ゼロの使い魔~天恵の忌み子と共に~ 作:MS-Type-GUNDAM_Frame
ということで再開します。
ヒハンコワクナイ
早朝。
白んだ青空の元、トリステイン魔法学院の宝物庫下では仮眠から帰ってきたルイズ、キュルケ、フラットが整列させられていた。
「では、巨大ゴーレムが壁を破壊し、黒いローブの人物が宝を持ち去った、という事かね?」
「はい、学院長」
オスマンの質問に答えるルイズは、眼の下に薄っすら隈が出来ている。
「随分な長物に見えましたわ」
「うむ、紛失したのは我が学院に納められていた『破壊の杖』と見て間違いないじゃろう」
一つ、ため息をついたオスマンは、宿直であったシュヴルーズを非難していた教師陣に咳ばらいを一つする。
「さて、気持ちの整理というものもあろうから、口汚くもなるじゃろう。しかしじゃ。我々のうちに、真面目に宿直をこなしたものが何人いたじゃろうか。大方、学院の存在感に頼り切っていたのではないかね。
ならば、責任は我々の全員にあると言うべきじゃろう。今は、過ぎたことよりも必要な事を進めるのじゃ」
感激したシュヴルーズがオスマンに抱き着いた。オスマンが尻に触るが、シュヴルーズはそこまでは許容出来たらしい。しかし、続く二言目でオスマンは錐もみ一回転を決めて着地した。
実は場を和ませるために尻を撫でていたのだが、予想に反して叩かれなかったために一言追加したのである。
「コホン、まずは、我々の内から捜索隊を組まねばならん。誰か、立候補者は居るかね?」
オスマンは教師陣を、特に一人を見るが、誰も杖を上げない。男性教師の一人が、オスマンに疑問を呈した。
「何故王宮の騎士団へ通報しないのですか?」
「それで通達が届いたころには、フーケはロバ・アル・カリイエまで行っておろうな」
それに、学園に王宮の者の手が入ることは望ましくない、とオスマンは続けた。
王宮で部隊を派遣した者が、学園で権勢を振るう展開は教育上望ましくない、というのがオスマンの見解だ。
一応の正論に、教師陣が再び黙り込む。そこへ、息を切らして秘書が走り込んできた。
「れ、連絡します!」
「おお、ミス・ロングビル。どうしたのかね」
息を切らしたロングビルに、教師が生成した水を渡す。上品に水を口に含めたロングビルは、報告を始めた。
「此処から二時間ほどの森の奥に、黒いローブの人物が入っていくのが目撃されています。そこがフーケの拠点と見て間違いないかと」
「ふむ…お手柄じゃ。君はフーケを付けていたのかね?」
オスマンが、柔らかく微笑みながらロングビルに尋ねた。
「ええ。私が忘れ物を取りに行っている時に大きな音がしたものですから、馬を借りて魔力を追いました」
「そうか。君の給料の額を考え直さねばならんかの…」
オスマンの一言に、ロングビルは笑った。笑って、もう一つ尋ねる。
「これは、どのような状況なのでしょうか」
「捜索隊を組もう、としていたところなのじゃが、どうやら奪還部隊が必要になったようじゃの」
その一言を聞いて、いよいよ教師たちの顔色が変わった。いくら魔法に関する研究や教育に関わっていたとしても、戦闘など門外漢である。況してや、相手は世間を騒がせる盗賊・フーケ。やはり、手は上がらなかった。
教師からは。
「私、やります」
「ミス・ヴァリュエール!?しかし君は…!」
「いえ、ミスタ・コルベール。私と、私のフラットがやるんです!」
「ですよねー」
そういう事なら、と、フラットも手を上げる。デルフリンガーも、やる気満々といった風に柄をカチャカチャと鳴らす。
「ヴァリュエールに負けられないわ!」
「そういう事なら、私も」
更に、キュルケとキュルケに引っ張て来られたタバサが続く。コルベールは、いよいよ困った顔をしてオスマンを見るのだが…
「ふむ、引率付きであれば、という事で許可しよう。その引率役は…」
「私が適任ではないでしょうか」
挙手したのは、ロングビルだった。
「私が調べてきたのですから、私が最も上手に道案内できるでしょう。如何ですか?」
「確かにその通り。では、諸君の健闘を祈る。馬車は、わしから話を通してあると言って借りていきなさい」
ざわざわと声が響く現場を後にして、一行は学園出口へと向かった。
「馬車は私が」
「ミス・ロングビル、貴方が?」
これでも色々体験して来ていますから、とロングビルは笑った。
天井の無い馬車だが、二時間程度ならと全員が台車に乗り込み、馬車が鞭の音と共に走り始めた。
「フーケは恐らくトライアングル以上の土メイジ。こうした方が良い」
口笛で、タバサのシルフィードが馬車の上に着く。見張りを、というタバサの指令に頷いて、シルフィードは高度を上げた。
「素晴らしい使い魔をお持ちなのですね」
「ありがとう。でも…」
でも、に続く言葉を、タバサは発しなかった。一番付き合いが長いキュルケですら予想がつかないらしく、首をかしげる。
「あんたはあのサラマンダー連れてこなかったの?」
「今回はフレイムがいると不味いじゃない?」
キュルケは木製の馬車を指さした。
「燃え移るわね」
「火だるまになりますね」
「そっちこそ、ダーリンを連れてきてありがとう!」
短い攻防があったが、ロングビルの馬車が壊れるので、という静止の声でフラットは二人から隔離された。
「あんたのせいで!」
「そっちこそダーリンを独り占めしてずるいじゃない!」
「ストップ!本当に馬車が壊れますから!」
昨夜のテンションに近い物を感じたフラットは、暗示で二人を眠らせた。
「今、どうやったの?」
「えと、こう、体を極度にリラックスさせて眠らせた感じですかね?疲れてるみたいだからそれだけで眠っちゃうんですよ」
そんな技術が、とタバサが驚いた顔をした。
「坊ちゃんは何処の出身なのですか?」
「イギリスっていう国です!聞いたことないですよね?」
「アルビオンにそういう名前の町があったかも…いえ、国でしたら存じませんね」
それから約一時間半、フラットが語る摩訶不思議なイギリスという国についての話をロングビルやタバサが耳を傾けていると、ロングビルが目的地への到着を告げた。
「その、ビッグベン☆ロンドンスターというのは?」
「はい、俺の…」
「二人とも、到着しました。此処からは歩きですから、お二人を起こしてください」
フラットが二人の肩を叩くと、ううんと伸びをしながら二人が起きた。
「此処からは歩きだそうです。すっきりしました?」
「あたし、いつの間に眠ってたのかしら」
「し、しくじったわ!ダーリンと話をして仲良くなる機会を逃すなんて!」
タバサのありがたい一撃を脳天にもらった二人が歩き出すまでに、五分ほどを要した。
「この森の中に、フーケの拠点が…」
うっそうと茂る森林を歩くと、小さな小屋が建っている。木造りで、おそらくは木こりなどが普段使っている小屋なのだろう。中には暖炉もあるが、火は灯っていなかった。
タバサが張ったサイレント・フィールドの内側でしゃがみながら、一行が小屋の中を偵察する。
「人間は居ないみたいですねぇ」
「確かに。人の気配はない」
ディクトマジックでそんなことまで分かるのか、と、驚きの声が上がる。しかし、タバサは既にサイレント・フィールドを使っているため、魔法に依存しない技術である。
そのことに気付いたキュルケが驚きの声を上げるが、ロングビルがすくりと立ち上がった。
「では、私が中を見てきましょう」
「そんな!一人でなんて危険ですよ!もし罠が有ったら」
「見た感じ、魔法的なものは有りませんね」
フラットに、余計な事をするなとルイズが頬を捻った。
「ふいましぇんふい…」
「いえ、私も土メイジの端くれですから、罠くらいならどうにかできます」
そう言って、ロングビルは一人で小屋に入っていった。
「やけにこだわるわよね、ミス。何か思い入れでもあるのかしら?」
「さあ…あ、戻ってきたわよ」
ロングビルが腕に抱えているのは、大きな包みだった。
「本当にこれですか?」
フラットが尋ねる。
「何か違うの?」
「いえ、あの時盗まれた宝はもっと、こう…」
首をかしげながらフラットは包みを開いた。
「あ、これですこれ。うわ、凄いなぁ」
明らかに異常な、内包された神秘、魔力。
「見れば見るほどグレイさんの持ってる影にそっくりだけど…」
何なの?これ。その一言すら出なかった。魔力の制御が下手だろうが、解る。解ってしまう。感覚を灼く程に発せられる魔力、人の作品とは思えないほどの造形、全てが尋常の外の物質だと教えてくる。
「これ…何?」
「風の魔力を感じる…」
おおよそ、人間に比較できる対象が浮かばないほどの力の発露に、口が回らない。
「これは、多分世界の楔…の、レプリカです」
解らない。周りも皆首をかしげている。というか
「こ、こんなに凄いものなのに…レプリカって…偽物ってこと!?」
「いえ、本物の影と言うべきか…難しいなぁ」
それは、世界の表と裏をつなぎとめる楔、その御影の影である。その概念的な存在強度故に、影にすら実体があり、更に下位の影を実体として生み出しているのだ。
「まあ、世界を支える大事な部品の影の影、ってところですかね」
「影…?」
「足元にあるじゃないですか!その影ですよ」
上手く整理が出来ていない気がするが、要するにこういう事だろうか。
「これは盗まれた物とは違うってこと?」
「いえ、これだと思いますよ。まず本物なんて人間には触れることも出来ませんし」
違った。でも、問題は解決したわけだ。
「そう。じゃあさっさと帰りましょう。わざわざ拠点を空けておいてくれたんだから、戦う必要は…」
突如、地面が揺れた。
「な!なんでもう帰ってくるのよ!」
「馬鹿言ってないで逃げるわよヴァリュエール!」
フライを発動したタバサとキュルケが、森の外へと二人を引っ張って飛ぶ。しかし、人間一人を運んでいるため、タバサはともかくキュルケはスピードが出ない。
「タバサ!シルフィードを呼んでちょうだい!」
コクリと頷いたタバサが口笛を吹いてシルフィードを呼び戻す。接近するシルフィードをゴーレムが叩き落そうとするが、巧みな動きですり抜け、タバサの傍に舞い降りた。
「ねぇ!ミス・ロングビルは!?」
「居ないわ!そもそもあんた達を捕まえただけで精一杯よ!」
唇を噛みしめて、ルイズとキュルケはシルフィードに乗った。
「マスター、あれ、フーケじゃないですか?」
若干目が光っているフラットが、ゴーレムの肩を指さした。
「でも変ですよね。だってロングビルさんと魔力の色が全く同じなんです」
「それって…」
飛び上がったシルフィードの背にしがみつきながら、ルイズはゴーレムの肩を凝視した。
「とりあえず、あの槍をもう一度拾わなくちゃいけません」
「キュルケ!あんた落としたの!?」
「精一杯だったって言ってるでしょ!?」
喧嘩の止まない二人に、タバサが呼びかける。
「杖の奪回が任務。それで良い?」
「ええ、やりましょう」
「フラット!ゴーレムをなんとかできる!?」
目標は、杖をもう一度手に入れる事。そのために、最も大きな障害がゴーレムなわけだが…
「一度フーケさんをゴーレムからはがしてもらえばどうにでも出来ますよ」
「流石に此処からじゃ無理よね?」
「いえ、フーケさんが剥がれれば制御を乗っ取れますから崩せます」
動き続けるゴーレムはフーケが直接触れており、魔力の流れが感知されているため干渉は出来ても乗っ取ることが出来ない。引き剥がすことさえできれば、距離は現状のままでも崩せる。
「じゃあ、まずはここから幾らか攻撃してみましょう」
そう言って、キュルケはフーケと思しき肩のフードへファイアーボールを放った。
「ち、動きが早いわ」
「腕が邪魔」
見事な速度で飛んでいったファイアーボールは、ゴーレムの腕に防がれた。
「マスター、あいつの肩に向けてファイアーボール撃ってみてください!」
「はぁ!?あ、あ、あんた何言ってんの?流石に今は成功しないわよ!?」
「違います!失敗で良いんです!俺が制御はやりますから、魔力と詠唱を用意して!」
ああもう、と髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜ、ルイズは杖を構えた。
「行くわよ!しくじったら承知しないわ!」
「任せてください!」
ルイズが、ファイアーボールの詠唱を始める。同時に、フラットがルイズの杖に触れる。
「―ゲームセット」
杖は狙われた方向に火炎を射出することなく、突如巨大な光球が二つゴーレムの両肩に現れた。
「今のうちに!」
「後で説明」
同時に、詠唱を完了していたタバサが槌状に先端を変化させたウィンディ・アイシクルでフーケを叩き落した。同時に、フラットが詠唱した。
「ゴーレムを少し離れさせて自壊させます!今のうちに槍を!」
フラットの腕が、幾何学模様に光っているのが夜だからか良くわかる。そして、フラットの宣言通りゴーレムは明後日の方向に走り始めた。黒フードは、魔法を切られた影響からかレビテーションが使えたようで、ふわりと地面に落ちて行っていた。
シルフィードが、地面ギリギリを飛ぶ。絶妙なコントロールで、破壊の杖の目前で減速した。ゴーレムが駆ける地響きが遠くなる。
殆ど停止した瞬間を見計らって、ルイズが、飛び降りて破壊の杖を抱えた。
「やったわ!」
「フーケはどうします?」
フラットが、破壊の杖、ルイズの両方に手を差し出した。
「この子が」
ゆっくりと降りてきているフーケは、なるほど。風竜からは逃げられないだろう。ふと、フラットはフーケと目が合った。フードの隙間から覗く緑色の髪は、確かにロングビルと同じだった。
「一件落着ですね!いやー、それにしてもフーケのおかげで竜に乗れてよかったです!」
「あんた怒られるわよ、いろんな人から」
一分後、シルフィードの口には縄でぐるぐるにまかれたフーケが、シルフィードの手には馬車が抱えられ、ゆっくりと学院に向かって飛行していた。
なんだか文章力が落ちてるような…
次回、破壊の杖編終了です。