、マジかよ……マジで波動拳みたいなのが出たぞ」

「か、上条ちゃん、大丈夫ですか?」

 

 心配になった小萌がとてとてと駆け寄る。魔術は幻想殺しで問題無く打ち消せたようで、とうまは無傷である。

 

「ななーっ! 獅子咆哮弾を無力化したっ? な、何をしたの、とうま!」

 

 インデックスも疑問の声を上げながらとうまに近寄った。

 

「ああ、俺の右手は幻想殺しって言って、異能の力を打ち消すことが出来るんだ」

「そ、それが本当なら、凄いことなんだよ。その右手に大魔術並みの奇跡を内包してるとでもいうのっ!?」

「大魔術だかなんだか知らんが、これも俺の体質みたいなもんだ」

「た、体質……そんな、いい加減な……」

 

 物凄いことを物凄く軽く言い放つとうまに、インデックスがショックを受ける。

 

「そんなことより、今の獅子咆哮弾ってヤツはスゲーカッコいいな! 俺にも教えてくれよ」

「そういう訳にはいかないよ」

 

 突然、聞いたこともない男の声がした。

 とうま達三人は驚いて、声が聴こえた方向、玄関ドアの方へ目を向ける。

 其処には、煙草を燻らせながら佇む赤髪の大男がいた。

 玄関の敷居に頭を打ち付けそうな長身であるが、顔には僅かに幼さを残している。とうまよりも年下に見えた。

 

「一般人に魔術を教える訳にはいかないさ」大男は煙を吐きながら言った。

「わっ」インデックスが声を上げる。

「わっ?」とうまが疑問の声を上げる。

「悪い魔術師だーっ!」

 

 インデックスは大男を指差しながら叫んだ。言われた悪い魔術師は顔を顰めて反論した。

 

「誰が悪い魔術師だっ! 僕は悪い魔術師じゃないよっ!」

「悪い魔術師はみんなそう言うんだよ、ステイル」

 

 インデックスは大男の事をステイルと呼んだ。どうやら知り合いらしい。

 

「ちっ! とりあえず名乗らせてもらおう。必要悪の教会の紅い炎、ステイル=マグヌスとは僕の事だ。そして、出来れば魔法名は名乗りたくないね」

「魔法名? なんだそりゃ」

 

 とうまが傍らのインデックスに訊ねる。

 

「魔法名っていうのはね、まあ、簡単に言えば今から本気出しますよ〜っていう合図の為に名乗る名前なんだよ」

「ああ、中学生ってそういうの好きだよな。あのステイルってヤツも中学生くらいの年齢だろう?」

「人を中二扱いするのはやめろ」

 

 ステイルはそう言うが、実際十四歳なのであまり間違ってはいない。

 

「とにかく、一般人に魔術を教えるなんて許されることじゃないよ、インデックス。さあ、僕と一緒にイギリスに帰ろう。そして、僕と交際してくれ」

「交際?」

 

 ステイルの突然の告白に顔が引き攣るとうま。自分や小萌という初対面の人間がいるというのに、何を恥ずかしいことを言っているのか、正気かコイツと、とうまは思った。

 

「いつも言ってるでしょ。ステイルと付き合うつもりは無いって」

 

 にべもなく断るインデックス。しかし、ステイルは諦めない。

 

「そうか、では仕方がない。なるべく一般人は巻き込みたくなかったが……Fortis931!」

 

 ステイルは魔法名を名乗りながら、玄関の靴置き場から一歩踏み出した。

 

「待て!」とうまが右手を突き出してステイルに待ったをかける。

「なんだ、命乞いか?」

「ここは日本だ。とりあえず、靴は脱げ」

「そんなこと言ってる場合じゃ無いと思うけどね」ステイルが首を横に振る。

 

 ステイルはとうまの言葉を無視して土足で上がり込みながら、なにやら唱え始めた。

 

「世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ

それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり

それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり

その名は炎、その役は剣

顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ」

「うわ、なんか変なこと言い始めたぞ」

 

 若干引くとうま。呪文詠唱とか、なんだかファンタジー映画みたいだなあ、と呑気に構えていた。

 まだまだ、魔術並びに魔術師などという存在には、半信半疑らしい。

 

「あれは、ステイルの十八番、ルーン魔術の極致!」焦ったように眼を見開くインデックス。

「イノケンティウス!」

 

 ステイルの気合いの声と共に炎の巨人がとうまの部屋の中に顕現した。

 

「ぎゃーっ! 床と天井が燃えるーっ!」

「きゃーっ! 本当に悪い魔術師だったのですーっ!」

 

 とうまと小萌が、わたわたと慌てる。とうまは、これも魔術ならば獅子咆哮弾と同様に幻想殺しで消せるはずだと、イノケンティウスに向かって拳を放った。

 

「うおりゃーっ!」

 

 とうまの右手に触れた瞬間、イノケンティウスはその形を留めることが出来ずに四散する。

 しかし、散り散りになった筈のイノケンティウスは、息もつかせぬ間にその形を取り戻した。

 

「イノケンティウスを一瞬とはいえ消失させるとは、やはり超能力は侮れないね! しかし、イノケンティウスは何度でも蘇るのさ! 僕ある限り!」

 

 イノケンティウスはステイルのルーン魔術によって構成された炎の巨人だ。

 完全に消し去るには、ステイルが事前に設置した数多のルーンカードを破棄しなければならない。

 何度でも蘇るというステイルの言葉を聞いて少し怯むとうまだったが、幻想殺しが一瞬とはいえイノケンティウスを消せることはわかった。

 ならば、部屋を燃やさせない為に自分ができることはひとつである。

 

「うぉぉぉおおお! 火中! 天津! 甘栗けぇぇぇえええん!」

 

 つい先程インデックスに見せてもらったばかりの技を、持ち前のセンスで再現して拳速を上げるとうま。

 何度消そうとも一瞬にして再生するイノケンティウスに対して、その幻想殺しなる右手を超高速の連撃で放ち続けて、連続して消し続ける。

 イノケンティウスは何度でも蘇るが、とうまの幻想殺しは蘇るたびに何度でもイノケンティウスを消し続けた。

 

「なっ! イノケンティウスを消し続けてその動きを止めるだとっ!」

 

 驚くステイルはとにかく落ち着こうとして、右手の指先に挟んだ煙草を口元に持っていく。

 しかし、小萌の左手によって右手の袖を掴まれ、煙草を吸うことは叶わなかった。

 

「きみは、まだ未成年ですね?」

 

 小萌が底冷えするような低い声音でステイルに訊ねる。

 

「えっ? あの、未成年だったらなんだと……」ステイルが冷や汗を流して怯む。

「未成年が煙草を吸うなんて、ダメにきまってるでしょうがっ!」

 

 小萌はポケットから五十円玉を取り出し、右手の人差し指と中指に挟んで、ステイルに向けて構えた。

 

「よい子の体操第二! 月詠五十円殺っ!」

 

 ちなみに、月詠五円殺は表出した闘気を吸収する技、月詠五十円殺は潜在する闘気を根こそぎ吸収する技である。

 五十円玉の穴に、どんどん闘気を吸い取られ、ついにステイルは気絶した。

 ステイルの闘気を吸収し尽くした小萌は、ぐいーん、ぎゅーん、と大人体型に変身した。

 

「思い知ったか悪童。未成年のくせに喫煙など言語道断。思う存分反省するが良い」

 

 小萌は床に突っ伏すステイルの後頭部を踵で踏みながら言う。

 火中天津甘栗拳による高速連続突きでイノケンティウスを消し続けていたとうまは、炎の巨人が突然復活しなくなったことによって幻想殺しを空振る。

 ステイルが気絶したことにより、イノケンティウスへの魔力供給が断たれ、その炎の再生ができなくなったのだ。

 安堵の吐息をついたとうまは、ステイルをビニール紐でふんじばると、インデックスに向かって問いかけた。

 

「んで、コイツはなんなんだ?」

 

 床にゴロンと転がっているステイルを指差しながら言うとうま。

 

「その男は、私をイギリスに連れ去ろうとする悪い魔術師なんだよ。しかも、私に気がある変態アホ魔術師でもあるね」

「そう言わないであげて下さい。ステイルは確かに阿呆ですが、貴方への想いは本物ですよ、インデックス」

 

 とうまの部屋に、またもや聞き覚えのない声が響いた。

 とうまと小萌はデジャブを感じながら、その声が聞こえたベランダ側の窓の方を見る。

 インデックスが割った窓をカラカラと開けて、長身の女性が入ってきた。

 長い髪をポニーテールに束ねたその女性は、白いTシャツを裾縛りしたヘソ出しルックに、左脚部分を根元までぶった切ったジーンズという奇妙な服装だった。

 腰のウエスタンベルトには長刀が提げられていて、まるで露出狂の辻斬りだ。

 

「へ、変態だーっ!」小萌が指差しながら叫ぶ。

「だ、誰が変態ですかっ!」

「君に決まってるだろう。なんだその乳を強調した格好は。露出狂かい?」

 

 小萌の指摘にショックを受けたのか、長身の女性は片膝をついて崩れ落ちた。その顔はどんより曇り空のようだった。

 

「だ、黙れよド素人が……この格好は魔術的に意味があるんだよ……」男口調で凄むが、あまり覇気はない。

「かおり、私はちゃんとわかってるよ」

 

 哀れに思ったのか、インデックスが優しくフォローする。

 

「インデックス、あのお姉さんは何者だ?」

「神裂火織っていってね、私を連れ去ろうとする悪い魔術師Bだよ」とうまの質問にインデックスが答えた。

「誰が悪い魔術師Bですかっ! せめて悪い魔術師Aにしてくださいっ!」

 

 AだろうがBだろうがあまり変わらない気がするが神裂にとっては大事なことらしい。

 

「とにかく、ここは退かせていただきます。ステイルも回収させてもらいますよ」

 

 神裂はそう言うと、どこから取り出したのか鉤爪付きロープをステイルに放ち、ステイルの服の裾に引っ掛けて一本釣りした。

 そして、引き寄せたステイルを肩に担ぐと、ベランダから跳び立って逃げた。

 

「インデックス! 近い内にイギリスへ連れ戻します! 首を洗って待っていなさい!」

 

 大男を抱えて大空を舞う神裂は、インデックスに向かって大声で叫んだ。

 部屋に残されたとうま達は、いきなりの事態に思考が追いついていない。

 ステイルの闘気が少なかったのか、今回の小萌の変身時間は短かった。

 ぷしゅる〜っと音を立てて子供体型に戻った小萌は、「とりあえず、学校に行きましょうか、上条ちゃん。インデックスちゃんも、行く所が無ければ、一緒にウチの高校に行きましょう。いたいけな少女を悪い魔術師から守るのも教師の勤めです。事情も聞きたいですし」と上条とインデックスを見ながら言った。

 

「学校に行くのに異論はないですが、とりあえず、シャワー浴びて着替えます」

 

 焼け焦げたシャツを着て、少女に変身したままだったとうまは、早足で風呂場に向かう。

 

「ねえ、こもえ」

「なんです? インデックスちゃん」

「喉乾いちゃったんだよ。ジュースを買ってくれたら嬉しいな」

「もぅ、しょうがないですねぇ」

 

 インデックスと小萌は、のんびりした様子で声を立てて笑った。

 とうまの部屋のリビングには、割れた窓ガラスが散乱し、イノケンティウスの焦げ跡が残っていた。

 後々、冷静に現状を見回したとうまが、例によって「不幸だ……」と呟いたことは、仕方のないことだろう。

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