魔法科高校の半端者   作:エアリエル

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入学編 Ⅱ

 生徒会長である真由美と話し込んでいたこともあり、二人が講堂へ入った時には既に席の半数以上が埋まっていた。

 座席の指定が無い以上、どこに座るか等は個人の自由だったが、席に座っている新入生の規則性のある座り方に遼は苦笑いを浮かべる。

 

「これはまた、あからさまだなぁ」

 

 前半分の席には一科生。後ろ半分の席には二科生といった感じで、新入生は綺麗にわかれていた。強制されたわけでも無いのにここまで綺麗にわかれていると、呆れを通り越し感心してしまいそうだ。

 本来なら共に深雪の答辞を見ようと思っていたが、それはどうやら難しいようだった。

 

「それじゃ、また後で」

「ああ」

 

 こうなった以上は周囲の流れに逆らうわけにもいかず、遼は達也と別れると前半分の席へと向かっていく。あまり前には行きたくなかったが、遼は仕方ないと前半分の空いてる席へと座った。

 

(さて、どうやって時間を潰すか)

 

 式典が始まるまで読書でもしようかと考えたが、それはマナーとしてどうかと思い止める。かといって他にやることも無く、目を閉じ仮眠でもとろうとしたが、遼が目を閉じることは無かった。

 

「すいません、お隣空いてますか?」

 

 閉じかけていた目を開け、声の主の方へと振り向くとそこには二人の女子生徒が立っていた。

 

「どうぞ」

 

 特に断る理由も権利もない遼は、二人に対してそう言い、二人は遼の隣へと腰を下ろす。

 一旦は仮眠を阻まれた遼だったがどうにも眠る気が起きなかった。仕方なく、そのまま式典が始まるのを待っていると、再び隣に座った女子生徒から声をかけられる。

 

「あの……」

「ん? どうかした?」

「私、光井ほのかっていいます」

「私は北山雫」

 

 突然、二人から自己紹介を受けた遼はポカーンと呆けた表情を浮かべたが、せっかく隣の席に座ったのだ。これから同じ学校で生活していくなら知り合いは多い方が良いと二人は思ったのだろう。

 暇を持て余していた遼はちょうど良いと思い、二人との会話で時間を潰すことにした。

 

「俺は、矢重坂遼。二人ってもしかして同じ中学?」

「はい、雫とは小学校からずっと同じで幼馴染なんです!」

「幼馴染かぁ。じゃあ、北山さんと光井さんが同じクラスだと良いね」

「うん。ほのかを一人にするのは心配」

「雫っ?!」

 

 目の前で仲が良いことを伺わせる二人のやり取りに遼は微笑む。その後も、遼は二人と雑談をしながら式典までの時間を潰していった。

 そうやって時間を潰していくと、式典が始まる時間まではすぐというもの。式典が始まり、講堂には静寂が訪れる。

 やっと入学式が始まり、筒がなくプログラムが進められていく中、とうとう新入生答辞の番となった。

 多くの新入生に見守られながら壇上へと上がる達也の妹である深雪。彼女の美しさも相まって、その一挙一動は人々を魅了し、視線を釘付けにしていく。

 

(また綺麗になったんじゃないか?)

 

 深雪を見るのは数ヶ月ぶりだったが、以前よりもその美しさは洗練されているように感じる。

 少女の成長は少年が思っているよりもずっと早い。

 これから益々美しくなるだろうな、と遼が考えながら深雪の答辞が始まった。

 

 

 *

 

 

 深雪の答辞は想像していた以上に素晴らしいものだった。

 だが、その答辞の中に「皆等しく」、「一丸となって」、「魔法以外にも」、「総合的に」等の結構際どいフレーズが使われていることには驚いたが、それは敬愛する達也を思ってのものだというのは容易く理解できる。それらのフレーズを上手く建前でくるみながら違和感を感じさせない辺りは流石と言うべきか。

 入学式を終えて、達也と深雪に声をかけに行こうと考えたが、それよりも前にIDカードを受け取りに遼は、ほのかと雫と一緒に行動していた。

 

「三人同じクラスだと良いですね」

「そうだね。俺もほのかと雫と同じクラスだと心強いよ」

「私も同じクラスだと心強い」

 

 先程と比べ砕けた様子の三人。

 以外と話している内に仲が良くなり、遼はほのかと雫と互いに名前で呼び合うことになっていた。だが、仲良くなったからといって三人が同じクラスになるという可能性は余り高くはない。同じ一科生ではあるから可能性あるが、A~Dクラスのどれになるかは完全にランダムだ。

 同じになるかは分からないができれば同じだと心強いと思いながら遼はIDカードの交付を受け、クラスを確認する。

 

「俺のクラスは……Aみたいだな。お二人さんは?」

「私もAみたいです!」

「私もA」

 

 どうやら可能性の低い奇跡を引き当てたらしい。喜ぶほのかとここまで無表情だった雫の笑みに、自然と遼も笑みを浮かべた。

 

「じゃあ、改めて……これからよろしく、お二人さん」

 

 

 *

 

 

 IDカードの交付を終えた後、遼はほのかと雫と別れ達也と深雪を探していた。

 二人にホームルームに行かないかと誘われたが、この後予定があると断り、新入生で溢れる人混みの中を進んでいく。

 遼としてはどちから一方を見つければ後は勝手に二人と合流できると考えていた。それは、達也が深雪を置いて帰るはずが無く、深雪も達也を置いて帰る訳が無いからだ。

 

(結構ホームルームに移動する生徒が多いから見つかるか)

 

 その読み通り、目的の相手は以外と早く見つかった。それも、二人が一緒にいるところを見つけることができたのは幸いだった……が、少々面倒な時に見つけてしまったようだ。

 

(達也のやつ、一科の先輩に物凄く睨まれてんだけど)

 

 恐らく、深雪に用があっただろう生徒会長である真由美の傍にいた男子生徒は去り際に達也の事を睨んでいた。

 真由美の傍にいた時点であの男子生徒が生徒会の関係者だろうというのは容易に想像がつく。だが、彼の新入生に対するその態度はどうなの? と遼は思ったが、ここは一旦置いておくことにする。

 

「何やってんだか」

 

 どうも、自分の友人は入学初日からトラブルに巻き込まれるのがお好きらしい。そう考えながら、遼は達也達の下へと向かっていく。

 

「初日からとんだ災難だったな」

「見てたのか?」

「一部始終をこの目でしっかりとな」

「まったく、お前は抜け目無いな」

 

 やや疲れたように達也はそう言うが、その声音に非難の色は無い。それは、互いの立場を理解しているからであり、それ以前にあの状況で遼に出せる助け船は無いからだ。

 突然現れた遼に、達也の近くにいた二人の女子生徒は怪訝そうな表情を浮かべるが、深雪は対照的に笑みを浮かべていた。

 

「お久し振りです、遼さん!」

「久し振りってほどでも無いけど……久し振り深雪。新入生総代本当に立派だったよ」

「いえ、そんな……ありがとうございます……」

 

 遼からの賛辞に照れるように深雪は笑みを浮かべた。その笑みは、ここまで淑女として振る舞っていたものとは違い、それは年相応の少女を思わせるものだ。

 そんな深雪と遼のやり取りに怪訝そうな表情を浮かべていた茶髪の女子生徒が不思議に思ったのか達也に声をかけた。

 

「ねえ、司波くん。あの人って何者?」

「あいつは、俺と深雪の古い友人だよ」

「そうなんだ……ちょっ、司波くん声が大きいって!」

 

 小さい声で達也に聞いたエリカだったが、答えた達也の声は遼に聞こえる大きさだった為、二人の会話を聞いた遼が会話に混ざるのは自然な流れだ。

 

「俺は達也の説明にあった二人の古い友人、矢重坂遼。よろしくお二人さん」

 

 笑みを浮かべながら自己紹介をする遼に、エリカは勝手に遼の事を達也に聞いた手前バツを悪そうにしていた。

 

「あたしは千葉エリカ。まっ、よろしくね矢重坂くん」

「私、柴田美月っていいます。こちらこそよろしくお願いします」

 

 先程とまでは怪訝そうな表情を浮かべていた二人だったが、達也の説明と深雪の反応があり、遼の印象は悪くは無いようだ。

 正直なところ、一科生ということもあり、遼はエリカと美月にあまり良い印象を持たれないのでは無いかと考えていた。だが、達也たちの友人ということもあり、どうやらその考えは杞憂に終わったようだ。

 

「今から皆さんでお茶をしに行くのですが、遼さんも御一緒しませんか?」

「他の皆が構わないなら御一緒させてもらおうかな」

 

 そう言って遼は、エリカと美月の方へ視線を向ける。

 

「別にあたしは構わないわよ。それに、矢重坂くんは一科生だからって二科生を見下してないし」

「私も大丈夫です」

 

 二人の好意的なその言葉に遼は笑みを浮かべた。

 

「それじゃ、御一緒させてもらうよ」

「では、行きましょうか」

 

 深雪の言葉を合図に五人はエリカの案内の元、彼女がチェックしたケーキ屋へと向った。

 

 

 *

 

 

 すっかり日が暮れた頃。遼は自宅のあるマンションへと帰ってきていた。独り暮らしをしていることもあり、部屋には遼以外に誰もいない。

 思っていたよりも、女子三人組の会話が盛り上がり、自宅に帰るのが遅くなったが遼の表情には僅かに疲れが見えるものの、そこには充足感があった。

 一息つけるために遼はコーヒーを用意し、ソファーへと腰を腰をかける。

 

「エレメンツにナンバーズ……それも、十師族か」

 

 既に出会った者、これから出会うであろう者達。有力な者達の名前と顔は既に把握していたが、それでも実際にあってみるとまた違った印象を受ける。これからの学校生活に胸を膨らませる以上に、遼には考えていた事があった。

 それは、達也と深雪の二人が平穏に学校生活を送ることができるだろうか? ということだ。

 第一高校には思っている以上に曲者が多い。自分もその曲者の中に入るだろうが、遼はその事は棚上げにしながら考えた。

 

「無理だな」

 

 この先、何かが起きたとしてあの二人ならその渦中に必ずいるだろう。せいぜい、自分はそれを特等席で見学するくらいだ。それが、自分に課せられた役割……ではあったが、遼としては二人と共に穏やで平穏な学校生活を送りたいとも考えていた。

 

「まっ、結局のところ巻き込まれたら仕方ないよな?」

 

 その言葉はどこか自分に言い聞かせるようなもの。目立ちたくは無いが、それでも巻き込まれたのなら仕方がない。

 これから起きるであろう出来事にできることならあの二人が巻き込まれ過ぎない事を遼は願うのだった。

 

 


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