魔法大学付属第一高校には数多くの部活動が存在する。
その上、活動にかなり熱を入れている部活動も多いため、新入生への勧誘に必死になるのは無理もないことだ。
例年通り、この新入生勧誘期間に各部間でトラブルが起きる事が予想され、風紀委員……その助っ人として数人の生徒会役員が取り締まりに参加している。
その助っ人として派遣された生徒会役員である遼は、風紀委員である達也と共に巡回していた。
「聞いてた通りの騒ぎようだな」
「同感だ」
目の前の光景に思わず愚痴を溢す二人。
二人の前では今まさに熱烈な新入生への歓迎が行われていた……が、それは二人の予想を遥かに越えていた。
いくら「バカ騒ぎ」と言っても所詮は高校の部活動への勧誘だ。多少、騒ぎが起きても滅多に取り締まることはない、と考えていたが、二人はその考えを改める。
これなら、取り締まりが必要になるのも仕方がないだろう。
「通りで生徒会が助っ人になるわけだ」
十人を越える人垣の中に埋もれている新入生の姿。その光景に、遼は思わず苦笑いを浮かべる。
「それで、何でお前が生徒会に入ることになったんだ?」
生徒会からの助っ人として当然のように巡回に参加する遼に達也がその理由を問い掛ける。
結局のところ、遼は真由美からの誘いを受けて生徒会に入っていた。
「ちょっと七草に目をつけられた」
「まさか、本当だったのか?」
「何か、会長が出席してたパーティーに俺も閣下の護衛で参加しててさ。写真に写ってたんだよ」
「それは災難だったな。それで、俺たちについては何か聞かれたか?」
七草……十師族の情報網は油断ならない。
いくら、情報が秘匿されている為、気付かれないと言っても達也は警戒してしまう。
だが、達也の警戒するような視線に、遼は首を横に振った。
「聞かれてないよ。どうも、俺と九島との関係に目がいったみたいだな。だから、俺を生徒会に入れて、目の届くところで見張っておきたいんじゃないか?」
監視されるというのはあまり気が進まないが、生徒会であるメリットが無いわけでもなかった。特に、CADの所持を認められるのは魅力的だ。
「そういうことか。お前も大変だな」
「その言葉、達也にだけは言われたくない」
ある意味、達也が一番面倒事に巻き込まれているのだが、本人にその自覚はあまり無いようだ。
「それで、達也はこの後どうするんだ?」
「一応、エリカと見て回る約束をしてるが遼も一緒に来るか?」
「エリカね……じゃあ、俺は別で見て回るわ。二人の邪魔しちゃ悪いし」
「邪魔ってどういうーー」
達也の言葉を最後まで聞くこと無く、遼は達也に背を向けながら手を振り、他の場所の巡回へと向かった。
*
「なんでこうなったんだ……」
加速魔法を使用しながら疾走する遼は思わずそう呟く。
そんな、遼の前をスノーボードを使って疾走するのはバイアスロン部のOGと、何故か拉致されているほのかと雫。かなり強引に連れてこられたのかほのかの目は涙目であり、さっきから遼に助けを求めていた。
あまり人が少ないところの方がトラブルが無いと踏んだのだが、どうやら宛が外れたようだ。
「遼さん助けて下さいっ?!」
そう言って叫ぶほのかの姿に、仕方ないと遼は更に速度を上げるが、それでも中々距離が縮まらない。
そこはOGの技量の高さに流石と言うべきか。これでは埒があかなかった。
(仕方ない、少し強引に行くか)
だが、それで黙っている遼ではない。
遼は一端、CADの操作を止めるとその場に立ち止まる。一見、諦めたように見える遼の姿にほのかの表情が絶望に染まっていく。
「よしっ! 諦めたみたいだな」
後ろを振り返り、遼が立ち止まったのを確認しながらOG達は少し速度を下げる。追ってくるものがいなくなった以上は限界まで速度を上げる必要が無いからだ。
だが、それはこの場では失策と言う他無い。
「誰が諦めたって?」
「なっ?!」
稲妻が空を切るような音と共に、突然隣から聞こえた遼の声にOGが反応するが、それよりも早く遼がほのかを抱え、続けて雫も救出する。
時間にして僅か数秒。
その間に助け出した遼は二人を地面に降ろし、OGへと体を向けるとCADを構えた。
「生徒会なんで本来なら取り締まるんですけど、OGの方々を捕まえてもどうしようもないのでここは手を出しません。が、また今回みたいに強引に勧誘するなら見逃しませんから」
そう言っていつでも魔法を使えるよう身構えるとOG達は脱兎の如く逃げていった。
「二人とも怪我はない?」
「私は大丈夫」
「私も大丈夫です! 助けてくれてありがとうございました!」
「いや、そこまで感謝しなくて大丈夫だから。これも、一応は仕事だし」
ぐいぐいと、距離を詰めて感謝の言葉を口にするほのかに遼は後退りながら、仕事であることを強調する。
それは、助けた事に深い意味は無いことを示していたのだが、遼のその言葉にほのかは目を輝かせると更にヒートアップしていく。
「遼さんって生徒会に入ってたんですね!」「い、一応ね」
「生徒会に勧誘されるなんて……本当に凄いです!」
尊敬の眼差しで見つめてくるほのかに遼は苦笑いを浮かべる。
勧誘された理由が真っ当なものでは無いため、遼は何とも返し難かった。
「それで、遼さんはこの後って何か予定はありますか?」
「いや、巡回するくらいだけど」
「それじゃあ、私と一緒に見て回りませんか! 巡回しながらでも良いので、是非!」
やや暴走気味なほのかに、遼が傍にいた雫へと助けを求めて視線を向ける。
「私はバイアスロンに興味が出たから見学してく」
「さいですか」
さっきのあれで興味が出るとは、雫は思っていたよりもタフらしい。
ともあれ、雫の援護射撃もあってほのかの誘いを遼は断ることができなくなるのだった。
*
「りょ、遼さんは剣道の経験があるんですか?」
ほのかと部活動の見学を一緒に回ることとなった遼たちは、剣道部と剣道部の見学に向かう事にしたのだが、その提案にほのかが上擦った声で疑問を口にした。
「いや、無いよ。ただ、少し興味があってね」
さっきよりは落ち着いた様子のほのかに安堵しながら、遼は答える。
だが、遼は気付いていなかった。
ほのかは落ち着いたのではなく、遼と二人きりという状況に緊張しているだけだということに。決して落ち着いたわけではなかった。
「そ、そうなんですね。私、てっきり遼さんはそういう経験があるんじゃないかって思ってました」
「そう見える?」
「はい! さっきだって凄い身のこなしだったんですよ?」
さっきの救出劇がどれだけ凄かったのかを熱弁するほのか。
そんなほのかの様子に対し、遼は対照的に頭が冷えていくのを感じていた。
(素人目でもやっぱりバレるのか)
あまり目立ちたくは無いと思っていたが、やはり、積み上げてきた研鑽を隠すことは難しい。
極力、目立たず円滑に行動する為にもあまり自分から動かない方が良いなと遼は考えていたが、既に生徒会に入っている時点でその考えは無駄だった。
雑談を交えながら剣道部と剣術部の演武が行われる第二小体育館、通称「闘技場」へと二人は向かっていたが、何やら体育館の入り口から慌てて数人の生徒が走って来るのが見えた。
「まさか……ごめん、ほのか。先に行く」
「遼さんっ?!」
ほのかには申し訳なかったが、遼は加速魔法を使うと一気に闘技場へと向かう。
何かから逃げるように走る生徒の姿に、まさかトラブルが、と思った遼が目にしたのは剣術部員と大立ち回りをしている達也の姿だ。既に何人かは無力化したのか、数人の部員が地面に転がっている。
(今度は何をやったんだ?)
達也一人でも問題は無いだろうが、見てしまった以上は無視できない。
遼は闘技場に飛び込むと、達也に飛び掛かろうとしていた部員の首筋に手を当てる。すると、バチッ、という音と共にその部員は糸が切れた人形のように地面に倒れ込んだ。
「達也って、ほんとトラブルメーカーだな」
「遼か。悪いが手伝ってくれるか?」
「もちろん。さっさと片付けますか」
「何だお前! 関係ないやつは引っ込んでろ!」
突然現れた遼は剣術部員たちからすれば部外者。遼が生徒会であることを彼等が知るはずもなく、部員たちは次々と二人へと襲い掛かる。
だが、所詮は学生のレベル。二人の相手になるはずもなく、二人は襲い掛かる上級生を次々に無力化していく。
「このっ!」
体術が無理と分かったのか、離れた場所にいた部員が魔法を使おうとするが、それが叶うことはない。
「魔法の不正使用は禁止って習ってないんですか?」
「お前、いつの間にーー」
突然、真横に現れた遼は部員の首筋に触れる。その行動に部員は抵抗しようとするが、抵抗するまもなくその部員の意識は暗転していく。
その後も二人は、諦めの悪い剣術部員を無力化していった。