Specialian's Life(スペシャリアンズ・ライフ)   作:パラレル。

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第3話 三芳有桜と・・・その②

(どうして・・・どうして・・・なんで・・・・・こうなるの!?・・・助けて・・・助けて・・・誰か・・・)

 

 

大家である如月の見てはいけない場面を見てしまい、急いで部屋へ戻った有桜は扉にチェーンロックをかけて、小刻みに体を震わせながらも携帯を取りだし、ロックを解除していた。

このままでは如月に殺されると思った有桜は携帯で110番に連絡し、身の安全を確保してもらおうと考えるが、恐怖で指先が上手く動かず、ロックの解除に手間取っていた。

何回か失敗した後、何とか携帯のロック解除に成功し、いざ連絡しようとする矢先に部屋のチャイムが鳴った。

 

 

「有桜ちゃ~~~ん。開けて~~~」

 

 

如月が自分を呼んでいる最中、有桜はこのまま警察に連絡することも出来るが、大家を余計に逆上させないためにもチェーンをかけたままではあるが扉を開けた。

万が一にも自分が目撃したことに気付いていないかもと淡い期待を胸に有桜は扉を開けるが、その刹那僅かに開いた隙間から重い一閃が走り、チェーンロックが破壊されてしまう。

その一閃の正体はこれまた立派に研ぎ澄まされた斧。外灯から漏れる光に反射して禍々しく艶やかに光る刃がチェーンを断ち、床に深い切れ込みを入れたことから有桜の恐怖心を一層駆り立てた。

そしてそれを使役する大家の如月にこれ以上もないホラーを感じた。

 

 

「きゃあああああああああーーーーーーーーーー!!!あああああーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

「あ、り、さ、ちゃ~~~~~~~~ん・・・・・入るわよ~~~~~」

 

 

チェーンを破壊されて恐れ慄き腰を抜かしてしまう有桜に対して、如月はゆっくりと扉を開けて彼女と対面した。右手に斧を携えながら笑顔を決め込む如月はもう昼間の優しい大家というイメージを完全にぶち壊し、ただの殺人者であると誰もが思える威圧感を醸し出しながら有桜の部屋に入り、扉を閉めた。

逃げ場を失い、恐怖で錯乱している有桜は奥へ逃げようと踏み出すも玄関の段差につまずいて膝を強く打ってしまう。

 

 

「痛たたた・・・」

「大丈夫~~~?お姉さんが介抱してあげようかしら~~~?」

「いやあああああ!!!来ないで!!!助けて誰か!!!助けて!!!」

 

 

膝を打ってしまい上手く動けなくなった有桜に如月はジワジワと接近してくる。

近付く如月に有桜は必死に這って逃げるが、当然追いつかれて髪の毛を掴まれてしまう。

 

 

「痛い痛い痛い!!・・・やめて!!止めて大家さん!!殺さないで!!!」

「だ~~~め。静かにしてくれる?」

「~~~ッ!!!~~~~~ッ!!!」

 

 

自分の死を感じて涙をあふれさせる有桜は如月に命だけはと懇願するが、彼女は了承せず、有桜を壁に叩き付け、喚く口をあいている左手で塞いで有桜の体を斧の背でなぞった。

 

 

「有桜ちゃん・・・あなた本当に女の子?女装好きの男の子って線はないの~~~?・・・あら。意外に胸はあるのね。ウフフフ・・・ツンツン」

「~~~ッ!!!~~~ッ!!!~ッ!!!~ッ!!!~ッ!!!」

 

 

如月は斧の背で有桜の体をなぞりながら、彼女の体のつくりを確認し、彼女の背格好からしてよく育ち膨らんでいる胸をしていると知ると、幾度となく斧の背で軽くつつく。

斧の背とはいえ、有桜にとっては立派な凶器であるためいつ刃を向けられるか気が気でなく彼女は涙を流して恐怖した。

そんな彼女に如月は瞳孔が開いた顔を近づけて問いだした。

 

 

「不思議ねあなたは・・・。れっきとした女の子のはずなのにあなたから“男の子”の匂いがするのよ。どうして?なんで“男の子”の匂いがするの・・・有桜ちゃん?・・・まあ別段血眼になってまで知る必要はないけどねぇ」

「~~~~~~~~ッ!!!~~ッ!!!~~~~~~~~ッ!!!」

 

 

有桜の匂いが男が持つ匂いの特徴と合致しているところがあって如月はそこのところに興味を持つが、彼女を抹殺することの方が重要だったため、ここで彼女にあれこれ探求することは止め、右手に持つ斧を掲げていよいよ有桜の処刑執行の準備に入る。

とうとう死期が近付いて心の底から恐怖する有桜は最後の足掻きで如月の左腕を引っ掻いてみせるが、虚しくも有桜の力は如月にとってマッサージ程度の力のようで、全くと言っていいほど効いていない様子だった。

 

 

「無駄よ・・・・・あなたはもう助からない。死ぬのよ・・・。今更だけどここのアパートって防音機能がしっかりしていて大体の音は遮断できるのよ・・・近隣の人達が気付かないぐらいね・・・。まあ気付けるのは精々ここに住む住人だけだけど、その住人も私と同じ犯罪者まがいだから、ここの暗黙のルールとしてお互いの犯罪行為には不干渉にしようって取り決めているから“絶対に”あなたを助けたりはしないわ・・・」

 

 

有桜は最後の望みとして懸命に喚いて助けを求めるが、如月の発言を聞いて喚くのを止め、その表情は絶望の一色に染まった。

近隣の人達は絶対に気付かず、挙句の果てに他の住人はシカトを続けていることを知り、この状況で助けに来てくれる人は存在しない・・・自分は死ぬ以外の道がないことを悟り、大粒の涙を流しながら彼女はこの無情な世界を呪った。

死を受け入れたことで抵抗しなくなった有桜を見て不敵な笑みを浮かべた如月は斧を振り下ろし、彼女の脳天にその刃を食い込ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えッ!?・・・・・ブハ・・・な・・・なんで・・・・・?」

 

 

鈍い音と共に骨が軋む音が部屋中に響き渡ったが、その肝心の斧は如月の手にはなく有桜の手にあり、それを使役していた如月は右の脇腹を押さえて苦悶していた。

 

 

一体何が起こったのか・・・。苦悶している如月が覚えていることは自分が斧を有桜の頭に叩き入れるとき、有桜の左足が瞬時に動いて自分の脇腹に蹴りを入れたことだけだ。

だが更に言えば、その蹴りはさっきまでの彼女の筋力からは考えられないほどの衝撃が体中に伝わり、大ダメージを受けて今に至るわけだ。

 

 

有桜はさっきまで如月が所持していた斧を後ろに放り投げると、片膝をついて苦しんでいる如月の首を両手で掴み、そのまま扉に叩き付けられた。

扉に叩き付けられ首を絞められている如月は締め付けている有桜の両腕を振り解こうとするが、脇腹を蹴られ且つ扉に叩き付けられた衝撃や酸欠のせいで手足の末端部分に力が入らず、逃げようにも逃げられない状況になっていた。

有桜は華奢とは到底思えないほどの豪快な力で如月の首を締め上げ、今にも意識が飛びそうな彼女を見て悦には入り、不気味に笑い出した。

 

 

「くふふふふふ・・・。お互いの犯罪には不干渉・・・誰も助けには来ないかぁ~~~。いやはや実に・・・・・エクスェレンントだな~~~アハハ」

「・・・・・ッ!!い・・・イ・・・ヤ・・・・・ヤメテ・・・タスケ・・・コヒューコヒュー・・・テ・・・」

 

 

意識が朦朧とする中、如月は悦の表情を浮かべる有桜を見て戦慄した。その悦は恐怖心から来る錯乱によるものではなく本心から来るもので、その眼光は暗い闇の中で一層禍々しい黄の色を放っていた。

その黄色に輝く有桜の眼を見て如月は全身の震えが止まらなくなり涙を流さずにはいられなかった。死を感じざるを得なかった。命を乞わずにはいられなかった。

だが、もちろん人が変わったかのように凶悪化した有桜に通じるわけもなくより強く首を締め上げられた。

 

 

「散々ひとを殺そうとおいてそれはないだろう・・・。尤も匂いだけで俺の正体に気付きかけるお前は初めっから殺すつもりなんだがなぁ!!」

「や・・・ヤッパリ・・・・・アナタハ・・・男・・・の子・・・・・ナ・・・ナン・・・デ・・・・・」

「俺が懇切丁寧に教えてやるタマに見えるかぁ!?そのまま死ねよ!俺の平穏を乱す魔女が!!」

 

 

直感だったとはいえ如月の言い分は的を射ているため、有桜は何故女の子なのに男の子なのかと考える如月だが、頭に酸素が回らないため熟考することが出来なかった。

だが、一つだけなら考えがまとまった。それは助かる手段。

有桜が殺すのを躊躇う作戦を何とか決行するために最後の力を振り絞って閉めている彼女の腕を緩ませて気道を確保した。

 

 

「ガハガハコホ・・・ダメよ・・・私を殺せばあなたは絶対に後悔する・・・」

「ほざけ!正当防衛で殺人罪を問われるはずはねぇよ。最悪お前の部屋にある液体窒素を使って“彼氏”と同じ場所に埋めれば問題ねーよ」

「それはどうかしら?私の行方が分からなくなれば誰かが警察に通報する。そして私の部屋に入り、私が連続殺人鬼だとわかった場合どうなる?きっとニュースになって全国に広がるでしょう。そうしたら、一生このアパートは『殺人鬼が大家だったアパート』と呼ばれ続けるでしょうね!!」

「・・・・・ッ。キサマ〜〜〜」

「とてもじゃないけど・・・あなたが望む平穏な生活は無理でしょうよ。抜いても抜いてもしつこくまた生えてくる雑草のようにやって来るマスコミやヤジウマたちによってね!!」

「グヌヌヌヌヌ〜〜〜!!」

 

 

如月を殺すことで想定できる出来事について指摘されて表情が曇る有桜。

だが締め上げている腕の力は弱まるばかりか逆に強くなり、抗う力を使い果たした如月は口から泡を吹き出し、薄れゆく意識の中で自分の死を覚悟した。しかしその直後、有桜は如月の首から手を離し、彼女を解放した。

解放された如月は咳込みながらも全身に酸素を取り入れるために必死になって呼吸した。

 

 

「いいだろう。お前の口車に乗ってやるよ。俺も変な肩書きを持つのはまっぴらごめんだからな・・・・・とっとと消えな」

「あなたは二重人格者・・・違う?」

「・・・・・・・・」

 

 

血眼になって呼吸している如月に興味を失った有桜は自分が奥に放り捨てた斧を拾い上げて彼女に返そうとする。しかしその直前に如月は有桜が二重人格者であると指摘する。

 

 

あまりにも演技っぽくない二つの真逆の性格。紅色から黄色に変わる眼。急激に変化した筋力。

それらを照らし合わせるとそう結論付けざるを得ないと思う如月は確認を取ろうと有桜に問い出す。すると有桜はニヤついた表情をしながら振り返った。

 

 

「惜しい・・・・・だがいい線いってるよ」

「・・・えっ?」

「いや・・・そこまで思惟を巡らせなくていい・・・・・。別にお前に理解してもらいたいわけではない。だからこの斧を持ってさっさと俺の部屋から出て行きな!」

 

 

有桜は如月に意味深な言葉を言った後、彼女に斧を返した。返された斧を拾い上げた如月はかれの威圧的な視線に気圧され、そのまま脱兎の如く立ち去った。

そしてそのまま有桜の部屋から出た如月はまだおぼつかない足取りで階段を下り、やり残した後始末をつけに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝有桜は眼を覚ますと、体が妙に重だるかった。何かの反動かのように体の節々が悲鳴をあげていてとてもじゃないが動けたものではなかった。

しかし有桜は、今日中に昨日行けなかったスーパーの場所とその道のりを把握しなければならないので、重い体を起こして寝間着を脱ぎ普段着に着替えて部屋を出た。

部屋を出て一階に降りると有桜の体が硬直した。というのもアパートの広間にて如月が箒を使って掃除をしていたからだ。

 

 

「大家・・・・・さん」

「あらおはよう。・・・有桜ちゃん」

 

 

有桜は如月を見るとおぼろげな記憶が浮かんでくる。

昨日、花壇で如月が何かを埋めていた。その“何か”を思い出そうとしても中々出てこなく、それ以降の記憶もあやふやなので余計に混乱する有桜だった。

 

 

「あの・・・大家さん。昨日花壇で何をしていたんですか?」

「昨日?肥料を埋めていたのよ。知らない?肥料って振りかけるより埋める方がいいのよ」

「・・・そ・・・そうだったんですか。よかった。大家さんが何か恐ろしいことをしているかと思いましたよ」

「私もごめんなさいね。誤解するようなことしちゃって・・・」

 

 

記憶の転結がもやもやしているので思い切って聞いてみることにした有桜は如月に昨日のことを問い、如月はそれに対してうんちくを交えて答えた。

てっきり怖いことをしていたんじゃないかと疑っていた有桜だったが、ただの勘違いだと判明したため気持ちが晴れてそのままスーパーへと向かった。

 

 

しかし有桜はアパート前で一旦立ち止まり、半分だけ振り返った。冷酷と呼べるほどの黄色い眼光と眼差しをもってして・・・・・。

 

 

「・・・・・ッ!!」

 

 

如月は有桜のそれを強く感じ取って、背中に氷を入れられたような圧巻が体中に走り、そのまま腰が抜けて尻もちをついた。

有桜は昨日のことを何も覚えていないが『自分』は忘れていない。常にお前を見張っているということを物語らせるために『彼』が現れたのだと感じた如月は有桜の姿が見えなくなっても体の震えが止まらなかった。

だが昨日は気づいていなかったが、この震えは単に彼を怖がっている訳ではない。この震えは女としての感情を表している。つまり如月は『彼』のことを・・・・・。

 

 

「素敵ッ!!あの子は他の男の子たちとは違い、私の命を奪いかけるほど強く!!心までも私に売り渡すことなく自我を保ち続けるほど孤高で!!ああ~~~~~ん♡・・・彼のことを考えると興奮してきた・・・・・」

 

 

自分がかつて殺してきた男たちは皆如月の美貌の虜になり、必ず心と体を彼女に渡して死んでいった。

だが『彼』はそうではなかった。冷酷で残忍な『彼』は彼女の美しさに翻弄されることなく、確実に如月の命を奪いかけた。

そんな『彼』のことを思うと如月は下腹部が熱くなるのを感じ、同時に有桜に対して異常なほどの執着と献身の感情が暴走しかけているのを感じた。

 

 

そう・・・彼女は・・・牛若如月は、三芳有桜に病的なまでに惚れてしまっていた。

 

 

「あの子は私が殺すの!!それでいてあの子の手でなら殺されてもいい!!だからあの子は私だけのものッ!!誰にも渡さないし、殺させはしないッ!!」

 

 

如月の醜く歪み、それでいて強固なその執念は例え世界中が敵になったとしても、その全てを滅ぼしかねないほどドス黒くなっていき、徐々に有桜を独占しようとするまで深刻化していた。

もうこの状態だと仮に有桜に恋仲になりつつある者や有桜に危害を加えようと企む者がいれば、如月は難なく始末するだろう。

有桜を殺すことを目標とし、有桜に殺されることを至上の悦びだと思うまでに熱を上げている如月は頬を赤らめながら、出かけていった有桜が帰ってくるまで待ち焦がれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ううぅ・・・なんだろう・・・怖い。背筋に悪寒が・・・・・」

 

 

一方スーパーへ向かっている有桜は如月の常軌を逸した愛情の念波を感じ取ったのか、寒気を感じていた。

これから有桜と『彼』は見えないところで如月の狂った愛情を注がれることになるが、この時の二人は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

Case2. 殺戮の美女

 

数年前から男子大学生、男子高校生の行方知れずとなる事件がちらほら起こっている。

数ヶ月前に消息を絶った男子大学生の友人に話を伺ったところ、失踪する前にとてもスタイルの良い20代の美しい女性と一緒に歩いていたのを目撃したようだ。

警察もその友人の証言を元にその女性を事件の重要参考人として捜索したしたらしいが、結局該当する女性は見つからなかったらしい。

 

だが、詳しく調べてみるとほとんどの男子学生の失踪の背景にスタイルの良い20代の美しい女性が登場していた。

髪型や髪の色は全く異なっていたが、出てきた全ての女性の背丈は約160cmと証言してくれたため、彼女が変装していたとすれば、全てはその女性の一連の犯行であると裏付けできる。

 

これを見ている読者の皆さん。もし桜蘭市にお越しになった際はくれぐれも身長約160cm、年齢20代で、ルックスとスタイルが非常に良い女性を見かけた場合は速やかにその場から離れて、あまり深く関わらないようにしてください。

 


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