BanG Dream!〜夢を打ち抜く彼女達の日常〜 作:凛句りんく
――千聖から言われていた『TVの私のイメージを崩さないようにお願いね』という忠告を完全に忘れていた。
「えーと、千聖ちゃんはね、他人にも自分にも厳しくて、周りから怖がれたりされやすいんだけど、実はとても仲間想いの強い子なんだ」
「えぇ、そう……え? 花音?? 」
「この前も、日菜ちゃんが気づかずに目上に人に無礼を働いていたことを、文句いいながらも謝罪しに行ったし、麻弥ちゃんが美容に関心を持つにはどうしたらいいかも一緒に考えたの」
「あの、花音?? 何言って――」
「イヴちゃんの好きな時代劇の俳優さんと仲良くしてサインもらおうとしたり、ダンスの振り付けがみんなとは遅れてしまった彩ちゃんのために、特訓メニューを仕事の合間を縫って作ったり。本当はね、Pastel*Palettesのみんなとも、もっとカフェとかで話したいんだよ。けど、なかなか誘えないの 」
「か、花音!! それは内緒って!!! ……違うわよ。そんな話した覚えないかしら」
「まだまだいっぱい良い所はあるんだよ! この前――」
「以上で『千聖の部屋』を終わります!!! ありがとうございました!!!!」
ここで千聖からの中継は切れた。パスパレのメンバーは、最後に千聖の怒鳴り声が聞こえたような気がした。
「いま、るんってきちゃった!! 千聖ちゃんに今度お礼しとかなきゃ。それにしても、誰に無礼なんてしたんだろう」
「ジブンも、もっと肌とか髪とか気にします。千聖さんのためにも」
「この前もらったサインの謎が解けました!! 私も千聖さんに、もう一度ハグしてお礼をします!!」
「私がスタッフさんから貰った『丸山彩特別強化メニュー』は千聖さんが作ってくれてたんだ……。うぅ、ありがとう、千聖ちゃん……!!」
コメントでも様々な意見が流れる。
「これほんと?」「親友だ言うんだから本当だろ」「まさかのツンデレ属性」「おれ今日から千聖推し」「おれは前から推しだけど」「怖い印象なくなったわw」「花音ちゃんナイスw」
しばらくして千聖はスタジオに戻ってきた。耳が赤いままで。
「ただいま、みんな。最後の方は忘れて、いいわね?」
善意とはいえ失態をした花音を叱り終えてスタジオに戻ってみると、なんだか良い雰囲気だから失敗ではなかったようね……。すごく不本意だけど。花音は『ふぇぇ、ごめんなさい!! 許して千聖ちゃ~ん!!』なんて言ってたけど、あのカフェの期間限定スペシャルパフェを奢ってくれないと許してあげないんだから。
「(千聖さんの笑みが怖い……)さ、さあ、次のコーナーは『日本の果てまで言ってP』です!! 彩ちゃん、よろしくお願いします!!」
「はーい! このコーナーでは私、丸山彩が、日本の47都道府県を巡って、全国踏破を成し遂げていくものになってます。さっそく、福お……私はどこへ行ったでしょう?? VTRどうぞー!」
このコーナーは彩ちゃんが説明してくれた通りに、彼女が様々な地に行って観光したり歌ったり宣伝したりするものだ。スタッフが選んだ場所ではなく、彼女自身が選んだところを歩くらしい。最高だわ。家では録画済みだし、何回も見直そうっと。それはそうと、行き先地をバラそうとしたことは可愛いけど後で説教ね。
すると、モニター画面が先日に彩が収録したVTRに切り替わった。
「みなさーん、こんちにわー! まんまるお山に彩りを! 丸山彩でーす!! 今日はなんと、福岡県へとやって来ましたー!! ぱちぱちー。天気も晴れて嬉しいです。それではさっそく、探検していきまーす!」
さっそく、彩ちゃんが街を歩きながらコメントをしていく。有名な老舗や観光スポットなど巡っていって可愛いんだけど……ちょっと心配だわ。
「まずは……あった!! 博多と言えば『博多とんこつラーメン』ですよね!!」
そうね、福岡県のラーメンは有名だもの。目がキラキラして可愛いし、たまには高カロリーもいいでしょう。たまには、ね。
「さっそく入っていきますねー、ごめんくださーい」
「へい! いらっしゃい!! なんにしますかい??」
「じゃあ~『大盛り濃厚とんこつチャーシュー大盛りラーメン』をください!!」
大盛りが二回も入ってる。なんてカロリーお化けなメニューなのかしら……。
「嬢ちゃん、可愛い顔して実は大食いってか? いいねえ、そういうの好きだぜ。麺の硬さはどうすんだい??」
「いろんな種類があるんですか??」
「柔らかいのから順に『ばりやわ』『やわ』『ふつう』『かた』『ばりかた』『はりがね』『粉おとし』が、うちでは基本って感じだ。せっかくなら硬いのを選んでほしいが……初めてなら、ばりかたがオススメだ」
「ええ~!? そんなにあるんですか! なら、ばりかたでお願いします!」
私も種類の多さに驚きだ。話には聞いていたけど、まさか本当だとは。しかも基本ってことは店によってはまだ上があるの……?
ここまでくると限界がどこまで硬いのか気になるわね。
「へいお待ち!大盛り濃厚とんこつチャーシュー大盛りラーメンのばりかただ。」
「は、はやいっ。そっか、茹でる時間が短いもんね。それにしても美味しそ~う! チャーシューがたくさんで溢れそうです! もう見るだけで幸せ……。いっただきまーす!」
聞いた話によると、普通のラーメンの麺は茹でる時間が50秒~70秒に対し、ばりかたは15秒~20秒らしいわ。なかなか早い。せっかちな人が多いのかしら。それとも単にこっちの方が美味しいのか。ぜひ食べてみたいわ。
「ぅん~! 美味しい!! スープは名前の通り濃厚で、とんこつの香りが凄い、でもそれが食欲をそそります!チャーシューもすっごく柔らかくて、噛まなくても崩れちゃいそうです。そしてメインの麺は普段より硬いですけど、ぜんぜん合います!むしろこっちのほうがいいと感じるくらいです。細麺でスルスルいけちゃうんだけど、歯ごたえがあるからしっかり噛みしめて味を堪能できますね。私、大好きになりました!!」
あ、あの彩ちゃんがまともにレポートできてる……!? これはグルメレポーターの素質があるかも知れない。新たな才能を発見したわ。それにしても、ほんと幸せそうに食べてる。
「ごちそうさまでした~!! 美味しかったです! 今度はパスパレのみんなと来ます!」
「あいよ、またな嬢ちゃん」
次は何を紹介していくのかしら。さすがに食べることはもうしないだろう。毎日散々と気を付けるように言っているし……。今のところは順調だから期待してしまうわね。
「次は福岡県の北部にある、北九州市門司区の門司港レトロ――」
あら、さっそく見栄えの良い場所を選んでる。彩ちゃんはセンスがあるかも知れない。これは心配したことを謝らないといけないかしら。
「――の、焼きカレーを食べたいと思います!!」
その後も、いろんな場所を巡るのだけれど必ず何かを食べる、食べる、食べる。というか食べたいがために目的地に向かっているのは気のせいじゃないはず。
そして5件目のレポートを終えたところで、彩ちゃんのコーナーは終わりを迎えた。
「以上で今回は終わりでーす! 福岡は美味しい物がたくさんあって食べてばっかでした、てへ。でもでも、みんなも見て楽しかったはず!! 次回は貴方の街に行くかもー! バイバーイ!!」
ここでVTRは終わり、再びスタジオに戻った。そのころコメントは、
「彩ちゃん可愛い」「グルメレポーターの才能ww」「これグルメ番組?」「悲報:千聖さんお怒り」「福岡きてのか」「次は愛媛にもきてー」「ばりすいとーよ」「最強の飯テロだな」
まずまずの反応ね。まあ彩ちゃんが担当するコーナーだもの、何しても可愛いから失敗なんてないわ。けれど……。
「VTRは以上でーす!! みんな、どうだったー??」
「彩ちゃん食べてばっかでいいなー! あたしも探検したいー!」
「ジブンは福岡県にはまだ行ったことないです。今度みなさんで行きましょう!」
「麻弥さん、それいいですね! 楽しい旅行になりそうです!!」
「そうだね! 次はみんなとがいいね!! 千聖ちゃんはどう思――」
「いいんじゃない?? 彩ちゃんもた~くさん食べてて美味しそうだったし??」
「せ、せっかく遠くの地まで行ったから、少しはいいかなーて……あはは。」
「少し、ね。まあいいわ」
ここで言うのはやめておこう。番組中に色々言うのもイメージが悪いわ。
「またまた、千聖ちゃんも素直に彩ちゃんと旅行とか行きたいんでしょー?」
「そんなこと言った覚えはないわね」
「つ、次のコーナーは何かな!?」
オドオドしている彩ちゃんが、無理やり話を進める。
「次は日菜ちゃんお願いします!」
「はいはーい、あたしのコーナーは『天才てれびちゃん』だよ!」
実に日菜ちゃんらしいコーナーの名前だ。誰が見ても彼女がメインのコーナーだとわかるだろう。
「えーと、今回は……おっ!! 子供たちと一緒に曲をギターで演奏するよ!!るんってきた! てことで、みんなしゅうごーう!」
このとき、私は嫌な予感がした。確かに日菜ちゃんは演奏の技術は高いのでミスをする心配はないのだが……。
そんなことを考えていると、可愛らしい子供たちがスタジオに入ってきた。見た感じ、小学生や中学生が勢ぞろいしている。
その後、簡単な自己紹介と流れを説明し、さっそく日菜ちゃんと子供たちのセッションが始まった。
「じゃあまずは簡単なのから弾いていこーう」
歌が流れだし、日菜ちゃんを筆頭に子供たちもギターを弾いていく。
「いいねー! 楽しくなってきたよー、みんな頑張れー!」
その姿は微笑ましいものがあった。優雅な演奏する日菜ちゃんに、それに遅れまいと一生懸命ギターを弾く子供たち。おそらく、この日のためにたくさん練習をしたのだろう。
そのまま序盤は順調に進み、難しい局面へと入り始める。
「ちょっと難しいとこになったよー。大丈夫かなー?」
順調に進んでいると思っていたが……テンポが上がった途端、1人の女の子がミスをしてしまった。