BanG Dream!〜夢を打ち抜く彼女達の日常〜 作:凛句りんく
「私か……ミッシェルなんだ」
ミッシェルを写すなら美咲は写らない。しかし逆もまた然り。
少しだけ悩んだが、いまさらの事実に思考する理由は無かった。
「黒服の方、すみません。ミッシェルを取って……呼んできてもらっても大丈夫ですか?」
ハロハピには美咲ではなくミッシェルが必要なのだ。ミッシェルが居なければ音楽は、バンドは、ハロハピは成立しない。
「み、美咲ちゃん。いいの?」
「ええ、大丈夫です花音さん。私は……もう十分すぎるほど幸せを貰いました。そろそろミッシェルにも楽しんでもらいたいので」
「……そっか、うん。ありがとう、美咲ちゃん」
ハロハピの中で唯一ミッシェルの中身を知っている……というより理解している花音は、美咲のことを気にかけずにはいられなかった。
それは黒服の人も同じだったが、想像とは違う言葉を美咲は聞くことになる。
「あの……奥沢様。私たちからのプレゼントがまだでしたね」
「え、どういう──」
すると、扉が開くと同時に、そこに居ないはずの、いや、居てはならないピンクの生き物がいた。
「や、やっほ〜、ミッシェルだよ〜。みんな楽しんでるかーい」
「「「ミッシェル!!!」」」
「「ミ、ミッシェル!?!?」」
そう、そこにはピンクのパンダ……熊……みたいなハロハピのDJ担当ミッシェルがいたのだ。
「わーい!! ミッシェル、来てくれたのね!!」
「ミッシェルが居なくちゃやっぱ100%は楽しめないよー!」
「ああ……これで皆んなが揃って思い出の1ページを刻める……儚い」
いつも通り、この三人はミッシェルを歓迎してテンションが上がっていた。
しかし美咲と花音はしばらく頭の整理が追いつかなかった。
なんとか振り絞って出た言葉は、矛盾してるが矛盾していない質問だった。
「ミッシェルだけど、だ、誰なんですか?」
「なにいってるの、美咲? どうみてもミッシェルじゃない」
「いや、うん、そうなんだけどそうじゃないの」
「「「???」」」
3バカが理解できず頭上にハテナを浮かべるが、いたって美咲は真剣だった。
「いやー、なにいってるの美咲ちゃん。僕はミッシェルだよ〜」
そう言いつつ、ミッシェルは美咲に近づき密かに話しかける。
「ったく、なんて面倒な役やらせんだよ。私だよ、私」
その口調には聞き覚えがあった。そう、新学年になって前の席でいつも聴いているからだ。
「ま、まさか……市ヶ谷、さん!?」
「正解、って別に隠してたわけじゃないけとな。声だしたら1発でバレると思ったのに……ミッシェルの謎技術で声まで似て笑うんだけど」
「ふ、ふぇ〜〜!? まさか有咲ちゃんが……なにがどうなって」
花音が混乱してきたところで、黒服の人から説明が入った。
「実は私共、奥沢様にいつもお世話になっているので何か感謝の気持ちを伝えたいと思い……。いつか奥沢様とミッシェルが同時に居合わせないといけない状況が来た時、その不可能な共存を可能にしようと考えました」
「それで、私が呼ばれたってわけ。まぁ正直、奥沢さんのミッシェルと共存できない状況には同情するし、黒服の方の相談を受けて断る理由は……ありまくりだけど、まぁなんだろ、特別な人の特別な日くらい特別に楽しんでもらいたいしな」
「と、特別なんかじゃ……いや、ここは素直にお礼すべきか。ありがと」
既に諦めていた記念撮影に映る希望を叶えることができ、とても嬉しいのだが、どこか素直に喜べない自分もいることに面倒だと自分ながら美咲は思っていた。
「はぁ……わかってるって。私がミッシェルになるのは一度きりで、もう二度としねぇよ。てかこちらからお断りだわ。ミッシェルは奥沢さんのモノで私のモノではない、だろ」
その美咲の複雑な気持ちすら、有咲は見通していた。
「あー、うん、そうです。市ヶ谷さんには敵わないや」
「言っとくけど、これは大きな貸しだからな。いつか利子つきでキッチリ返してもらうぞ。質屋の孫娘を甘くみないことだな」
なるべく早いお返しをしないと大変なことになるな、美咲は察する。
しかしそれだけで従うのは面白くないと感じたのか、ついでに有咲はニヤニヤしながら一言付け足す。
「あー、でも弦巻さんがー、抱っこを願ったりー、抱きついてきたらー、ミッシェルを演じる上で怪しまれないようにするからー。ま、勘弁してな」
「え、ちょ、なに言って──」
思わぬ要求に美咲が動揺していると、2人で楽しい話でもしていると思った
「ミッシェルー、みさきー、なにコソコソ話してるのかしら? 私も混ぜてー!」
こころはいつも通り、そう、いつも通り、飛びついて抱きつこうとする。それを有咲は躊躇いなく迎えようと腕を広げるが……
「あー! こころ! ミッシェルは今日疲れてるから飛びつくと危ないんだよ! うん! だから今日は大人しくしておこうかー!」
「あら、それは大変ね。ミッシェル、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよー、今日は美咲ちゃんと仲良くするんだよー」
美咲にはミッシェルの中でイジワルな目で笑っている有咲が簡単に想像できた。許すまじ、市ヶ谷さん。あ、でも今日は貸しがある。前言撤回だ。許すわけにはいきませんわ、市ヶ谷様。
「有咲ちゃ……ミッシェル、今日はありがとうね。美咲ちゃんはあんなんだけど、きっとミッシェルが思ってるより嬉しいはずだから。もちろん、私も嬉しいし、みんなも喜んでるよ」
花音がミッシェルの中にいる有咲に感謝の言葉を述べる。花音としても美咲とミッシェル問題をどうにかしたいと考えていたので、それが解決できるのは大いに喜ばしいことだと思ったいた。
「ミッシェル今日は来てくれてありがとー! はぐみも嬉しいよー!」
「あぁ、私からもお礼を言おうか、ミッシェルありがとう。儚い」
「ミッシェルー! 元気ないなら今日は私たちが笑顔にするわ! もう私たちは十分に笑顔をもらったから!」
美咲には、普段から言われ慣れないお礼の言葉を受けとって戸惑っている有咲が想像できた。
「ちょ、ちょま! お、お礼なんていらね……いらないよー。やめろくださいよー」
「はは、変な口調だねミッシェル」
「く……っ! い、いいから早く記念撮影しよーかー」
美咲は少しだけお返しが出来てスッキリした。
そうこうしていると、黒服の人が次々と準備を進め、記念撮影に入る。
「では皆さん、良い笑顔でお願いします。この写真は弦巻家の家宝となり、また日本中だけでなく各国の偉い方々の元へ送られますので」
「なんでだよ!! 規模でかすぎだろ!」
「ミッシェル、落ち着いて、もう撮るよ」
「やっぱそうなるよね、私と美咲ちゃんも最初は戸惑ったりしたんだけど、慣れちゃって」
「あー、はは、もうどうにでもなっていいや」
「よろしいでしょうか、ではいきますよ」
すると、こころがみんなに声をかける。
「みんな、いつもの挨拶で撮るわよ!」
その言葉でハロハピのメンバーは察する。そして有咲ミッシェルも流石に理解できたようだ。
写真を撮るまでの間、隣にいる
こころ、改めて誕生日おめでとう。
こころに出会えて、私は世界が変わったよ。
凄いよ、こころは。たくさんの人を笑顔にしてる。
きっと、いつか、本当に世界中を笑顔にするんだろうなと思う。
今日までいろいろあったけど、いつもありがとうね。
これからも、迷惑かけるかも知れないけど、
こんな私を、どうぞよろしくお願いします。
「「「「「ハッピー、ラッキー、スマイル、イェ──イ!」」」」」
ハロハピ1章完結
次はFate×バンドリとか考えていたり。。。