とうま1/2   作:通雨

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5話

 上条の家に帰り着いた二人。上条は早速、獅子咆哮弾の修業を始めようと思いインデックスに声をかける。

 

「よし、んじゃ、インデックス。獅子咆哮弾の修業をしに行こうぜ。どこかの公園の広場とかでいいか?」

「何言ってるの、とうま。まずは腹拵えに決まってるでしょ?」

 

 さっさと修業を始めたかった上条だったが、インデックスの言葉に出鼻を挫かれる。

 しかし、昼食を食べていなかった上条は、確かに多少の空腹感を覚えていた。インデックスの言う通りか、と思い直し、冷蔵庫を開けて中の食材を確かめる。

 

「牛肉はあるな、あと、野菜室にジャガイモ、玉ねぎ、もやしか。よし、『肉じゃが上条スペシャル、もやし大盛りver.』を作ってやろう」

「肉じゃが! 東郷平八郎が料理人にビーフシチューを作るよう命じたら、何だか似ても似つかぬものが出来たという、ジャパニーズビーフシチュー、肉じゃがだね? 一度食べてみたかった、かも」

「いや、その逸話は俺も聞いたことあるけど、都市伝説らしいぞ」

 

 上条は答えながら、包丁で手際よくジャガイモの皮を剥いていく。

 インデックスにはピーラーを渡して手伝わせた。彼女はジャガイモの皮を剥いた経験など無いようだが、ピーラーを使えば初心者でも特に問題なく皮を剥けるし、芽取りも簡単に出来る。ピーラーって便利だ。

 玉ねぎはくし形、ジャガイモは一口大に切り、水洗いした大量のもやし、コマ切れの牛肉と共に炒める。

 それなりに火が通ったところで、みりんと料理酒と濃縮めんつゆを投入した。

 本来ならば、出汁をとったり、砂糖と醤油の比率を測ったりしなければならないところだが、濃縮めんつゆさえあればそんな面倒な工程もいらない。めんつゆって便利だ。

 

「あと15分くらい煮込めば肉じゃがは完成だな、肉じゃがの煮汁で炒り卵も作ろう。あと、冷蔵庫の中にチキンナゲットがあったから、それをオーブンでチンするか。それと、きゅうりのぬか漬けもあったな。ぬか漬けも食うか? インデックス」

「食べる! とうま、今、私はとっても幸せなんだよ。とうまが聖母マリア様に見えるんだよ」

「ははっ、大袈裟だぞ。インデックス」

 

 できた料理をテーブルに並べる。然程豪勢とはいえないメニューだが、インデックスはそれでも喜んだ。

 イギリスでの食事は余程質素だったのだろうか。

 そういえば、シスターさんは清貧を旨とする、みたいな話を聞いたことがあるな、と上条は思い出した。十字教もやっぱり精進料理とかを食べるんだろうか。

 美味しそうに肉じゃがを頬張るインデックス。ジャガイモにはヒガ◯マル製のめんつゆの味が染みていた。

 めんつゆに含まれた鰹と昆布の合わせ出汁が深い味わいと旨味を醸し出している。流石は信頼と実績のヒガシ◯ル製だ。

 ホクホクしたジャガイモとジューシーで甘辛い牛肉のコントラストに、シャキッとしたもやしがアクセントを加える。しらたきの代用の様な形で入れたもやしだが、意外と合うらしい。

 インデックスは肉じゃがをおかずにして、フォークで器用に白米を掻き込んだ。

 

「美味しいね! 美味しいね! とうま!」

「そんだけ美味そうに食ってくれると、作った甲斐があるよ」

 

 インデックスのフォークの動きは止まる事なく、ケチャップとマスタードをたっぷりかけたナゲットも、炒り卵もきゅうりのぬか漬けも、あっという間に彼女の胃袋に収まった。

 

「ああ美味しかった。ご馳走さまなんだよ」

「お粗末さま、んじゃ、ちょっと食休みしたら修業にいくか」

「食休み? そんなもの必要ないんだよ」

 

 インデックスはそう言って立ち上がると、さっさとドアの方へ歩いて行った。

 忙しない奴、と上条は思ったが、修業自体は望むところだったのでインデックスについて行く。

 

「あ、財布を忘れないでね。とうま」

「財布? 一応ポケットに入れてるけど、なんで財布が必要なんだ?」

「決まってるじゃない。獅子咆哮弾の修業には、お金がいるんだよ」

 

 技を覚えるのに何故、金がいるのか。上条にはよくわからなかったが、例によって不幸の前触れであろう事はなんとなく覚った。

 

 

 

 

 

 ご飯を食べたばかりだというのに、インデックスは機敏な動きで繁華街まで走っていく。

 人並み外れた身体能力を持つ上条であったが、インデックスのスピードについて行くのは苦労した。

 華奢な女の子なのに足速いんだな。これも魔術の恩恵か、と考察する上条。この分なら自分も魔術を覚えれば、もっと強くなれるかも、とワクワクしてくる。

 繁華街を通り過ぎて広い公園にでも行くのかと思っていた上条であったが、インデックスは途中で見つけた飲食店に入っていく。

 

「ええっ? なんで食いもん屋?」

 

 上条は疑問を呟く。しかし、インデックスが入ってしまったからには、自分もついていくしかないかと、後に続いて入店する。

 

「いらっしゃいませ、何名様でしょうか〜?」

「二人なんだよ」

 

 出迎えた店員に対して、ビシッと指を二本立てて言うインデックス。

 入り口近くの席を陣取ると、早速メニューを開いて注文し始めた。

 

「これとこれとこれとこれとこれとこれとこれとこれ、あと、これも。ライスは大盛りで頼むんだよ!」

「待て待て待て! インデックス! 修業はどうした! そもそも、ご飯ならさっき食べたでしょうが!」

「とうま、お店に入って何も注文しないなんてダメなんだよ。とうまは何頼む?」

「あ、じゃあ俺はオレンジジュース下さい……って、そうじゃない! 修業だよ、修業!」

「かしこまりました〜、ご注文を繰り返しま〜す」

 

 慌てた様子の上条を無視して、呑気にご注文を繰り返す店員。

 インデックスは、オーダーミスは無いかと店員の言葉を聴きながら頷いている。

 

「以上でよろしいでしょうか〜?」

「うん、よろしいんだよ」

「では、少々お待ちくださ〜い」

 

 間延びした声の店員を見送りながら、上条はもう一度改めてインデックスに訊ねた。

 

「で? 獅子咆哮弾の修業はどうなったんだ、インデックス」

「何言ってるの、とうま? 既に修業は始まってるんだよ」

「なに?」

 

 修業は始まっていると言われても、身に覚えのない上条は困惑する。

 どう考えても、ただ単に飲食店で飯を食おうとしているこの現状が修業だとは思えなかった。

 

「獅子咆哮弾は不幸になればなるほど威力が上がる。私はそう言ったよね?」

「ああ、だから、不幸体質の俺にはピッタリの技なんだろう?」

「修業ができると思ったら、いきなりこんなに奢らされるなんて、不幸以外のなにものでもないんだよ、とうま」

 

 ピシィっと石化したように固まる上条。対してインデックスは清々しい笑顔で、「ゴチになります、なんだよ〜」と言った。

 その後、次々と運ばれてくる料理をインデックスは軽々と平らげていく。

 その食事スピードたるや、疾きこと風の如く。

 マナーを守って食器の音を立てない様は、静かなること林の如く。

 遠慮なく追加注文を重ねる様は、上条の財布の中身を侵略すること火の如く。

 いつまでたってもテーブルから立とうとしない堂々たる食べっぷりは、動かざること山の如しであった。

 

「インデックス……これ、本当に修業か? お前、飯を食いたいだけなんじゃないのか?」

 

 掠れた声で訊ねる上条。彼が注文したオレンジジュースは、とっくの昔に飲み干してしまっていた。

 

「やだなあ、私はとうまの修業の為に、心を鬼にして、とうまを不幸にしてあげてるんだよ。感謝するべきかも」

 

 そう言いながらも、インデックスの食べるスピードは落ちない。

 腹を空かせた体育会系の男子高校生でも、彼女とフードファイトすれば一瞬で白旗を上げるだろう。

 たっぷりきっかり上条の財布の中身が尽きたところで、インデックスは「ご馳走さまなんだよ」と言った。

 会計を済ませた上条は、ほぼ空っぽの財布を逆さに振って、哀しげな目でインデックスを見遣る。

 

「……満足したか? インデックス」

 

 上条の周囲にズズーン、と重い気が充満する。

 

「それ! その気だよ!」インデックスは上条を指差した。

「それ? どれだよ」

「とうま、獅子咆哮弾に必要なのは、今とうまが周囲に纏わせている重い不幸の気なんだよ。今なら最強の獅子咆哮弾が撃てるよ。さあ、そうとなれば善は急げ、何処かひらけた場所に連れてってほしいんだよ」

「……公園で良いか?」

 

 やっと修業ができる。上条は気が重くなりながらも、店を出て最寄りの公園へとむかった。

 

 

 

 

 公園までの短い道中でも、何故か上条に向かって突っ込んでくる車を回避したり、ピンポイントで狙ったかの様に落ちてくるカラスのフンを回避したりと、不幸は上条を休ませてはくれなかった。

 公園に着いても、芝生の維持管理の為に設置されたスプリンクラーが上条に向かって水を放射してくる。紙一重で避けたが、危うく女の子に変身してしまうところであった。

 

「さあ、気を取り直して修業だ修業!」息を巻く上条。

「気を取り直しちゃダメなんだよ。折角不幸パワーが補充されたんだから、重くなった気を無駄にしない方がいいかも」

 

 インデックスにそう言われた上条は、気を取り直すのも駄目なのかと、さらに気が重くなる。

 公園の広場には、サッカーやらキャッチボールやらをして遊んでいる子供たちが大勢いたので、まずは人払いをしようと、インデックスは懐から花札を取り出した。

 

「なんで花札?」上条は小首を傾げる。

「まあ見てて」

 

 インデックスは花札を地面に並べた。

 

「任◯堂花札人払いの術〜」

 

 間の抜けた様なインデックスの言葉と共に、花札がピカーッと光る。

 数秒間続いたその光がおさまると、広場で遊んでいた子供たちに変化が訪れた。

 

「あ〜、なんかゲームやりたくなってきた。帰ってマリ◯ブラザーズやろうぜ」

「この人数でやってもつまんないよ。マリパやろうマリパ!」

「え〜、猪彦くん、マリパ上手すぎんだもん。いっつも一人勝ちじゃん」

「鹿雄くんだって、結構上手いっしょ〜」

「蝶太郎くん最新のマリパ持ってたよね? 蝶太郎くんち行こうぜ」

 

 あはははは、と笑い声をあげながら、子供たちは家へと急いで帰っていった。

 なんだアレは、と上条は驚愕の視線をインデックスに向けた。

 

「これは、外で元気に遊んでいる子供たちが急にゲームをやりたくなって家に帰ってしまうという人払い魔術なんだよ」

「魔術っていえばなんでも解決すると思ってないか? 魔術っていうより、忍術っぽかったぞ」

 

 人払いの術とか言ってたし、と訝しげな目をする上条。

 

「忍術は日本古来の伝統魔術と言われているんだよ」

「なんだそりゃ、忍術が魔術だってんなら、NARUTOのキャラクターは魔術師の集団って事になるぞ」

 

 言い得て妙である。それにしても、上条はかめはめ波だのNARUTOだの、どうやらジャンプっ子のようだ。サンデーも読むべきである。

 

「さて、人払いも済んだことだし、獅子咆哮弾の修業をするよ」軽い感じでインデックスは言った。

「よし! どんな辛い修業でも耐えてみせるぜ」

「と言っても、もう既に修業は八割方終わってるんだよ」

「へ?」

 

 上条は拍子抜けした。八割方終わってるなどと言われても、自分が此処までにやったことはインデックスにご飯を奢った事と、いつも通りの不幸に見舞われた事くらいである。

 

「嫌な事、不幸な事があると、人は『気が重く』なるよね? あとはその不幸な気を、ん〜っ、と溜めてパッと撃つだけなんだよ」

「なんだよ、それ? まあ、そう言うなら一応やってみるけどさ」

 

 上条はとりあえず、左側を前にして半身で構え、足を広げて腰を落とした。そして右腰の後ろあたりで、見えないボールを包み込むかのような形で両掌を合わせた。

 まあ、有り体に言えば、かめはめ波の構えである。

 

「待って待って、とうまの右手は幻想殺しでしょ? その構えじゃあ獅子咆哮弾は一生撃てないよ」

「ん? それもそうか」

 

 上条少年が小学生の頃に必死で取り組んだかめはめ波の練習は、まさに無駄な努力だったようだ。

 

「じゃあ、どう構えりゃ良いんだ?」

「そうだね、私の場合は両手で放つから、かめはめ波みたいな構えでも良いんだけど、とうまの場合は左手の掌を広げて前方に突き出すようにしてみたらどうかな?」

「なるほど、ビッグバンアタックみたいな感じだな」

 

 素直に構え直した上条は、ん〜っ、と呻りながら目をつぶって、不幸エピソードを思い出す。

 

「インデックスめ、肉じゃが食ったくせに、その後もあんなに飲み食いしやがって、おかげで財布はすっかんぴんだ。公園に来る途中の車も挙動がおかしかったぞ。なんだよアレ、逆当たり屋か。カラスもスプリンクラーも、まるで俺を狙ったかのようにスナイプしてくるし……」

 

 ぶつぶつと呟きながら、陰気な不幸パワーを充填していく上条。

 上条の左手の前には、彼の身長ほどの直径がある丸い気弾が現れていた。

 しかし、目をつぶってしまっている上条は全く気付かずに、さらに気弾を膨れ上がらせていく。

 

 気弾の放つ圧力は、明らかに周囲の大気を揺らしている。インデックスは顔を強張らせて、冷や汗をダラダラ流しながら、「やばいかも……」と呟いた。

 

 

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