ゼロの使い魔~天恵の忌み子と共に~   作:MS-Type-GUNDAM_Frame

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就職前最後の一本です。
来週はどうかな…


神の盾

それは、直接でこそなかったが間違いなく一つの事実を指していた。

 

私は虚無だ。

 

フラットも、そう言った。それでも、自分に言い聞かせていたのだ。いくら凄くても異世界の使い魔だ。もしかしすると、よく似た別の何かという事もあり得るかもしれない。しかし、目の前に立つ白いひげを蓄えた老人はどうだろうか。

オールド・オスマンは、ルイズの知る限りハルキゲニアで最も魔法に熟達した人間である。その言葉は、確定の印鑑にも似た響きがあり、事実そうなのだ。

 

手が、震えた。普通で良かったのだ。努力はした。報われたかった。それでも、眠っていた力が始祖と同じものだとは思いもしないだろう。

 

ハルキゲニアでは、始祖は神に等しい存在だ。文献の中のみの存在と謡われていた虚無の力だったが、今トリステイン魔法学院最高学長が太鼓判を押した。虚無は、蘇ったのである。

 

「ふむ、手が震えておるの」

 

指摘されて、膝に乗せた手が震えていることにルイズは気付いた。

 

「賢明な君なら気付いておるじゃろうが…」

 

これが、世間に割れれば大騒ぎになるだろう。きっと、今のままではいられない。

 

「もし君が所望するか、又は自分が虚無であることを黙秘できないというのなら、君の記憶も消すことも視野に入れておる」

 

先程のシエスタのように。情報統制は、敷かなくてはならないのだろう。更に、オスマンはフラットに向き直った。

 

「当然、君もこの事は内緒じゃ。最も、君の場合は儂の魔法が通じるかはわからぬから、最悪一戦を交えることになるわけじゃが」

 

これは、ルイズやフラットにも分かるほどに嫌そうな表情をしていた。多分いい勝負以上の事になって面倒だという事なのだろう。フラットは、胸を叩いてもちろん言いませんと宣言した。

ルイズは、怪しげな目でフラットを見たが、再びオスマンを見た。

 

「ミス・ヴァリュエール。君はどうかね?」

 

此処での忘れるという事は、逃げに相当するのではないだろうか。それは、ダメだ。与えられた以上は、例え記憶を消されても消えるものではなく、そして管理の責任がある。貴族は、高貴の義務(ノブリス・オブ・リージュ)を果たさなければならない。

立派な、貴族に。立派な、メイジに。いつしか、その二つを分けて考えるようになっていた自分に少々驚いた。しかし、それは正しく別れた事象なのだろうという事も理解できた。

そして、決意も固まった。

 

「オールド・オスマン、私は一切を口にしないと、ヴァリュエール公爵家の家名に誓って宣言いたします」

 

オスマンは、満足そうに頷くと、時期が来るまで、そう言って保健室を出て行った。フラットが、大きく息を吸った。

 

「あー緊張したぁ!」

「あんたでも緊張なんてするのね」

 

とても意外だった。この調子ならギーシュが禁欲生活を送る日も近いだろうか。

 

「だって!師匠を軽く超えて俺に迫りそうな魔力とあの安定性!もし戦ったら死んじゃいますって!」

 

そもそも、杖を交えるところまで行くのがおかしいわけだが。

 

「相変わらず的外れねぇ…まあいいわ。体の調子はどう?」

「もう大丈夫です!心臓が潰れるくらいなら何とかなりますから」

「あんた人間で良かったのかしら?」

 

それはもう、と頷くフラットの言葉は、冗談だと思う事にした。

 

「じゃあ、次の授業から出席しましょう。わざわざあんたの為に休んであげたんだからね」

「はい!すっげぇ感謝してます!」

 

イマイチ、締まらないなあと思いつつも、ルイズは自分が笑っている自覚があった。何があってもいつも通りの使い魔が、嬉しいのだろうと、他人事のように思った。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

一週間ほどが経過した。本日、フラットは頭を押さえてふらふらとルイズの部屋の前に立ち、今扉を開けようとしていたのだが…

 

「あれ?確かミス・キュルケの…」

 

サラマンダーのフレイムが、フラットの服の端を咥えて引いていた。

 

「構って欲しいのかな?」

 

フラットは片膝をついて、フレイムの顎を軽く掻いた。フレイムは、嬉しそうにのどを鳴らした。続いて頭の大きな鱗を撫でる。フレイムは嬉しそうに鳴いて、頭をフラットの足にこすりつける。

楽しくなってきたフラットが腹回りをわしゃわしゃと触ると、床にごろんと転がってしまった。フラットがそのままフレイムの柔らかいお腹を撫でていると、いつの間にか傍らにキュルケが立っていた。

 

「ね、私とも遊んでいただけないかしら」

「すいません!そういうの、使い魔的に良くないかなぁって思います!」

 

フラットが言い終わると同時に、ルイズの部屋のドアが轟音を立てて開いた。

 

「良く言ったわ!うちの使い魔を返しなさいこの牛女!」

「貴方が剣を振るった時のあの姿…私、痺れちゃったの…」

 

抱き着こうとしたキュルケの体を、フラットがなるべく様々な部分に触れないよう支えた。キュルケは目を潤ませたのだが、フラットの側面から拳が飛んだ。

そして、翌日の朝、フラットが待つ部屋にルイズは帰ってきたのだった。

 

「やっぱりあの牛女と関わると碌なことが無いわ」

「拳はいけませんよね」

 

フラットは遅めの床に就いたが、数分で復活し一緒に食堂へ向かった。道すがら、ルイズがツェルプストー家の悪行三昧を並び立てているところへ張本人が加わり、フラットは厨房へ強化魔術を駆使して離脱した。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

マルトーから今までの数倍の好意を一身に浴びているフラットは、東方から届いたスパイスで作ったというスープとパンを食堂で口にした。なんでも、食堂で新しいメニューとして研究中らしく、『我らの剣』に食べさせるのに十分な味になったために出してみたらしい。

 

「おいっしいですね!カリーじゃないですか?」

「ほう!俺が聞いた時は名前が良くわからなかったんだがな、味の感想から作ってみたがどうにも難しい。ようやくって時さ、お前さんが来たのは」

 

どうやら、マルトーは昔隊商から聞いた東方の食べ物を味の感想とありあわせのスパイスで作ってしまったらしい。所謂小麦粉などを加えたイギリス式カレーであった。

 

「シエスタ、アルビオンの古いのがあったか」

「でもマルトーさん、これは…」

「馬鹿、お前が『我らの剣』に注いでやんな!それでお前も一緒に食え!」

 

仕事は既に終わっており、厨房でみんなが一斉に食事を始めた。シエスタは、少し顔を赤らめながらフラットの持つ器にワインを注いだ。マルトーによると、今日の試作品はこのワインに合うように作っているらしく、フラットは絶賛してシエスタにも注いだ。

赤ワインの値段を知っているシエスタは、おっかなびっくりワインを飲みながらカレーを掬い、頬を抑えて笑っている。

厨房のひと時は、あっという間に終わった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「明日、買い物に行きましょう」

 

ルイズが、授業終わりにそう切り出した。明日は虚無の曜日と言う学院の休日らしい。学院に近い町まで、買い物に行こうというのだ。

 

「あんたお金は…無いわよね」

「ありません」

 

具体的にはポンド紙幣しか手元に無い。

 

「まあ、使い魔のお金はご主人様が払ってあげるわ」

「流石主人様!俺称号考えたんですけど、どれが良いと思います?」

 

列挙された称号の中で、一番マシなのは『スーパー☆トリステインスター』だった。とりあえずフラットには称号を付けることを禁止し――自覚が無かったかのように愕然とした――自室でフラットに語学を教え始めた。

このところ、ルイズはフラットにハルキゲニアで使われている公用語を教えていた。フラットの覚えは非常に早く、そろそろ教えることが無いと少し寂しい思いもしていた。言葉が最初から通じていたのは、きっとルーンの力だろう。しかし、文字の方は残念ながらわからなかったらしい。

フラットは驚くべきことに使い魔のルーンを解析し、仮説に太鼓判を押した。

 

「じゃあ、次は歴史でもやりましょうか」

 

座学で習う項目は、ルイズの得意中の得意である。二人は足早に図書館に向かった。

 

「うわあ…これは脚立が必要ですね」

「私たちにはね」

 

大樹のようにそびえたつ本棚の高さは、優に5メートルはあったかもしれない。目的のコーナーは、比較的下の方に会った。フラットが背伸びをすれば届くくらいである。

イスを並べて歴史書を読む二人を、青い影がちらりと見ていた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

虚無の曜日。キュルケはいつも通りに化粧を終え、制服にどうにか体を押し込んでいた。無論パーツが大きいが為である。昨日の朝に、苛立ち紛れに吹き飛ばした窓に、ふと目がいった。

それは、恋愛至上主義のツェルプストー家の血が起こした直感だったのかもしれない。眼下には、一緒の馬に乗って駆けていくルイズとフラットがいた。瞬時に時間と速度の計算がなされ、キュルケは友人の部屋に走った。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

タバサは、虚無の曜日が好きだった。誰にも邪魔されず読書が出来るからだ。図書館から借りた一冊から栞を抜き、日差しの下で開く。タイトルを見たタバサの顔が、おそらく誰の目にもわからないであろう程度に綻んだ

。題名は、イールヴァティの勇者だった。

 

不意に、ドアから打撃音がした。次の瞬間、タバサは杖を握って短く詠唱し、『サイレント』を唱えた。周囲の音を遮断する魔法である。

取り戻した静寂の元で、タバサは再び文字に意識を没入させていく。

 

「」

 

本が、取り上げられた。読書を辞める気は無かったので、呪文を解くことも無く時計を指さした。しかし、納得した様子は無い。仕方なしに、タバサは呪文を解いた。

 

「わたしだってあなたにとって虚無の曜日がどんなに重要な日なのかはわかってるわ。でもね、今はそんなこと言ってられないの!恋なのよ恋!」

 

さっぱりわからない、という風に、タバサは首を傾げた。

 

「そうね。あなたは説明が必要よね。あたし、あのヴァリュエールの使い魔に恋しちゃったのよ!でね?あの二人今日は出かけちゃったのよ。どこに行くのかすごく気になるわ!」

 

まだ自分が指名された理由が示されていないために、タバサはもう一度首を傾げた。

 

「馬なのよ馬!あなたの使い魔じゃないと追いつかないの!助けて!」

 

ようやく理解した。それなら仕方ないと、タバサは窓を開けて口笛を吹き、窓から飛び降りた。キュルケもそれに続く。落ちる二人を支えたのは、一頭のウィンドドラゴンだった。

 

「いつ見てもすごいわね、あなたのシルフィードは」

「方向は?」

「あっちよ」

 

キュルケが指さした方向へ、タバサはシルフィードを向かせた。

 

「馬一頭に人間が二人。食べちゃダメ」

 

ウィンドドラゴンは、短く鳴いて肯定を示し、風をその両翼が捕まえた。タバサは、指示を伝え終わると『エア・シールド』を前面に展開し、キュルケから本を取り返した。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

先にブルドンネ街に到着したルイズとフラットは、まず服屋に行った。流石にマントは必要ないと固辞したフラットに、ルイズはため息をつきながらフラットの注文した服を見た。

センスが良いのが逆に神経を逆なでしているようだ。

 

「まあ性格が欠点よね」

 

完璧な人間は居ないという事らしい。フラットは、そうは思っていないようだがかなりの完璧超人であるとルイズは考えている。しかし、ご多分に漏れずフラットには正確という著しい欠点があった。貴族としてはダメだろう。

余りに緩すぎるからだ。それに、視点がどこかずれている感じもする。

 

「あんまりですよ!俺のどこがそんなにダメなんですか!?」

「そういうところよ」

 

フラットはがっくりと項垂れた。店主が持ってきた服をフラットに見せ、これもどうかと問う。既に在る分なので、安くなるのだという。

 

「あ、大丈夫です」

「じゃあこれとさっきのを」

 

思ったより金貨が減らなかったので、ルイズは次の店へと向かった。

 

「ここって…」

「そう、武器屋よ」

 

汚い裏通りを抜け、辿り着いた場所はさびれた武器屋であった。店内には、パイプをくわえた中年越えの親父が胡散臭げにルイズたちを見ていた。紐タイの五芒星に気が付いた店主は、パイプを口から抜いた。

 

「貴族の旦那。うちは真っ当な商売をしてますぜ。お上に目を付けられるようなことなんかこれっぽっちも」

「客よ」

 

腕を組んで言うルイズの姿には、妙な貫禄があった。

 

「私じゃなくて、こっちが使うわ」

「下仕えに剣を持たせるのでも流行ってるんですかねぇ」

「私は剣の事は良くわからないから、あんた達に任せるわ」

 

磨り手をしながら奥に消えた店長は、まずレイピアを持って来た。

 

「最近は盗賊がこのトリステインの城下町を荒らしておりましてね、貴族しか狙わねぇもんだから、貴族が下僕にまで剣を持たせているらしいですぜ…となれば、まずはこれです」

「あんたが振ったら折れるんじゃない?」

 

ルイズが下げさせようとすると、店主は胡散臭げにフラットを見、そして今度は太いいかにも丈夫そうな大剣を持ってきた。

 

「この店一番の業物ですぜ。ゲルマニアのシュペー卿が鍛えたもんでして」

 

装飾が施された、見事な剣だった。フラットが、柄を握る。

 

「あ、ご主人、ダメですこれ。硬くて大きいだけですよ」

 

なんでも、ガンダールヴには武器の知識を与える機能が有るらしい。今度はそれを知るルイズが、店主を胡散臭げに見る。店主は、慌てて手を振った。

 

「いえいえ、正真正銘本物のシュペー卿の作品です!エキューでも2千はしますぜ」

「そんなに!?そんなでかくてピカピカしてるだけの剣にですか!?」

 

まだ金貨が500枚程はあるのだが、と思いつつ、ルイズは吹き出した。

 

「そうね、気に入る武器があるか他のところに行ってみましょうか」

 

買い物の駆け引きとしては、それなりに正しかった。財布の中身が知られるべきではないのだ。ちなみに全くの偶然である。

 

「待ちな!おいらを買っていけ!」

「凄い!剣がしゃべってるし魔術によるものだ!」

 

凄まじい速度で、フラットが剣の山の中から一本の錆びた剣を取り出した。

 

「インテリジェンスソード…」

「煩くてかなわねぇんです…あれなら100…いや、50でも構いませんぜ」

 

商談を進めるルイズと店主をよそに、フラットと魔剣は会話を続ける。

 

「おめえ、細いのに見どころがあるじゃねぇか。しかも使い手だしよう」

「インテリジェンスソードさん、名前はなんていうんですか!?」

「おう、俺はデルフリンガーさ」

「凄い!超クールっすね!ご主人、このデルフリンガーさんにしましょうよ!」

 

ルイズは、もっと静かで見栄えが良い物にすればどうか、と言ったのだが、煩い二人組が大反論した。仕方なく、財布に優しくという事でデルフリンガーが購入された。

 

「どうしてもうるさいと思ったら、こうやって鞘にしまっちまってくだせぇ」

 

店主がデルフリンガーに鞘をかぶせると、確かに音がしなくなった。フラットは速攻で鞘をはぎ取った。

 

「いやぁ、良い買い物をしたなぁ」

「そんなもんが?」

 

フラットは、蓄積した神秘がどうだの内部の構造式の魔力炉だとか第三魔法だとか意味不明な話を展開し、ルイズはフラットの頭に鞘をぶつけた。

 

後日、町裏の武器屋では七割五分も引いちまったと泣く店主の姿が確認されている。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「フラット…この剣、どうかしら」

「いえ、こっちのデルフリンガーさんの方が良いですね」

「そうだそうだ!俺の方がそんななまくらよりずっとすげえだろう!」

 

ルイズの部屋には、キュルケが押しかけてフラットに金貨3千枚を負けさせた大剣を売りつけていたが、フラットは頑としてデルフリンガーを推し続けた。

 

「ほら、こんな風に一瞬で刀身が奇麗になったりするんですよ!」

「おでれーた!そういえばそんなことも出来るんだったな!」

「どういう事よ!どうしてそんな魔剣が金貨50で手に入ってるわけ!?」

 

ルイズが、椅子の上に立って自分の頭を指さした。顔には、愉悦に染まった笑みが浮かんでいる。

キュルケはルイズに掴みかかり、二人揃って椅子から落ちた。

机を挟んで反対側では、剣と話の輪を広げるフラットとキュルケに連れてこられたものの、読書を続行するタバサという平和ぶりだった。




笑い回ですね。実際にキュルケの交渉術は凄い。七割五部とか泣く。
次回は学院内でのフラットの立場の推移とフーケ編ですね。
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