Specialian's Life(スペシャリアンズ・ライフ) 作:パラレル。
「このシチューを食べていると俺はあの女に生かされている気がしてならねぇ。気分が悪い・・・自発的に呼吸して自分の意思で生きているはずなのに・・・。あの女に弱みを握られたまま生きているみたいだ・・・・・クソがッ!!」
夜のトバリが訪れ、外はシンと静かになっているとき、三芳有桜は自宅のアパートで夕食にしていた。
夕食はここの大家さんが作ってくれたシチュー。それを自分が炊いたご飯にかけて食べていたが、彼女は食べている間、大家さんの手によって無理矢理生かされているような気がして気が気でなかった。
自ら選んでこのシチューを食べているはずが、逆にシチューを食べさせるように誘導されているかもしれないと疑心暗鬼に陥っている有桜は無理矢理口にほりこんで食べていたシチューを食べるのを止め、外の景色を見ることに切り替えた。
(思えばあれから二週間か・・・・・。俺と大家・・・・・この関係が築き上げられたあの日からッ!!)
夜桜が所々見える夜景を黄色い目に焼けつけながらも有桜はつい二週間前・・・このアパートに引っ越してきたときのことを思い出していた。
大家さんと複雑な関係を確立させたあの時のことを・・・・・。
4月初頭。桜の木々が綺麗に咲きほこり、今まさに絶頂の頃合いの時に牛若如月は自分が管理しているアパートの前で何かを待ってそわそわしていた。
右往左往している彼女は時折腕時計を確認し、道路を覗き込むという落ち着きのない行動ばかりを取っていました。
彼女がそんな行動を始めてしばらくすると、一台のトラックがこちらに近付いてきて、彼女の前で停止した。
そのトラックは大手引っ越し企業のロゴが入ったものであり、停車した後作業員が下車し、荷台から大量の荷物をアパートへ運んでいった。
それから遅れて一台の乗用車がやって来て、そこから一家と思われる三人が現れ、彼女に近付いていった。
「どうも初めまして。これからお世話になります三芳有桜の母、三芳三葉(みよしみつは)です。そしてとなりにいますのが夫の史明(ふみあき)です」
「娘がこれからお世話になります」
「いえいえ、こちらこそ」
三葉と史明は大家である如月に挨拶をし、それに対して如月が社交儀礼の一環として返答したあと、二人の背後に隠れている存在に気付いた。
「こんにちは。有桜ちゃん・・・。私がここを管理している牛若如月です。よろしくね」
「・・・よろしく・・・お願いします。・・・大家さん」
内気な二人の娘、有桜は両親の背後に隠れながらも頭だけを出し、小さな声で如月に挨拶した。
恥ずかしながらも挨拶した有桜に微笑んだ如月はその後顔を有桜から両親に移し話し出した。
「それでこのあとのご予定はどうされていますか?」
「そうですね。運び出された荷物をある程度片付けたあとお暇するつもりです」
「そうですか。でしたら私はここで・・・」
「はい。お出迎えご苦労様です」
如月は三葉らの予定を確認したあと、ゆっくりとお辞儀をして自宅へと帰っていった。対して三葉ら三人は有桜の自室へ向かい、その部屋に運び込まれた彼女の荷物を整理しに行くのであった。
「ごめんね・・・急に出てっちゃって。ここの新しい住人さんのお出迎えをしてて・・・」
自室の104号室に帰った如月は唐突に弁明を言い、リビングにあるソファーの前で座っている男に微笑んだ。
その男は如月よりも年下のようだが、如月が話しかけてきたにも関わらずうつむいたままピクリとも動かなかった。如月はそんな彼の態度に目もくれず話し続けている。
「有桜ちゃんって言ってね、とても大人しくて可愛らしい子だったわ。雛人形として飾りたいくらい。もっと言えば、私が男の子だったら彼女にしたいくらいかな?・・・・・もう心配しなくても私はあなたの可愛い可愛い彼女よ」
色々な比喩表現を用いて如月は有桜の可愛さを説明するが、不動の彼が愛でられている有桜に妬いているように感じて照れくさくなり、彼の鼻っ先をツンと押した。
すると彼は押された勢いでそのまま倒れて後頭部を強打してしまう。それでも彼はピクリとも動かなかった。
「もう何してるのよ~~~。しっかりしなさい!」
如月は倒れた彼を見て呆れた後、中々起き上がらない彼の腕を掴み上げ、立たせようとする。
しかしこの時、捕まれた彼の腕からボキボキと鈍い音が聞こえ、上体を起こされた彼はすぐにまた床に伏せてしまった。
そんな“カレ”を見て如月は考えにふけた。だが、この時の彼女の目つきは非常に冷たく、さっきまでの生き生きした表情も今ではこわばっていた。
「あ~~あ。とうとう“この子”ともお別れか・・・。また別の素敵な男の子を見つけなきゃ・・・・・」
考えがまとまった如月は”カレ”の後ろの襟を掴むと、そのまま彼を引きずりながら自分の寝室に運んだ。
その寝室にはベッドや机の他に、数種類のノコギリや鉈が壁に掛かっていたり、液体窒素が入った頑丈な容器が隅に置いていたりしていた。
第三者を確実に絶句させる彼女の自室に”カレ”を放置した後、如月は天井を、正確には今日越してきた有桜の部屋を凝視していた。
「”カレ”を処理するのは三葉さん達が帰ってからにしましょう。折角会ったばかりなのにもう“お別れ”してしまうのはとても残念なことなので・・・・・」
「荷物もあらかた片付いたし、そろそろ私達は帰るわ」
「頑張るんだぞ・・・有桜」
「うん・・・分かった」
有桜達三人は部屋に入ってから今まで運び込まれた段ボールを開け、その中にある比較的大事な家具等を取り出し、有桜があらまし暮らせるように整理していた。
それが完了したため彼女の両親は帰る支度をし始めた。しかし母がそう言ったからだろうか、有桜の顔が少し陰って見えた。
そのため父の史明は顔を陰らせ不安がる有桜を慰め、元気つかせようと彼女を優しく抱きしめた。
父の温もりを感じた有桜は少し安心して笑顔を何とか取り戻した。
その後、有桜は車に乗って去る両親を見届けて、その車の姿が見えなくなるまで手を振った。その姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
そしてその姿が見えなくなると、有桜は物寂しさを覚えた。むろん自分を今まで支えてくれた親という柱を失い、これからは自分だけで立っていくしかない事への不安感は一人暮らしをしていく上で必ず起こること。
これを時間の経過や経験で紛らわせるのだが、彼女にはそんなものはない。よって人一倍有桜は不安感に襲われているのであった。
(だめだめ。しっかりしなきゃ!“こんなことになってしまったのは”元々私のせいなんだから・・・・・!よし!まずはご飯!夕食の用意をしないと!)
不安に襲われる有桜だが自分の両頬を叩き、今ある不安をとりあえずは消し去った後、気分を変えるためと空腹を満たすために夕食を食べようと考え、財布を持ってスーパーまでかけていった。
しかし彼女はまだ気付いていなかった。ここからスーパーまでは中々の距離があることに・・・。
その様子を自室の扉からこっそり見ていた如月は有桜が完全に出かけたことを確認すると、扉を閉じて作業にかかった。
鈍い音を何度もさせる作業を・・・。
「ああ・・・もうこんな時間だ。もう~~どうして引っ越してきた初日にこうもずっこけちゃうのだろう・・・」
時は黄昏時。アパートを出てから小一時間探した有桜だが、結局スーパーには辿り着けず、挙句の果てに道に迷ってしまってこのざまである。
新生活初日でこの調子では先が思いやられると一抹の不安を感じる有桜は刻々暗くなる路上をひたすら歩いていく。
「お困りのようですね。そこのお嬢さん」
「・・・!!」
涙と疲労で視界が歪んでいく有桜に後ろから声をかける者が現れた。
声をかけられた彼女は驚き、その瞬間彼女の紅色の眼が黄色に変わり、背後にいる者に敵意を向けるような眼差しを送るが、その正体を確認するために振り返る時には元の紅色の眼に戻っていて、表情も穏やかさを取り戻していた。
声をかけた人物は老体の割に背が高く、肉付きのいい体をして、白い口髭をたくわえ正装している紳士っぽい男性だった。
「はい・・・何か・・・」
「困っていたようなので声をかけた所存ですが、このわたくしにできることであれば、助太刀いたしますが・・・」
「えっと・・・実は道に迷ってまして・・・」
「ほぉ・・・でしたら、このまま右に曲がって自営業の雑貨店までそのまままっすぐ進み、そこから左に曲がって3ブロック進んで右に曲がればあなたのアパートが見えるでしょう」
優しい顔をしているその老人に少し警戒しつつも有桜は道に迷っていることを告げるとその老人は的確に彼女のアパートまでの道のりを教えてくれた。
そこまで丁寧に教えてくれた老人にお礼の一つでも言わなければならなかったが、有桜にはできなかった。否、それどころではなかった。
「・・・どどどどどうしてッ!私のアパートの場所がわかったんですか!?まだ何も伝えてませんよ!!」
「それはそうでしょう何故ならわたくしはあなたのストーカーなのですから・・・」
「ススススススス・・・ストーカー!?私の・・・ストーカー!?」
その老人が既に自分のアパートの場所を知っていて青ざめる有桜に老人は自分がストーカーであることを告白した。
それを聞いて有桜は尻もちをついて小動物のように怯え小刻みに体を震わせた。それを見て老人は不意に笑い出した。
「フハハハハハハ。いや失敬。実は君が財布を落としていたのでね。その財布の中にあった保険証から住所を確認したのだよ」
「えっ?あっ!ホントだ・・・落としてた・・・財布を・・・・・」
「気をつけてくださいね。財布は・・・大事ですからね」
急に笑い出した老人は懐から彼女の財布を取り出して彼女に見せた。
慌てて彼女は買い物バッグの中を確認すると財布がなくなっていて彼女は赤面した。
財布を拾ってくれた老人にお辞儀をした後、有桜は自分の財布を返してもらって、赤面したまま急いでこの場から立ち去り、老人は黙ってそれを見届けた。
「しかし不思議な子ですね。私が声をかけた時、瞬きする間もない一瞬のことですがこのわたくしに殺気を立たせるとは・・・あんな子ですらああだとこの町の危険度はかなり高いようですね・・・・・おや?」
その老人は声をかけた有桜が微かな殺気を立てたことに気づいており、この町の危なっかさを体験して少し憂いていると、ふと左耳につけている小型スピーカーから大きな音が聞こえてきた。その音から人間一人が何やら喚いているように聞こえてきた。
「全く・・・お嬢様は慣れないことをしますから・・・・・。早く帰宅してサポートしなければなりませんね・・・」
小型スピーカーから聞こえてくる声から察した老人は助け舟をかけるために踵を返した。
未だにスピーカーから聞こえる声にうっすら笑みを浮かべながら夕陽が紅く差す道を歩くのであった。
「はぁ・・・今日は自炊しようと思っていたのに結局インスタントかぁ・・・・・こんなので私・・・生活できるのかな・・・」
陽は完全に沈み、夜のトバリが訪れた頃合いに、有桜は買い物バッグを持ってアパートに戻ってきた。彼女が持つ買い物バッグにはここまでの道中で見つけたコンビニで買ってきた菓子パンやインスタント食品が入っていた。
慣れない一人暮らしでミスの連続をかましてしまう有桜は億劫になっており、これからのことが恐ろしく思い始めた。
親はもういない。誰も待っていない部屋へ重い足取りで進む有桜だが、階段に一段足をかけたときにガサゴソと何かが動く音が聞こえた。
有桜は怖がりつつもその音がする場所へ顔を覗かせた。
そこはアパートの裏で有桜が知る限りでは花壇と倉庫しかない場所であるが、そこで大家の如月が大きな袋を持って花壇の前に立っていた。
その花壇には大きな穴が空けられていて、如月の側にそれを空けたとされるスコップが置いてあった。その後如月は袋の底を持って、そのまま中身を穴の中に入れた。
(花壇に肥料でも入れているのかな・・・?)
一連の如月の行動を肥料まきと推測した有桜はそのまま部屋に戻ろうと階段をかけようとするが、「あ・・・!いけない」という如月の言葉に反応して踏み出した足を戻した。
何か大変なことが起きたかもしれないと思った有桜は再び如月を覗き見て、その後一気に顔面蒼白した。
有桜が見た光景は如月が袋の中身を外にこぼしてしまったところだ。ほんの些細な出来事・・・しかし、そのこぼれ落ちたものが凍った人間の頭部でなければ・・・。
“それ”は顔面が砕かれていて、誰かは判別できない。とてもじゃないが直視できる代物ではない。
しかし如月はそれを躊躇いもなく手袋をした手で掴み上げると「ばいばい・・・」と言って“それ”をまるでゴミ捨て場にゴミを捨てるかのような当たり前さで穴に投棄し、空いた穴に土をかけて埋め始めた。
如月の狂気じみた一連の行動に有桜は恐怖し、尻もちをついた。しかしその時、持っていた買い物バッグの中に入っていたパンやインスタント食品が擦れる音を出してしまい、その音で如月に自分の存在を教えてしまったと思い、腰が抜けた足取りで階段を上がり、自宅へと逃げ込んだ。
一方如月は遺体を埋めている最中に物音がしたため一旦作業を中断し耳を澄ませた。その後、急いで階段を駆け上がる音と扉を開閉する音を聞いて、如月は持っていたスコップを地面に刺し、有桜の部屋を凝視する。
(・・・・・有桜ちゃん。・・・どうやらあなたとは“お別れ”しなければならないようね・・・残念よ)
有桜の部屋を視界に入れながら苦い顔をする如月はすたすたと歩いて自室に戻る。そしてものの数秒で部屋を出た彼女は有桜と『大事なお話』をするために階段を昇っていく。
タグに「Rー15」と「残酷な描写」を追加しました。
まあ大家の暴挙をリアルに描こうとしたらそうなりますよね。