どうも。炎天水海です。今回の動機は少々変わってるので、動機と呼べるかはかなり怪しいところです()
ですがこういうのもありかなぁと。お楽しみください。
注意
これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。
本編とは異なる設定が多々あります。
あと主の文才は期待しないでください。
それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。
補足
渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。
例:直樹→
他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。
なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。
*****
12日目
アナウンスが鳴るのと同時に目覚める。昨日のあの感覚はもう消えていた。そんな些細なことにでさえ、何か恐ろしいものを感じる。昨日はみんなにも迷惑をかけてしまったのもあるし。シャワー浴びようそうしよう。
お湯の温かさが妙に感じられた。寒かったのに、怖かったのに。不思議で不気味な感覚がまた身体を襲った。考えるだけでもまた昨日みたいになりそうで嫌になる。早々にシャワーから出て、着替えて素早く食堂に向かった。
***
食堂に行くと、何故か誕生日席に堂々とモノヤギが座っている。湊川が不思議そうに見てる。コスプレしてないからちょっと新鮮な感じもするんだけど、どうしてだ。
待っていると、玉柏が私の隣に座ってきた。…………そういえば昨日からずっと気になってたことがある。
「玉柏くん。今さらだけど服装どうしたの?」
グラスグリーン? なんというか緑と深緑の中間的な感じのに黄色が少し混じったような……ん? いいや。まあそんな感じのシャツに茶色のカーディガンだ。
「これか? ああいや、控え室でこれいいかなと思って着てみたら……」
「着てみたら?」
「自室の服全部これになってた」
「一体何がどうなってそうなったの!? モノヤギ必殺仕事人!?」
「いやァ結構似合ってたからァ、衣替えしてもいいであーるかなァとォ」
「理由!!!?」
「まあいいんだけどな。ずっとあの服だとスースーして嫌だったし」
意外とそこ気にするのね。
「一応マントもすぐ取り出せるところにしまってる」
「四次元ポケットか!!」
しばらくして全員揃って食事……なんだけど、モノヤギがいるせいですごく落ち着かない。
「さっきからなんでここにモノヤギがいるんだよ」
「食事終えてからの説明であーる。というかァ、わざわざ集会室に行くのも面倒であろう?」
本末転倒なこと言うなし。
「あ、いややっぱり集会室じゃないとダメであったァ。よし、食事終わったら集会室へ来るであーる!!」
「いやどっちだよ!!?」
せめて場所くらいはっきりしてよボケ過多でストレス溜まるわ倒れるわ。
***
で結局集会室に集まった。けど今回はどうにもモノヤギのテンションからして何か前の動機とは少し違う感じがした。
「今回呼んだのは他でもないィ。動機の配布であーる!!」
「……あまりにも早くないか。トントン拍子でさっさとコロシアイをさせたいという風に見てとれるが」
「そうであーるよォ? ま、そんなことよりもなんであーるがァ、今回の動機は動機とは言いにくいとも言える動機なのであーるよォ!!」
「動機とは言いにくい動機?」
自分で言うなよ。どんな動機なの。
「まずオマエラに今ァ、ある催眠みたいなものを掛けたであーる」
「催眠!?」
「どうやってかけたよ」
あとそこからすでに動機とは。
「まあまああくまでもォ『みたい』なのでェ落ち着くであーる」
さっき(?)からキャラどうしたよ。
「この催眠はァ、オマエラの行動を制限する役目があーる」
「行動の制限だと……?」
「ヒッヒッヒィ…………」
突如集会室の明かりが消える。同時にいつの間にか降りていたスクリーンにある文字が浮かび上がった。それは
「う、運命ダイス?」
「ヒィッヒッヒィ。オマエラにはァ1日1~3回ィ、ランダムで『運命ダイス』が振られるのであーる」
運命ダイス?
「その運命ダイスは一体何なんだ?」
「これはァそのときのオマエラの『運』を表すダイスゥ。簡単な例はァヤギが歩いていたら紙が落ちてたァとかァ、ヤギが歩いていたら転んで擦りむいたァとかであーるなァ」
極端だけど分かりやすいなその例。ん? レイヤーギだけになのか? やかましいわ。
「このダイスは百面ッ!! 0から99までであーる」
「1から100じゃなくて?」
「ここでは0からカウントであーるよォ」
なぜ。
「!! おい、まさかだがこの運命ダイスは私たちの生死に関わるのか!!?」
巡間の言う通りだ。この運命ダイス、今の話を聞くと
「それはオマエラの運次第であーる。一概にないとは言い切れないィ……まァ、日常的なことがその運命ダイスに左右されることもあるゥ。………………がしかァァァァしィィ!!!!」
コツンッ!!!! と蹄の音が響いてただでさえ暗い中であの不気味な目がギラリとしてるのにそれがさらに光った。
「とある番号だけはァ『絶対に死ぬ』番号であーる」
とある番号だけ。意味深だ。
「もちろんン、その番号は教えないであーる。ちなみにィこの運命ダイスが振られたときィオマエラの電子生徒手帳に番号が映される仕様であーる」
どんな仕様だ。けど確認できるってことはその法則を探るにも便利だっていうことか。
「これを解くにはァ、コロシアイが起きる且つ死体発見アナウンスが鳴るのが条件なのであーる」
「……なるほど。運命ダイスは自分の運で左右される。つまり自分の運を信じられないやつ、また運命を終わらせたいやつはコロシアイを起こせばダイスは止まるわけか」
「解釈はまかせるであーる。まァこれによっては新たな情報が手に入るかもしれないであーるからなァ!!」
情報を得られる回数、これは限られてるな。
「どう利用するかはオマエラ次第ィ。今回はこれ以上動機を出すつもりはないであーるからなァ。ではではァ!!」
ボフンッ!! という軽い爆破音とともにモノヤギは消えた。忍者かよ。
「動機……なのかこれは」
「まるで、操り人形のように蹄の上で転がされている気分です」
ヤギに手ないから蹄か。
「運命…………」
ぽつりと、力のない声が誰かから漏れた。
「…………先に戻るな。お前らも、適当に戻っておけな」
玉柏はそういって集会室から出ていった。その背中は今までの彼とは打って変わって弱々しかった。
……………………私は……
*****
足早に去っていった玉柏の後を気付かれないように追う。Ⅲ棟に入り階段を上り、そのうちにカジノについた。彼が入っていったのと同時に私もその中へと入った。そういえばここの扉は随分重い。まるで拒んでいるかのように。彼はカウンターからカクテルを取って……なんか、カクテル作り出した? レモンの皮をすいすいと切ってグラスに入れて氷もいれて……お酒? と……何かをいれて完成らしい。席につこうとして私の存在に気づいた。
「来てたのか」
「まあ、ね」
「全く……気付かれないように出てったつもりだったんだけどな。お前には特に……来いよ」
私に気付かれたくなかったんかい。玉柏の隣の席に座れば彼は葡萄ジュースを出してきた。
「未成年にはこれがお似合いだ」
「ワインじゃねーよ!!」
大人の余裕め。玉柏も席についた。一口カクテルを飲めばはぁっと余韻に浸るように目を閉じた。
「運命って言葉は、嫌いだ」
玉柏はそう切り出した。
「?」
「ホーセズネックってのは運命を表すカクテル。俺たちがコロシアイをするのは運命、絶望するのは運命、仲間と離ればなれになったのも運命…………何もかも運命で片付けられて嫌気がさすんだよ」
至極真面目に、けれどどこか寂しそうに。
「思い出したことがある。聞くか?」
私は何も言わずにジュースを煽ってチラリと玉柏のほうをみた。彼もまた酒を煽り、タバコに火を付け話を続けた。
「昔の話だ。物心つく前から、俺は母さんと二人だった。貧しくてな……スラムみたいなところで育ったんだよ。金が無ければ生活はできない。俺は生きるために盗みを働いた。最初こそこっそりとだった。だけど次第にやり方はエスカレートしていった。それと比例するように俺は追われた。毎日、毎日だ」
ふいにグラスを握る力が強くなった気がした。
「…………ある日、母さんは殺された。盗み先の人、借金取りの連中に、瓶で拳で思い切り殴られていた……鮮明に覚えてやがる。母さんは最期にこういったよ」
『逃げて、あんただけでもどうか生きて』
煙を吐き出せば、苦い過去がその場を覆った。
「俺は何もできなかったっ。俺のせいで母さんは殺されたんだ。死んだんだっ。逃げるしか、なかったっ。金も何もない。俺はそこから離れて、地域を転々としながら盗みを働いた。……この時にはすでに才能を開花してたんだろうな。…………ある時、俺は年下の二人に出会った。そいつらも盗賊でな。俺はあの二人に着いていくことにした。そして三人が仲間であるという印に羽のタトゥーシールをつけることになった。お互い、金はなかったしな。学校は援助を受けながらの通いだったよ」
だから玉柏はあのとき……
「なあ一つ聞いていいか?」
「なに?」
「…………俺から言った。信頼しろとな。お前、疑いはしないのか? 本当に信頼できるのか? まともに生きたことがないこの俺に。ましてや盗賊なんて犯罪者の端くれ才能の俺を」
確かに。相棒とか言い出したのも玉柏だし信頼しろと言ったのも彼からだ。才能が盗賊っていうのは正直驚いた。けれど、言われたら納得いかなくもない。私は大きくため息をついた。そして大きく息を吸って
「ばーーーーーーーーーーーーか!!!!!!!!!!!!!!!!」
「!?!?!?」
ばかって言ってやった。玉柏はきょとんとしていた。
「玉柏くんのばか。ばかばかばか!! この大ばか者!! 私はね!! あんたが『相棒』なんて言ってくれなかったら、今頃自暴自棄で誰か殺してるから!!!! あんたが止めてくれなかったら、私はあのとき、あの場で誰かを殺してるから!!!!」
本心だった。誰かが支えてくれなきゃ鷹山さんの死を、江上さんの死を受け入れられる気がしなかった。
「お前っ」
「あんたが盗賊だろうと犯罪者だろうとなんだろうと関係ない!! 信頼してくれてるんだもの、それに答えなくてどうするの!? だからっ私はあんたを信じてる!! 理由なんてそれで充分だから!!」
玉柏は目を見開いた。
「あんたが自分を信じられないっていうなら、自分の言霊が信じられないっていうなら!! 私はあんたに手を伸ばすから。それが、相棒の務めでしょ?」
唖然とした様子で私を見つめている。私はというと勢いのままに放ったから息切れした。その勢いのままジュースを飲み干した。玉柏ははにかむように笑ってタバコを吸うとゆっくりと煙を吐き出した。この時のタバコの臭いはとても心地よかった。
「ははっ、確かに『ばか』だな。悪いな。変なこと聞いて」
「君がどんな人であろうと玉柏くんは玉柏くんだから。ここを出るまでの約束はそっちもしっかり守ってくれなきゃ困るし」
「だな。もう一杯いるか?」
うんと返事をしてコップを差し出せば、ジュースが注がれた。
「どうでもいいこと思ったんだけど」
「なんだ?」
「今の私たちの背中、絶対仕事終わりのサラリーマンとOLじゃない?」
「……昼に近い朝だけどな」
「話す内容が朝からするやつではないよね」
「どっちかっていうと夜にするような愚痴だな」
この一瞬で二人してブラックなところに務めてる仕事終わりの人になった。でも、こういう風に話しているほうが気持ちがずっと楽になった。
***
「ところで玉柏くんに聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ?」
「随分前から予想はついてるみたいなこと言ってたよね。あれってどういうこと?」
「あああれか。結論から言うとほぼあってたな。まず怪しいと感じたのは左手の包帯だな。この時点で普通の才能じゃないっていうのは感じた。で、包帯ってことだから怪我でもしてるのかとも思ったが特に痛みを感じなかったし、メカメカしくもなかったから義手でもないってわかった。んで、年齢は忘れていなかったみたいでな。ポケットの中にタバコ入ってたし喫煙できるっていうのもすぐに把握できた。けど仮にも高校生がそんなすんなりタバコが出るはずないだろうと。ってことは何かしら危険を伴いながら生きていた可能性があるっていうのも出てきた」
包帯からどれだけの連想ゲームしてんだ。けど勘とかいいつつもしっかりと考えていたんだ。
「殺人系だとしたら右利きが左手に包帯を付けているのは何かおかしいし、じゃあ取引とか盗むとかそっちかなと」
「そして結論で盗むほうだと思ったのね」
「泥棒だと思ってたけどな。だからほぼって言ったんだ」
そこはプライドが許さないのか。
「そんなところだな。……ふぅ、さて酒飲むのもこの辺にしとくか」
酒を飲み干しタバコの火を消し玉柏は立ち上がった。私も急いでジュースを飲みきってその後ろをついていった。
「知ってるか? バーとかの扉っていうのは意図的に重いってことを」
「え、そうなの?」
「昔はハイドアウトなんて呼ばれていたんだよ。お前ならこの意味はわかるだろ?」
「ギャングの隠れ家、ね」
「重さがあるからこそ中にいるときは外を忘れられるっていうわけなんだとッッ!?!?」
最後のほう説明しているときに玉柏は片足を扉の下の隙間にぶつけて悶絶した。
「いったい……」
「大丈夫、じゃないか?」
「一応大丈夫、だ」
「扉の隙間って開閉しやすくさせるためだけじゃないんだっけ」
「空気の循環のため、もあるな。まあ主は前者だが。ここ5cmほど開いてんだな……いてて、結構いいところ入った……」
まだ悶える彼に呆れると同時にどこか安心できた。おかしくて。右手を差し出した。
「はぁ。ほら手貸すよ」
「……ははっ、悪いな」
自嘲気味に笑って私の右手首を掴んでよっと立ち上がった。片足は少しだけ上げていた。
「しばらくすればなんとかなる。もう昼近いし、食堂いくか」
「了解」
……あれ? 私何気にこういう風に誰かと一緒に行動すること少な過ぎない……?
****
食堂へ向かう途中のコンサートホール。入ると、近衛とダグラスと渡良部が何かを話し合っていた。
「単にあれするのもつまらないし」
「楽しめるには楽しめるけど、限られるよね」
「何か良いアイデアはありませんかね……」
なんとなくだけど、何か企画しているのかな。
「何してるの?」
「直樹殿と玉柏殿ではありませんか。実は」
経緯を説明された。どうやら親睦を深められる何か企画をしたいらしく、それをなるべくⅢ棟内でやりたいそう。
「Ⅲ棟内でできる何か、か……」
「お前ららしくゲーム大会でも開けば良くないか?」
「そんな単純なことじゃないのさ。それでもいいとは考えたけれど、Gameが嫌いな人苦手な人は普通にいるからさ」
おい玉柏そっぽを向くな。
「
「実はわたくし、仕えた方はお一人だけでございまして」
「一人だけなの!?」
一人だけって近衛の言ってたあのお嬢様だけってことだよね? 嘘でしょもっと仕えたことあるのかと思ってた。
「はい。ゲームはやってはおりましたけれど……」
「やっていたけど?」
「仕事をやりながらの古今東西ぐらいしか」
まさかの古今東西
「世界各国のフルネーム、全国の市町村、家具、動物、等々でございましょうか……頭を使いますし、もしも知らないものが出た場合勉強にもなりますので」
その発想はなかった。
「けど延々と言うだけ繰り返すのってさすがに……」
「親睦深めるためのものなんだよな? それなら……」
玉柏がアイデアを述べていく。なるほど。これはいけるかもしれない。三人も感嘆としている。
「Good idea!! 名案じゃないか!!」
「その手がございましたか……」
「主催はどうせお前らなんだから、あとで話し合ってみたらどうだ?」
「あ、
とかなんとかいいつつも、主催はゲームトリオがすることになった。
「そういえば、今昼だけど近衛くん昼食は?」
「そのことでございましたら、金室殿と矢崎殿が行っております。たまには自分たちでと申しておりましたので」
ずっと料理してるの近衛だからか。まかせきりは良くないと思ったのかな。
「でもそろそろ戻ったほうがいいかも。戻ろ」
五人で移動することになった。私は一番前にいたんだけど、ちょっと振り向いたときにどこか近衛が複雑そうな顔をしていたのが見えた。
*****
食堂に行ったら本当に金室と矢崎が準備をしてくれていた。
「お二人ともありがとうございます」
「いいよいいよ。料理はできるし、たまーにやらないと腕が落ちるからね」
笑顔で答えながら料理が並べる。近衛と負けず劣らずな感じだ。
「いただきます」
手を合わせて二人の作った料理を食べる。素朴で優しい味が口の中で広がる。
「おいしいわね!!」
「優しい味じゃな。別院で食べるのと同じ味がする」
「ありがとうございます。ご飯とお汁はうちが、他は矢崎さんがやってくれました」
それぞれ役割分担したのか。その方が効率もいいし、楽だもんなぁ。
「ふむ……」
「近衛くん?」
近衛は食べてる最中ずっと難しい顔をしていた。
「おや、口に合わなかったかい?」
「いえまさか、そんなことはございません。しかしながらこちらのごまドレッシング。一風変わった味だと存じました。おそらく隠し味があるのかと」
「さすがだね。そうだよ。あたいの作ったドレッシングには隠し味があるんだ」
どうやらドレッシングに隠し味があるらしい。私ももう一回確かめてみたけど、うん、よくわからない。
「とてもまろやかな味で、ほんの僅かではございますが生姜も混じったような……ただそのまま入れたのではなく、加工されたあとのもののような」
マジかよもう一回食べても全く気づけないんだけど。けどそのかわりにどこか感じたことのある舌触りがした。米?
「なかなかいい線いってるね~なら中になーにがあるかもわかるかな?」
「まず玉ねぎと炒りゴマとニンジン……醤油もございますね? それとお酢に油……にんにくも少々……」
「そこまでの材料はあってるよ。そして隠し味が最後の一つ。なーんだと思う?」
いつの間にかドレッシングの材料当てクイズになってる。そしてそこまでしっかり当てられるのかよ。
「……発酵したものが入っている気が致します……となると候補は絞られるから……いやこれじゃない……どっちだ……」
「
ここまで何かに熱中している姿をみたことないからなぁ。
「……いや…………味噌なら主張がもう少し激しい……ということは…………甘酒とか?」
「ふふ、その通り。隠し味は甘酒だよ」
近衛は見事隠し味を言い当てた。なるほどあれは甘酒の米麹だったのか。
「発酵調味料の効果で味がまろやかになるんだよね。ホントは1日おいたほうが玉ねぎの辛味が少なくなって味が馴染んでくれるんだ」
「なるほど……玉ねぎの分量がやや少なく感じたのはそのためでございましたか」
「そこまで見抜かれちゃってたんだね」
「しかし」
近衛が少しトーンを落とした。
「……矢崎殿。これは誰かに教わったのではないでしょうか。いえ、ただのわたくしの勘でございますからそうでないならはっきりと仰って頂いて結構でございます」
「ん? ああ教わったやつだよ。知り合いに栄養士の人がいてね。たまーに彼が隠し味とかを教えてくれるんだ」
「お手数ではございますが、その方のお名前は」
「…………思い出せない。ここに来てから、幾人もの人の名前を、あたいは忘れている」
「矢崎殿も、でございますか?」
「どういうことだい?」
空気が一気に変わった。
「……わたくしは、忘れてはならぬお嬢様の名を忘れてしまっております。それだけではございません。他にも、誰かいたはずの名前を、忘れてしまっている」
衝撃的な告白が近衛の口から飛び出た。
「!!
「え、それは…………」
あれ、おかしい。忘れるはずがないのに。嘘だ。だって私たちは……
「わた、したちは…………なんっ……で……? 覚えてない……」
「……てめぇはどうなんだよ盗賊野郎」
「………………」
玉柏は答えなかった。肯定したんだと思った。
「他の人は?」
「私もだ……」
「うちも同様です」
巡間も金室も、みんながそうらしい。思えば、ここにいない誰かの名前を偉人なら聞いたことはあっても、本当に身近な人の名前は一度も聞いたことがない気がする。事実、数日前橘が言っていた『F.T』とやらもただのイニシャル。しっかり名前はあるはずなのだ。
いたはずなのにいない。記憶はどうしてこうも理不尽なんだ。
*****
昼を過ぎた頃。Ⅱ棟のカフェで紅茶とクッキーを飲み食いしながら少し渡良部と話をしていた。
「どうしてなんだろう…………」
沈んだ気持ちが、悩みが私たちを囲む。
「名前を忘れるっていうのはかなりまずい……だってここにいる人の名前しか覚えていないってことは、あのヤギがこの空間を独立させようとしているってことでしょ?」
「独立させるにしても不自然なところは多いけど、そう考えたほうが自然……」
「あんたの言う不自然って記憶のことについてでしょ? でもそれは前にほとんど解決してるよ」
そう『ほとんど』解決している。数日前に国門を中心としてみんなと話したあれで。でも正直それまで。まだなにかありそうなんだ。
「あああ!! もうやめやめ!! この話やめっ!!!! 別の話題に移そ!!」
渡良部は無理やりこの話題を終わらせた。まあそうするだろうなぁ。
「そういえば渡良部さん。私のことばかり言っているけど、実のところ君はどうなの?」
「うっ」
いつもやられっぱなしだから今回先制で。
「どうもなにも……えっと……」
「シャキッとしようか」
「っ。……す、好き……だよ。
それが聞きたかった。
「でも私最近、そばに居たいとかそれだけでいいのかって思い始めたの」
「というと?」
「なんか、アプローチみたいものをかけたい」
ひゅうっ!! 直球だぁ。やばいにやける。
「アプローチね……」
「そう……どういうのがいいのかなって」
自信家なのにこういうところすっごい乙女だよね渡良部。自分がその立場だった頃が懐かしくてにやける。落ち着こう。それは心の中に留めて。
「近衛くんの好みとかはわかってるの?」
「紅茶が好きって言ってた。ハーブとかも」
「前バーベイン茶飲ませてもらったけどおいしかったよ」
あとはシフォンケーキ食べたときのアールグレイ。
「へえあんたそれ飲んだんだ。
「へえ。近衛くん何好きなの?」
「カモミールティー。ちょっとアップルティーに近い感じのやつ」
あ、知ってる。白い花で中央の部分黄色いやつ。確かジャーマン種とローマン種があるんだっけ。とにもかくにもあれきれいだなっていつも思う。
「でも紅茶にも淹れ方あるから……」
温度とかそういうのですねわかります。
「近衛くんなら何もらっても嬉しそうな顔しそうだけど」
「そんなこと言われても、もしそうじゃなかったら怖いじゃん」
うーんと唸り渡良部は眉間にシワを寄せている。そんなに深刻そうにしなくても。
「あ、なら押し花とかどう?」
「押し花?」
「簡単に言えば本に挟める栞のこと。今じゃ栞紐とかあるからあれ栞を使う人は少なくなってるなんて話もあるけどね」
「へえ栞か…………それいいかも。カモミールあるかな」
「植物庭園行けばあると思うよ。あとは矢崎さんとかも花言葉は知ってるほうだし手伝ってもらうといいよ」
「……頼んでみる。ありがと」
紅茶を飲み干して渡良部は立ち上がった。
「ところでさっきからにやにやしてないで」
あ、バレてた。
***
そろそろ夕方か。そんなわけで適当に外をうろうろしている。噴水近くのベンチに誰かの後ろ姿が見えた。橘だ。近くまで行ってみると、何かを読んでいる。なんか、手がいっぱい描いてあった。
「それもしかして手話?」
「あ゛?」
いつもの通り不機嫌な顔された。
「てめぇに教える義理なんざねぇだろうが」
「いやばっちり見えてるんですが」
言われた途端にバタンと本を閉じて端においた。いや手遅れや。足を組んで膝に肘をおき手を顎に乗せる。相変わらずのしかめっ面だ。ちょっとお隣お邪魔しまーす。
「…………」
「…………」
くっそ気まずい。
「てめぇは」
無言の続く中で、橘が口を開いた。
「てめぇは……なんで翻訳家になりたいと思った」
質問内容に少し驚いた。正直それを橘から聞かれるとは全く思ってなかった。
「母さんが仕事で海外にいて、父さんもそういうあるからよく旅行してたんだ。そのときに世界の言語に触れた。ヨーロッパは凄かったなぁ。違う言語が飛び交っても伝わることもあるんだ。そういうのが面白くて。必死になって言語を覚えたよ」
「それがてめぇのなりたかったつう理由か」
「まあそんなとこ」
「……そうか」
私を睨むその目には、今まで見ることのなかったものがあった。橘は足とか崩して差していた杖を引き抜いてそれをじっとみた。
「世界には必ず、言葉以外でほぼ100%伝わるものがある。俺は……それをずっと追っていた」
確信したように彼は続けた。
「論理は裏切らない。あいつの隣で見てきたのに二度も失って自棄になって。ふざけたことだとわかっていても……届きやしねぇ。敵いやしないことも承知だった。少しはそれに近しいと思って近づこうと思ったやつでさえ死んでいった。なにも出来ない自分にくそみてぇに腹が立つ。砂を噛むみてぇな味気無さに腹が立つ……!!」
折らんばかりに杖を強く握りしめた。と思ったら今度は杖を背中においてさっき読んでいた本を眺めた。
「俺は…………なりたかったものをたった一度の行動でぶっ壊した。さらに自棄になって何度も何度も死ぬほど振り回した」
本にでこをばんと当てた。けどその音はひどく情けなかった。
「翻訳家、伝えられるものは必ず伝えろ。必ずだ。俺は……………………こうすることしか出来やしねぇから」
いつの間にか伸びていた左手に、いや、いつの間にか右肩に置かれた左手に、私は気づかなかった。そしてトンッと、優しく押された。
ザザッ……
「……………………えっ?」
ザザザッ
押された瞬間に、私はなかったはずの過去が少しだけ見えた。そうだ、私たちは……わたし、たち、は……あれ、声が出ない……?
「一つ答えろ。思い出したか否か」
「……少しだけ」
「それでいい」
彼はそう呟いて杖を回収してこの場を去っていった。けど私はまだ……
「橘くんっ!!!!」
______
ひとつだけ
______
*****
少しだけ知らないものを見た夕方だった。正直夕食を食べるとき気になって仕方なかった。そういえば運命ダイスはどうなっていたのか。気になって電子生徒手帳を開けば、二回ダイスが振られていた。番号は36と59。法則的なものはあるのだろうか。
それと橘によって少しだけ思い出された記憶。これで解決したことがある。さらに前回のスクリーンで見せられたあの赤い夜? についても、確信が持てた。あれはモノヤギの言う通りノンフィクションだって。でもそれなら私たちはどうして生きていられているのかという問題も現れた。
進展はあった。けれど明日は上手くいくか? 運命のダイスに左右されるのはわかっている。でもいつまで振られるのだろう。
*****
13日目
アナウンスの音は聞こえない。電子生徒手帳の時間を見るとすでに07:30。ついでに振られているかどうかを確かめたら51。マジかよ。これ寝てる間でも振られるのか。えっそれ恐ろしくない?
***
階段をタッタッタッと降りて食堂に。あと二人いないけれどそれ以外は揃っていた。いないのは巡間と金室だった。
「あの二人いないの珍しい」
巡間は結構早めにくる人だし、金室も遅れるなんて滅多になかった。
「お二人大丈夫ですよ。しっかりしている方々でございますから」
心なしかいつもより近衛が嬉しそうに見える。渡良部の押し花作戦が成功したと見た。
「まあそのうち来るじゃろ。1分もしないうちに少なくとも一人は」
確信したように灰垣が言った。と同時に
「すみません。遅れましたね」
金室がやって来た。ほらと言う代わりに彼は目を閉じた。
「最近どうにも落ち着かなくて。日に日に遅れていてすみません」
「気にしなくていいよ」
そうこうしてると巡間もやって来た。って
「おっと私が最後だったか。すまない」
「なんかボロボロになってない!? 髪の毛すごいことになってるんだけど!?」
「いや、実は少しドジをしてしまって。おかげで顔も痛いし髪の毛も整えられなくて」
しっかりしてる彼がドジをするって珍しい。
「あ、これで全員揃った?」
このタイミングで渡良部が口を開いた。あれのことを言うつもりだと思った。
「どうしたんだい? なーんかみんな揃うのを待っていたような言い方だったけど」
「いや私たち、割りと長い間一緒にここにいるじゃん。でもあんまりみんなのことを知らなさすぎるんじゃないかって」
「言われてみれば……」
「だから私たちは考えたの。みんなの才能以外の特技とか趣味とかを披露し合いたいなぁって」
実際は玉柏考案なんだけども。そのご本人が主催から逃げたからなぁってチラリと見たらそっぽ向かれた。おいそっぽを向くな。
「特技とか趣味の披露か……おもしろそうじゃな」
「あ、これ全員強制参加だから。特に
「はぁ!?!? ざっけんじゃねぇぞ!!? なんでんなもんに参加しなきゃなんねぇんだ!!」
「場所はⅢ棟でやりたいんだけど大丈夫?」
「話を聞きやがれ!!」
「大丈夫ですよ。ですが準備とかの時間はあるんですよね?」
「もちろん。で、急で悪いけどこれ今日の昼ご飯食べ終わったあと……大体2時とかにやりたいから準備があるなら早めに済ませておいたほうがいいと思う」
ホントに急だよ
「よし!! じゃあ2時にコンサートホールに集合ってことで!!」
かくして私たちは2時から特技披露大会を始めることになる。結局橘の抗議は聞き入れてもらえなかった。なんというか、御愁傷様です……
→to be continue…………