表裏ダンガンロンパ ~共通とすれ違いの物語~   作:炎天水海

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第三章(非)日常編 運命は4部屋目

 

 

 ______

 

 

 あの日の声を

 

 

 ○○は忘れてはならない

 

 

 どこまでも

 

 

 血液は追ってくる

 

 ______

 

 

 

 

 

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 

 *****

 

 

 朝食後。みんなそれぞれ何かしらの準備をしている。うーんどうしよう。さすがにあの場で拙いヨガを見せる訳にもいかないし。かといって男装は真っ平ごめんだ。どうしようかな。世界についてでもなんか才能と近くなりそうだし……あ、そうだ。私は倉庫に足を運ぶ。

 確かここに……あったあった。ガスコンロ。ガスボンベもあるかな……見っけ。あとは……お、水のボトルも発見発見。探すの楽しい。そして……っ!! やった!! あった!! お餅!! これがないと始まらない。意外と知らない人いるし。

 とりあえず全部回収してコンサートホールにおいておこうかな。で、あと必要なものは……つけるもの。ずんだとかあんことか用意しなきゃ。食堂行こうっと。

 厨房には矢崎がいた。やあと軽く挨拶を交わして互いに作業をする。

 ええっと、枝豆あるし……まずお湯を沸かそう。枝豆の天地を切って塩揉みして……汚れないかなぁ。あ見つけた。落として落として、で塩分含ませるようにもしちゃう。

 「直樹ちゃん直樹ちゃん、お湯沸いてるよ」

 「あ、ありがとう!!」

 作業に集中していて気づいてなかったや。とりあえず一通り豆の準備も出来たし。お湯に塩を入れて枝豆を煮る!! 時間はそこまでかからないし。この間にざるとか砂糖とか用意しよう。しばらくして時間が経ったから枝豆取り出してざるにあげて冷ますっと。あ、あんこも用意しなきゃだし冷ますついでにやっちゃおう。

 けどあんこって作るのに時間掛かるんだよなぁ。どうしよう。

 「どうしたんだい?」

 「ああ。あんこ作ろうと思ったんだけど時間掛かるからと思って……」

 「倉庫に瓶詰めのあんこ見なかったかい?」

 「あ、探してなかった。行ってみる」

 もう一回倉庫に行くと確かに瓶詰めされたつぶ餡があった。これであんこは困らない。戻って矢崎にあったことを伝えるとよかったよと笑顔で返された。

 さてと、まだまだ準備は終われなさそうだ。

 

 

 

 

 そして時間が過ぎていった

 

 

 

 

 お昼が過ぎ2時となる。私たちはみんなでコンサートホールに向かった。ゲームトリオは飲み物とかお菓子とかも用意してきた。一番悪態をついていた橘もしっかり来ていた。

 「なんで俺まで来なきゃいけねぇんだよ」

 「強制参加だから仕方ないよ」

 「チッ……」

 「よし、準備オッケーっと」

 「全員揃ったかい? じゃあ席に着いて!!」

 みんないることを確認してからダグラスがマイクを取った。司会は彼が務めるらしい。

 「Ladies and gentlemen!!!! ようこそ!! これから、みんなの特技披露大会を開催したいと思います!! イエーイ!!!!」

 「イエーイ!!!!」

 「わあわあ!!」

 みんなが歓声を上げる。

 「これは今朝ミス渡良部も言った通りで、一人ずつ何かしらの特技を披露するものさ!! 順番なんだけど、希望でミス矢崎が始めることにするよ。いいかい?」

 「いいぞ」

 みんなの同意を受けて、ダグラスはまた続けた。

 「OK!! じゃあミス矢崎!! よろしく!!」

 合図と共に矢崎が席を立ち上がる。そしてステージに上がって軽い準備を施すと簡易ガスバーナーを取り出した。ガスバーナー!? 横を見ると布が被せられていた。しかしそこからは甘い匂いが漂う。あ、わかったそういうことか。

 「さっきの時間厨房を借りさせてもらったよ。でね、小さいけれどこんなものを作ってみたんだ」

 開けてと言われてダグラスが布をバッと取る。そこにはブリュレがあった。

 「で、これから仕上げるんだよ。これでね」

 そういうと矢崎は手慣れた手つきでガスバーナーの火をつけてブリュレを炙り始めた。

 「お上手でございますね……」

 「いろいろ作るからね~ああこれ苦手な人いるかな? 少し甘さは控えたほうだけど」

 「悪いな。俺は甘いものは嫌いなんだ。俺の分は誰かにやってくれ」

 「わかったよ」

 そうこうしていると炙りが終わった。素人目でもとてもきれいだと思った。

 「はい、どうぞ。少し熱いから気をつけてね」

 一人一人にブリュレが渡っていく。ちなみに玉柏のは私に渡った。一口食べるとほのかで控えめな甘みが口に広がった。くどくないから食べやすい。

 「おいしい」

 「これなら……うちでも食べられますね」

 あんた苦手だったんかい。

 「あたいの披露はこれで終わりだよ。ありがとうね」

 パチパチと拍手が起こり矢崎は一礼した後席についた。

 

 

 *

 

 

 「よーしNEXT!! 誰がやる!?」

 「ではうちよろしいですか?」

 「もちろんさ!! じゃあミス金室!! よろしく!!」

 金室は袋を持ちながらステージに上がる。

 「矢崎さんのブリュレを食べながらでいいので。この中にあるのは折り紙なんですけど、単に鶴とかではありません」

 そういって取り出したのは薔薇だ。いや折り紙の薔薇。しかしかなりキメ細やかなものだ。リアルに再現されている。

 「本物みたいだ……」

 「本物に近づけましたからね。ですがこれはまだ序の口。こちらが本命ですよ」

 さらに袋から取り出した。それを見た私たちは目を疑った。

 「これって……」

 「一体につき、一枚の紙を使って作りました」

 「い、一枚だけで!?」

 それは私たち全員の折り紙人形だった。今はいない鷹山や江上、宮原、阪本もいた。

 「一枚だけでこんなこと……」

 「出来るんですよ。うちのところ少し紙を無駄遣いする人がいたので、折り紙でいろんなものを表現してみるのもいいのではというわけです。その名残で作っちゃいました」

 作っちゃいましたで作れるレベルじゃないんだけど。

 「これ、この短時間で作ったのか?」

 「……いいえ、実はここに来てから毎日夜中に作ってました。一人一人、一時間から二時間かけて。五十音順……出席番号順と言ったほうがいいですかね。その順で。ですから江上さんは一番最初に完成してました。1日だけはすぐに寝てしまったので次の日に二つ作ってて。本当は全員分作ってから渡そうと思ってたんです。ですがいつの間にか時は経ち、人は死んでいって。鹿威しの音を『聴く』余裕がなかったんです。ずっとずっと、嫌いな噴水が激しく音をたてながら流れていたんです」

 少し悲しげに優しくポツリと。

 「渡良部さんがこの企画を提案したときに、真っ先にこれを完成させないとと思いました。みんなに、渡さないといけないと思いました。なので急いで完成していなかった矢崎さんと渡良部さんの分をあの準備時間で終わらせました。少しだけ二人のやつは不恰好になってしまいましたけど」

 よくよく見ると、他のやつよりもややずれが見られた。

 「これは皆さんに差し上げます。ああふたりはどうします? また作り直すこともできますけど」

 「いい。このままで」

 「あたいも同じで」

 「……わかりました。ではどうぞ」

 みんなに手渡しされた私たちの折り紙の人形。見事にその人の特徴を捉えていた。

 「うちの発表はこれで終わりです。ありがとうございました」

 軽く一礼をして彼女は席についた。

 

 

 *****

 

 ブリュレ食べ終わった。さすがに二つはキツかったけど、甘さ控えめのおかげか完食できた。

 「さてさて、次は誰がやる?」

 「では私がやろう。早速なんだがカジノに移動してもらって構わないか?」

 「もちろんさ!! それじゃあみんな!! 移動しよう!!」

 私たちはカジノへ移動する。

 

 

 *

 

 

 カジノの重い扉を押し開けて中へと入る。巡間はその中にあるビリヤードの台に手を伸ばした。

 「私は昔ほどではないがビリヤードができる。ダグラスくん、玉をまとめてもらっていいか」

 言われてダグラスは玉を三角の型に入れて整える。カタカタカタという音をたてて。

 「最近やる機会がなかったからさっきの時間だけで腕が戻ってるとは思えないが。まあ精一杯やるよ」

 そういうと白い玉を定位置に置き左手で棒を構えた。構え方は本格的だ。ダグラスが型を外すのとほぼ同時にゆっくりと狙いを定めた。そして勢いよく打つ。コツンッ!! っという音が響いた。玉はそのまままとめられた玉に当たりそれぞれ広がっていく。玉同士弾け、縁に当たっても弾け、コツンコツンと流れる。一つの玉はポケットへと入った。

 「おお」

 「まだまだ。これからだ」

 再び構えてコンッと玉を狙い打つ。数回かすったりややミスはしていたものの、一度も白玉を落とすことなく終わった。

 「すっげぇぜ。久しぶりのレベルなのか?」

 「最後にやったのは数年前なんだ。まあでも楽しかったよ。ありがとう」

 巡間のプレイに拍手が湧いた。

 

 

 *

 

 

 「なあ、特技披露ってのは一人一つまでとかって制限あるのか?」

 「特にそういうのはないよね?」

 「ええ。好きなように行っていただいて結構でございます」

 「ならここでできることを俺はやる。でだ、俺の一つ目の特技は将棋なんだが、出来るやついるか? ダグラスより少し弱いくらいでいいんだが」

 「ダグラスくんで良くない?」

 「ディーラー相手じゃ得意なの伝わりにくいだろ」

 「あ、いや、ミー将棋よりもチェス派だから。多分将棋だとミスター玉柏に勝てないと思う」

 マジか。意外な苦手なものを発見。

 「ならわしが相手をする。昔よくやっておったからの」

 灰垣が名乗り出た。ああでもなんか、強そう。

 「よし。台頼む」

 「もう出てるわよ」

 「はやっ!?」

 確かに渡良部が用意していた。早いなおい。

 「想定してるから。どれが出てもいいように倉庫から一通り持ってきたつもり」

 エスパーか!!?

 「なら、とっとと始めるか」

 「じゃな」

 で、始まったわけなんだけど。

 

 カチッ

 カチッ

 カチッ

 カチッ

 カチッ

 カチッ

 カチッ

 

 「お互い打つ早すぎないっ!?」

 「え、考えてる?」

 「当たり前だ」

 考えてそんな指し方よく出来るね!? 私無理だわ。

 「どの戦法できているかは大方見ておる。相振り飛車じゃろ」

 「ご名答。ま、バレてる以上変えていくけどな」

 カチッ

 「っと……仕込んでおったか」

 カチッ

 「当たり前だ。こちとら隙を見せたら」

 カチッ

 「捕まるんだからな」

 「ふん、盗賊らしい言い方をするもんじゃな」

 カチッ

 

 二人の指し音がはっきりと聞こえる。私たちは見いっていた。こういうものは大体見ているうちに飽きがきて、眠くなることが多い。けれどそんなことはなかった。二人のペースはやっぱり非常に早く本当に考えながらなのかを疑いたくなる。適当に話ながら指しているにも関わらず。

 結局、灰垣が白旗を挙げたことで将棋は終了した。

 「見事じゃった。得意というだけあるの」

 「そっちこそ。後半焦ったぞ。あんなむちゃくちゃな戦法で」

 「はっはっはっ!! 油断大敵、というじゃろう?」

 「どうやら俺は、お前との試合には勝っても、勝負に負けたみたいだな」

 「そんなことないじゃろう」

 まあ事実、あんな位置に王があったらびっくりするわな……

 「さて。つまらなかったら悪かった。一つ目は終わりだ。もう一つのほうは下でやったほうがいいし、少し休みたいからな。誰かここでやれる特技あるんなら先にやったほうがいいんじゃないか?」

 私は下でやるからいいんだよな。

 「あ、じゃあ私いい?」

 手を挙げたのは渡良部だ。渡良部のことだからきっとゲームのことかな? って思っていたら、なんか向かう場所全く違う。そう、バーカウンターだ。

 「え、なに、渡良部さんもしかして……」

 「いや飲んだことないから!! 知識として知ってるってだけ!! はい、これ!!」

 出されたのはワインのボトル。

 「これは?」

 「『グリ・ド・グリ』っていうワイン。直樹(トン)なら、この意味わかるしょ?」

 え、待って!? グリって……それって!!

 「ま、待って!? これってまさかあの灰色ブドウの灰色ワイン!?」

 「そうそう。灰色ブドウの灰色ワイン」

 「ブドウに灰色ってあるのか」

 「そうじゃなくて、藤色とか薄ピンクのブドウを灰色ブドウっていうの。特徴を表現した濃い色あいの白ワインのことを『灰色ブドウの灰色ワイン』っていうだけ」

 「別の読み方をすればヴァン・グリでしょ……しかもこれイタリア産……ええ待って生で見るの初めて感動一度お会いしたかった代物大人になったら飲も……」

 「直樹さんが有名人の握手会で感動のあまり震えているファンに見えるんだけど」

 「なにその例え!?」

 

 ※お酒は二十歳になってから

 

 いやだってこれモノヤギのセンスがすごく高いんだもん。本当に感動してる。しかもこれよくよくみたら元祖……こんなところで出会うなんて……ワイン相手(?)になんか、おそれ多く思ってるんですけど。

 なぜ私がこんなにも感動しているか、と言われればこう答える。父の仕事でそれを配達することになっていて、それを聞いた母がとても感動していて私も釣られて気になっていたからだ。

 「けど渡良部さんがこれについて詳しいのなんか意外」

 「麻雀やる前にちょっとね。あんな親だったし。でもワインって長い間、数十年とか熟成させるじゃん? けどその中で大きな地震とかそういう災害があってもおかしくなくて。それに耐えてすごい商品できるのってなんかいいなぁって思ってた。あ、それとみんな」

 「?」

 「エチケットって知ってる?」

 「確か礼儀とか作法とかの意味じゃ……」

 「待った。今ここでエチケットが出るってことはつまりワインに関係している。そしてそのエチケットの意味は『ラベル』のことでしょ?」

 さっすがと渡良部は指を鳴らした。

 「大正解。そもそもエチケットってフランス語なんだって」

 「そうなのか!?」

 「そ。どうしてそうなのかっていうと元々『荷札』の意味を持っているの。ワインの輸送のときに荷札通りに中身が入っているかどうかを荷札でチェックしていたんだって。そこからエチケット=マナーっていう構図も出来たんだとか」

 意味あってる。

 「ワインとかカクテルは、意外と歴史あるもんだからな。カフェとかにいけばそういうのあると思うぞ」

 「……久々に読んでみようかな。けど今はそれよりも気になるものあるし、そっち調べる」

 こんな感じで渡良部のも終わった。それと同時にここでは誰も何もやる人はいなかったからカジノを出ることになった。

 「つーか何であそこアルコール臭してんだよ」

 「あ、落として割ったの忘れてた……」

 「拭きなさいっ!!!!」

 後始末をしたあとに。

 

 *****

 

 三階へと戻り席につく。軋む音がいくつも聴こえる。

 「よーし!! 次は誰がやる?」

 「んじゃ、僕いいか」

 今度は国門。私たちにヘッドフォンを渡し始める。ヘッドフォン?

 「音が響くから、ヘッドフォンつけとけよ?」

 そういって取り出したのは……リボルバーだ。

 「僕の特技は射撃。これでも命中率は高いほうだぜ。入ってる弾は実弾だがもちろん人を殺すためのものじゃあない。だからこいつには満タンの8発しかない。これをすべて披露のために使いきる」

 缶をステージ端に四つ横に並べて、反対側に国門は立つ。始まる、そう思って私はヘッドフォンをつけた。

 「まず四発」

 バンッ!! っと響く銃声(ヘッドフォンをつけているからやや音量は小さく聞こえたけれど、とても響いていたことは確かだろうというちょっとした推測)。彼は右手だけで左側の缶を二個撃ち抜き、素早く左手に持ち変えてバンッ!! っと右側の缶を二個撃ち抜いた。

 「すっご……」

 的確に撃ち抜かれた缶は吹き飛んでいた。国門はそれを拾うと近衛になにかを指示した。それをかしこまりましたという礼とともに近衛は缶を持ってステージの近くいく。国門はなぜか腰にリボルバーをしまった。

 「次四発」

 すると近衛が缶を一つ放り投げた。その瞬間宙を舞う缶が撃ち抜かれた。しかも彼は低位置、正確にいえば腰から撃ったのだ。

 残りの三つの缶も投げられた。。左腰からの低位置射撃。そして残りの二つは速射。左手での速射だった。これらすべての動作が速かったにも関わらず、まるでスローモーションで見ているかのような気がした。

 国門の口からふぅとため息一つ。全八発を撃ち終わったのだ。ヘッドフォンを外す仕草をしてたから、そのタイミングで私もそれを外した。

 「なんか……意外でした……」

 「裁判以外でやれるっていったらこれしか浮かばなかったってだけだぜ。んーだけど左腰から打つの少しミスしてる。端に当たっちまったぜ」

 「それにしてもすごいじゃないかい。習いはしていたのかい?」

 「いや別に。ただ的に矢を当てるのとかは普通にできた」

 それ普通に才能や。

 「……ガンマンみたいでかっこよかったですよ」

 「けど銃なんてどこで……」

 「僕のところクレー射撃の部があってそこに時たま顔出してやらせてもらってた」

 常連客かよ。

 「まあいいじゃないか!! 素晴らしい特技だったわけだしさ!!」

 「ありがとう」

 

 

 *

 

 

 「それじゃあ次誰やるの?」

 「えっと、その前に今誰がやったかの確認をするよ。ミス矢崎、ミス金室、ミスター巡間、ミスター玉柏、ミス渡良部、ミスター国門。この六人だね。それとミスター玉柏はもう一つあるんだったっけ?」

 つまり残りは私、ダグラス、近衛、灰垣、橘、湊川、二回目玉柏ってことになるのか。

 「ではわたくしが次に行いましょう。しばしの間お待ちいただけますか? 着替えたいので」

 「もちろん!!」

 近衛は控え室に入っていった。どうやら下の階からすでに衣装はとっていたらしい。

 「近衛(リーチ)は何披露してくれるんだろうなあ」

 渡良部は心底楽しみな様子。しばらくすると控え室の扉が開いた。そこには

 「お待たせ致しました」

 「えっ!?」

 「その格好は……!!」

 着物姿の近衛が現れた。よく見ると左に刀が仕舞われている。これはまさか

 「以前剣道を嗜んでいると申したことがございました。それに関連した形で、わたくしからは抜刀を披露させていただきたく存じます」

 そういうと近衛は一度ステージに正座で座る。深く一礼をして片足をあげ構え始めた。しばらくの静寂が訪れる。

 

 

 刹那

 

 

 シュパッ!!!!

 

 

 「はっ!! いやぁあっ!!!!」

 早すぎて何も見えなかった。一瞬すぎる抜刀。掛け声を聞いてやっと認識した。抜いて素振りをしたのだと。

 「かっっこいい…………」

 渡良部は小声で胸を抑えながら呟いた。

 近衛が刀をしまうとまた同じ体勢に入る。二度目だ。今度もまたシュパッ!! っと抜刀。掛け声が響く。この抜刀はさっきよりも目視することができた。

 こんな動作をだいたい五回くらい彼は繰り返した。それらが終わると彼は深々と頭を下げた。

 「以上でございます。ありがとうございました」

 うおおっと拍手が沸き立つ。

 「かっこよかったな。すごい抜刀術じゃないか」

 「ホント!! 近衛(リーチ)とてもかっこよかった!!」

 「お褒めに預り光栄でございます」

 少し失敗してしまいましたと言っていたけれど、そんな風には見えなかった。

 「私は初めて見たが……目の前だとやはり違う」

 ああ、巡間は前に見ていなかったっけ。

 「よし、次はわしがやろう」

 「お、ミスター灰垣か!! どうぞどうぞ!!」

 灰垣はゆっくりとステージに上がる。

 「見える位置に来たほうが良いぞ」

 みんなで少し席移動してステージ近くになる。

 「わしの披露するものはこいつじゃ」

 そういって羽織の裾から一本の紐と三つのコマを取り出した。

 「昔ながらのものじゃが、こいつにわしなりのアレンジを加えて披露させてもらうぞ」

 一つのコマに紐を巻き付ける。それっ!! と投げるようにすればコマがステージで回る。さらにもう二つのコマを素早く回し、三つのコマがステージで踊る。今度は持っていた紐を回っているうちの一つのコマにくくりつけてひょいっと持ち上げ左手のひらに乗せた。

 「おお……」

 ところがそれだけに留まらなかった。片手で器用にまた回っているコマ一つを持ち上げる。今度は左の腕に乗せた。不安定にも関わらずそれはずっと回る。そして最後のコマを同じようにして持ち上げる。その瞬間紐を手放してコマを掬うようにして右手に乗せた。

 そして

 「ほっ!!」

 右手のコマが宙を舞う。その一瞬を逃さず腕にあったコマを空いた右手に移す。宙のコマが降りてくるタイミングを見計らい左手のコマをあげて受け止める。そういう行為を繰り返した。

 そう、それはまるでお手玉。ジャグリングのほうが正しいかな? 止まることのないコマはぶつかり合うこともなく、ただ灰垣の手のひらを泳ぐばかりだった。

 「絶妙すぎる……」

 そう思うのも無理はない。だって『回っているコマ』なのだから。少しでもバランスが崩れたりぶつかったりすればこれは成り立たない。ふわりと持ち上げて、そっと受け止めるその手捌き。並みでは出来ないと言える。

 「よっと。これで終わりじゃ」

 コマを一つずつしっかりと受け止めて、フィニッシュとなる。感銘を受けるほどの披露に拍手が絶えない。

 「チェーンソーとか火炎瓶とかでジャグリングしたことある人は見たことあるけど、待ってるコマでやる人初めて見た……」

 「あれは危険じゃよ。じゃがこっちのほうが安全じゃし」

 「難易度はそっちもどっこいどっこいではないか?」

 同意。けれど素晴らしい披露であったのは確かであった。

 

 

 *

 

 

 そろそろ私も披露しないと。そう思って手を挙げた。

 「次いい?」

 「ああ!! もちろんさ!!」

 席を立ってステージに上がる。用意しておいたガスコンロ、鍋、餅、包丁を取り出した。鍋に水を入れて火を着けて沸騰するのを待つ。その間に包丁で餅を切り分けておく。

 「餅?」

 「そ。私昔っからお餅大好きでね。お餅ってお米に比べて水分は少ないけどたんぱく質と炭水化物が多いんだ。けどお米とほぼ同じ栄養分が補給できる。それに茹でる!! 焼く!! いろんな食べ方ができる!! お米とはまた違うし」

 「うーん。でも割りと一緒な気もするけど」

 「考えても見てよ。ご飯にね? きな粉かける?」

 「あ、かけねぇ。餅だそれ」

 「でしょ? 醤油だってかけるにしてもバターライスとかにするとき。あとはチャーハンとして食べたりとかね。それに……ご飯にあんことか乗っけないでしょ?」

 「なんか想像したらすごい産物になりそうだな。というか甘すぎで吐くなそれ……」

 どれだけ甘いもの大嫌いなのこの人。あ、お湯沸いた。切った餅をお湯の中に入れる。

 「だからお餅って結構食べ方のバリエーションあるの。あ、固め派? 柔らかめ派?」

 「どっちでもいいですよ」

 ならちょっと固めくらいでいっか。適当に茹でて箸で突っついてみる。うん。これくらい。一つ一つ餅をつまんで皿に移す。

 「はい。みんな来て。で、食べ方なんだけど、いろいろ用意してみたよ。きな粉、醤油、あんこ、エビ、ゴマ、ずんだ、胡桃……好きなやつ選んで食べてみて」

 「結構用意してたのね」

 「あ、喉詰まりしないように気をつけてね」

 みんながステージに集まってお餅を食べる。美味しそうに食べてくれていて嬉しい。

 「エビがあるってセンスあるじゃないか直樹よぉ?」

 「エビは美味しい。わかる。あと生姜とかもあると良くない?」

 「ああ考えたけど今回やめたんだよね。今度用意しよ」

 「醤油が一番好きでございます」

 「へえ。シンプルなやつ好きなんだね。みーはこの中なら胡桃かな」

 「ゴマが控えめで旨いの」

 「あたいはこのきな粉とあんこの優しい味が好きだね」

 「もう少し甘くてもいいが……これはこれでいい。ずんだ美味しいな」

 「おい、海苔ねぇのかよ海苔」

 あ、忘れてた。確か……あった!!

 「ごめん忘れてた。はい」

 「ったく……このバリエーションなら醤油と海苔がいいんだっつの」

 「普通に海苔巻きで食べるほうが好きね」

 結構みんな好きな味バラけるなぁ。

 「玉柏くんはそのまま食べてるんだ」

 「まあな。一番は醤油だけどな。安心するというか……」

 「うんうん。ところでお餅って縄文の頃からあったらしいよ」

 「縄文!?」

 「当時の米は赤米。白米よりもお餅を作るのに適していたんだ。でもとても貴重なものだから特別な日にしか食べられなかったんだ」

 ちなみに東南アジアから伝来してる。

 「ここで問題なんだけど、平安時代になってあるものが作られた。それは何だと思う?」

 「え、そんなのあるの」

 なかったら歴史大変なことになるから。

 「鏡餅じゃろ」

 「正解!! 神聖で縁起のいい食べ物っていう意味が強まったのはこの頃」

 「当時は色んな季節の節目で食べられておったものじゃ」

 「奈良時代の書物に『的代わりに大きな餅を作って矢を射たら白い鳥になって飛んでいった。その後の水田は荒れ地に変わり果てた』みたいなことが書かれていたから、既に神聖な食べ物として考えられていたんだ」

 そしてその他適当に餅の歴史とかいろいろ語っていたら時間が過ぎて餅もなくなった。楽しかったしおいしかった。さすがお餅様々だ。

 「はい、これで終わり!! ありがとう!!」

 「よかったぞ。おもしろいもの聞けたし有意義だった」

 拍手を聞きながら私は席に戻った。そのときチラリと電子生徒手帳の運命ダイスを見てみた。しかし朝の一回だけしか振られていなかった。本当にいつなるのかわからないダイスだ。

 

 

 *****

 

 

 あとはダグラス、湊川、橘、玉柏の二回目。この四人はなにを披露してくれるのかな。

 「はい、おおとりは嫌だし、次いかせてもらうわ」

 なにこのデジャブ。

 「ダグラスくん、お願いしてたやつ準備出来てるかしら?」

 「ああ。もちろん。それじゃあ整ったら教えてよ」

 「わかったわ」

 湊川は体をほぐすように動かす。準備体操みたいなもの。そして髪の毛を一本にまとめて縛った。

 「よし準備終わったわ」

 「OK!! それじゃあMusic Start!!」

 合図とともに流れる音楽。これは……ジャズか!! 湊川はリズムに乗って踊る。楽しそうに、華麗に。でもしなやかで器用、独創的な動き。靡く髪が弧を描くように美しく、眩しい。曲が終わりに近づくとそれが一層増した気がした。最後にビシッ!! と決めて終わりとなった。

 「ふう……こんな感じよ。ありがとう!!」

 惹き付けられるダンス。見ていてとても楽しかった。湊川はそのまま席に戻ろうとする。

 「ミス湊川ー!! Please wait!!」

 それをダグラスが引き止めた。どういうことなんだろう?

 「? 何かしらダグラスくん?」

 「いやぁ、まさか被るなんてミーも思ってなかったのさ。だから……いいかな? 鈴音」

 「っ!! ……ええ、もちろんよ!!」

 ダグラスが手を差し出せば湊川が笑顔で応じて手を重ねる。なんだろう。この二人に温かいというかそんな感じの空気が漂ってる気がする。

 「ミスター近衛!! いいかい!?」

 「いつでも構いませんよ!! それでは」

 スタートという合図とともにまた音楽が流れる。今度流れている曲は……ん? もしかしてサルサダンス? 二人のダンスのキレがとても良い。相性が良い。ステージのライトが眩しく二人を照らしている。

 「きゃっ!!」

 そのとき湊川が一瞬躓き倒れそうなった。

 「おっと、大丈夫かい?」

 だがダグラスがそれを抱えるようにしかしリズムを乱さぬように受け止めた。

 「え、ええ。大丈夫よ」

 彼女の顔がほんのり赤い気がする。なんか見せつけられている感あるぞおい。

 何事もなかったかのようにダンスを続けた。動きすべて、何もかも目で追っていた。うわっと叫びたくなるくらい素晴らしいのだから仕方ない。ワンステップワンステップがビシッとしていて清々しい。最後は流れるように綺麗に決まった。

 「Thank you!!」

 「ありがとう!!」

 ドッと沸き立つ拍手。

 「とても素晴らしいものを見せてもらいました」

 「二人のコンビネーションが引き立ってたな」

 この二人、美男美女っていっても過言じゃないくらい顔いいからそれだけでも引き立つ美しさだよなぁと。

 「お見事でございましたよ。お二人とも」

 「楽しかったわ。ありがとう」

 「へへっ!! こっちこそ、突然だったのにありがとう」

 ダグラスは司会だから湊川がステージを降りる。そのときダグラスが近衛に近づいて何か耳打ちをしていた。近衛はくすりと優しく微笑んでいた。

 

 

 *

 

 

 「さぁてさてさて、あとはミスター玉柏とミスター橘の二人!! どうする?」

 「そんじゃ、俺もう一回出る。それでいいか」

 「勝手にしろ」

 手で指示をしながら玉柏はステージに降りる。その間にダグラスが指示されたものを用意していた。

 「ダグラス、三番頼む」

 「OK」

 「そんじゃ、着替えてくる」

 玉柏のことだから何かしらとんでもないもの出しそう。控え室にいって着替えてくる彼を待つ。近衛と比べると意外と長い時間の着替えだ。そう思っているとガチャリと音がする。控え室が開いた……ってうぇえええ!?!?

 「えっ、えっと、あの、その、その格好は……!?」

 「中国衣装だ。また見ればわかるだろ。このくらい」

 「変面、衣装……」

 こう、ここにいる超高校級たちの特技っていろいろすごいと思うんだけど。絶対このあとの橘も見せつけるんでしょ知ってる。

 「Music Start!!」

 壮大な音楽が流れ始める。ああこれは中国だとすぐにでもわかる。中国語がはっきりとよく聞こえて私的には気持ちがいい。

 扇子を巧みに動かし、見る人を魅了する動き。リズミカルに舞う姿がなんとも。キレがあってとても見やすい。ビシッ、ビシッとして格好がいい。

 ぐるりと右腕を一瞬で顔を通りすぎれば面が変わる。私たちを指さしまたこれなら変わりますよというふうに示しながらステージ上を動き回る。左手首のスナップを利かせて扇子を動かす。顔のほうに閉じたまま持っていったと思ったと同時に素早く扇子が閉じ開いて面が変わっていた。見せ方がうまい。変わる度にうおっとなり拍手が沸く。

 似たようなことを繰り返していると、私たちが座っている席に近づいてきた。手を伸ばすような動作をすると一瞬で自分の手で顔を覆い面を変える。目の前で起こっているはずなのに全く読めない。今度は私のところに近づいて手を伸ばしてきた。私も手を伸ばしてみると握手するように握られた。その時だった。ふと持ち上げられる感覚に襲われた。しかしそれはすぐに失せる。代わりに……目の前で、本当の本当に目の前で、面が変わったことに気が付かなかった。飛び上がりたくなるくらいびっくりしたけど、声が全く出なかった。

 ついに残り半面だけになった。フェイントをかけて変えるか変えないかを試してるみたいなことをしている。じれったい。あ、変え……変え変えないんかい!! ってなってる。伝われこの気持ち。そして最後の面をバッと外して、そのタイミングで音楽も終わり玉柏は頭に被っていた帽子を取って礼をした。

 「もう、とにかく凄かったの一言に尽きる」

 「ええ語彙力が消えてしまうくらいに」

 釘付けだったよまったく。

 「楽しんでくれたならなりよりだよ」

 

 

 *

 

 

 「最後になったね」

 「チッ、はえぇだろ……」

 まあ、確かに長いようで早かったからなぁ。

 「…………なんにも考えてねぇよ」

 考えてないんかい。

 「点字やら手話やらなんざてめぇら興味のくそもねぇだろうし。かといってもう被らせるのも癪だし。いやあん中に特技らしいもんはねぇけどよ」

 そこは考えてるのか。

 「別に趣味でもいいんだよ? 何でもいいだ」

 「…………おいディーラー、そこのドラムどけろ」

 ダグラスは言われた通りにドラムを退かせした。

 「ドラムって?」

 「延長コードのことだよ。正確にいえば電工ドラム」

 「へえ、あれドラムっていうんだ」

 そんなやり取りをしていると椅子を用意した橘がギターを持って杖を床に置きどかっと座った。

 「………………上手いも下手も、気にすんじゃねぇぞ……」

 私たちにそういうと深呼吸をして肩の力を落とした。

 「…………~♪」

 ギターを弾きながら歌い始める。どこか切ない歌だ。低く渋い声がホールに響き、包み、染み込んでいく。今までの披露での興奮とはまた少し違ったものを覚えた。とても感情がこもってる気がした。いや、本来ならこんなことは思うわけない。けれど今までの彼の様子を振り返ってもそう思うしかなかった。

 気持ちが違っていた。私はただただ鳥肌を立てるばかりだった。忘れていたことがじわりと思い出されるような、感動的な。

 「~~~♪」

 胸の中から込み上げてくるような何かが襲ってきた。何かがわからなくてもどかしい。けれど……

 「~♪」

 聞いたことのある優しい響きであることを、私はこの時点で思い出していた。

 歌が終わる。静かに身にしみる音色の余韻を、ホールが包んだ。

 「……ふう…………これでいいだろうが」

 拍手を忘れるほどに沈黙していた。はっと気づいて拍手をしようとした。しようと、したんだ。

 「これで終わりだろ。さっさと」

 「いや、え、橘くん?」

 「あ? んだよ」

 「それはこっちのセリフだよ!! 何で君は……君は泣いてるの(・・・・・)?」

 「…………は? ……??? は……???」

 橘は心底驚いていた。目を見開き下を向いて両手を自分の前にやって、そこでようやく自分が泣いていたことに気がついた。

 「な、なん、で……なんでだ!!? お、おおお、おれ、お、れ、おれは、俺は……なんで、ないて……泣けないはずだろ……!? なんでっ!!?」

 混乱しながら叫んでも、拭っても、溢れる涙は止まることを知らない。歯止めがきかなくなるような。むしろ勢いは増すばかりであった。途切れなく泣く。そして受け入れたように彼は杖を持って出口へと向かっていっていた。すぐに気づいて私は叫んでいた。

 「橘くん!!」

 出入口のところで彼はぴたりと止まった。いつもなら冷たくあしらっていたけれど、今日はなんだか、全てが違っていた。

 「………………………………やっとっ……………………」

 ボソッと溢した少し裏返った掠れた言葉を聞き逃さなかった。そのまま橘はコンサートホールを出ていった。

 

 

 

 *

 

 

 

 橘はいなくなってしまったが、それでも終わりの挨拶はしないととダグラスは譲らなかった。

 「今日は強制的ではあったけどありがとう!! Thank you!!」

 「こっちこそ、楽しい企画をありがとう」

 ダグラスは笑顔でグッと親指をたてた。彼らしい眩しい笑顔。

 「それじゃあ解散!! お疲れ様!!」

 とは言いつつも、私たちはそのまま食堂へと向かった。電子生徒手帳の時間はすでに、6時になっていたのだから。

 

 

 *****

 

 疲れた。食事は少し軽めだった。ブリュレとかお餅とか食べたしね。お風呂から上がったがどうしよ。時間まだあるし、けれど何かをやる気は起きない。

 コンコンコン。扉を叩く音が聞こえた。誰だろうと少し警戒しつつも開けると金室がいた。正直彼女が来るとは思ってなかった。

 「どうも、直樹さん」

 「金室さん。どうしたの?」

 「とりあえず中に入れてもらってもいいですか」

 なんだろうと思いつつも中に入れるとベッドにうつ伏せになるように言われた。

 「金室さん?」

 「少しじっとしていなさい」

 「えっ? っっ!?!? い、いだだだだ!?!?!?」

 「はぁ、やっぱり。ほらこことかすごく凝ってるじゃないですか!!」

 「ギャアアア!?」

 何をされているかって? マッサージされてます。肩と脇と腰。すごく痛い。マジで痛い。

 「い、いいいつからっららっ!?」

 「この間あなたに着付けしたじゃないですか。そのときに姿勢が少し悪かったので」

 「そうだったの!? いぃだだだ!!!!」

 「ええ。なので一度整えたほうがいいと思ったんです。折り紙に使っていた時間が余ったのでちょうど良い機会ですし押し掛けようかと」

 ホントタイミング。

 「それとその叫び方どうにかなりませんか。さっきから力抜けそうなんですけど」

 「いや、だっってぇええ!! 痛いから、本当に痛いからっ!! だぁあ!? だだだ!!!!」

 「ふっ、あはははははははは!!!! ちょっと直樹さん、あなたはどこまでおもしろいんですか!!」

 「ええぇ?」

 「ずっと笑い堪えるの必死だったんですよ。あなたはいつもおもしろい。一緒にいて飽きない人です」

 金室の力が弱まったのを感じて少し顔をそっちに向ける。

 「うちは思ったことを正直に言うせいで、誰かと馴染むってことが少なかったんです。ただお茶を淹れ一息つく時間が至福で」

 「金室さん……」

 「なのであのようにみんなと話せるのがとても、とても嬉しいんです。すべてを受け入れてくれるような、あの空間が」

 金室が少し私の背中にかける力を強めた。けど痛いというよりも気持ちがいい感じの力加減。

 「もちろんみんなで出てやりますよ。あのヤギの言う運命に流されるわけにはいかないんですから」

 「うん、そうだね」

 このあとさらに力が強まってまた痛みに悶え叫んだ。だんだんと気持ち良くなって、お風呂上がりで血行が良くなっていたというのもあってかうとうとしていた。

 金室に終わりましたよと言われて少しだけ起きて彼女を見送った。でも心地良さがまだ残っていたおかげで私はそのままベッドに入って眠りについた。

 

 

 *****

 

 14日目

 

 

 『おはようございますであるの巻ィ~!! 張り切って過ごすであーる!!』

 

 

 

 アナウンスと共に目を覚ます。……うん、覚ましたんだけども……アナウンス雑かよ!!? しかも巻ってなんだ巻って!! 物語の一節か!!!!

 夜は良かったのに変な目覚めだ。シャワー浴びてから食堂に行こう。

 嗚呼……………………なんだか寒い…………冷たい……って冷たっ!!? え、冷水で体洗ってた何私修行僧かよ!! すぐさまお湯に変えた。

 このあとドタバタしちゃってかなり遅れた。けど体は昨日よりも軽くなっていた。

 

 

 [newpage]

 

 遅れて食堂に着いた。しかしそこには近衛以外誰も見当たらず、いつもよりも寂しかった。

 「おはようございます。直樹殿」

 「おはよう。今近衛くん一人?」

 「……ええ。そうでございます。おそらく昨日の疲れが皆様出たのではないかと存じます……ですが……いつもより随分遅い……」

 「遅い?」

 「ダグラス殿でございますよ。ダグラス殿は規則正しくいらっしゃいますし、昨日部屋で寝ると仰っておりました。ですので普段ならもうすでにここにいらっしゃるはずなのでございますが……まだこちらには顔を出しておりません。部屋や外にいるのではとも考えたのでございますが様子を伺っても全く気配がなく……」

 「カジノにいるんじゃないの?」

 「そう存じております。しかしながら妙に胸騒ぎがして……彼にはいろいろ相談に乗って頂いていてとてもお世話になっております。そのこともありますから……」

 彼は顎に手を添えて悩んでいた。話している間もずっとモノクルを何度もいじっていた。

 「探してみる? 朝食準備は?」

 「そちらはもう済んでおりますよ。あとは盛り付けだけです」

 「……不安なら今行ったほうがいいと思う。私は、私の中で最大の不安は現時点で調べる術はないんだもの」

 「…………そう、ですよね。ええわかりました。探しましょう」

 私たちは食堂を出てダグラスを探しに行くことになった。

 

 

 ***

 

 

 非常階段を使って時間を短縮する。三階ホールに入ろうとドアノブに手を掛けた。

 

 ガチャガチャガチャ

 

 「あ」

 ああ鍵が掛かってた。まあ誰かここに入ったあとなら別に不思議じゃないか。

 「仕方ありませんから、ロビーにある鍵を取りに向かいましょう」

 「なら私行くよ」

 「よ、良いのでございますか? ではお言葉に甘えましてお願い致します」

 任された。さっきと同じ道のりで一階に降りて鍵を取ろうとした。……はずだった……

 「……えっ?」

 そこには鍵はなかった。いや、正確にはなかったわけじゃなく二階の控え室の鍵はあった。ただ三階と四階の鍵がなく、さらに金庫が開かれておりその中身は空っぽだった。

 「ど、どういうこと!?」

 叫んだ。思わず。

 「なーにがあったんだい?」

 その声を聞き付けたのか矢崎がこちらにやって来た。曰く散歩だそう。

 「や、矢崎さん。実は」

 矢崎に経緯を説明する。彼女らしからぬ難しい顔をしていた。

 「上に行こうか。状況をすぐにでも確認しておかないといけないからね」

 頷いてまた非常階段で一気に三階へ。近衛に鍵がないことを言った。

 「そ、それは本当でございますか? だとしたら……どうやって開ければ……」

 「近衛くん、君はピッキングなーんて出来たりするのかい?」

 「ピッキング……期待はなさらないでくださいね。昔少々習ったことはございますが」

 習ったことあるのかよ。

 「しかしながらその道具がなければどうすることもできません」

 「あるよ。これ。ガチャガチャでね」

 いつも忘れるガチャの存在感

 「!! これなら……ええ、やれます」

 そういうと鍵穴を覗いて中の様子を窺いつつ、ピンセットを差し込んでカチャカチャと器用に動かす。

 「誰かいる~!!? あっいた……ってえ、何やってるのよ……?」

 突然そういってきたのは湊川だ。

 「湊川ちゃん。見ての通りだよ」

 「見ての通りって……食堂誰もいないしⅡ棟も一つしかライトついてないからそこに人は固まらないと思って、かといって控え室には朝から行く理由もないから非常階段使ってこっち来たのだけれど……ていうか、ここピッキングなんて出来たのね……てっきりピッキング対策張ってるんじゃないかなって思ってたわ……」

 言われてみれば易々と鍵開けられたらたまったものじゃないな。

 「!! 開きました!!」

 若干嬉しそうなんだけど近衛は子犬か。

 「じゃあ四階行こうか」

 「ちょ、ちょっと待ってよ。何があったの?」

 「ダグラスくんがいないの。今日はカジノにいないはずだから既に食堂にいるはずなのに、いないから。もしかしてって」

 「そんな……!! 私も着いていくわ!!」

 湊川も着いていくことになった。ごめん、こんな状況下で思うことじゃないと思うけど心のツッコミさせて。何このRPG感!?

 

 

 

 ***

 

 

 

 コンサートホールを抜けてカジノへ行く。だんだんだんだん、おかしくなりそうなくらいに心臓がバクバクとなってきていた。

 「………………えっ」

 近衛が扉に手を掛けて開けようとすると全く開かない。ドアノブのやつから察すると……

 「また鍵が掛かっているのかい?」

 「え、ええ。五階はどうでしょう……」

 「私がいく」

 走って五階の扉に手を掛ける。しかし

 

 

 ガチャガチャガチャ……

 

 

 「開かない……」

 こちらも鍵が掛かっているみたいだ。降りてそれを報告する。

 「じゃあどうすれば良いのよ!?」

 「…………致し方ありません。先ほどと同じくなるべく速やかに致しますがまた多少お時間を」

 近衛がそういうと鍵穴を覗いてはまたピッキングセットを使ってカチャカチャと動かし慎重にかつ素早くピッキングをする。

 

 

 がちゃ

 

 

 扉の開く音が聞こえた。

 「これで扉は開くはずでございますよ」

 そういってまたドアノブに手を掛けて開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 が

 「っ!! ど、どういうことでしょうか……?」

 押しても、引いても、横にしても開かない。

 「貸して!! ……っ、鍵は空いているわ……でも何で!? 何で開けられないのよ!!?」

 湊川もやってみたが開かないようで。…………まさか……

 「ちょっと退けて!!」

 二人を退かしてドア下隙間を覗いてみる……その奥は全く見えない。何かが扉の前にあるってこと!?

 「……扉の前に何かある……それのせいでここは開かないんだと思う……」

 「そんなことが……!!」

 「いえ、まだやれます。三人は下がってください」

 そういうと今度は燕尾服を脱ぎ捨て扉から距離を取り、そして

 「チェーストォ!!!!」

 それに向かってタックルをする。ドォーンという音とともに扉は開く。

 「なに!? 何の音!? チェスト!? 近衛(リーチ)もしかして鹿児島県民!?」

 「九州出身ではございますが違います」

 それと同時に渡良部がやってきた。ってツッコミそこかよ!! 確かに思ったけれども!! でも九州出身かい!!

 「渡良部さん!!」

 「ダグラス(ドラ)近衛(リーチ)もみんな食堂にいないからどうしたのかって心配だったじゃん!! ダグラス(ドラ)はカジノに行くからそこかと思って、なら二階いらないからすっ飛ばしてきたよ!!?」

 やっぱりみんな同じ理由で来て、同じ理由で非常階段使うか。とりあえず近衛のおかげでカジノの中へ入ることができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがそこは

 「な、なによ、これ」

 まさに惨状と呼ぶべき場所だった。

 目の前には扉を塞いでいたであろう棚が倒れていて、ボロボロに成り果て、道がないような状態だ。棚も同じで。そして床は床でベタベタと酒やジュースが零れたあとみたいになっていた。

 ……ふと私はカウンターをみた。そこも棚が倒れているが不自然にも出入りできる方の棚は妙に浮いているように見えた。まさかっ

 「な、直樹殿!!」

 走った。そこに向かって。障害物競争をしているかのように障害物を掻い潜りそこまで行くと……『あの人』の足らしき、いや足だがはっきり誰かはまだ断定出来ないけれど、とにかく足が見えた。あの棚はその人の足で微妙に浮いていたのだ。棚が倒れた影響を受けてかアルコールの匂いが嫌でも鼻について曲がりそうだ。足元もべちゃべちゃベタベタぐちゃぐちゃで。けれど

 「うそっ……ッッ、うらぁあああ!!!!」

 何も考えてられない。体が勝手に動いていた。ただ目の前の状況に耐えきれなくて倒れた棚を持ち上げてそこにいる人をよく見えるようにしたかった。本来重いはずであろう棚はとても軽くて意図も容易く持ち上げられた。バリンっっ!! という瓶の割れる音がいくつか聞こえて体がちょっとすくんだ。もう1つのカウンターによって完全に倒れなかった棚をこちらも簡単に持ち上げた。

 

 

 そして、やっと確信を持ってその人を認めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 乱れたこの空間

 

 

 きれいだったはずのカウンターは

 

 

 倒れた台や瓶によってぐちゃぐちゃに

 

 

 アルコール

 

 

 ジュース

 

 

 タバコ

 

 

 いろんな匂いが混じるなか

 

 

 ほんの微かに漂う血液の匂い

 

 

 カウンター裏に

 

 

 棚によって隠れた

 

 

 一人の影

 

 

 棚を持ち上げたその下で…………

 

 

 *

 

 

 “超高校級のディーラー”ダグラス・レッドフォードがビンの中身をひたすら浴びては喉と頭から血を流して死んでいた。

 

 

 *

 

 ぐしゃりぐしゃりと障害物を乗り越えて湊川と矢崎の二人が先にこちらへと来た。そして

 「あ、ああ……!!」

 「……さすがに冗談、キツいよ……これ」

 

 

 

 

 

 ピンポンパンポーン!!

 

 

 

 

 

 『死体が発見されたであーる!! 一定の捜査時間の後ォ、学 級 裁 判 !! を開くであーる!!』

 

 

 

 

 

 

 アナウンスが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すぐに渡良部たちも死んでしまったダグラスを視認した。

 「どうしてこんな……」

 「嫌だ……嫌だっ……!!」

 「ダグラス、どの……っ」

 渡良部と湊川が嘆く。近衛も苦虫を噛み潰したような表情だ。その場にいるみんな誰もがそうだった。

 「おい!! 一体何があったんだ!!?」

 しばらくすると遅れて巡間がカジノへとやってきた。

 「巡間くん……見ての、通り……」

 「なに!? ……っ!! ダグラスくん……」

 巡間もまた同じだった。ここで一体何があったんだろう……こんなにも無残なのは……

 

 

 

 プルルルル!!!!

 

 

 

 今度は誰かの電子生徒手帳が鳴った。私のではない。

 「……!? わ、私の!? 誰!?」

 渡良部のだ。

 「……はい?」

 電話に出て、カジノの空気が一気に静かに、元々冷たい部屋がさらに冷たく感じられた。

 「………………は? な、なにいって……」

 額から汗が床にまで流れ落ちていく。通話を終えた渡良部は手帳を握りしめて顔を下にする。そして覚悟したように髪を靡かせながら前をバッと見て

 「……っ直樹(なおき)!! ついてきて!!!!」

 普段ならあだ名で呼ぶところを苗字で私を呼んだ。余裕がない声。荒れている床をものともせずに私の手を引っ張ってカジノから出た。危ない。

 「わ、私も行くべきか」

 「あんたはここで先に検死してっっ!!!!!!」

 渡良部は巡間のことを突き放すように怒鳴り付けた。

 「今すぐ行くよ」

 「ど、どこに?」

 「いいから着いてきて……」

 手を離した彼女は振り向きもせずにただ前に走った。その背中を追う。階段を降りホールを抜け、また階段を降りる。……二階に繋がる階段を。

 二階に行くと控え室の扉の横で__が壁によしかかって顔を片手で覆っていた。そしてその周りには血液が。

 「あんたの言った通りきた。でも何でそんな」

 「…………_______」

 そいつはゆるゆると立ち上がって扉を開けた。入れと言われて入ってみた……

 

 

 そこには

 

 

 

 

 

 

 冷たい空気に包まれながら

 

 

 ふと左側を見つめた

 

 

 ずっと押さえつけてても

 

 

 それは止まらずに

 

 

 染め上げていた

 

 

 だが海はほぼ吸い上げられていた

 

 

 床にあるのは

 

 

 わずかな血液と

 

 

 涙と

 

 

 部屋へと続く痕だけで

 

 

 その痕の先には………………

 

 

 

 

 

 

 “超高校級の弁護士”国門政治の目の前で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “超高校級の杖術家”橘実琴が腹部から流れた血液をジャケットで抑えながら幸せそうに息絶えていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   何があったのかはわからないけど

 

 

 

      私たちは最初で最後の

 

 

 

     橘の笑顔を見たのであった

 

 

 

 

 

 

 

        カラン…………

 

 

 

     運命のダイスによる傷が

 

 

 

      私たちを抉っていく

 

 

 

 

 

 

 

 





 どうも、こんにちは、こんばんは、おはようございます。炎天水海です。今回はいかがでしたでしょうか。三章の死体発見ということもあり、覚悟していらした方もいると思います。ですがこんな展開もありかなと。みんなの別の姿も楽しんでいただけたなら嬉しいです。
 では次回捜査をお楽しみに。
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