BanG Dream!〜夢を打ち抜く彼女達の日常〜 作:凛句りんく
「ふふーん、実はもう渡してるよ!」
「ええ!? いつのまに渡したの?」
「今着てるこころんのドレスが、私からのプレゼントなんだっ!」
デデーン! と効果音が聴こえてきそうな決め台詞である。
そう、まさに今
「あら! それは嬉しいわ!! こんなに可愛いドレスなのに、はぐみがデザインしてくれたなんて、嬉しさ2倍どころか100倍よ!! ありがとう、はぐみぃ!」
そう言いながら、こころは嬉しさのあまり、はぐみに飛び込み抱きついた。
「そんなに喜んでくれるなら
「ええ! こちらこそよ、
お互いに嬉しくなり、満面の笑みを浮かべながらお礼を交わす。
そんな二人に、後ろに手を回した花音が近づいて声をかける。
「あのね、こころちゃん。わたしからのプレゼントも受け取ってもらってもいいかな……?」
「もちろんよ! 花音は何をプレゼントしてくれるのか楽しみだわ」
「そ、そんな期待してもらっても困るけど……はい! 誕生日おめでとう!」
花音が両手を前に差し出して、こころにフワフワと可愛らしく包装されたプレゼントを渡す。
大きさはA4サイズくらいで、特にデカイわけではない。
「さっそく開けていいかしら?」
「う、うん。ちょっと恥ずかしいけど……」
こころは花音の言葉を気にせず開け出す。包装された袋の中身は……
「これは……本、よね。えーっと『花咲川カフェ巡り攻略本』って書いてあるわ」
そのカフェ本は一般の雑誌ほどの大きさであり、わりと分厚い。
もしかして今まで行ったカフェ全てを記録しているのではないかと皆が……いや美咲だけが疑った。
「うん、私ってカフェ巡りが趣味だから、それを活かせたらいいなって。主に千聖ちゃんと巡った店だけど……それで見つけたオススメのお店や行き方とかまとめて本にしてみたんだ」
「わぁ! ありがとう花音!! たっっっくさんカフェの紹介が書いてあるわね……1日で回れる気がしないわ!」
「いや、こころ。なにも1日で回らなくていいから」
こころは本を胸の前で抱きながら難しい顔をする。
それに気がついた
「こころん、何をそんなに悩んでるの?」
「うーん、せっかく花音からプレゼントを貰って嬉しいのだけれど、私一人で回るのは少しだけつまらないわ」
「あー、なるほど、そういうことかい」
何かに気がついた薫が、手を顔に当て、華麗にポーズを決めながら
「それなら、みんなで回ろうじゃないか。その方がきっと楽しいはずさ。花音から貰った本を見ながらカフェ巡りしよう」
その言葉に反応して、こころと
「それだわ薫! そんなの楽しいに決まってるわよ!」
「うんうん、はぐみも賛成だよ! みーくんとかのちゃん先輩も連れてカフェ巡りの旅だね!!」
「あ、私も強制的に参加なのね……べつに嫌なわけじゃないけど」
不満ながらも、どこか嬉しげな美咲が顔を背け応える。
「うん、楽しみだね」
花音が優しい笑顔で応えると、こころ達3人は、これからの予定や周る店を決めるため仲良く談話を始める。
そんな中、そわそわしてどこか落ち着かない美咲に花音がそっと呟く。
「美咲ちゃん、きっと今がチャンスだよ」
「わ、分かってます。うん、よし、ここで行かなきゃミッシェルに怒られる……っ!」
「べ、べつにミッシェルは怒らないと思うけど……」
2人でヒソヒソ会話していると、こちらを向いた
「ん? どうしたの、美咲。お腹でも痛いの?」
「ち、違うってば! ……あの、私からの、プレゼント、まだ、渡してなかったから……。これ……」
美咲は、後ろに隠していた小包を
顔を赤くしながらも真っ直ぐ目を見て渡す美咲を見て、
「ありがとう、美咲。開けてもいいかしら?」
美咲は無言で頷く。それを肯定と受け取った
外側の包装を取りきると、シンプルな木箱が現れた。
特に鍵も付いてなさそうなので、
そこには……小さいハロハピのメンバーがいた。
「これは……いつも美咲が作ってるお人形さんね! とーっても可愛いわ!!」
初期のバンド衣装を見に纏い、それぞれ楽器を弾いたり歌を歌いながらも笑顔で楽しそうに作ってあった。もちろん、ミッシェルもいるし美咲もいる。美咲は、楽器を弾いたり歌ってはいない。ただ眺めて微笑ましく笑っている様子だ。
きっとこれは、美咲がもしハロハピの演奏を外から見る機会があれば、こうやって笑うからだ。楽器を持たせることも少しは考えたが、ハロハピの演奏中はあくまでもミッシェルであり、美咲自身ではないと考えた結果だ。
美咲から貰って嬉しくない物は無いが、想像より遥かに嬉しい贈り物に、こころは喜びを満面の笑みとキラキラした瞳で表した。
美咲も
「私にしか作れない物で、こころが貰ってきっと嬉しいもので、お金だけじゃ買えないものって何だろうとか色々考えた時に、私には羊毛フェルトしかないなって思って……。別に皆んなと違ってセンスある高級品でも思い出の品でも得になる物でもないけどね。うん、でも、そんなに
こころの誕生日プレゼントに、かなり悩んだことが誰でも分かるくらい美咲は報われた顔をしていた。その笑顔は、自然とハロハピの皆んなにも伝染していく。
しかしながら、こころは俯いていた。
そして、あろうことか否定の言葉を口に出す。
「違う、違うわ美咲」
「え、もしかして気に入らなか──」
「そうじゃないわ、美咲。
これは私にとって、とーっても大切なモノよ。どんな高い宝石よりも価値があって、世界一のデザイナーが手掛けたモノよりも私の好みで、これまでの全ての思い出が詰まってるわ。だって、これを見るだけで今までハロハピで過ごしてきた出来事をぜーんぶ思い出せるもの!!」
こころの否定の真意は、美咲のプレゼントに対してではなく、美咲の
「こころ……。うん、ありがとう」
美咲は
絶対に1人では見ることの出来なかった景色を見せてくれたハロハピのみんなに感謝しているし、特に自分の殻を壊してくれた
そんな感じに感慨に浸っていた美咲だが、こころとの会話を聞いていた
「いいなー、こころん、はぐみもかーくんの人形ほしいーなー!」
「おやおや、私の儚い人形を見せておくれ」
「はぁ……。はいはい、今度また別の作ってあげるから待っててね〜」
みんなの注目の的となるプレゼントになっていて嬉しくて思うも、いつもと変わらない会話にやれやれと首を振って呆れる。
すると、静かに後ろから黒服の人が話しかけてきた。
「奥沢様。無事みんなプレゼントを渡し終えたところで、記念撮影をしたいのですが」
「うわぁ! び、びっくりした……。ま、まぁいいですけど」
美咲は黒服の人のあまりの気配の無さに驚きを隠せなかった。
しかし記念撮影はしたい。また新たなハロハピの記録を残したいと考えた美咲は皆に声をかける。
「はーい、みんなー静かにー。いまから記念撮影するよー。はい、こころはここ。はぐみはそこ。薫さん、変なポーズ取らなくていいからあそこに行って。花音さんはそのままで」
「「「はーい!!」」」
「み、美咲ちゃんがお母さんに見えてきた……」
美咲の素晴らしい指揮と通称3バカ相手の手慣れ具合に花音はただ見守ることしかできなかった。
「よし、後はミッ……あぁ」
順調に写真撮影の準備が終わりそうだったが、そこで美咲が悲しくも当たり前の事実に気がつく。
「私か……ミッシェルなんだ」