BanG Dream!〜夢を打ち抜く彼女達の日常〜 作:凛句りんく
とある休日の話。
羽丘女子学園の学生である青葉モカは、ふらっと寄った商店街で大好きな山吹ベーカリーのパンを買って上機嫌だった。
しかし、家に帰る途中で蘭が知らない男と一緒に歩く姿を目撃してしまう。
なにか事件の香りがする。そう感じたモカは蘭の尾行を開始することに……
(全話3完結)
「ありがとうございましたー!! また来てね、モカ」
元気な店員さん『山吹沙彩』がいるパン屋『山吹ベーカリー』から出てきたのは、誰が見ても上機嫌だと分かる緩い顔をした銀髪の少女だった。
「ふっふっふー、モカちゃんは今、最高に気分が良いのでーす」
大好きなパンを買えて嬉しそうなその少女――青葉モカはスキップしたくなる気分で山吹ベーカリーを出た。
「えー、どれから食べようかなー。これかなー、それともこっちかなー、うーん……決めた! これにし……ん?」
店から出て見つけたのは、髪に赤いメッシュを入れた特徴的な少女だ。そんな人、ここらでは1人しか思いつかない。そう、彼女はモカの幼馴染であり、同じガールズバンドのメンバー「美竹 蘭」その人だった。
彼女はギターを背負ったいつも通りの格好なのだが……いつも通りではない所もあった。
「隣に…男の人がいる……だれだー??」
蘭とは昔からの付き合いだ。故に彼女に関係する男の人達――ましては一緒に出かけるような男の人なら、モカだとある程度知っているはずなのだが、
「あの人は……モカちゃんの知らない人だー!!」
モカは非常にマイペースであり、並大抵の事では驚かない。しかし今の目の前の状況は、その並大抵の事ではなかった。
「蘭が、モカちゃんの知らない男の人と一緒に歩いている。それだけでも衝撃なのにー。今日は学校もバンド練習も休日でー、ここは街中だよねー。これは……世間で言う『デート』ってやつなのでは……!?」
この出来事は大事件とみたモカは、蘭以外のバンドメンバー、つまりAfterglowのみんなを緊急収集することに。
「これは、事件の匂いがする。 なんてね〜」
モカが蘭にバレないよ~うにパンを食べながら尾行していると、先ほど呼びかけたメンバーが思いのほか早く集結した。
「ちょっとモカ!! 蘭が白馬の王子様みたいなイケメンの男の人と街中でラブラブデートしているって本当!?」
興奮を隠しきれないでいるのは、ピンク色のゆるふわミディアムショートの持ち主だ。今日は二つに髪を纏めたツインテールにしており、先ほどまで友達と出かけていたのか、オシャレな恰好をしている。
彼女の名前は上原ひまり。モカと同じクラスであり、Afterglowのベース担当である。
「あはは……モカちゃんはそこまで言って無かったと思うな。(それに、デートっていうのも勘違いだと思うけど……念のため確認しなきゃだもんね!)」
そのひまりを
彼女の名前は羽沢つぐみ。黒髪のショートヘアーで、バンドの中で最も常識のある普通の女の子。故に努力家で前向きであり、少しのことではめげない性格だ。その前向きさはメンバーの心の支えなのだが……今回ばかりは前向きではなかった。
「いやぁ~蘭もとうとう男を作る気になったのか! 私も負けてらんないね!!」
そうやって燃えているのは、女性にしては高身長でありスラっとしたスタイルの赤色ロングヘアーの女の子だ。赤いといっても真紅の赤ではなく、どちらかと言えば黒に近い赤だ。
彼女は宇田川巴。他人を悪く言ったり、恨んだりしないさっぱりした性格。姉御肌であり、実際にお姉ちゃんである。よって、Afterglowのまとめ役だ。
「ほほー、みんな早かったねー。せっかくの休みなのに用事なかったのー?」
「私は友達と遊ぶ予定だったけど、その子が急な用事ができて遊べなくなちゃったの~。それで途方に暮れてたらモカから緊急収集が来て、しかも内容にびっくりしちゃった!! まさか蘭が、ねぇ」
「私はお店の手伝いをしてたんだけど、ちょうどお昼休憩もらってたから、すぐ駆けつけて来たの!」
「アタシも同じような感じで、商店街の人たちの手伝いをしていたんだけど、区切りよく終わりそうだったからさ、早くこれたんだ」
それぞれ、ここに来るまでの経緯を言っていった。都合よくみんな時間が空いていたようだ。
「それで、肝心の蘭はどこなんだ??」
巴が辺り見渡しても、蘭の姿はどこにもなかったからだ。
「そう慌てなさんなトモちーん。もうすぐ出てくるはず……。ほらー、きたきた」
みんなが話している間に、探し人であった蘭と、モカの言っていたその謎の男性が音楽ショップから出てきた所だった。
「ほ、本当に男の人と一緒に蘭ちゃんがいる……」
「モカの言ってたことって本当だったんだね……」
「むむー、つぐにひーちゃんも、モカちゃんのこと疑ってたのー。悲しいなー……」
「そりゃ誰だって疑うさ、あんなこと言われたら。ひまりならまだしも、蘭はさすがに信じられないって」
「もー! 巴!! それってどういうこと!?」
なにせ他人には猫よりも人見知りな蘭である。蘭が受け入れたことも驚きだが、男性のほうもよく蘭のぶっきらぼうに付き合おうと思ったものだ。
そして膨れているひまりをスルーして、巴は蘭達を見て言った。
「それにしても男のほうは身長が高いなー。180cmくらいあるんじゃないか?」
「私も思ったな。確かに、スタイルがいい男性だねー」
その男性は隣に並ぶ蘭よりも頭2つ分は違っていた。
「きゃ~!! 身長差カップルってやつ?? いいな~!」
「ま、まだカップルって決まったわけじゃ――」
「ああー、らんー。モカちゃんという女を差し置いて、あんな男のところに行くなんてー。ぐすん」
「もー、モカちゃんまで!」
「いいじゃんいいじゃん、そう考えたほうが面白そうだろ」
「はぁ……。蘭ちゃん、ごめんね」
真面目なつぐみはみんなを正そうとしたが、この盛り上がった状況ではさすがに無理だった。心なしか少しだけ楽しそうなのは、彼女も女の子だからだろうか。
「まぁ冗談はおいといて、彼氏はさすがに違うだろ。そんなの蘭が隠すとは思え……ない…し…よな?」
「巴ちゃん、最後まで自信もとうよ」
巴はだんだん信じれなくなったのか、声が細くなっていった。そういうつぐみも蘭が隠さず言うという自信がなかったのだが。
「モカー、蘭達は見つけた時から一緒だったのー?」
「うーん、モカちゃんが蘭を見つけた時にはー。既に一緒だったかなー」
「ということは、途中で二人が出会ったパターンかも!!」
なんだか嬉しそうにひまりは言う。
「それってー、どんな風にー?」
「えーっとね、例えば……」
―――以下ひまり氏の発言を再現―――
あたしの名前は美竹蘭。羽岳女子学園に通う女子高校生だ。
今日はあたしのバンド「Afterglow」の練習は休みだけど、いまから一人で猛特訓して次の練習でみんなを驚かせてやるんだ。
「いっけね、CiRCLEの予約時間に遅れる。遅刻遅刻~ 」
食べる時間がもったいない、と思ったあたしは朝ごはんの魚を咥えて急いで家を出て走った。
……すると曲がり角の先に男性が、
「ふぁ、ふぁうな――!!(あ、危な――!!)」