校門でのトラブルが起きた翌日の放課後。
達也と深雪に同行して生徒会室へ向かっていた遼が呆れたように溜め息をついた。
「はぁ……なんで達也が風紀委員になることになってんだよ」
「俺に聞くな」
達也は自分には関係無いと言わんばかりに答えたが、今回ばかりはそうも言えない。
どうも、昼休みに達也と深雪は生徒会室で昼食を取ったらしいのだが、深雪の生徒会入りの話から達也の風紀委員入りに話が発展したらしい。
遼も深雪から生徒会室で昼食を食べないかと誘われたが、昨日の件もある。
これ以上、悪目立ちしたくなかった遼は断ったが、放課後に遼を連れてくるよう深雪が真由美に言われていた為、渋々二人に同行していた。
「それで、何でまた俺も呼ばれたんだ?」
「何か七草家の機嫌でも損ねるような事をしたんじゃないか?」
「いや、その例え全然笑えないから。七草に目をつけられるとか報告案件なんですけど」
監視する立場が監視されては意味がない。
遼にとって、それは最優先で解決しなければならない案件だ。
「冗談だ。恐らく、昼の話から見て七草に目をつけられた、というよりは生徒会長に目をつけられたと言うべきだな」
「いや、どのみち最悪なんですけど」
「そう気を落とさないで下さい遼さん。きっと何か理由があっての事なんですから」
「そうだと良いんだけど」
きっとそうであって欲しいと、遼が僅かに希望を抱く中、目的である生徒会室へはすぐに着いた。
「登録済みなんだな」
「……」
遼の言葉を無視して達也は自身のIDカードで認証し、ロックを解除をすると三人は中へと入る。
だが、遼が足を踏み入れた際に感じたのは達也への明確な敵意。どうやら、推薦されたとはいっても全員から歓迎されているわけでも無いようだ。
「来たみたいだな」
「いらっしゃい、深雪さん、達也くん。それに、遼くんも良く来てくれたわね」
気軽に手を挙げている摩利に、知らぬ間に名前呼びになっている真由美のことはこの際置いておき、遼は真由美たちへ一礼した。
「早速だけど、あーちゃん、お願いね」
「……ハイ」
小動物、のように感じられる女子生徒に促され深雪は壁際の端末へ誘導される。
「それじゃあ、あたしらも移動するとしようか」
昨日の剣幕はどこに行ったのかと言わんばかりの摩利の変わりように一体何があったのかと遼が困惑するなか、先程から達也へ敵意を向けていた男子生徒が声を上げた。
「私は……司波達也の風紀委員就任には反対です」
「反対か……それは何でだ服部刑部少丞範蔵副会長」
「フルネームで呼ばないで下さい! いや、そんな事よりも私は二科生を風紀委員に任命する事には賛成できません」
「それは、彼の能力では風紀委員は務まらないということか?」
「はい。実力に劣る二科生では風紀委員として職務を全うするなど不可能です」
服部と呼ばれた生徒はどうしても達也が風紀委員になることが気に入らないのか、次々とその理由を並べていく。
だが、その理由は最もなものでもある……が、達也の実力を知る遼からすればただの難癖にしか聞こえなかった。
「確かに実力という面で見ればそう考えるのも無理は無いが、実力にも色々ある。だが、達也くんには展開中の起動式を読み取り、発動する魔法を予測する目と頭脳がある……これについては昼休みに実演してもらったからな」
摩利のその説明を聞き、遼が達也へと視線を向ければ達也は深雪へと視線を向ける。
(深雪が言ったのか……)
深雪としては兄である達也の能力を認めてもらうために言ったのだろうが、それを聞いて風紀委員長である摩利が放って置くわけがない。
深雪の気持ちも分からないでは無いが、自己評価の低い達也からすれば風紀委員入りは望むものではないだろう。
だが、それでも服部は食い下がる。
「……私はそれでも司波達也の風紀委員就任に反対です。どうかご再考下さい、会長」
どうしても達也が風紀委員になることを阻む服部。
そんな状況に深雪が苛立ちを募らせる中、遼はその怒りが爆発する前に手を打つことした。
「だったら、模擬戦をしたら良いんじゃないですか? 服部副会長」
風紀委員という職務に必要とされる実力ならこれ以上に適切なものは無い。
この提案に、困惑する者、笑みを浮かべる者、敵対心を燃やす者、勝利を信じて疑わない者……溜め息を溢す者。
この場にいた面々が様々な反応を見せるなか、溜め息を溢したのが達也だったのは言うまでなかった。
*
「それで、俺に何の用ですか? 七草生徒会長」
達也と服部の模擬戦が行われる事となった後。遼はその模擬戦を見届ける事はせず、生徒会室に残っていた。
初めから分かりきっている勝負を見るつもりは遼にはない。その為、見学を断って帰ろうとしたのだがそれは遼をこの場に呼んだ真由美によって阻まれた。
「そう、警戒しなくても良いんじゃないかしら? こんな美少女と二人っきりになったら普通は喜ぶものよ?」
「会長が普通の立場なら俺も喜びますよ。ですが、特に相手が七草なら尚更です」
「そう、それは残念ね……じゃあ、本題に移ろうかしら」
さっきまでの小悪魔的な笑みが真由美から消える。そこにあるのは、七草……十師族に名を連ねる者として風格。
それに伴って部屋の空気も少しばかり張り詰めたものとなる。
「九島家との繋がりがあるのは本当なの?」
「俺が九島家と繋がっている? まさか、そんな事があるわけ無いじゃないですか。俺はただの一般人ですよ? そんな機会ありませんよ」
「それは、これを見ても言えるのかしら?」
そう言って真由美から渡される写真。
それは、いつの日かに社交界のパーティーで取られた写真だ。そこには、ドレスを身に纏った真由美が写っており、普通ならその美しい姿に目を奪われるだろう。
その後ろに、九島烈と遼の姿が写っていなければ。
「人違い……で、済むわけ無いか」
写真だけならいくらでも言い訳ができる。
だが、この写真を見せた上で遼がどう反応するのかを真由美が見定めているなら、下手な言い訳は自分の首を締めてしまう。
それなら、自分からある程度の情報を提示するのが得策だった。
「会長の言う通り、俺には確かに九島家との繋がりがありますが、それは会長……七草家が警戒するようものでは無いですよ」
「じゃあ、ここに入学した事に深い理由は無いのね?」
「はい。俺は九島閣下に『次の世代を担う魔法師としてしっかりと学んで来るように』と言われてここに入学したんですから」
その言葉に嘘は無いが真実を全て話した訳でもない。
だが、今ここで必要なのは七草にとって不利益があるかないか、それだけだ。
遼の言葉に少し納得したのか、張り詰めていた空気が霧散した。
「そう……じゃあ、この話はここまでにしましょうか」
「良いんですか? 他にも聞きたい事があるなら答えますけど」
「じゃあ、このパーティーに参加していた理由は答えてくれる?」
「それは、九島閣下の護衛ですよ。俺の魔法や、能力はそういった事に向いてるんで」
「それなら、声をかけてくれても良いんじゃない?」
そう言って真由美は上目遣いで遼を見つめる。
無論、当時の遼に真由美との面識は無いためそれは不可能だが、真由美もそれは分かっていて言っていた。つまり、遼は真由美にからかわれているわけだ。
だが、からかわれてばかりでは遼も面白くない。
普通なら照れて視線を反らすところを、遼は反らさずじっと見つめ返していた。
互いに見つめ合う中、先に視線を反らしたのは真由美だ。
「見つめ返すのは反則じゃない?」
「だったらしないで下さいよ」
そう言って、遼は真由美に帰る旨を告げると生徒会室の出口に向かっていく。
「あっ、まだ話は終わってないんだけど」
「今度は何ですか?」
また面倒事かと思いながら遼は振り向く。
そんな遼に真由美は小悪魔的な笑み……この場では悪魔と言った方が正しいか。
「生徒会に入らない?」
「……はい?」
真由美のその言葉を理解するのに遼は少しばかり時間を労すのだった。