ゼロの使い魔~天恵の忌み子と共に~ 作:MS-Type-GUNDAM_Frame
トリステイン魔法学院では、早朝から開戦の狼煙が上がっていた。
「だからあんたはタバサと一緒に食べなさいよウチのフラットに構うな!」
「そんなこと言われると悲しいわぁ…ねぇダーリン?」
フラットを後ろに庇いながら、ルイズがキュルケへ吠えかける。キュルケは、ディフェンスにまわったルイズの隙を探しながらフラットへしな垂れかかろうと狙っているのだ。
今日、遂にフラットはアルヴィーズの食堂に席を用意してもらえることになったのだ。マルトーなどは露骨に悲しんでいたが、通常の感性に則ると栄転であり、シエスタのようにおめでとうございます、と声をかけるのが正しい。
そうして二匹の狼、或いは犬が競い合っているのはフラットの隣の席であり、今日の朝はどうやらルイズが勝利を収めたようだ。
「ふーっ、ふーっ、やっと勝ったわ」
「早くしないと冷めますよ!」
「あんた今度は手すりを滑るんじゃないわよ!?」
昨日、ふらっとは階段の手すりを滑って降りているところを教師に発見され、ルイズが散々に怒られたのだ。
「今日はやりませんよ!」
そう言ったフラットの両脚に淡い光が走った。魔術の基本中の基本、強化である。ただし、魔力のコントロール技術と総量に比例して強化の魔術は威力を増す。特にフラットであれば、100m9秒台も易々とこなすだろう。
「それもダメに決まってんでしょうが!」
ぜーぜーと息を吐きながら、ルイズはフラットの後を追ってアルヴィーズの食堂へと入った。フラットは既に席に腰を掛けており、真正面に座っているギーシュに声を掛けられていた。
「やあ、今日もなかなか決まっているね、フラット」
「そうですか?そんな事よりそこのローストビーフを取ってくれません?」
「そうだとも、これかな?そら…君なら、王都の子女でも放っておかないだろう」
フラットはかなり話半分にギーシュの話を受け取っているのだが、ギーシュは飽きることも無く話しかけ続けている。なんでも、決闘の後に彼こそが貴族に相応しい精神の持ち主だの始祖の恩寵を賜っているに違いない魔法だのと騒いでいたらしい。
一時期は正体を隠したエルフではないか、などと噂になっていたのが鎮火したのは、ギーシュのおかげも少しはあるのかもしれない。
ルイズは、そんなことくらいはあるかもしれないと考えながら席に着いた。
「そうそう、最近王都近辺ではメイジの義賊が出ているそうだ…」
「どこかで聞いたわね」
記憶を手繰ってみると、どうやら武器屋の主人がそれらしいことを言っていた。
「なんでも、推定トライアングル以上の土メイジだそうだ。君のように、誰しもが精神性と技量が両立しているわけではないという良い例だね」
それを聞いたフラットは曖昧に笑っていたが、ルイズの心には引っかかる話ではあった。トライアングルといえば、相当なエリートである。それが、陛下から賜った領地の経営をするでもなく義賊、というのは面白くない。
「ご主人、食べないんですか?」
「そうね、折角勝ち取ったわけだし…」
ルイズは、机上のワインボトルとパン、サラダを取った。いつも通りに、陛下と始祖へ感謝の言葉を述べ口をつけた。マルトーも、口は悪いが腕は本物である。
食事をとりながらフラットやギーシュ、デルフリンガーと話している内に、いつしか義賊の事はすっかり頭から抜け落ちていた。
◇◇◇◇◇◇
食事を終えたルイズとフラットは口を濯ぎ、教室へと入った。今日の授業は数年前から赴任している水の中年男性教師による薬学の授業だった。
「つまり、秘薬の投入する順番は薬の効能に大きく関わるわけであり…」
ルイズは、いつも通りに真面目にノートを取り続け、フラットは楽しそうに逐次情報が追加される黒板を見ている。
そんな二人を、後ろの席から非常に《良い》笑顔で見ていた。分かる人が見ればルイズに警告を送ったであろうが、残念ながらルイズの周囲にそういったタイプの人間はキュルケその人だけであった。
◇◇◇◇◇◇
宝物庫の壁に張り付いたフーケは、周囲の視線に気を配りながら壁面を構成する黒曜石をディクトマジックで調べていた。ある情報源によれば、固定化の魔法が解除不可能な強度である以上、強力な物理攻撃が弱点だろうという事だった。
「とは言ってもねぇ」
確かに、固定化の魔法は強力だった。ほぼ間違いなく、オスマンが掛けたものだろう。手応えから推察するに、土のスクエアの錬金ですら弾くのではないだろうか。
しかも、明らかに壁の厚さが自分の用意できる限界の力を振り絞らねば不可能だろうというレベルだ。今のような昼日中では到底不可能と言える。
フーケは、宝物庫の攻略情報について述べた中年の火メイジの顔を思い浮かべため息をついた。
「まあ、夜に馬を用意してリトライするかね」
至極妥当な作戦を立て、フーケは何処へか消えた。
◇◇◇◇◇◇
「決闘よ、ルイズ」
風呂上がりのルイズに、キュルケが据わった眼でそう言った。
「だってズルいじゃない!私のダーリンと一緒に朝ごはんも昼ごはんも食べるし!挙句授業でも隣ですって!?」
「フラットは私の使い魔じゃないの!」
正論だった。恐らく100分の100の人間が認めるほどの正論なのだが、火が付いた『微熱』はそんなものでは鎮火しない。
「だから!この決闘で勝ったらアタシがダーリンを貰うわ!」
「そう…それで、どういうルールでやるの?」
一瞬で同様に目が据わったルイズを、フラットとデルフリンガーがひえぇと言いながら見ていた。
「そうね…的当てなんてどうかしら」
「狙った的に当てた数が多い方が勝ち…」
止めなければ、暗殺事件に発展しかねないと判断したフラットとデルフリンガーは同行した。
「なあ相棒、どうしてこんなになるまで放っといたんだ?」
「僕にもさっぱりです」
前を征く二人は視線こそ交わさないものの、間にドス黒い何かが確実に見えた。あっという間に裏口に辿り着き、せせらぎの水が流れるが如き淀みなさで
「三回勝負、目標はあの木よ」
「解ったわ」
およそ10メートルほど離れた地点に、数本の梢が並んでいた。
「じゃああたしから行くわ」
短くルーンを紡ぎあげたキュルケは、瞬く間に一抱えもあるような火球を作り出した。
火球は真っ直ぐに木立を目指して飛び、やはり遺漏なく木立の一本を焼き尽くした。先程のドス黒い感情の交感からか、精神力にはまだまだ余裕があるようだ。
「次は私ね」
まだ、フラットによる虚無用の魔法は組みあがっていない。また、虚無であることも隠さなくてはならないのだ。よって、ルイズが選んだのは木をこの距離から『錬金』することだった。
ごくごく短い、詠唱を済ませ、杖の先に魔力を集中。いざ!――
「あーーー!!!」
フラットが大声で叫び、照準がずれた。遠く、黒い壁の壁面で閃光が瞬いた。そしてルイズが事の顛末を理解した次の瞬間、フラットの体は宙に持ち上がっていた。
「あんたまさかとは思うけどあの
「違いますって!向こう側に怪しい奴が!」
フラットがルイズの首筋に手を触れると、自分の物でない視界が見えた。確かに、黒いローブに身を包んだ何者かが壁に張り付いているのだ。
「あれ、さっき私の魔法が当たった…」
「あそこ、確か宝物庫よ!?」
流石、キュルケは宝物庫の位置を把握していた。そして、距離を詰めるために走り出した三人の顔はすぐに上を向いた。
「冗談でしょ…」
だれが呟いた言葉だっただろうか。小さな音は、聳え立つ学舎ほどに巨大なゴーレムの背景の夜空へと溶けて消えていった。
更に悪いことに、ゴーレムは動いている。ゆっくりと振り上げた小さな小屋ほどもある拳を、壁にたたきつけ始めた。そして、僅か数回の衝突でヒビが広がりきるかのように壁は割れた。
ゴーレムの肩に立っていた術者が、すっと穴をくぐった。
穴から出た盗賊は大きな長物を抱え、ゴーレムの肩に再び乗った。
次の瞬間ゴーレムは崩れ、惚けていた三人の顔に大量の土ぼこりを降らせた。
周囲に教師たちが集まり始めた頃になってようやく、ルイズはフラットが顔を驚愕に染めていることに気付いた。
驚いたが、フラットはまた良くわからない事を呟いていた。
「あれは、グレイさんの持っている『影』なのかな…」
破壊の杖、どう読んでも最果てのアレ。
なおグレイの呼び方は知らないのでオリジナルです。