表裏ダンガンロンパ ~共通とすれ違いの物語~   作:炎天水海

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 どうも、炎天水海です。pixivには先日裁判まで投稿終えました。こちらも明日には7部屋目を投稿する予定です。
 推理するのも困難な三章裁判。彼らはどんな訳をするのでしょうか?


第三章 非日常編 変幻6部屋目

 

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 

 *****

 

 噴水(という名のエレベーター)前に全員が揃った。全員が揃ったのでそろそろ水が消えてもいい頃だというのに一向に水が引かない。

 「え、どういうこと?」

 「さあわからない。……いっそ点呼取るか。出席番号順に。最初の人数16人、それから今日までの間で6人減っている。10人いるはずだな。よし、金室」

 「はい」

 「国門」

 「おう」

 「近衛」

 「おります」

 「俺もいる。直樹」

 「はい」

 「灰垣」

 「うむ」

 「巡間」

 「ああ」

 「湊川」

 「いるわ」

 「矢崎」

 「はい」

 「渡良部」

 「ん。10人ちゃんといるけど」

 じゃあ何で噴水の水引かないんだ。そう思っていたらモノヤギが姿を現した。

 「全員揃っているであーるなァ?」

 「揃ってるけど、なんでエレベーターにならないのよ」

 「…………はあァ……」

 モノヤギは露骨に大きなため息をついて私たちに蹄を向ける。

 「オマエラァ!! 全員、Ⅰ棟の個室でシャワー浴びてこいィッ!!!!」

 ………………おん?

 「しゃ、シャワー?」

 「オマエラのその格好見てられるかァ!! 特にカジノに入った人ッ!! 服がベタベタした状態で裁判なんて気持ち悪いであろうッ!!?」

 うんさっき思ったばっかりだ。

 「というわけで全員30分以内にシャワー浴びて着替えてくるであーる。裁判はそれからするであーる」

 なんだろう。すごく、なんだろう。語彙力が溶けてる。モノヤギってこんな感じだっけ?

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 とか思いながらシャワーちゃちゃっと浴びた。服も替えて……ん? あれ、なんか、服変わってる? けど他に服はなさそうだ。ひとまず着替えよう。……他の人もこうなってるのかな。玉柏はないだろうけど。

 

 ぽとっ

 

 あ、カーディガンに鷹山のノート入れてたんだった。遺品……とはあまり表現はしたくないけれど、いなくなってしまった人たちのものを持っているとその人がそこにいるみたいに思えてくるから実は常に持っている。今回も持っていこう。

 

 

 ……………………

 

 

 この裁判が終わったら、__の__を彼に添えてあげよう。

 

 

 ***

 

 

 戻ってきた。すると先に来ていた灰垣と金室の二人の服装が変わっていた。

 「玉柏くんは変わってないんだね」

 「まあ案の定というところだな。お前はなんか、パーカーだったせいか少し涼しく見えるな?」

 「靴下まで肌色のタイツに変わっちゃってるんだよ……足晒すの恥ずかしいんだけど……」

 狭い間隔の紺と白のボーダーTシャツにいつものカーディガン。青のスカートだ。

 「灰垣くんはガッツリジャージになったんだ」

 「じゃな。カジノ行ったわけでもないのになんでだか。しかも正直この色はわしに似合わん」

 灰垣は赤のジャージ。確かになんか合わない。

 「動きづらいです……」

 「あれ? 金室さんその和服ってあのときの?」

 「はい。気づいたら部屋にありました」

 金室は桜の和服だ。しかも靴もサンダルに変わっている。

 「窮屈……」

 窮屈過ぎるのが好きでない彼女のことだから解せないのか。

 「あら? 三人とも変わってるのね」

 「変わってる人は変わってるし、変わってない人は変わってないね」

 それから他にも来た人たちの服は変わっていなかった。

 「なぜ?」

 「わからん…………いや……わしにはわかる」

 「え?」

 「なんでもない。それよりも水が引いてきたぞ」

 噴水の水が徐々になくなり、やっと乗ることができた。

 

 

 ***

 

 

 ガタンっと下に向かうエレベーター。ここの人数が随分と減ってしまった。六人されど六人。有限な命。それが儚く、虚しく、残酷に、冷酷に散るさまは、吐き出しそうなくらいの毒のよう。慣れるわけにはいかない。けどなぜか私は…………人の散るその光景を何度も何度も、絶え間なく見たことがある気がした。それは最近になって思い出した記憶。教えられた記憶。やや怪しいけれど……信用できるって。

 押されたところに手をおいてみたら、優しい余韻が染み付いて離れないらしいことに気づく。

 …………ねえ、何を思っていたんだろう。何を感じていたんだろう。何を見ていたんだろう。何を……?

 

 悩んでいると浮遊感に襲われた。エレベーターが止まった。こつこつ裁判場へ向かう足音が聞こえる。私も降りなきゃ。

 「直樹」

 先に裁判場へ行った玉柏に声をかけられた。

 「……ガムテープについて少し調べた。んでな、こいつそこまで長さがなかった。まあカウンターと扉の距離がなかなかあるし、密室の手掛かりになるかと思ったんだけどな」

 「現時点ではまだ不明瞭な点が多い……けどヒントにはなるよね」

 「ああ。前回よりも発言していくし、俺自身の経験則からも語らせてもらう。いいな」

 「情報があるに越したことはないよ」

 うん、よし、早くエレベーターから降りよう。みんなを待たせてる。

 

 ***

 

 裁判所へと踏み入れる。前回と同じく背景がまた変わっていた。トランプのダイヤ、クローバー、スペード、ハートの模様と杖を持ったジョーカー。他にもどこか宝石のようなキラキラしたものが多い。

 「随分と目障りな装飾だな」

 「ヒィッヒッヒッヒッヒィ……イメージってやつであーるよイメージィ」

 「お前前回似たようなこと言わなかったか?」

 ここまでくると柄は毎回変わるんだろうってわかる。トランプ柄はダグラスを、宝石はきっと橘なんだろう。彼はいつも翡翠の勾玉を身につけていた。

 そして遺影もあるってことはすぐにわかる。阪本、ダグラス、橘。三人のそれが。

 ……エレベーターと同じく、やっぱり人の少なさがよくわかる。私の隣の人は、もういない。

 「……説明、するのでございますか?」

 「もちろんであーる!!殺人を犯した『クロ』をこの議論で見つけ出しィ、手元のボタンで『クロ』だと思った人に投票するゥ。過半数を得たモノが『クロ』となるゥ。正しい『クロ』を指摘出来たならばァ『クロ』だけがおしおきされェ、間違った『クロ』を指摘したならばァ、『クロ』以外の全員がおしおきィ!!」

 三度目か……乗り気になんてなれないのは当たり前で。

 

 

 

 みんなのムードメーカーで明るく振る舞い、特に湊川を支えていたダグラス。

 

 群れることを嫌い一人でいることが多く、けれど何だかんだで協力してくれた橘。

 

 夜中に起きた連続殺人事件。

 

 しかもダグラスは二重の密室の中で。

 

 今まで以上に困難な裁判になる……

 

 …………裁判席の隣、橘がいたんだっけ。

 

 今までそこには凄まじい緊張が走っていたのをよく覚えている。

 

 それがないことに寂しさが込み上げる。

 

 「それではァ!!」

 

 見つけなければならない。

 

 「学級議論ン、かァーーーーいしィ!!!!」

 

 二人を殺した犯人を

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

      *********

       学級裁判 開廷

      *********

 

 

 

 

 

 

 

 直樹「……はあ……」

 金室「言いたいことは、わかりますよ」

 そう。今回の事件、正直衝撃なところが多すぎる。信じたくないことが多い。しかも……解こうにも解くのが困難な完全密室。

 国門「……始める。けどまず、今回の事件の大前提を言わせてほしいんだ」

 いつもなら法廷、裁判という言葉に心踊らせ楽しむのに今回はそういうことがなかった。

 巡間「大前提、とは何なんだ?」

 国門「……今回の事件は二人殺害されている。これはいいと思う。つまり犯人は二人いることも考えられるってことだ」

 灰垣「二人、か」

 国門「……と言いたいところなんだが実はこの事件の場合、犯人が一人の可能性が極めて高いんだぜ」

 渡良部「え、なんで?」

 国門「橘がこんなことを言って死んでいった。『犯人はやつだ』って。断定した言い方から考えて一人の可能性がある。モノヤギファイルとか死体状況から考えて犯人はダグラス殺害後に橘を襲ったのだろうぜ」

 犯人はやつだ…………か。さっき聞いてはいたけどそこ気になるんだよな……

 直樹「それと、今回の事件って少なくとも事故はないよね」

 事故が起きたなら二人の死体状況の説明がつかないから。

 国門「事故死がないのは賛成だぜ。死体状況だけじゃなくて、密室も意味不明になる」

 近衛「……密室は二つもありました。それはわたくしから皆さまに伝えた通りでございます」

 三階のコンサートホールの密室と四階五階のカジノの密室。しかも三階四階の鍵はカジノ内にあってどうやって三階の鍵を閉めたのか全くわからない。

 矢崎「けど、現状推理が楽なのはダグラスくんのほうかもね」

 湊川「そう、よね……」

 湊川の顔がいつになく暗い。宮原と阪本。仲のよかった二人が死んでそれを支えてくれたダグラスまで死んでしまったんだ。誰よりもツラいに違いない。

 渡良部「ダグラス(ドラ)が見つかった現場ってかなり荒らされていたよね。これってダグラス(ドラ)と犯人が争ったってことになるの?」

 直樹「それは間違いないと思うよ。あんな荒れ方はそう簡単に出来たものじゃないし」

 玉柏「経験則。もし『ダグラスだけ』がやったことなら荒れ方がもっと激しい。誰かと争ったと見せかけるために台をあれ以上に壊していたはずだな」

 巡間「つまり今回の現場は自然な荒れだということか?」

 玉柏「自然というのは少し違うが、まあ普通に争った形だってことだな」

 盗賊として生きてきたからそういう理論が立つんだろうな。

 金室「ですが、何も争わずその場から逃げてしまえばよかったのではないですか?」

 玉柏「逃げられるかって。そんなの出来やしない。犯人から狙われたから、逃げるよりも凌ぐほうを取ったんだろうな。けど荒れ具合から察すると、詰め将棋に負けたってところなんだろうな」

 ダグラスにとっちゃ皮肉なことだろうなと頭を掻く。

 金室「犯人から狙われたとなぜ思うんです? ダグラスくんから犯人を襲った可能性は?」

 玉柏「有り得ないな。ダグラスは電子生徒手帳と手に握られたコンサートホールの鍵しか持ってなかった上に、盗まれた形跡やなにかを所持していた形跡などは一切なかった。それに言ったら悪いがそんなに筋肉もない。犯人を襲うならロープとかナイフとか相手を殺すそれらしいものを持ってるだろ」

 灰垣「その場しのぎという選択もあるじゃろ」

 玉柏「その場しのぎならすでに犯人のほうが死んでるほうが濃厚だろ。台とかをぶつけるのもあるが、ビリヤードのあの棒でも喉に刺されば死に至る」

 昔太鼓のバチで喉に刺さって死んだなんてこともあったらしいからなぁ。

 玉柏「今誰一人怪我について申告してないなら、犯人がダグラスを襲った可能性があるってことだろ」

 みんなの反論を玉柏は的確な推理で論破していく。

 直樹「……仮にだけど、もし怪我をしているって言ったらその人が真っ先に疑われるよね」

 玉柏「今回に限ってな。怪我をしたらその人には犯行が不可能っていう固定的な心理を植え付けるが、あの現場だとむしろ怪我してるほうが怪しまれやすい」

 あの荒れ具合ならそうだよな。

 

 

 

 矢崎「あたいさ、思ってたことあるんだけとどいいかい?」

 国門「思ってたことだと?」

 矢崎「妙~にこの事件現場がダグラスくんや橘くんが言っていたあれに近いなぁってね」

 ダグラスや橘がいっていたあれ……? もしかして

 直樹「『森の恐怖』のこと?」

 矢崎「そうだよ。少なからずそれに近しいみたいだよね」

 確かに、違うとは言い切れない現場。

 湊川「……犯人は、森の恐怖と似たような現場に仕向けたのかも知れないわね……」

 灰垣「仕向けた?」

 湊川「ダグラスくんは森の恐怖のことを恐れていたわ。トラウマレベルで。前に個人的に聞いた話なのだけれど……そのとき現場だったカジノはⅢ棟のカジノとそっくりだそうよ。だからもしこの事件に密室と銃火器の類いが扱われていたらほぼ森の恐怖と同じになるのよ……けれどあの状況に追い込むようなことがあったのかなって……森の恐怖の事件自体はカフェでいくらでも見れたわ」

 近衛「犯人はそれを利用したかも知れない、と……」

 玉柏「言ってしまえば、ダグラスが被害者になれば森の恐怖の見立てとして扱える上に争いさえすればそれと誤認させることも可能だったわけだな。計画的であれば余計にそうだが、運命ダイスがある限り突発的犯行とも考えられるし。まだ断定はできないけどな」

 直樹「瓶も、台も、何もかも。あそこは凶器に成りうるものはたくさんあったしね」

 けど、それよりももっと。今回の事件のネックが解決しなければ意味がない。

 灰垣「じゃがその前にあの密室が解決しなければ何の意味もないじゃろ。見立てとか云々よりも」

 あんな密室、一体どうやって犯人は作りあげたのか。でも一応出来なくはないことがあったはず。

 直樹「5階から作ったんじゃない?」

 金室「5階から、ですか?」

 これなら多分筋は通るはず。

 直樹「うん。5階って鍵が掛かっていたと思っていたんだけど、実は開いていたんだよね」

 巡間「開いていたのになぜ鍵が掛かっていると感じたんだ?」

 直樹「扉の前にあった棚だよ。あれちょっと変わってたんだ」

 近衛「変わっていた……とは?」

 直樹「棚にドアノブの開閉を阻害する小さな木があったんだよ。あれを使えばドアが開いていても閉まっているって誤認できる」

 巡間「しかし、棚が目の前にあればそんなことはできないと思うが」

 直樹「あの扉って外側から『引く』タイプ、内側から『押す』タイプなんだ。だから手順としては……」

 

 

 ダグラス殺害→棚などでダグラスの姿を見えにくくする→四階の入り口を棚で完全に塞ぐ→鍵をダグラスの手に持たせたり置いたりする→五階扉前にドアノブよりも低い横長の棚を置く→トランプをいくつもドアノブの下におく→内側から大丈夫かを確認する→場所を確認してトランプを取り、扉を全開にしてからさっきトランプを置いたところに置き直して扉を閉める→外側から開けようとしてもトランプが阻害して引っ掛かる

 

 

 直樹「こういう手順になると思うんだ。三階の密室はまだ解けないけど、少なくとも四階五階はこんな感じにすれば大丈夫だと思う」

 矢崎「確かに……筋は通っているね。これなら密室も作れる」

 玉柏「まあそこ解けても三階どうなるんだって話だけどな。四階はそれでもいいと思うぞ」

 とりあえず四階はこれで解決……

 

 

 

 渡良部「ああ……直樹(トン)?」

 そのとき渡良部に声を掛けられた。

 直樹「どうしたの渡良部さん?」

 渡良部「あの、さ。すっごい言いにくいんだけど……五階の鍵『閉まってた』からね?」

 …………は?

 渡良部「実はあれ調べようとした途中で巡間に手伝って欲しいことがあるって呼ばれちゃってそのままにしてて……あんたがそこ調べたのそのとき……」

 う、嘘でしょ!? そんなことになってたのか。ということは

 湊川「振り出しに戻っちゃったわね……」

 二回やった裁判で一度もこうなったことはないが、議論している以上すれ違いが起こるのも仕方がない。けどちょっと予想外だった。

 国門「しゃーねぇぜ。それもまた裁判ってぇもんだ。まだまだ解決すべきところは残っている」

 なんか今までずっと振り回されてきたからそういうこと言われるの釈然としない。

 巡間「私からもすまなかった。誤解を生むことをさせてしまって」

 巡間も頭を下げる。しかしこればかりは仕方ない。

 近衛「では一度四階の密室をおいておきまして、三階の密室を紐解いていくというのはいかがでしょうか」

 玉柏「確かにそうだな。一つのことに留まるのは良くない」

 三階密室……けど三階の密室は四階よりもちょっと厄介事を抱えている。

 金室「三階密室を紐解くはいえ、あそこはどう説明するんですか。だってカジノ内に鍵があったではありませんか」

 そう鍵だ。鍵は二階、三階、四階の三種。そのうちの2つがなくなった。しかもその2つとも四階にありながら三階の鍵が閉まっていた。こんな密室がほどけるのだろうか。

 渡良部「鍵が四階にある以上、三階の密室をどう作りあげたのか気になる」

 ピッキング……とかは多分違う。あれは開けるものだ。閉めるものではない。…………薄いとは思う。けど……一か八か賭けてみるのもありだ。

 直樹「ただの推測……だけど。もしかしてマスターキー的なものがあったりするのかなって思ってる」

 灰垣「マスターキーじゃと?」

 巡間「仮にあったとしてもどこにあるのかわからないだろう」

 わからない。けど、ただ一ヶ所だけ可能性があるとすれば……

 直樹「……金庫の中とか」

 湊川「そういえばそこの中身が見つけた時にはもう無くなってたって言ってたわね」

 考えられるのってそれぐらいなんだよな。

 玉柏「マスターキーが金庫の中に入っていた、と仮定したとしても実際そのマスターキーがどこにあるかもわからないからな。見つかった鍵は2つだけ。しかもそれはさっきの通り」

 巡間「そもそもⅢ棟の鍵は持ち出し禁止と紙に書いていただろう。マスターキーはその例外なのか? それとも同じく持ち出し禁止なのか?」

 近衛「…………モノヤギ、そこは一体どういう扱いなのでございましょうか?」

 モノヤギ「メェー? うむゥ、教えても教えなくてもワレとしては面白いのであーるがァ……ヒッヒッヒィ、今回は特別サービスであーる!! オマエラ『シロ』のためにィヒントを与えてやるであーる!!」

 近衛グッジョブ。いい誘導だ。

 モノヤギ「あの金庫の中身にはァ、『Ⅲ棟のマスターキー』が入っていたのであーる。Ⅲ棟のであーるからァそこ以外では使えないであーる。そォれェとォ!! 鍵の扱いについてはァ書いた通りィⅢ棟の鍵である限りィ、外への持ち出しは禁止であーる!!」

 なるほど。つまりマスターキーは3つの鍵同様あのⅢ棟内にあるわけなのか。……ますます謎だ。本当に

 モノヤギ「一応であーるがァ、このヒントを教えないとォクロが有利になってしまうと判断したからであーるからなァ? 本当にサービスであーる。次はないと思ったほうがいいィ……」

 そんなになのか。モノヤギが言うということは本当なんだろう。

 灰垣「Ⅲ棟から持ち出し禁止……じゃあ鍵はどこにいったんじゃろうな」

 玉柏「……モノヤギ、持ち出し禁止ということは……マスターキーもあのⅢ棟内にあるってことだろ?」

 モノヤギ「当たり前であーる!! 持ち出していたらァすでに罰しているであーる!!」

 湊川「…………それ一つ気になるんだけど、校則として? それともモノヤギ個人として?」

 モノヤギ「え、校則としてに決まってあっ……」

 次の瞬間、国門がニヤリと笑う。これは、うん、スイッチが入ったな。

 国門「おやおやおやおやぁ~????? 校則にはそんな記述『全くない』んだがこりゃあ一体どうなってるんだぜえ~????? ええ? 天下の『レイヤーギ様』がぁ? 『校則に記述ミスをする』だなんてぇそぉんなことあるわけねぇよなぁ~?????」

 めっっちゃくちゃねちっこい煽る言い方したぞこいつ。正直腹立つ。しかも『ご丁寧に校則一覧を見せながら』言った。

 モノヤギ「ぐぬぬぬぬぬぬゥ………………」

 国門「ほらほらそこのところはっきりしてくれよぉ~『レ・イ・ヤ・ー・ギ』?」

 さすがのモノヤギもこれには怒り顔。顔? うんそういうことにしよう。

 モノヤギ「うるさいうるさいうるさァーーーーい!!!!!!!! さっきから黙っていればァ……!! だいたいその『レイヤーギ』っていうのはいったい何なんであーるかァ!!!!」

 全員「「「「お前が私/俺/僕たちのコスプレするからだろっ!!!!」」」」

 全員で一斉にモノヤギ間違えたレイヤーギにツッコミした。そしてこれの命名者が橘なんだよなぁという。

 レイヤーギ「なんかワレの名前もいつの間にかレイヤーギになってるしィ……胸くそ悪いであーる」

 直樹「メタいわ!!」

 レイヤーギ「だがこれはワレの完全なミスゥ……何も言えないであーる。しかァーしィ!! どちらにしろォ!? Ⅲ棟の鍵は持ち出しされてないっ!! 故にっ!! 次は許さないであーる!!」

 国門「ていうか、Ⅲ棟内でしか使わないものなら校則にするんじゃなくて棟内ルールにしておけばいいのになぁ?」

 はい論破。国門の正論にモノヤギ間違えたレイヤーギガチ凹み。さすがにやり過ぎたか。まあ……

 国門「ふうちょっとすっきりした」

 湊川「ええ」

 巡間「同感だ」

 矢崎「これこそ議論の場だね」

 玉柏「日頃の恨みだ受け取れ泥棒」

 渡良部「盗賊のあんたが言うこと?」

 金室「そこですか」

 近衛「まあまあ良いではありませんか」

 灰垣「じゃな」

 全員なんかまだすっきりしちゃいけないのにすっきりした状況になってる。

 直樹「とりあえず……議論しよっか」

 

 *****

 

 レイヤーギが不貞腐れているのに目もくれず、とりあえず議論再開。

 湊川「どこまで進んでいたかしら」

 近衛「Ⅲ棟の鍵の話でございましたね。金庫の中にマスターキーが。しかし二階の鍵はまだしも、三階と四階の鍵が四階の中にあり、さらにマスターキーが行方不明……これでよろしいでしょうか?」

 灰垣「多分それであってるじゃろ」

 渡良部「けどどこを探しても、鍵は見つからなかった。どこにあるのかすらわからないじゃん」

 そう。隅々まで探した。受付も、ピアノの中も、金庫も、二階も、三階も、四階も、五階も、あらゆる可能性を挙げた。でもそれは全て無駄に終わった。鍵のありかは不明。レイヤーギの言うような状況なのかさっぱりで。

 灰垣「……もうこうなったらアリバイ判断しかないんじゃないか?」

 巡間「確か最後にダグラスくんと出会ったのは……金室くん、君だったか」

 金室「…………はい。うちはあのとき夜中に目が覚めて、喉が渇いていたので食堂へ向かおうとしたんです。そのときダグラスくんと偶然会いました。それで夜時間に開いてないことを伝えられて仕方なくそのまま部屋に戻りました。ダグラスくんは少しカジノの掃除をしてから寝ないと寝られなかったらしくて部屋から出たそうです。特に怪しい動きをしていたわけでもなく、いつも通りの様子でした」

 夜中に金室とダグラスは出会ったけれど、何もなかった。……でも金室の発言、妙に引っ掛かるところがある。

 直樹「金室さん、倉庫に行くとかの判断はなかったの?」

 金室は隣でえ? という顔をした。

 金室「倉庫? そんなところに飲料水なんてありました?」

 その発言にみんなが衝撃を受けた。嘘をついている様子もなく、純粋に問うていた。

 金室「えっ? 別におかしなことは言ってませんよ。湊川さん、あなたは一回目の裁判で『三人分の水を持ってきた』ってと言いました。しかしそれ以外のことを言いませんでした。しかもあなたは江上さんと倉庫へ探索していたではありませんか」

 湊川「……金室さん。それ以前の話なのよ。あなたは今の今まで倉庫に行ったことがないの?」

 それを聞いた途端金室は黙った。ただ少し冷たい空気を添えてしかしほんのわずか後ずさり、はいと答えた。

 金室「………………地雷があるので嫌なんです。いえ、わかりませんよ。行ってませんから。けれどあると思っているものがあるので」

 矢崎「あたいたちが料理作っていたときはあたいが倉庫に行っていたんだ」

 金室「ですのでうちは倉庫に行くこと自体ないんです」

 きっぱりと言ってしまった。

 

 

 「役無しすなわち点あらず!!!!」

 

 

 ……だがここで渡良部の反論だ。

 渡良部「明らかに不自然じゃない?」

 金室「なぜ?」

 渡良部「あんたの地雷については言及する必要はない。多分今の話じゃ倉庫に行ったことないってことも本当だと思う。あんたは結局飲み物を取らなかったんでしょ? でもⅠ棟の一階フリースペースのところに行けばよかったんじゃないの?」

 金室「……そこまで」

 渡良部「そこまで頭が回らなかった? あんた何で移動したの?」

 金室「……階段です」

 渡良部「階段なら気付けるんじゃないの? 確かに死角で見づらいかもしれないけど、エレベーターよりもはっきりするしわかるでしょ」

 直樹「待って、寝惚けていたとかそういうのはないの?」

 金室「お言葉ですが、その時は冴えてました」

 少し助け船を上げたつもりだったけれど完全に余計だった。私の言葉を斬る。

 渡良部「なら」

 金室「ですが冴えていたとはいえど、気づく気づかないにそれは関係ありません」

 渡良部「そう? 夜時間にあそこ水出るのに」

 え、そうなの。知らなかった。

 金室「なぜわかるのです?」

 渡良部「私がよく起きるから。今日は疲れていた影響か朝まで寝てたけど、いつもなら夜中に一度目が覚める。……だらっだらの汗かいて。だからいつも気持ち悪くて水飲みにいくの」

 金室と渡良部の口論が止まらない。しかし渡良部は持ち前のプレッシャー強さなのかはわからないが金室を攻めていく。

 渡良部「金室(イッパツ)、夜中にダグラス(ドラ)に会っておいて、あんたの発言全てが苦し紛れの言い訳にしか聞こえないっ!!」

 でも何か引っ掛かる。正直金室が犯人っていうのは思わないわけではないけど、何か、どこか、その訳が、動名詞と現在分詞のとてもわかりずらい判別のように見えてくる。これは私の中で金室が犯人じゃないって思ってるからなのかもしれない。

 どこだ、なにか、些細なことでいい。金室は犯人と言えない証拠……いや証拠らしい証拠はあるのか否か……

 金室は何も言わない。言えないのかもしれない。思えばアリバイなんて今回みんなないのと等しいくらいなんだ。前回のことを考えると、私、渡良部、国門、湊川、矢崎は犯人から外されるんだと思う。ということは金室は犯人の可能性が否めない。本当にまずい。私は彼女を助けられるコトダマを持っている気がしない。玉柏も眉間に皺を寄せたまま黙っている。彼もいい証拠を持ち合わせていない。

 謎がはっきりしないまま犯人確定ほど危険なものはない。どうすれば……どうすればいい……!!?

 

 

 

 

 

 「その天秤は釣り合わねぇぜ!!!!」

 

 

 

 

 瞬間、一人の叫び声で私は顔を上げた。

 金室「国……門くん?」

 渡良部「何よ。金室(イッパツ)が犯人だとしか考えられないじゃん。どうしてそんな」

 国門「いいやちげぇぜ!! もし金室が犯人なら、その場で殺したほうが好都合だ!!」

 渡良部「は!?」

 え、なに、どういうこと? 心なしか国門の額から汗が流れていた。

 国門「近衛!!」

 近衛「はい?」

 国門「ここには台車的なものはあんのかだぜ!?」

 近衛「それなら……倉庫にございますよ」

 国門「あんがとよ!! でだ、金室が犯人ならその場で殺害して、台車で運んで、密室作ればいい。だがわざわざそんな手間隙をかけたのなら誰とも会ってないって言った方が説得力あるぜ。そうでなくとも、今の証言は間違いなく金室の話が苦し紛れの言い訳ではない、真実だって俺は思う!!」

 なにか、理解したのかわからないけど。その顔は焦りだけでなく……宣戦布告をする人のようにも感じられた。

 国門「だから今渡良部と金室の言い争いは無駄でしかねぇ!! この事件金室は犯人なんかじゃない!! いや……」

 

 *

 

 俺は知ってるはずなんだ。橘の遺言の意味を。そしてそれは今までさらりと受け流されて誰も気づくことが出来なかったってことも。俺の右肩を押して力尽きたあの男が一体なにを見てきたのか、今なら手に取るようにわかる。

 

 国門「もっと言うぜ。今回の事件の犯人は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「男しか有り得ねぇ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学級裁判、中断

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         思い出せ

 

 

       語らずの男の全てを

 

 

 

 

 

 

 

 

 次回

 

 見えずの膨張7部屋目

 

 

 

 


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