第十一作 エアーファッション
開発責任者:河城にとり
にとり「ついにできたぞ!」
雛「…それで?私をわざわざ呼び出してまで完成に立ち会わせたかったものって、一体何だったわけ?」
にとり「うん。これこそが、私の新しい発明品。エアーファッションさ!」
雛「これは…、何かしら。見たところ布のようだけど」
にとり「そ。布だよ。今回私は、今までにない素材を使用した全く新しい布を作ったのさ」
雛「新しい素材?」
にとり「素材は何かって聞かれたら、企業秘密だって答えるしかないんだけどねー。ま、どう新しいのかは持ってみれば分かるよ」
雛「どれどれ?………って、あら?私、今この布持ってる…わよね」
にとり「うん。持ってるね。見ればわかる」
雛「…全然持ってる感じがしないのだけど。え?なにこれ、軽いってもんじゃないわよ?」
にとり「そう。それこそが私の新発明。名前の意味、判っただろ?」
雛「なるほど。空気のように軽い布。…確かにこれで作った衣服を着れば、それはエアーファッションと呼んでもいいかもしれないわね。まあ、名前聞いただけだと着てる振りみたいに聞こえるのはどうかと思うけど…」
にとり「なんだ、私のネーミングセンスが不満か?」
雛「裸の王様をイメージしちゃうのよ。どうせエアークッション辺りから文字ったんでしょうけど、あんまり何でもかんでもダジャレみたいなネーミングするのもどうかと思うわよ?」
にとり「呈すねー、苦言を。いや、なら反論させてもらうけど、ネーミングなんて大体そんなもんだよ?例えば医薬品とか、特に薬の名前とかね。たまにこれ名前つけた奴絶対オヤジだろ。オヤジギャグだろこれって思うやつ結構あるよ?」
雛「あなた少女じゃないの。感性がオヤジと同じで良いわけ?」
にとり「素晴らしい発明をしたオヤジとなら、同じ感性でも悪くはない」
雛「そう…。まあいいわよ。あなたがそれでいいなら、好きにしなさい」
にとり「うん。好きにするよ。…でも、名前が裸の王様みたいってのはちょっと心外だなー。私の発明のスタンスとはほとんど真逆だっていうのに…」
雛「スタンスねぇ。あなた、こんな軽い布を、そういえばどうして作ろうと思ったわけ?」
にとり「いやー。この前永遠亭にお邪魔した時に月の羽衣の話になったんだけどさー。その時に、衣服は着ているだけで衣服圧って言うものを受けるって聞いたんだよねー」
雛「衣服圧?」
にとり「そ。衣服の重さから生じる圧力のことで、疲労の原因になるんだってさ。月ではそんなことはないとかなんとか注釈付きで永琳先生が話してくれたよ。まあ、妖怪や神様にも同じことが言えるかなんて分かんないけど、日々の疲労の積み重ねが後々大きく跳ね返ってくることもあるし、だったら私がその衣服圧をほぼゼロにした衣服の地上版を開発してやろう!って思ったわけさ」
雛「なるほどね。いいじゃない。モチベーションは立派だわ。で?私をここに呼んだ理由は?」
にとり「それはこっちに用意してある」
雛「それは、…私のドレス?」
にとり「そう。雛のいつも着ているドレスさ。それをエアーファッションで仕立てた。要するに雛を呼んだのはエアーファッションの性能検査のためさ。前々から雛の服って重っ苦しいと思ってたんだよねー」
雛「悪かったわね重っ苦しい女で」
にとり「そこまでは言ってないじゃないか。いやまあ、雛はいつも厄を纏っているから雰囲気が重苦しいのは否定出来ないけども」
雛「否定してよ!そこは肯定しちゃダメでしょ!?」
にとり「そんな重い女の雛だけども、せめて着ている服くらいは軽やかにしてみたいじゃないか」
雛「完全に重い女にされた!すっごく心外!」
にとり「今回のことから雛の得るべき教訓は、迂闊な発言はそのまま自分に返ってくることがあるということだね」
雛「元凶がなにをほざいてんだか…」
にとり「ああもう、機嫌直してよ。冗談だよぉ。厄…漏れてるケド。大丈夫?」
雛「大きなお世話よ。…で?私はこれを着れば良いわけ?」
にとり「うん?着てくれんの?」
雛「そのために呼んだんでしょうが。良いから貸しなさい。着てあげるから」
にとり「うんうん。やっぱり雛は優しいね!そういうところ、私は大好きさ!」
雛「今更そんな取って付けたようなお世辞言ってもどうにもなりゃしないわよ」
にとり「ありゃりゃ。バレたか」
雛「お前マジで殺すわよ?ここで、今」
にとり「冗談じゃない。お世辞言っただけで殺されたんじゃあ命がいくつあっても足りないよ」
雛「はぁ。もういいわよ。で?私はどこで着替えれば良いわけ?」
にとり「ん?ここじゃダメなの?」
雛「いい?にとり。あなたは特にこの言葉をよく覚えておきなさい。―――親しき仲にも」
にとり「―――礼儀ありって?はいはい。気を付けますよー」
雛「はあ、なってないわ…」
少女試着中…。
雛「――さて、こうして着替えてみたわけだけれど…」
にとり「うんうん。それで?着心地はどんな感じだい?」
雛「そうね。まず、確かに着ているときの重さは全く感じないわ。空を飛べそうなくらい軽いというのはまず間違いない。…まあこれは比喩としては甚だ不適切だけど」
にとり「元々飛べるもんね私達は。それでそれで?」
雛「問題は、軽すぎて着心地が全くないということ」
にとり「うん?それの何が問題なのかな?この発明の骨子は正にそこなんだけど」
雛「時折ふと、私は今裸なのではないかと思ってしまう時があるわ」
にとり「あー…。それは確かに、問題だ」
雛「確かにこれなら衣服圧による疲労は無いんでしょうけど、これを着て外を出歩くとなると、それはそれで疲れそうだわ」
にとり「肉体的疲労が無くなる代わりに新しく精神的疲労が生じるのか…。うまく行かないね。月の民は一体どうしてるんだか…」
雛「少なくとも私は遠慮願いたいわね。裸の王様の気分になるのは」
にとり「スタンスは真逆の筈なのに結果は同じになるのかよ…」
雛「だとするならやっぱり、あなたのネーミングセンスはそんなに悪くなかったってことなのかしらね」
にとり「そのお世辞は全く嬉しくないよ…」
第十一作 エアーファッション 没。
にとり印