表裏ダンガンロンパ ~共通とすれ違いの物語~   作:炎天水海

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こんにちは、こんばんは、おはようございます。炎天水海です。
ついに表論は魔の三章に突入でございます。この章は作者としてもちょっと気の抜けないかつ覚悟のいる章でありまして。それでも楽しんで頂けるよう尽力しますのでよろしくお願いします。


第三章 消えた雁追うものども
第三章(非)日常編 道中の1部屋目


 

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 

 

 

 ─────────

 

 

 なあこいつどうする?

 

 売り飛ばすのには逸材だ

 

 よーし、待ってろよぉ

 

 これから恐怖の生活を味わえ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────

 

 

 

 

 「!?!?」

 はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はあぁ…………ゆ、ゆめ……? な、なに、なんでこんなリアルなの?

 

 

 *****

 

 

 __________

 

 

 

 

 ある人は「もどかしい」かった

 その人は「目指して」います

 

 ある人は「従って」います

 

 ある人は「見て」います

 

 ある人は「見られたく」ありません

 

 ある人は「守って」いました

 

 ある人は「忘れて」います

 

 ある人は「苛立って」いました

 その人は「疑って」います

 

 ある人は「引っかかって」しまった

 

 ある人は「たえて」いました

 

 ある人は「保って」います

 

 ある人は「潜んで」います

 

 ある人は「強がって」います

 

 ある人は「縛られて」います

 

 ある人は「できなくなって」います

 

 ある人は「恐れて」いました

 その人は「大事に」したいです

 

 ある人は「不安」でした

 もうその心配はありません

 

 

 _________

 

 

 *****

 

 

 モノリュウのお告げ

 

 

 

 大造じいさんという人を知っているか?

 

 

 残雪という雁と

 

 

 幾度となく知恵比べを繰り広げた男

 

 

 ハヤブサとの交戦を目の当たりにし

 

 

 残雪はボロボロになろうとも

 

 

 己の威厳を貫いた

 

 

 のちに大造じいさんは残雪を

 

 

 「ガンの英雄」と称えたそうな……

 

 

 ところでその雁は今

 

 

 どこにいるのだろうなぁ?

 

 

 *****

 

 

 

 第三章「消えた雁追うものども」

 

 

 

 *****

 

 

 10日目

 

 アナウンスは聞こえない。薄気味悪い夢から醒めて息が苦しい。あの手紙を読んだあと寝落ちたんだ。

 

 

 コンコンコン!! コンコンコン!!

 

 

 扉をノックする音が忙しなく聞こえてくる。何度も何度も叩かれ、まるで自分の頭まで叩かれているような感じになって、ただでさえ気分は最悪なのにさらに、最を超えるくらいの苦しさを覚えた。でも止むことはなくて、だから私はその扉を開いた。

 「直樹(トン)!! ああよかった……焦った……」

 「わ、渡良部さん!?」

 音の主はどうやら渡良部みたいだった。額から冷や汗が流れて安堵の息を漏らす。

 「どうし」

 「どうしたも何もないってば!! あんたいつまで寝てる気してたの!? 今11:00になってるんだけど!?!?」

 は? っと間抜けな声を出した。時間確認のために手帳をみれば11:08。……もうお昼!? うそっ!?

 「みんな心配したんだからね!?」

 「ごめん」

 「全く……でも、朝はみんな行動バラバラで全員揃ってなかったし。けど今日あんたを誰も見てないっていうから焦ったじゃん……」

 なんかみんなを心配させたみたいだ。

 「ふう、とりあえず、あとは一人だけか」

 「一人? 私以外にも……」

 「湊川(シャー)がね。美術室2に籠りっぱなし。朝からそうなんだ」

 朝から湊川が……でも昨日は湊川にとってとても悲しくて苦しくて平静でなんかいられない状態だったのはよくわかる。美術室にいるのは二人のことを忘れないためなのか、あるいは忘れられないからなのか。

 「よしじゃあご飯食べようか」

 ぐうっと腹の音が聞こえてきた。はい、私のです。

 「そうだね」

 空いているお腹を満たすために軽くシャワーを浴びたあとで食堂に向かった。

 

 *****

 

 お昼なこともあって幾人かは食堂にいた。私を見るなり胸を撫で下ろす人も。

 「直樹殿、心配しましたよ。……しかし少々顔色はよろしくないのでは?」

 「ああちょっと悪夢を見ちゃって。でも前みたいなのじゃないから」

 「なるほど。ですが体調が悪いときは仰ってくださいね」

 こういうときの彼は本当に心強い。礼をして席に着きお昼を食べる。湊川とあとダグラスがいなかった。

 「ダグラスくんは?」

 「湊川くんについて行った。昨日と同じ理由でね」

 ダグラスなら安心できるか。

 「……あいつが変な方向に曲がったりでもしたら面倒だな」

 「変な方向?」

 「言葉そのまんまだっての」

 すごい意味深な台詞。というか珍しく橘がここにいることにびっくりなんだけど。

 

 

 コツコツコツ……

 

 

 外から足音が聞こえてくる。誰の足音かは想像しなくてもわかった。

 「…………遅れて、ごめん」

 そこには袋を持った湊川とダグラスがいた。

 「湊川さん……」

 「ひとまず、ミス湊川の話を聴いて欲しい」

 そう言われてシーンと静まる。

 「悲しかった。とてもつらかった。目の前で起こった、身近で起こった悲劇を私は気付くことすらできなかったんだもの」

 あの二人のそばにいたからこそ分かること。それを湊川は哀しげに語る。

 「でもそのままじゃ私はいられない。だって後ろばかりの道だけじゃ、前にある道なき道を作れないじゃない。鷹山さんのためにも、江上さんのためにも。いなくなった四人のためにみんなで進むって決めたの。だからね、前を向くことにしたの。そうじゃなきゃ示しがつかないじゃない?」

 湊川は困ったように笑って、持ってきた袋から何かを取り出した。

 「それは……」

 「藍染めか?」

 スカーフとハンカチの藍染めだ。……見覚えがある。これ間違いなく前美術室でみたやつだ。

 「そう。あの二人と三人でね話してたのよ。みんなに団結できるお揃いのものを作ってみようって協力して作ったものなの。これがあるとね……まるでそばにいなくなったみんなもいるような気がしてならないのよ……三人背中合わせで、一緒にいたはずなのに、最初から誰も見ていないようで見ているっていう幻想に騙されて。でも、今ならはっきりわかるの。ちゃんと、いたんだって。わかるのよ。これがあるからじゃなくて、いなくなってしまったからじゃなくて。ね」

 手にある藍染めを優しく胸に当てて今度は切なく笑って。

 「まだ私は止まれない。いくらのんびりな船でも、強いと豪語されたものでも、嵐に必ず敵うものじゃない。沈んだり、壊れたりする。けど……いくつもの危険な地点を乗り越えて乗り越えて、船は動いてる。動き続ける。私は、絶望の渦には呑み込まれない。絶対にみんなで生きるんだ!! こんなところで錨を下ろすなんて出来ないんだもの!!」

 彼女の決意が食堂に広がった。

 「灯台の光は簡単に消えないんだから」

 そして湊川の後ろに、微笑んでいる宮原と阪本の姿が見えた気がした。

 

 ***

 

 「はいこれ直樹さんの」

 「ありがとう」

 一通り話を聞いたあと、湊川とダグラスから藍染めを渡される。美しく綺麗な、青よりも青い藍染め。どこか優しく温かな雰囲気があった。とても心が籠った藍染めなんだなと感じる。私のはアジア大陸の地図だ。見た感じ、小さな島もしっかり描かれている。

 「すごい繊細……」

 「けどこんな簡単に模様を作れるの?」

 「それが阪本さんすごいのよね。その場で宮原くんと型作ってそれを布に挟めて模様付け。あと他には適当にあった小さい木の棒とか輪ゴムとか使ってたわ。その場の機転がよく利いてたのよ」

 すごっ。

 「私のは錨とか海を表現したやつで、ダグラスくんのはトランプの模様ね」

 「わたくしはハーブでございますね。繊細でお美しい……」

 「ちょ、ちょっと!? 阪本(ナン)この一索(イーソー)の孔雀どうやって表現したの!? 凄すぎなんだけど!?」

 「……きれいだ……」

 「バレーボールのあの波模様じゃの。よく再現されとる……」

 「私のは弾けた水だな。おもしろい」

 「あたいのは動物だね~」

 「俺のはガラスっぽいな」

 「梅に胡蝶蘭ですか。うちの服の柄……」

 「天秤。弁護士らしい模様だ」

 みんなの個性が特徴が溢れたそれ。私は大切に大事にしていこうと強く思う。

 「コロシアイが無くなればいいな」

 「じゃな」

 みんな、一人ひとり思うことがあるようだった。

 「あァ、いつまで待たせる気であーるかァ?」

 …………くたばれ。今阪本のコスプレなんてしなくていい。いやコスプレしないで

 「なーんのようだい」

 「正直邪魔でしかないからさっさっと失せてくれ」

 「ワレに対する風当たり強すぎであーる!! ワレがここに来た理由ぐらいィ、オマエラはわかっているであろう?」

 ここに来た理由?

 「このタイミングならァわかって欲しいんであーるがァ」

 「……前回にも裁判が終わった次の日に僕たちを訪ねてきた。ということは」

 モノヤギは不敵にニヤリと笑った。

 「物分かりが早くてェワレは嬉しいであーる。そうゥ、ここに来たのは他でもないィ」

 「……Ⅲ棟か?」

 「大ッ 正ッ 解ッ !! 希望ヶ峰マンションⅢ棟を開放したであーる!! その名も遊戯棟ゥ!! ぜひぜひ確認をォ!!!! 電子生徒手帳にもォマップが追加されてるであーるからなァ!!!!」

 遊戯棟か。ゲームか何かあるのかな。そういう棟なんだろう。

 「おい」

 「んん? なんであーるかァ?」

 「お前、モノリュウと本当に繋がっているのか?」

 「そうでなければおかしいであろう?」

 「いいや。お前は完全にモノリュウと連携が取れていない。事実、前回の裁判が終わった直後に言っていた。早いなと。何かあると踏んでもおかしくはない」

 刹那、玉柏の顔すれすれに一本の槍が飛んでくる。その場のほぼ全員が絶句した。しかし玉柏は全く動じなかった。メガネの奥の眼がギラリとなった気がした。

 「……教える義理などない。それを二度と口にするな」

 「へえ。反応するんだな。図星か。だが俺は一切校則に触れていない。それで俺を殺そうとしたなら、お前はモノリュウからしてみれば謀反だろうな?」

 「黙れ」

 いつもなら高く嘲笑うモノヤギがこの時ばかりは穏やかじゃなかった。笑うという感情を忘れただ睨み付けた。

 「言っておくが俺は今の槍、受け止められた。天井が微妙に開いてたのを見逃すかってな。備えなくともそれぐらいの対応は出来るんだよ。ま、外れることは位置とかから把握できたし、殺すつもりのない威嚇攻撃だってのは見てとれた」

 なにこの軍師感。

 「貴様ごときいつでも殺れる。ワレがここの管理人だ。忘れるな」

 「校則というルールを守らずして、管理人を名乗るのもどうかと思うがな?」

 「……フンッ。いいのか? 逆らうほど貴様は不利になるというのに」

 「…………」

 謎の沈黙が周囲を包む。

 「ま、いいであーる。どうせオマエの周りからは誰もいなくなる。支えてきたやつでも、その隣にいた二人も、いずれ、なァ…………?」

 意味深な発言を残しモノヤギは立ち去った。何があったんだ?

 「モノヤギ、なんか様子おかしかった」

 「間違いなく、あのヤギは秘密を持っている。これではっきりした」

 ニヒルに笑い椅子に勢いよく掛ける。玉柏、それ完全に悪役の顔だよ。

 「けどすっごいひやひやした……心臓に悪い」

 渡良部が胸を撫で下ろす。

 「はいはい。こんなのどうってことない」

 「どうってことないってことはないでしょ……どんな神経してるの……」

 呆れるくらい図太い神経してるよこいつ。

 「んでどうするんだ? どうせ行かなきゃいけないんだろうけどな」

 「それはもちろん。行きますよ」

 「……行くわ。行かなきゃ始まらない」

 なんだかんだあった昼より、ようやく開放された場所へ行くことになった。

 

 *****

 

 Ⅲ棟前についた。まあまずは地図確認。見た感じ、円柱の建物みたい。

 「えっと一階はロビーで、二階は控え室、三階はコンサートホールと控え室と楽器庫、四階はカジノとバーと小さなステージみたいなの。五階は同じくカジノと仮眠室だって」

 「なーんか複雑な構造しているねぇ」

 「ここはテレビ局かなにかなのかな!?」

 「テレビ局?」

 あれ勢いでツッコんだけどもしかしてみんな意外と知らない?

 「テロリストに占拠されないように複雑な設計になってるんだって」

 「だから階段が遠いってわけなのか」

 「らしいよ。ま、都市伝説っていう人もいるみたいだけど」

 旅行してたときたまたまテレビ局寄って見学した知識がここで役に立つとは。事実かどうかは別で。こういうとき、宮原がいればと思うと悲しくなってくる。

 「非常用の階段があるわね。一階から三階に一気にいける」

 ホントだ。二階はすっ飛ばしていけるやつみたい。ただ非常といいつつ中にある。

 Ⅲ棟の扉を開けると同時に冷たい空気が流れてくる。入ればだだっ広いロビーが、受付らしきものが、豪華でシャンデリアが目立つ。そしてグランドピアノが目にとまる。ここで演奏もできるみたいだ。ダグラスがそこまでいくと軽くピアノをジャーンと弾いた。

 「Hmm……いいね。弾きやすい」

 「音調もしっかりしてやがんのか」

 「おや意外。ミスター橘も詳しいのかい?」

 「……嗜む程度だっての。習ったこたぁねぇよ。独学」

 独学でそんなわかるのってすごいんだけど。

 「音楽は好きだ。クラシックとかは好んで聞く。ここで聞けねぇのは不愉快だっての」

 意外な趣味だ。

 

 *

 

 二階は控え室だからざっと見たけど、浴衣、スーツ、ドレス等々ありとあらゆる衣装があった。

 「美しいですね。そっちの目立ちすぎるものよりもこっちのほうが」

 「桜の浴衣か。かわいいな」

 「控え室と言うよりも衣装室みたいな感じじゃな」

 けれど、そこは嫌味も含まれた場所だった。

 「鷹山さんの服……」

 「江上、宮原、阪本、死んだ人たちの服も備わっているわけか」

 胸糞が悪い。なんて腹が立つんだ。

 「電子生徒手帳もご丁寧に……」

 「ヘックシュンッ!!」

 誰だ今のくしゃみ。

 

 *

 

 三階は控え室と楽器庫とコンサートホール。ホールは一階と同じくだだっ広い。多くの観客席。ステージもそう。何をやっても足りそうな広さだ。ステージの裏には控え室と楽器庫があるみたいだ。とはいえその二つはあくまでも裏の部屋らしく、ホールと比べると随分と狭い。ただまあ練習するにはちょうど良いだろう。

 「機材とかは控え室と楽器庫の扉の前か。出入りはまあできる位置だな」

 「リモコンもありますから照明調整は意外と容易なんですね。電池も備えてあります」

 「こっちの控え室、化粧室っぽい感じだ。着替えでなく水分補給やお色直しみたいな」

 「防音はしてあるみたいだね~」

 この三階、コンサートホールを通らないと四階には行けない仕様なのか。

 

 *

 

 四階はカジノ。その前に扉があって、左奥に階段。五階につながるやつか。カジノに入るとハイな音楽が流れ、ビリヤード卓とか麻雀卓とかルーレットとかいかにもカジノらしいものが置いてあった。それと小さなステージ、バーがある。バーは本当にお酒あるって私たち玉柏以外未成年だってば。あと少し邪魔なところに横長の棚があるなぁ。

 「うんうんうんうん、カジノっぽくていいなぁ!!」

 いやカジノだよ。

 「ダグラスくんはディーラーだものね」

 「そうさ!! 普通のやつでもいいけどさ、やっぱり『カジノ』だからこそ盛り上がるものがあるんだよね」

 ダグラスはまあ案の定大興奮している。カジノだからね。

 「ジン、マティーニ、バーボン、焼酎、XYZ……いろいろあるな」

 「君、お酒を飲むのはいいがほどほどにするんだぞ」

 「気づいてたのか」

 「今まで外で煙草の煙が立ち込めていたんだが?」

 「はいはい。善処しとくな」

 お酒見回ってる玉柏に巡間が注意をする。医者が言うとまた違って聞こえる。

 「中にも入り口のすぐ近くに五階用の階段あるんだ」

 見上げると右はカジノの延長のようで、左は仮眠室なようだ。

 「仮眠室は……防音仕様か」

 「あそこの扉は?」

 鍵が掛かっていたからそれをガチャッと開けると廊下に繋がった。そして近くに階段も見えた。

 「なるほどね。ん? これは……」

 「どうしたんだい?」

 「鍵、内側にしかないみたい」

 鍵が開いていない限り直接仮眠室にはいけないのか。

 「変わってるね~しかも五階の出入りはここしかできないみたいだよ」

 道は奥まで続いておらず、あのときの部屋みたいな感じではと疑うがそんなことはなかった。

 「……仮眠室は八人まで。校則もここの就寝は許可しているみたいだな」

 確認してみると追加次項が幾つか増えていた。個室と幾つかの場所以外の就寝禁止とか、手帳の貸し借り禁止とか、あと一人のクロが殺せるのは二人までとかみたいらしい。

 「校則、いろいろ増えているんだ」

 「そうね。あなたが倒れたときにいろいろ増えたみたいよ」

 その説はホントすみませんでした。

 そして多分(?)動きやすい四階に戻った。

 「特に変わったところはないね。さぁてここからどうするんだい?」

 「自由でいいんじゃないかな」

 「探索か。今は全員でざっと確認した程度だから」

 ここでみんなとは別行動を取ることになった。

 

 ***

 

 とはいえ何をやるとか全く決めてない。今はカジノにいるし、最初はここで探索しよっかな。で、まあ例のあの三人はいるんだけど

 「ふーむ」

 「ここの棚、ちょっと中途半端な場所に置かれているよね。その扉よりちょっと低いけど充分大きいからこう……壁に寄せようか?」

 「だね。扉横でいっか」

 そういう感じで三人は棚を持って移動させようとしている。が、意外に重さがあるようで少し持ち上げるのも大変そうだ。

 「引き摺る?」

 「いえ、床に傷がついてしまいます。ここは下から持ち上げましょう。ちょうど隙間もあることですし」

 「棚のところから持ち上げたほうが良くないかい? 下からだと随分重くなる気がするよ」

 「「「さあ!! どうする!!」」」

 すごい急に私に振られた。

 「いや何が!? 突然私に向かってさあどうする!! はおかしいでしょ!?!? そこ三人本当に仲良いね!? えっ!? でもいつの間に私たち漫才始めたの!? ていうかそのネタ随分懐かしいね!!!? 私たちいくつだっけ!?!?」

 「そりゃもちろん18……え?」

 ん? あれ?

 「18? つい最近入学……したのに? ミーは16歳で希望ヶ峰学園に招かれた気がするんだけどさ……?」

 「わ、わたくしも同じでございます!!」

 「私も」

 …………もしかして、もしかすると?

 「玉柏くんどこ!?」

 「!?」

 玉柏は今二十歳。つまり、彼なら私との年齢差がわかるはず

 「そういえば先ほど仮眠室に」

 「ありがとう!!」

 走って五階に行って仮眠室の扉を開ける。確かにそこには玉柏がいた。寝てるけどたたき起こす。

 「玉柏くん!! ちょっと起きて!! 聞きたいことあるから!!」

 「……んー? んだようるさいなぁ……」

 「ごめん!! でもいい!? 玉柏くんと私たちの年齢差っていくつ!?」

 寝惚けた風にああ……と頭をポリポリ掻いてメガネを掛けた。

 「それは、あれだろ。2年だろ」

 「2年……玉柏くん、希望ヶ峰に入ったときは!?」

 「は? 二年留年してるから18だぞ? ……嗚呼そういうことな」

 理解してくれたみたいだ。

 「私たちは16、つまり高校一年に希望ヶ峰に招かれた。けど」

 「今の話を聞く限り、よっと。俺たちは、ここに来るまでの少なくとも二年の記憶が失われているってことになるな」

 まさか年齢にすらそういうことがあるのか。玉柏が二十歳だと認知したのは自分の手元に煙草があったから。

 「はあぁあ、面倒くさいな」

 「記憶の差が生まれるのは当然だったんだ……モノヤギからの動機はその空白の二年の記憶を含んでいる可能性があるよね」

 「九分九厘そうだろうな」

 「ねえ、その中に玉柏くんの才能についても何かあるんじゃない?」

 「……明日にでもわかる」

 「?」

 「さぁってっと。一服してくるか。んじゃ」

 はぐらかしたな。玉柏は仮眠室から出てそのままどこかへと消えていった。

 

 *****

 

 そういえばどこもかしこも鍵がついているけど、鍵の管理はどうなのか気になったから一階ホールにでも行けばわかるだろうと向かう。そこで国門が受付らしきところで何かを広げて一つ一つチェックをしている。

 「何を見ているの?」

 「鍵だ、ここの」

 「どこにあったやつ?」

 「ここの裏の……ここだぜ」

 と言われたところを見てみるとそこには引き出しがある。けどそこにひとつすごく気になる金庫のようなものが

 「これは?」

 「さあね。僕にもわからない。怪しい金庫であることは一目瞭然だろうぜ」

 金庫は四桁の暗証番号。1からやるには気が遠くなる。この場合何通り? 10000とか? いや考えても無理だ、バカが露呈する。とりあえず適当にポチポチしてみよっと。

 

 ブー!! ブー!!

 

 「デスヨネー」

 「なんで1234なんだ」

 「いやなんとなく」

 「そこは0123だろ」

 「いや焦点そこじゃないと思うよ!? ツッコミどころ違うから!!」

 「だいたいあのヤギがそんな安直な番号にするわけ、ん?」

 あれ、残り二回とか出てきたなにこれ。

 「説明するであーる!!」

 説明したら私たちの視界から早急に消えて欲しい

 「その金庫にはァ、もちろん何かが入っているゥ。何度も何度も番号を打てばそのうち金庫は開くゥ。がしかァァしィ!!!! そう何度もやられたら困るゥ。だァかァらァ!! 一度に間違えられるのは三回までェ!! それを過ぎれば一時間は番号を打てないィ」

 「時間制限付き、か」

 「そのとおォりィ。ヒントはァ、まァどこかにあるんじゃないであーるかァ?」

 「ヒント雑かよ!!」

 けど金庫自体の管理はしっかり管理されてるってことなんだ。

 「そうそうォ、ここの鍵はⅢ棟外に持ち出し禁止であーるからなァ!! いやここでしか使えないから持ち出しても意味ないのであーるがァ……メリットないない」

 「アッハイ」

 テンションどうしたよヤギ。

 「この程度であーるかなァ。ではさらばァッ!!」

 今日のあのヤギのテンションについていける気がしない。

 「そういうことか。ま、鍵はしっかり管理する必要があるわけだ」

 「まあここから無くなるってことはないけどね」

 「どうかな。ここの中で行方不明にさせることは結構容易だと思うよ」

 これだけ広ければそうなるよなぁ。

 「ってこれヒントか?」

 「ヒント雑かよッッ!!!!」

 ツッコミメンドウニナッテキタ。奥にあった紙に書いてあるヒント見てみよっと。ええっと……

 

 

 

 【ヒント】

 ・あなたの数字も大事

 ・被せ加えて順序よく

 ・同じ数字は次の桁とまとめて

 ・ひとまず並べよ

 

 

 

 「なにこれ?」

 「さあ? どういう意味かさっぱり」

 けどこれが金庫を解くヒントなのか……うーん?

 

 *****

 

 何だかんだで夜になる。ゆったりと食事をしているとダグラスが早々に食堂を出ていった。そういえば夜だけどコーヒー(砂糖とかミルクの入った)飲んでたな。ということは? そんかわけで私はまたカジノへ行くことにした。

 そこはさっきまでとはちょっと、いやちょっとどころじゃない程違う雰囲気がした。台がピカピカ眩しいくらい光り、音が大音量で響いていた。

 「へい!! ミス直樹!! いらっしゃい!!」

 ここ君の店じゃない。

 「やっぱりここに居たんだ」

 「カジノが出てるならいたくなるのさ。さて、何かgameやるかい? 何だっていいよ」

 「え、いや、何あるのかというかそういうのさっぱり……」

 実際わからないわけじゃないんだけど、ほら、そこはそれ。あれだ。伝われ

 「それじゃあ無難に二人でブラックジャックでもするか!!」

 「21に揃えるやつだね」

 「Yes. それじゃ、トランプ配るからそこの台に行こうか」

 促されてそこへ。なんともトランプ専用の台って雰囲気がある。

 「それじゃ、シャッフルして配るよ」

 そういうと手際よくトランプを切っていく。

 「はい。ミーはディーラーで親を務めるからね」

 渡された二枚のトランプ。ダグラスも二枚もらっているけれど、一枚は表を向いている。どうやら9みたい。

 私は5と8か……13……微妙な数字。けれど引いて賭けようかな。

 「一枚引くよ」

 「Ok. 引いてみて?」

 山から一枚引いてみる……あっ

 「Kってたしか10扱いだっけ……」

 「だね。残念。親の勝ち!!」

 「ええ~!! うそぉ!!?」

 「ちなみに、ミーは表が9で裏が2。つまり10扱いのトランプは16枚あることになるからまあ高確率で21にできたね」

 「ちなみにその山次何あったのかな」

 「ん? えっとね……ははっ6だ。まあまあ、それでも賭けるにはいい値なんじゃないかな」

 さすがディーラー。詳しい。

 「そういえばブラックジャックってさ、このgameの意味もあるし某アニメでもあるけれど、他にも意味あるのはわかるよね?」

 「blackjack? もちろん。革製のビール用大ジョッキ、海賊旗、小型の棍棒。でしょ? 動詞でも脅迫するとか打つとかもあるよね」

 「Exactly. さすが翻訳家。話が合うね」

 「言葉は知っていて損はないもの。伊達に翻訳活動してないよ」

 「ははっ。それもそっか。さぁて、また数戦するかい? ミーは朝までいる予定だけど」

 「寝ないの!?」

 「朝に寝るんだよ。カジノって大抵夜営業だからさ、戻ったら寝ようかなって。その場で眠気が来るようなら上の仮眠室にいくさ」

 ああディーラーは昼夜逆転するんだっけ。大変そうなんだよな、そういうとこ。体調管理とか……ってダグラス普段めちゃくちゃ日常生活のサイクル良かったわ。校則には気をつけてって言っておこ。

 

 *****

 

 外に出る。肌寒い空気が私を刺激する。まっすぐ部屋に戻ることをせず、噴水の前に行ってベンチに座った。

 鷹山と真面目に話をしたのはここだったっけ。

 ここに行くと落ち着きもすれば焦ることもある。何かを考えさせられるときもある。今みたいに。噴水の流れる勢いはいつもは一定なのに、自分の気持ち一つで激しかったり穏やかだったりする。

 今は焦りだ。今日含めて、たった10日の間で四人もの命が散った。こんな閉鎖空間だからなのか。今のように外にも出られるって点があるから、それなりの自由が利く。けれど高い高い壁が閉鎖空間であることを物語る。

 おかしいよ。壁は高くそびえ立つのに、空模様ははっきりわかるんだもの。暗い夜の世界に包まれる。噴水が街灯に照らされてどこか奇妙に美しく見え、返って不気味にすら思える。

 

 

 

 ガサガサガサッ!!

 

 

 

 「だれ!?」

 反射的に叫び立ち上がる。今間違いなく誰かがここにいた。気のせいじゃない。もう一度腰をかけて周りを見る。明らかに違う音だった。木々のほうからし……

 

 

 

 バサッ……

 

 

 

 た……?

 「!?!?」

 背後から気配がして思わず私はベンチから落ちた。そこには

 

 ____

 

 

 『マントを身に纏い鳥の嘴のような仮面を着けた謎の人間が噴水の先端、頂点と呼ぶべきだろうか。その人はそこに片足で立っていた。』

 

 

 ____

 

 あのときの人だ。鷹山さんとここで話したあとで見た。そいつが目の前にいた。

 「…………誰」

 そいつは見下すのとは違う雰囲気を纏いながら私を見下ろしていた。沈黙が流れ、その間に立ち上がった。私の質問には答えなかった。

 次の瞬間、そいつは跳んだ。ベンチの背もたれを片足で蹴り飛び越え私も越えて、そのままあの噴水の上に着地した。濡れる足も気にせずに。ゆっくり、ゆっくりと右腕が現れ人差し指を立てて上を指した。するとマジックでもしたのかそいつの右手から何かが出てきた。そしてそれが投げられた。

 無数に

 「な、なに!?」

 それに気を取られているうちにあの人は消えていた。無数に落ちたそれを私は拾い上げた。

 「鳥の……羽……?」

 あれ。なんでだろう。知らないはずなのに、なぜか……初めて見た気がしない。

 

 

 ザザッザザッ

 

 

 あ、れ、今のだれ……三人……? だれか、いたような……砂嵐のようなフラッシュバックに襲われる。

 

 夜の街を駆け、空を飛ぶような三人組……三人とも、あの人のように鳥の嘴の仮面をつけていた。一体、だれなんだろう…………

 

 よくわからない葛藤を置き去りにするわけにもいかず、かといってそのままにしてもまた倒れるだけだと、私は部屋のベッドに身を投じることでそれを明日に回すことにした。

 

 ***

 

 

 

 何が正しくて、何が本当で、何が真実か

 

 不思議でならなかった

 

 それと同時に何か昨日までのことで

 

 重大なことを忘れている気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          →To be continue……

 

 


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