ゼロの使い魔~天恵の忌み子と共に~ 作:MS-Type-GUNDAM_Frame
少なくとも、魔術で無理やり表情筋を操作して笑い続けるような人間は社会適応は出来ていないだろう。
今回もしかしすると時系列がおかしいかもしれませんが、原作未読という事で大目に見てもらいたく・・・ダメなら本当はどういった展開なのかこっそり教えていただけると幸いです。
自分が眠っていて、起きる寸前だという事が分かった。眼を開けば、そうして意識がしっかりと、且つ直ぐに立ち上がるのだ。数ある目覚め方の中でも、ちぃ姉さまに起こしてもらった時に並ぶ最高の目覚めの内の一つだ。
ゆっくり目を開けると、まだ一番鶏が鳴くかどうかの、かなりの早朝なのだろう。部屋の外からは、丁度朝日が部屋に射し始めていた。そして、窓とは反対側のベッド脇にイスに座った少年の姿を認め、思わず声を上げそうになった。しかし、今度こそ昨夜のことはよく思い出すことが出来たため自制する。
どうやら起きたことに気付いていないようなので、ベッドの向かいの窓に浮かぶ朝日を見ている、その使い魔の顔を観察することにした。
召喚された時や昨夜のようにニコニコと笑っているが、しげしげと朝日を眺める姿は何処か実は思っている以上の年齢ではないかと思わせる知性が感じられる。そういえば、年齢さえ聞いていないのだ。
結局、昨夜だけでは何も分かっていないも同然に思えたので、まずは、貴族の嗜み。挨拶からだ。
「おはよう、フラット」
「おはようございます!マスター!」
朝からテンションが高い。今日は調子が良かったため例外だが、基本的にルイズは朝に弱いのである。というかそもそもこの少年は眠ったのか?
「あんた、何時寝たの?」
「マスターが寝た後、そこの藁山で寝ましたよ。興奮のせいかすぐ起きちゃったんですけどね!」
「そう、早起きなのね」
うらやましいと言えばそうなのだが、後できつくないのだろうか。その辺りは、おいおい観察して考えることにしよう。今聞きたいのはもっと別の事だ。
「フラット、あんたの事を教えて?」
「良いですけど、ちゃんとマスターの世界の魔法の事も教えてくださいね?」
また、私の世界の魔法だという。一体どれだけ遠方から召喚されたのだろうか?
「まず、あんた何歳?」
「20歳です!」
こちらへ満面の笑みで親指を立て、鼻高々に答える少年――本人の弁が正しいなら青年は、とても20歳には見えない。ホントに?と聞いても、信じてくださいとかホントですとか、本気でそう主張を続けるのでとりあえず信じる。次に、場所。どうやらかなり遠くから来たとしか思えないのだ。
「あんた、どこの貴族なの?ハルキゲニアで時計塔なんて聞いたことないんだけど」
「国で言うならイギリスですかねぇ?あります?イギリス」
もちろん無い。ロマリアの属国にも無かったはずなので、本当に遠くから来たのだろう。東方の、砂漠を超えた先にあるというロバ・アル・カリイエから来たのかもしれない。
「それで、貴族なんでしょ?魔法は使えるのよね?」
ドットスペルくらいは、とは言わないでおいた。自分が使えないのに、そんな皮肉を言っても仕方ないだろうという気がしたのだ。
「魔法は無理ですね。魔術なら何とか!」
何が違うのか、昨夜同様さっぱりだった。魔術、というのは、魔法に響きは似ているし、向こうで言う魔法なのだろうか。しかし、魔法とは違う、とも明言している。
「魔術と魔法って何が違うの?」
「魔術は、ただの人間でも頑張ればどうにかなる結果を出せるもの、魔法は、ただの人間じゃどうしようもないような結果が出せるものらしいです。どっちも才能が要りますけどね」
伝聞系の回答に、少々頭を捻ってみる。例えば、土の形を変える程度なら工具を持った平民にも出来る。けれど、錬金のようなことは平民には逆立ちしても無理だ。もちろん、ルイズにも。
他人の与り知らぬところで、いつかはと闘志を燃やし、続きに移る。
「あなたの得意な属性って、火とか風とか、四大属性のどれなの?まさか虚無なんてことは無いわよね?」
「それって五番目の属性になるんですか?もしそうなら多分虚無ってやつになると思いますけど」
深い、とても深いため息が、ルイズの体にかかる布団を撫でていった。昨日最悪の予想が命中したかもしれない。これは、オールド・オスマンに相談するべきではないだろうか?
もし魔術とやらが魔法と同じなら、何故自分は使えないのに使い魔ばかりと、ルイズは半ば八つ当たりにも近い火種を抱えていた。しかし、虚無に嫉妬など、それこそ始祖に笑われるか、不敬だと天罰が下るのではあるまいか。
絶好調の目覚めから一転、死んだ魚のような目でベッドの隅を見つめるルイズに、今度はフラットから質問が飛んだ。
「それじゃあ、俺からお願いなんですけど、マスターの魔法を見せてもらえませんか?」
一瞬、殴ってやろうかと思った。しかし、このフラットは自分の事を良く知らないのだ。
落ち着けルイズ。私は温厚で話の分かるご主人様。何も知らない使い魔とはいえ人間に、拳でいきなり一撃を加えるなど、まるで悪徳貴族ではないか。私はお母様のように高潔で、お父様のようにデキる貴族にならねばならないのだ。落ち着けルイズ。
ふぅ。
一度息を吐いて、一度しか言わないからよく聞きなさい?と前置きをして、自分が未だ魔法は失敗ばかりで成功が無い事。それでもいつかは、誰しもが仰ぎ見るような立派な貴族になるのだと。強く言った。
対してフラット青年は…
「マスターならなれますよ!だって俺がいた異世界まで召喚魔術を届かせるくらいですよ!?そんなの、俺たちの世界なら薬品漬けで封印されてもおかしくないくらいの凄いんですよ!?」
また、両手を握ってぶんぶんと振り回された。朝の栄養が足りていない頭がふらふらと揺すられ、焦点が定まらないものの、目の前のフラットが大まじめだという事は分かった。そして確かにフラットの言う通り、自分はサモン・サーヴァントとコントラクト・サーヴァントの魔法に成功しているのだ。
そうだ。そう思うと、何かできそうな気がしてきた。コモン・マジックくらいなら成功するのではないだろうか?よし、やろう。いや待て、この使い魔、今何と言っただろうか?
「…異世界って?」
「元は同じだけれど色々な違いで分かれてしまった世界というか、そうですね、少なくとも僕の世界には月は一つしかないです」
月は二つあるのが当たり前だろうに、この馬鹿使い魔は何を言っているのだろうか。
「それに、昨日いくつか見ましたけど、俺の世界ではあんな簡単には人は飛べません」
フライは、言ってて悲しくなるが素質さえあれば小さな子供でも使える簡単な魔法だ。それが、無い。
「それに、イギリスは無いんですよね?俺の世界でイギリスなんて知らないなんて言ったらとんだ田舎者ですよ?」
知らないものは知らないし、でっち上げで何とでも言える。向こうもそれに気づいたらしく、顎に手を当ててうんうん唸り考え、唐突に左手を右手を打った。
「これ見てくださいよマスター!」
そう言って、フラットは手鏡に何やらぶつぶつと呟いて指を這わせている。一体何をしているのかと思えば、謎の儀式は終わって鏡はこちらに向けられた。
「はい。俺が得意な魔術の一つです」
通常、鏡に映るのは自分だ。確かに、鏡には自分が映っている。しかし、通常鏡に映るのは断じて部屋の入り口近くから見た自分ではない。
「え?これって…」
「誰かがこの部屋を見てたみたいなんで、ちょっと魔力の流れをいじって覗き見してるところです」
少なくともルイズには、ハルキゲニアのメイジでそのような事が可能な人物はオールド・オスマン以外に思い至らなかったし、かの200歳を超えるともいわれる老練なメイジに技術が並ぶには若すぎるのではないか。これは、かなり説得力があった。
「ちなみに、私の部屋をのぞいてるのが誰は分かるの?」
フラットのいう事に裏付けになった事は良いのだが、それと乙女の部屋を覗いていたという事実への怒りは別の話である。
「多分あの学院長さんじゃないですか?普通に心配して様子を見てたんだと思いますけど…あ、ちなみにこの声はあっちには聞こえてません」
言うには、声だけ漏れないようにフラットが音声の回線を操作しているのだとか。
「良いわ。信じてあげる。本当に、異世界から来たのね」
「ええ。あのコルベール先生も半信半疑だったみたいなんですけど、誠心誠意説明したら信じてくれてよかったです!」
困惑するミスタ・コルベールの顔が目に浮かぶようで、ルイズは苦笑いした。しかし、この使い魔がミスタ・コルベール伝え、それがオールド・オスマンへ届いているとしても自分で伝えに行くべきではないだろうか。具体的には、新学期初の授業を終えてから。
とりあえず、オールド・オスマンと話し合うまではイギリスという遠い外国から来たと話を合わせておくとしてだ。朝食にそろそろ行きたい。
なお、腹の音が鳴った瞬間も、フラットは音声を切っていたらしい。心の中で感謝しつつ、最後に、一つだけ。
「聞いてなかったけど、あんた私の使い魔で本当に良いのよね?」
「もちろん!異世界で使い魔になるなんて、まるで小説の主人公になったみたいでわくわくしますよ!」
あんなに頭が良さげなのに、どうしてこうも少しネジが外れたようなのだろうか。
◇◇◇◇◇◇
朝の準備は、自分でこなした。この部屋を見ていた視界はフラットが切ってくれた。ちなみに、外に追い出すとツェルプストーの乳牛が何をしでかすかわからないので、大急ぎで着替えその間は向こう側を向かせていた。
「さ、食堂に行くわよ。他所の貴族のあんたから見て、私たちの食堂はどうかしらね」
使い魔召喚自体は成功したので、ルイズの機嫌はそれなりに良かった。それに、かなり気の利く部類であるし、かつ高貴な生まれときている。メイジの力量を見るにはまず使い魔というが、私の素質については異世界のメイジが太鼓判を押すほどだ。そして、異世界のメイジに魔法を見てもらえば、ちゃんと魔法が使えるようになるのではないか、という淡い期待もあったのだ。
これはもう、空腹でさえなければ鼻歌でも奏でるところだが、今は空腹の解消が最優先だった。
鍵をいつもの習慣から手で開け、閉める。コモンマジックを試してみるべきだったかと少々後悔したが、兎に角今は食堂一直線である。
「あら、遅かったじゃないルイズ」
「さ、行くわよフラット。そこには誰もいないしましてや見せつけるようにサラマンダーを引き連れてるメス牛なんて論外だわ」
手を引いて強制的に離脱を試みた。失敗した。まさかの使い魔の反逆である。もう!と息巻いて叱りつけようとすると、フラットはサラマンダーをみて目を輝かせていた。
「すげー!!俺サラマンダーの本物なんて初めて見ました!名前はなんていうんですか!?」
「あら、使い魔さんは礼儀を知ってらっしゃるのね。どこかの
これは尻尾の炎からみて火竜山脈産のサラマンダーに違いなく、好自家なら値段も付けないだろうのたまいだした。ルイズは歯ぎしりをする。目には、奇しくもライバルの得意属性の炎が猛っていた。
「フラット!サラマンダーも良いけど食堂の小人を見て見たくないかしら!」
「えっ!あの時間になったら動くってやつですか!?超見たいっす!行きましょう!あ、ミス…」
「キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。キュルケで良いわ」
腕を豊満な胸部の下に組んで、フラットの主人との圧倒的格差を前面に押し出したが、ルイズはフラットを引きずって食堂へ駆けだしていた。フラットの、ありがとうございました~という間延びした礼だけが廊下に残り、キュルケは一人楽しそうに呟いた。
「ふふ、一晩で随分仲良くなったみたいね。ルイズったらあんなに嫉妬しちゃって」
その心からの微笑みは、普段彼女が取り巻きの男子生徒に見せている物と違い母性のような優しさに溢れたものだったが、あいにく鏡は無かったし目撃者もおらず、かつ当人同士も否定し合うだろうが。
◇◇◇◇◇◇
「どうかしら。此処が歴史あるトリステイン魔法学院の中でも由緒正しい、アルヴィーズの食堂よ」
「あ、あれがさっき言ってた人形ですね!?凄いなぁ!あんな緻密な魔術式があんな大きさに、しかも状態の固定化にも余念がない。何よりこんなに効率がいいなんて!」
聞いても無い事をべらべらとしゃべり始めている。嘘を言っていないのなら、まさかとは思うが、製作者と知り合いなのではないかと思えてくるレベルである。
「ま、まあ良いわ。さっさと食事にしましょう」
「わ、凄いなぁ!こんなに沢山あるし、しかもイギリス料理より美味しそうだ!」
どこぞの騎士王が聞けば、激しく同意してくれることだろう。
しかし、自分の席に座ったルイズは、周囲の目がフラットに向き、かつ小声で何やら言われていることに気が付いた。フラットを見て、貴族として致命的に欠けているものがあることに今更ながらルイズは気が付いた。
フラットの耳に顔を近づけ、ひそひそと耳打ちする。
「フラット、あんたの世界では貴族はマントを付けないの?」
「よっぽど昔が好きな人なら着けますね」
要は付けないらしい。これは不味い。自分たち貴族にとってマントは地位の象徴であるし、事情を知らない連中が無くしたなんて聞けば、それはもう酷く罵声を受けるだろう。
今日は大変心苦しいが、厨房で直接食事をしてもらうしかないだろう。
「本当に申し訳ないんだけど、厨房で何か出してもらえないか頼んでみるわ。周りのみんながマントを付けてない奴はって言い出しかねないと今気が付いたの」
「別に俺は構いませんよ?どんなものが出てくるか気になるし!」
本当に好奇心しかないような人間だと、ルイズは思った。それとも気を使ってくれているのだろうか?兎に角助かったことは確かだが。誰かいないかと探してみると、顔なじみのメイドであるシエスタがすぐ近くにいたので呼び止める。事情を少し偽って――良心にはかなりの打撃を食らったものの――話すと、快く「では私の方からマルトーさん話を通しておきますね」と引き受けてくれた。
即興で作り上げた設定は、遠い国から来たので勝手がわからず、できれば貴族のようにマナーにうるさくない厨房で食事をとれないか、というものだった。ちなみに、フラットは実はマナーは出来ているが、厨房へ行く理由に説得力を持たせるためである。
ハルキゲニアでは珍しい黒髪を揺らすシエスタに、フラットは着いて行った。丁度厨房では仕事がひと段落したところらしく、半分ほどが賄いを手にしているところだった。
シエスタが、恰幅の良い調理長、マルトーにフラットの事を紹介すると、マルトーは腕を組んでフラットへ近づいて行った。
「お前さん、遠い国の貴族なんだって?」
「はい!イギリスっていうんですけど、ご存じないですよね?今日は朝ごはんをよろしくお願いします!」
マルトーの少し汗のにじんだ顔が、笑った。
「ほぉ、俺たちにも礼儀をもって接してくださるたぁ気に入った。まあ座ってくれや」
木の椀に注がれたのは、朝食に使われた野菜、肉の余りで作られたシチューであった。フラットは食膳のあいさつもそこそこに、スプーンでシチューを掬う。
「す、すげぇ!超おいしいです!マルトーさん実は魔法使いですか!?」
「よせやい!嬉しくないぜそんなこと言われたってよ」
口では否定しても、体が正直に反応してしまっている。特に、お代わりを手ずから注いでしまっている腕などその筆頭だろう。結局、フラットは満腹までお代わりを続けられる羽目になった。ルイズと一緒に授業に顔を出さなければ、という一言で、フラットはどうにか逃走を果たした。
◇◇◇◇◇◇
「どうだったの?」
「お腹いっぱいになりました…」
どう見ても早朝と現在で腹囲が変わっているあたり、厨房では気に入られたのではないか。マルトーは、人の好き嫌い、特に貴族の大部分を嫌いな事で一部には有名だった。
「まあ、お腹いっぱいになったなら良かったじゃない」
「そんな事より今から授業なんですよね!?」
腹が苦しいのか幾分背を逸らしているが、やはりその顔は笑っていた。
「そうね…」
正直なところ、実技の授業に良い思い出は皆無だった。失敗をからかわれ、枕を濡らしたことも一度ではや二度ではないが、いつかは成功するとしっかり授業には出続けている。
今日は、横で興味深げに周囲を眺めまわしている使い魔に質問攻めにされるのだろうか、と、考えながら教室に入る。今までに無い事だが、この使い魔に頼りにされる事は少し楽しみだった。
さて、どこに座ろうかとは思ったのだが、フラットが眼を輝かせながら最前列に二席取っていた。仕方ないわね、と横に並んで座った。
そうこうしている内に、先生が教室へ入ってきた。ちゃんとしたメイジの恰好をした、優しそうな女性だ。女性は教室を見回しながら、にっこりとほほ笑んだ。
「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、さまざまな使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」
そうして、巨大なモグラやフクロウ、サラマンダーなどなどの使い魔を見回し、目線がルイズとフラットに向いて止まった。
「その…男の子が使い魔なのかしら?」
「はい!フラット・エスカルドスといいます!」
まさかと思って聞いたのだろうか。束の間、先生は停止した。そして、にっこりと笑ってルイズに言った。
「ユニークな使い魔を召喚しましたのね、ミス・ヴァリエール。きっと想像もできないようなメイジになりますわ」
「ありがとうございます」
他人の感情には、ひと際敏感だった。それで、この先生にはまるで悪意が無い事をルイズは感じ取り、素直にお礼を述べた。しかし、思春期真っ盛りの少年少女はそうはいかない。
「その辺の平民を連れて来たんじゃないのかぁ?」
「なんせゼロのルイズだもんなぁ!」
「勝手に言ってなさい!」
この年頃の子からすれば良くあることなのだが、時に人を殺すような人間の病でもある。それを、先生は良しとしなかった。
「お友達にそのような悪口を言ってはいけません」
早し立てていた二人の男子生徒は、口に赤土の粘土を張り付けられていた。思わず口笛を吹きたくなるような早業を決め、先生は自己紹介した。
「私の授業では中傷などいけませんよ?では遅れましたが自己紹介を。
今年度から赴任しました、私は『赤土』のシュヴルーズと申します。専門属性はもう分かると思いますが『土属性』です。これから一年間、皆さんに『土』の魔法について講義します」
簡潔な自己紹介の後、授業が始まった。黒板に白墨で様々な内容が書き込まれていくが、早速フラットから小声で一言。
「マスター、読めません」
「そういやそうだったわね…」
十分想定できる事態だったと思う。しかし、此処で小さな子供よろしく言葉教室を始めるわけにもいかない。仕方なく、ルイズは羊皮紙に詳細なメモを取り始めた。最も、内容は一年生の内容の復習でありルイズはすべて諳んじているのだが。
やがて授業の内容は実技に移った。多分に土のメイジとしての主張が含まれてはいたものの、大筋は正しいその主張をルイズは寸分違わず書き留めた。それを踏まえ、シュヴルーズは土の初歩、錬金を実演して見せた。
卓上に置かれた小石が金色に変わり、
隣のフラットは、感嘆の声を上げていた。
「そんなに驚くの?」
「だって凄いですよ!たったあれだけの詠唱で真鍮を作り出すなんて!」
どうやら、フラットからすれば信じられないほどの技術らしい。自分の世界が褒められているというのは、悪い気分ではない。しかし、二人の会話が先生の目に留まってしまった。
「素晴らしい勤勉ぶりですわね、ミス・ヴァリエール。では、錬金の魔法の実技はミス、貴方にやってもらいましょう」
それなりに静かだった教室は、一瞬で喧騒に包まれた。
「ミス・シュヴルーズ!やめてください!ルイズは!」
「なぜですか、ミス・ツェルプストー。それは彼女への侮辱ですよ」
腹に据えかねるような物言いだが、去年の惨状を思い出せば言い返すことは出来なかった。実際、何度も教室の片付けをする羽目になったのだ。ミス・シュヴルーズが、中傷はいけないと釘を刺すのが、逆に心に痛かった。
一方のキュルケは、シュヴルーズに訴えても埒が明かないと判断したのかルイズに直接止めるように懇願していた。
「ルイズ!お願いだからやめて頂戴!」
宿敵が、懇願している。私はどうするべきなのだろうか。
止めた方が良いのは分かってる。どうせ失敗する。みんなに、迷惑がかかる。
もう、良いんだろうか。魔法は一度は成功したんだ。これで、家に追い返されることは無くなったんだ。ここでやめれば、少なくともこんなにうるさく言われることも無くなるし…
でも、それなら私は何時立派な貴族になるんだろう。立派な貴族は、魔法はもちろん、父さまや母さまのように立派な心を持っているべきだ。
それで、貴方は何時立派な貴族になれるの?明日かしら。それとも一年後?少なくとも、今日は無理ね。だって、アナタこのまま逃げるんでしょう?
自分が、もう一人いるのだ。それで、私を強く罵る。その声は、他の誰の声よりも心に痛かった。
ちらりと、フラットを見てしまった。フラットは、今か今かと私の実演を望んでいるのだろう。やはり、今までのように期待に満ちた顔をしているのだ。
逃げたくない。
私は、何時かは成功させてみせるとフラットに言った。その何時は、明日ではダメだと思う。だから…
「やります」
周囲の人間が、一斉に机の下に隠れた。今更薄情だとも思えない。フラットとシュヴルーズだけが、ルイズの錬金魔法を見ようとじっと見ているのである。
「緊張しなくても良いです。心に強く、錬金したい金属を思い浮かべるのですよ?」
ルイズが想像したのは、鉄だった。鈍色に輝く、母の象徴。杖を、両手で持って集中する。目標は、目の前の小石。強く、鉄を念じる。
「イル・アース・デル!」
良く知っている呪文を、心を込めて唱えた。杖に魔力が流れ込んでいくのが判る。サモン・サーヴァントの魔法を思い出し、遂に成功するのではないかと目を輝かせた。
しかし、現実は非情である。
ルイズの目が、物理的に明るく輝き始めた。目の前の小石が光っているからだ。
咄嗟に、ルイズは顔を覆い隠した。
そして、今日の授業は中止になった。
ミス・シュヴルーズは気絶して医務室に連れていかれ、何故かぴんぴんしているフラットは凄い物を見たと笑っていた。
残りは、全員が全員ルイズを指さして非難している。よその教室から様子を見に来た教師が、ルイズの顔を見てまたか、とでも言いたげな顔で片付けを命じ、クラスは解散した。
フラットは、片づけを快く手伝ってくれた。イスを並べなおし、窓を交換して床の木片をまとめてしまった。あとは、ゴミ捨て場へ持って行くだけだ。
「ねぇ、失望した?」
私は、何を言っているのだろうか。
小ネタ・ルイズとフラットの作戦会議
「決闘って、二人が命を懸けて戦うあれで合ってます?」
「いや、命とっちゃだめよ。杖か参ったって言わせればいいから」
「そうなんですか!それならやろうかな」
「…勝てるの?」
「まあ、マスターほどじゃなければ普通に勝てると思いますよ」
「そ、そう?…まあいいわ。じゃあやってきなさい。私もあいつにはムカついてたのよ」
了
思った以上に長くなった…キャラ崩壊タグを入れた方が良いでしょうか?
次回はガンダールヴチュートリアルのあのお方との戦いです。
追記
と思ってたら先に授業でしたね。修正しました。