注意
これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。
本編とは異なる設定が多々あります。
支離滅裂な発言が目立ちます。
あと主の文才は期待しないでください。
それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。
補足
渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。
例:直樹→
他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。
なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。
*****
「!!!?」
絶句した。予想していたとはいえ、やはり目の前でみると恐ろしく感じてしまう。
左目はしっかりあった。私たちと同じ目。しかし右目は? 本来あるべき眼球は? そこに見えるのは右目すらなく、顔の奥の血管や筋肉が覗けるおぞましいものだった。
「ヒッヒッヒィ……もういいであーるなァ? オマエラァ!! 手元のボタンでクロを投票するであーる!!」
誰も動けなかった。巡間は膝まずき、呻き、嘆き、真っ青に。
「んんんんン??? どうしたであーるかァ??? はやく投票しないとォ、罰するであーるよォ?????」
一向に動かぬ私たちを見かねてモノヤギが煽ってきた。我に返ったらもう残り時間がわずかで。不安等の手の動きがぎこちない。急げ急げと手を動かす。その思惑とは裏腹に硬直する身体。残り私だけの投票だというのに、その私で時間を大分とっている。………………意を、決するしかなかった。それは投票終了一秒前だった。
回る、回る。視界の先で回る。嬉しくなんてない。面白くも、喜びも、何もかも……巡間を抉り出すメスがギラリと光輝いているのを、ただ眺めていた。
「3問連続ゥ大正解ィ!! 今回超高校級のディーラーァ、ダグラス・レッドフォードとォ!! 超高校級の杖術家ァ、橘実琴を殺したのはァ、超高校級の医者ァ、巡間治虫であーる!!」
「あ……ああ…………」
彼は今もなお口をハクハクさせる。いつもの大人びた彼とは全く違う。
「……わた、しは……」
うわ言のようにポツリポツリと意味のない言葉は連ねて、少年が怖がる。
「嘘じゃろ…おま」
「私は、あの日……ダグラスくんが言っていた通りの、あの森の屋敷にいた……」
灰垣のセリフを遮るように巡間は話す。ゆるゆると立ち上がりながら目を離さず私たちのほうを向いて。
「オーナーに、私の医者としての腕を見込まれての依頼だ……ただそのときはまだ未熟で…………お手伝いとしての役割が多かったが……体調が悪くなった人たちを看病するように伝えられていたんだ……」
話を聞いているだけで寒気がする。
「突然の停電っ!!? 鳴り響く銃声っ!!? 私はあんな状況下でも!! 仕事を真っ当しようとしたッッ!! あそこから……飛び出した……」
___________
な、なにが起きているんだ!?
バァン!!
じゅ、銃声だと!?
くそっ誰がどんな状態なのかわからないだろう!?
どこだ。助けを呼ぶ声は……!!
私を呼ぶ声は……!!
っ!! 今どこかで……?
このテロリストが……!!
………………いけるか!?
よし、隙をみて……!!
バァアアアン!!!!!!!!!!
『ウワァァァァァァアア!!!!!!!!!!』
痛い!! 痛い!?
いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい
苦しい、助けてくれ
皮肉だ
医者を志す者が
こんなことになるなんて
あ、アアアア……
ウ、ガアア!!!?
ィガガガガァァア!!!?
たすけ……て……くれ
__________
「眼に、顔に、脳に焼き付く痛み。耳から離れることない破裂音!! トラウマは、癒えないっ。私の心をずっと、ずっと………………ずっとずっとずっとずっとずっとずっっっっっっっっっっっと!!!!!!!! 貪り続けるんだよッッッッッッ!!!!!!!! もちろんこの目を隠すことも考えたんだ!! けれど!!? それをして主に子どもを診る自分に彼らから “どうして右目は塞がっているの?” と聞かれるのが怖かった。義眼にする手はなかった。なぜなら私は義眼が大っ嫌いだから!! ないものを支える義手も、義足も、義指も、義鼻も、義耳も、何かも!!? サイボーグの類いなんて大っっっっ嫌いなんだよっ!!」
感情的に、嵐のように、叫び狂う。
「目が覚めたらそこは病院で……包帯が右顔を覆っていた……数日後にそれが外れたとき、指が………………右目を貫いたんだ……………………生きていることの喜びなんかよりも……私は……私がこんなにも惨めで情けない人間だと思い知らされたんだ…………」
ダグラスと同じ場に居たにも関わらず、彼とはまた違う体験談の生々しさに自分の血の気が引いてくのがよくわかった。
「目から流れた血液が、まるで今まで救うことの出来なかった子たちが『どうして』と問いただしてくるようで……毎晩……毎晩毎晩語りかけてくるっ!! 『助けて』って!! 『お兄ちゃん助けて』って!!!! それが私の重荷となってかさばり……仕事に集中出来なかった……助けたいのに……思い出すたびに這いずってくるんだ!! 体中から大量の血液を流して、原型があるかもわからないのに尚ももがく姿が!!!! だから……しばらく自分を取り戻すために休養した……精神を鍛え直した…………だがそれも……結局は無力で憐れな男に与えられた『一時的な試練』でしかなかったんだ……」
現実をすべて受け入れられずに逃避しようとしていた。そして巡間は……今回の事件のことを語る。
______
本当に直樹くんたちの推理通りだ。久しぶりのビリヤードが楽しくてたまらなくて、三階と四階の鍵を持って夜にカジノへ行ったんだ。…………実はこのとき、マスターキーも持っていた。金室くんの言っていた出席番号でもしかしてと思ったんだ。それで入れてみれば見事に開いた。ついでにって感じだったんだ。
コツンという玉と玉のぶつかる音がとても心地よかった。途中ダグラスくんが入ってきた。掃除のためって言っていた。気にせずやってていいと言われて、お言葉に甘えることにした。
掃除を終えたダグラスくんが出ようとしたのを私は止めた。せっかくだからダグラスくんとビリヤードをしてみたかったんだ。競った。どちらが多くの玉をポケットへと落とせるかを。二人でやるほうが、一人よりも楽しかった。
もう少しで終わる。あと2、3回だと。そう思っていた。
『いたっ』
私の左目にゴミが入った。目を擦った。だが目を擦ってはいけないことを思い出した。擦ったらダメだ。そう思い瞬きをした。…………そして見られた。右目を、開いてしまった。
『み、ミスター巡間? その…………右目、どうしたんだい…………?』
問われた瞬間、何もかも終わったと思った。本人に悪気がないのは……わかっていたはずだった。それなのに……止められなかった。悟ってしまった私はその場にあった玉を……投げた。
『!! ミスター巡間!?』
『…………見たな……?』
今となってはバカらしい。同じ『
『お、落ち着いてくれ!!』
『…………』
多分、私は恐ろしくひどい顔をしていたんだろう。サングラス越しでも、彼の怯えた顔がよくわかった。
ついに私はダグラスくんを追い詰めてしまった。カウンターへと。そのタイミングで……
『うわっ!!?』
彼は転んで完全な隙を見せた。近くの棚にあった瓶を手に取った。中身が入っていて、とても重量感があった。それをそのまま……振り下ろした。
『!!!!』
『っ』
ゴッッッッ!!!!!!!! バリンッッッッ!!!!!!!!
…………当たりどころが悪かった。倒れた彼の脈はなかった。すでにこの世から去ったあとで。即死。しかも脳挫滅を起こしたことも理解できた…………おかしな話、本当に矛盾したことを言うようだが、頭蓋骨骨折は非常に稀なケースで、瓶が先に割れる場合が少なくないんだ。むしろ割れた瓶が鋭利な刃物として頭部に負わせる裂傷となり傷口からの出血によって引き起こされるものが致命傷になることが多い。だからこんなこと起こるなんて予測出来なかった。
話を戻そう。私は彼を殺害してしまった。やってしまったんだ。どうしようかと思ったそのとき…………密室を作り出そう、そう思った。棚を倒してダグラスくんを見えなくさせ、あとはみんなの推理通り。
だがそれで終われなかった。去る途中に誰かが来たのを感じて、持ち出してた包丁を構え…………そのまま刺した。影は……橘くんだった。あの驚いた顔が忘れられない。
『_______?』
『?』
あることを問われたが私には理解出来なかった。気が動転していたのもあったからそのまま私は逃げた。…………逃げたのに……
『言えば……支えるくらいのことはしたのに』
胸が締め付けられた。後悔と罪悪感に苛まれた。知らないフリをして逃げた。始末するものを始末して、鍵も溶かした。金庫が耐熱性であったことも紙に書いてたから。ガスバーナーは……Ⅰ棟の自室に持ち帰った。これが、これまでの経緯だ。
______
「動機なんてどうせただの口封じ。私のエゴで殺ったこと。私の身勝手なエゴで…………バカだろう? 皮肉だろう? とんだ茶番のような悲劇だろう?」
ひどく、悲しそうに、私たちを見つめる少年の顔。小さな幼子のように純粋な瞳。
……私は、なんてことをしたんだ……なんて、ことを……
「……それじゃあ問おうじゃないか。巡間よ。お前さん、なぜサイボーグの類いが嫌いなんじゃ?」
「………………テロが嫌いだから、サイボーグが嫌い。それだけだ」
「さっぱりわからん。説明を求む」
彼の顔がさらに悲しげに曇り孤独であるように思えた。
「……人は、病に侵される。人は、老いる。人は、苦しむ。人は、死ぬ」
「それがどうした」
「人は有限な生き物だ。いや人だけではないが……しかし、それゆえ醜い……自ら正しいという思想理論を世間に打ち立て人々に同意を求め、そして異なる思想で争い、戦争に身を投じる。なぜ人は自ら壊そうとする? なぜ滅んでもいいと願う? なぜ死して尚も英雄に成りたがろうとする? それにすがろうとする? 歴史に名を刻むため? 自分のことを正義だと思わせるため?」
「……」
「バカバカしすぎるだろう? 命を……大事にしてほしい。戦争なんかに、テロなんかに、壊してほしくない。欠けさせる意味などないのに……私には、欠損が無力な痕にしか見えない。醜さの象徴に見えるんだ。それと同時に…………機械に支配されそうなんだ。侵食され溺れすべてをそれにされそうな悪夢。…………私はすでに、抜け出せない迷路の中にいる人間だ。医者なんて到底言えない………………」
嗚呼
「支配などいらない!!」
そうか
「束縛などいらない!!」
彼は
「争わずに」
ずっと
「手を、繋げばいいのに……」
独りぼっちだったのか
「私のこんなないものねだりなんて」
独りでいつも戦う少年兵
「くそ食らえだろう……?」
彼も彼で、結局、ないものにすがっていた。
「私が一番ここから出たいなんて」
解放されたくて仕方なくて
「烏滸がましくて……」
生きていたくて。
「……なぜ俺の特技披露で、お前ぇは銃に抵抗を示さなかった?」
「……それは克服したんだよ。止まれないから。あの様子じゃ、ダグラスくんもだいぶ銃を見慣れたみたいだった。実際はわからないが」
「そうか……けど悪いことしたし」
「気にすることではない。どうせ事を大きくしたのは紛れもない私なんだ……」
「………………」
掛ける言葉が見当たらない。私は彼に言うセリフがあるはずなのに、すべてが皮肉でしかなくて、何も言い出せない。
「私からも……いいかしら……抉るようで申し訳ないのだけれど。子どもたちが、地雷かなにかで足をなくす人もいれば……先天性のものもあるわ……その人たちが義足とか使うことに対しても……同じ?」
「そうだ。可哀想だろう? こんな私をぜひ嗤ってくれ……ははっ……ははは……」
自身を『可哀想』と言う。それは完全に皮肉じみていて慰めにもならない。だからそう言うのか。
「………………」
「人らしく、人が持つそのものの能力が…………私は好きなんだ。がんや感染症などの病に伏しそれを手術で良くするのは構わない。だが完全に体を作り替えるのは嫌い。そういうこと」
「たとえ、生きるためでも?」
「生きるためでも、だ」
だんだんと彼の声は冷静になっていく。しかしその静けさの中に潜んだ冷淡さが徐々に浮き彫りになっていった。
「…………正直随分、身勝手じゃと感じるの。否定してる風にも聞こえるが」
「勝手に解釈すればいい。どうせ人間はエゴイズムの塊なんだ。わがままでわがままでわがままで仕方がない生き物なんだ。だから繰り返すようだが言わせてもらおう」
一度深呼吸して巡間が大きく口を開いた。
「私は出たい!! 出たかった!! 出たかったんだ!! ここにいる誰よりも!! 出たかったんだよぉ!! 救いたい!! 人を救いたい!! もうこの際なんでもいい!! 助けられるなら何だっていい!! 手術でもサイボーグでも何でもやってやるよ!! 外にいる人が今どれだけ苦しんでるか!! そう思えばここから一刻もはやく、江上くんの動機なんかよりももっと真っ当な理由で、出たかったんだ!!」
「真っ当……?」
「もしかすると、それで私は殺人を起こしたのかもしれない!! そういう運命だったのかもしれない!! 逆らえぬ……運命に……」
「…………かもしれないじゃない。そうだったんだろ」
「……嗚呼。間違いない……」
叫ばれた本音。嵐が過ぎ去ろうとする。けれど過ぎ去らない。
「巡間くん……」
「なんだ」
バチンっ!!!!
「っ!!」
「……………………っ」
湊川が巡間の頬を叩いた。巡間は何があったかわからないといった様子で叩かれた頬に手をおいた。
「あなたがどう動こうと、私は誰かを束縛する権利なんてものないわ……けどっ、あなたの言うことがさっきからめちゃくちゃなのよ!! 医者がそんなこと言わないでよ!? そんなこと言ったら、今生きてる私たちが惨めにしか見えなくなるじゃない!? 目的がなくたって、希望が見えなくたって、体が動かなくなったって、失ったって、生きてるのよっ!! みんな、懸命に!! ぼろぼろで、腐ってて、水が泥まみれで汚れてても関係ないのよ!! あなたは前を見ようとしてなんかない!! ただ、後ろだけしか見てないのっ!! そんな状態でここから出たってっ、何も、変わらないっ!! そんな状態で、ある限りっ、何も変わりはしないのよっ!!!!」
「……っ」
心の内が漏れていく。ゆっくりと、切ない人の嘆きが、嗚咽が。
「ひどい話じゃないっ!! こんなのっ……!! 酷すぎるじゃないっ!!!!」
「……うちからも……湊川さんよりもはっきりと言わせてもらいます。救いたいのを理由に人を殺すのは、もってのほかではないのではないんですか。最低行為ではないんですか? 二人の犠牲を出してまで出たかったんですか? 最大多数の最大幸福なんて笑わせてくれますよ。この薄情者」
金室からも毒を吐かれる。けれどその牙は弱くも見えた。
「…………どうせ私は薄情者だ」
テロを嫌い、サイボーグを嫌い、『見られる』のを嫌い、救いたいというエゴの元の犯行。口封じなんてただ偶然にも『運命』によって導かれた動機であって、実際はただただエゴを連ねていた。毒牙が向こうとも、彼は必死で生きて、それを受け入れる。
「はあぁあっ!!」
重苦しい空気の中、一人大袈裟にため息をついた。
「そんな薄情者によ、一つ良いこと教えてやろうか?」
「……なんだ」
「お前ぇさっき事件のときのこと話してくれたろ。何で橘は『支えることくらいしたのに』、なーんてこと言ったんだぜ?」
「知らない。というか彼は」
「言っただろ。橘は嘘はつかない。最初から気づいてたんじゃねぇのかよぉ? 橘は。お前ぇが右目がないってぇのに」
「……は?」
「一つ質問するぜ。橘を殺したとき、目は閉じてたのか?」
「…………それは、そうだが……」
「ほらおかしい。それなら何であんな言葉を橘が吐けるんだぜ? 答えは至極単純で明快」
一度ためる言葉を。瞬きしてから真っ直ぐ巡間を見た。
「橘はお前ぇのことを心配していた。そして記憶を取り戻していた」
「は? うそ、だろ……? なぜっ、なぜだ!? 私は」
「裁判のことを考え推理すりゃあ、お前ぇは常日頃から眼帯つけてたんだろ? それなら記憶のないところにそれがあった。つまり、俺たちは全員お前ぇのエゴを知った上でずっと関わってきていたんだぜ」
「そんなのっ、知らない!! そんな記憶どこ……にもっ………………」
私だってそんな記憶知らない。わからない。いや……忘れているんだ。
「忘れてるからだぜ。それはよ。俺だって忘れてた。だから、『受け継いだ』んだぜ」
受け継いだ? どういうことだ。
「だって、わた、しは…………? えっ…………あれ……? どう、して……? ハガッ!!?」
巡間が頭を、右目を抑える。これはまさか
「イッ…………ガッ……アアア……!!!! ……ハァアアッ……!!!!?」
「はざm」
「よせ、そのままにしてやれ」
声を掛けようとする矢崎を玉柏が止める。
「あ、ああ……っ…………が……ギギ……あ……」
また蒼くなり伏せられる。
「なん、で……私は…………殺してっ、しまったんだ…………? なんで…………なんで……………………!!? わた、しは、一体……だれ……?」
顔を上げて首を振る。声を出そうとして、何も出てこない。
「もう一度問うぜ。お前は今、思い出したか否かを」
「……おも、い、だ、した……そんなっ……そんなぁ……」
そのまま崩れ落ちて叫ぶ。もはや意味のない言葉を連ねるだけになってしまった。
私は、声を何も掛けられない自分が、ひどく情けなくて仕方なかった。
*
「そろそろいいであーるかァ?」
「ひっ……」
「わかっていたことであろう? これからオマエはァおしおきされる運命なのであーるよォ?」
運命運命、そういえば解決すると同じことが繰り返される。退屈しきったような顔に微笑みを浮かべながら。
「いやだっ、やめ、ってくれっ……!!」
「もがこうとも無駄であーる!! ワレらのメインデイッシュをォ、最後させてやっているんであーるからなァ!!!! さてさてェ、モノリュウ様ァッ!!!!」
パッとモニターに現れる。闇が残酷さを物語ろうとする。
『クックックックックッ……今までよりも、生きがいいクロであることよ。これより超高校級の医者に最もふさわしいおしおきを用意した……』
人をバカにした薄笑い。
「や、やだ……やだっ」
救いを求める届くはずもない懇願の声。
「諦めるであーる。オマエは救われないィ。いやァ救われたとしてもそれはワレらの望む絶望としてかもであーるかもなァ?」
「…………そんなものに救われるのはごめんだ!!」
しかし、ずっと青いまま言う言葉の説得力は薄い。
「死にたくないっ……死にたくないっ……!!」
顔は既に諦めているのに、矛盾した感情の歯車が止まらない。頭を抱え、目を抑え、狂ったように、脚に力が入らない様子でいる。
「っ!! 死ぬなら……せめて……っ!! せめて……っ!!」
『おしおきタイム…………』
「最期に……!!!!」
そして何かを思い出したかのように私たちに向かって
「君たちッ!!!!」
「スタァーーーートォオオオ!!!!!!」
「刺客の七には気を付けろぉッッ!!!!」
意味深なことを叫んで、巡間はそのまま穴の空いた床へと吸い込まれるように落ちていった。
*****
GAME OVER
ハザマくんがクロに決まりました
オシオキを開始します
*****
一人ぽつんと立ち尽くす
真っ暗闇の中
よくよく見るとそこは
真っ暗闇の森の中
『Labyrinth・Of・The・Forest・Of・The・Never-Ending・Death』
“超高校級の医者”巡間治虫、処刑執行
少年は辺りを見渡す
何もない
何も見あたらない
少し歩を進めると
懐中電灯に照らされた看板が
『逃げろ』
次の瞬間、不気味な音楽が流れる
それは徐々に増していく
振り向けばそこには
色白のニヤリ顔
真っ赤な歯
見開かれた眼
懐中電灯を取って必死に逃げる
徐々に音楽が薄れ撒いたかと安堵
だがそれは束の間
今度は眼のないぐにゃりとした化け物が
襲ってくる
しかもそれは逃げた先に
だが気にせず逃げる
逃げる逃げる逃げる
しかしまたも現るのは四足歩行の化け物
三体の化け物に追われ
そして逃げ続け
吐き出しそうなくらいの光景
次の瞬間、聞こえた
『たすけて』
反射的に反応し振り替える
そこには誰もいなかった
いや周りに追うものがいない
一気に襲う安心感
そして
懐中電灯が消える
電源をいれようとしても
そのボタンにあたるものは見当たらず
『どうして助けてくれなかったの?』
刹那、地面から下から目の前に
あの顔が現れる
後ろへ下がろうとした瞬間
がっしりと掴まれた
ぐにゃりとした化け物と
四足歩行の化け物に
四肢を掴まれ
顔は見えないがもう一体の化け物が
首に噛みついて
その三体が彼を動けなくさせていた
もがこうとしても全く動かぬ体
首に走る激痛
迫るニヤリ顔
叫ぶ、叫ぶ
叫んでも、届かない
嘆いても届かない
大きく開かれたニヤリ顔の口
ぬちゃりと
血液と唾液が糸を引く
開かれたその中には
大量の眼球が
いや
潰された眼球があった
喰われると悟るよりも真っ先に
全身が完全に凍り付いた
『絶望』
そう感じざるを得ない
そして
グジャリ……グシャリ……
……喰われた
ぼとりと
彼のもう片眼が落とされる
………………
鳥が群がる
バサバサバサッッ!!!!
……………………
嗚呼結局そこには
悲痛な血液の淀みのみが遺された
*****
「エーーーークストリィーーーームゥッッッッ!!!!!!!!!! 染み渡るアドレナリンン!!!! 最ッ高にハイであーる!!!!」
『嗚呼なんと素晴らしい……』
すば、らしい……? こんなのが……? ……すばらしい? 狂ってるんじゃないの? いや……狂ってるんだ。
……ダメだ……吐き気がする…………気持ち悪い……エグい。エグすぎる。全員が見ていられないとスクリーンから目を反らす。
『なぜ、背ける? 貴様らが下した結論で、彼は死んだのだ。前を見なければ始まらないのだろう? 後ろばかりじゃダメなのだろう? ほら…………前、見てみろ。無惨な凄惨な最期、見てあげろ』
「黙れグズが!!」
『クックックッ、お断りだ』
モノリュウの台詞のすべて私にのし掛かる。私は、どうすればよかったの……?
『余のために、せいぜい抗え。人間共よ』
「っ……なぜ、なぜわたくしたちを絶望させる必要がございましょうか!!?」
『なぜ? 何故と? クックッ、愚問過ぎて嗤えることを。貴様らは【超高校級】であろう? 未来の希望だろう? それが増えすぎなのだ。減らして何が悪い』
「ふざけないで!!」
最初の頃に、モノヤギに説明されたこととは全く違った。本来の目的……かはまだはっきりとはわからないけれど、その中の一つが今現れた。
『経済と同じだろう? 景気が良くなりすぎればそれを抑える。それと同じだ』
「同じにしないで……!!」
『全く比喩も通じぬのか。しかし、まあ…………』
モノリュウが不気味に黙った。周囲を見渡す目が動く。
『…………裏切ってくれたものだ』
「は? 何のこといってるのあんた」
『いやいや? こちらの話よ。さて、久しぶりに生徒との会話もできたことだ。余はこれにて失礼する。あとは頼むぞモノヤギ』
「アイアイサーであーる!!」
ブツンッと映像が消え真っ黒な画面が私たちを映す。
「どうせ黒幕もエゴの塊なんだろうぜ。弁護の余地なんかねぇぜ」
冷たく吐き捨て国門はポケットに手を入れた。なにかをまさぐるように。
「おい国門」
そんなことをしていたせいかモノヤギが声を掛けてきた。
「……? なんだぜ」
「ちょっとこっちに来るであーる」
「…………罠か?」
「違うであーる。とにかく来いィ」
渋々モノヤギの元へと歩く彼。するとモノヤギが何かを押し付ける。
「?」
「受け取れ。早く」
前に聞いた低いトーンで告げる。国門は不思議そうにそれを受け取った。
「さてェ、ワレもこれでおさらばするであーる!!」
何事もなかったようにモノヤギはその場から離れていった。
「………………俺は……僕は一体、何者なんだぜ……?」
素直な彼の自問が裁判場を覆った。今ある自分が自分でないように。
ああダメだ。ここに留まると気が滅入る。私は何も告げずそのまま裁判場を出ていった。止める声が聞こえたかもしれない。けれど私の視界は誰も映すことはなかった。
*****
部屋へと戻った。もう、やる気が起きない。なにもしたくない。
私は責めすぎた。ただの私の推測だけで、彼の心を踏みにじり、傷付けて、追い詰めて、知ってはいけないことを知りすぎた。知る運命だったのかもしれない。けれど、こんなのあんまりだ。あんまりで仕方がない。謝って許されるようなことじゃない。結局私は投票してから最後まで彼に、それどころか何もしゃべることが出来なかったのだから。
私はこんなので良いのか? 私は今まで何を目的としていた? 彼と会うためか? 玉柏との約束のため? 他人のことを気にもせずに自分と玉柏だけが助かろうとする道を歩もうとしているのではないのか? そう思う度に苦しくなっていく。もうやだ。いやだ。今日はもう、いや、明日もここからは出られそうにない。寝よう。
コンコンコン!!
そう思った瞬間、扉をノックする音が聞こえた。出るような気力は私に残ってなかった。………………けれど、不思議と自分の体は動き出した。変わろうと思っているのか、はたまたそうでないのか、自分の体でありながらわからない。
「………………だれ……?」
「……今すぐ来れるか」
そこにいたのは珍しくも国門だった。第一声に展開早っとかは思った。ツッコミする気はなんにも起きないけれど。
「…………………………」
「無理か?」
調子が裁判時のはずなのに、それならいつも最低とも思えるくらい酷いのに、なぜか優しかった。
「……俺たちは今、知らなきゃいけないことがある。だから……来い。俺の部屋に。みんな集まってるから」
「…………」
コクンと頷いて、ゆっくり、歩を、進めていった。国門はそんな私に歩幅を合わせてくれた。エレベーターを使って上がり、国門の部屋へと、行く。
どうやら私が最後なのか。全員がそこに集まっていた。
「………………」
ぽんっと、何も言わずに玉柏が私の背中を優しく叩いた。ああ、いつもの彼の手だ。何を言ってるのかがすぐわかる。
「国門くん、なぜうちらを呼びだしたんです?」
「ちょっとこいつをみんなに聞かせなきゃいけねぇ用があってねぇ?」
そういってポケットから取り出したのは小さな四角の物体。見てすぐわかる、ボイスレコーダーだ。
「ボイス、レコーダー?」
「橘の死に際にもらった代物だ。こん中に橘の知るほとんどがあるってよ。全員に聞かせなきゃ意味ねぇと思っただけだぜ」
そういうと国門は机にレコーダーを置く。私たちは適当に椅子やベッドの上に座ったり、壁に寄りかかったり、立ったりして、聴く準備を整える。私はベッドの上で聴いていた。全員聴く体制になったところで国門が再生した。
ジジジジジ………………
ガタッ、ガタガタガタッ!!
『あーあー? 入ってんのかこいつ?』
その声は間違いなく橘だった。けれど、彼にしては口調が非常に柔らかい。
『入ってなかったらやり直すだけだからいいか…………よし、よっ、てめぇら。誰かなんかは言わねぇでもわかんだろ』
わかる。わかるけど、誰。
『誰かわかんなくなるくらい誰だってなってるだろうがんなこと知ったこたねぇ。俺は喋るだけ』
「これ、ホントに橘くん……?」
「随分テンションが……」
『俺がこれを残した経緯なんざ後で話しても充分。だから話さなきゃいけねぇことをまず言う』
ギシっと恐らく椅子であろうものが軋む音が聞こえた。
********
俺たちの記憶は、消えている。そしてそれは、真実と嘘を混在させて俺たちに上書き……に近い形で思い出させている。また消えてはいなくても、漏れないように口封じをする対策までされてやがる。これは記憶に限らねぇけど、結局は圧がかかってんだ。どういうことかって思ってるだろうが、俺からしてみればそれは事実だ。まず真実について話しておく。
俺たちは希望ヶ峰学園に招かれた生徒であり、同じクラスの同級生。二年もの間一緒に過ごしていた。そして『希望ヶ峰学園史上最大最悪の絶望的事件』によって捲き込まれた被害者だ。いや正確に言えば、偶々国外から戻ってくる最中だったから捲き込まれずに済んだんだ。一応俺たちは未来機関に保護され絶望を止めるために日々を過ごしていた。そん中で、希望ヶ峰学園内で起きたとあるクラスのコロシアイを知った。残酷で無慈悲なコロシアイを俺たちは見てきていた。そしてここで学級裁判があることを認知した。
………………ここまで言えば、勘のいいやつなら誰がそれを『
前回の動機の映像はノンフィクション。俺たちはあの事件に捲き込まれた。全員体が痛かったりしたんだろうがよ。それはその時の被害の差だ。茶道部が一番重症を負ったからあんな目に遭ったわけだ。この事件は『希望ヶ峰学園史上最大最悪の絶望的事件』のあとのことだ。どうして被害にあったのかは俺も思い出せてねぇのが腹立つことだがよ。けどそれが原因で俺たちはここにいてコロシアイを強いられている。
それと映像と一緒にもらった秘密の手紙の中身、大工のは事実だ。だが藍染め職人の言った通り、そいつは訳ありだったらしいけどよ。森の恐怖については言うまでもなく真実。被害者の中にディーラーと医者がいたはずだ。医者のほうにはぜってぇ触れるんじゃねぇぞ。何があっても。俺の口からも言わねぇ。
…………お次は嘘についてだ。まずは藍染め職人から話す。あいつは……男性恐怖症でも何でもねぇ。ただ父親がかんなりスパルタで俺たちの中でも有名だった。だからあいつ自身若干男に対する苦手意識はあった。だが父親も藍染め職人も……って二人とも藍染め職人じゃねぇか……いやもうその二人はっ!! 藍染めに何か入れたっつう事実は全くねぇんだよ!! それと弁護士!! てめぇはそんな人格者じゃねぇ!! んな性格じゃねぇ!! だが今それがてめぇに侵食してきてやがる。このままじゃ、いろいろ危険だ。
あとこいつは知ってるかどうかわかんねぇけど、医務室だったかに『地獄の幸福者』って記事あんだが、そいつも嘘。いや正確に言やぁ昔の出来事だしすでにくたばった野郎…………つまり犯人はこの世にゃいねぇってことだ。
それとこいつは定かじゃねぇけど、盗賊野郎の才能がどうにも引っ掛かって仕方ねぇ。嘘か真実かまだはっきりわからねぇんだ
俺たちは共通した意識や記憶を持ちながら、それが交わらないところ……完全に平行線でないにしてもすれ違ってやがるんだよ
********
「これって……」
一時停止した国門がボソッと呟いた。
「ええ……私たちは同級生同士でコロシアイをしていたってことになるわね……」
「それに嘘と真実が混在して曖昧化された記憶がうちらをより混乱させていると……?」
そして阪本はその嘘に惑わされてしまい、犯行に及んだ……そういうことになる。
「平行……線」
私はそれに食いついた。なぜか、既視感があったから。
「けどなんでそんな重要なことを伝えなかったんじゃ」
「わかりません……国門殿、続きをよろしいでしょうか?」
「おう……僕は……偽物の人格に取られそう……か……」
国門はまた再生ボタンを押した。
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次の話題にいく。まずなんで俺がこんなことを
捜査でこそ共有できた記憶が、俺しか思い出せていない記憶を誰にも共有が出来ねぇっていうのにも腹が立った。虚しくて虚しくて砂噛んでるみてぇで。
これは俺だけに起きたことじゃねぇ。内容は違えど、本来出来たはずのことが出来くなってるやつがいんだろ。それがさっき言った弁護士のことだったり、あと知ってるか知らねぇが探偵だってこそあどばかりだがあそこまではしつこかねぇんだ。大工もそうだったか。
ただし、必ずしも『負』だけじゃねぇ。『正』もある。こいつも多分人によると思ってるけど。大工は写真を見ることで記憶を思い出す量が他とは違うし、ディーラーだって一単語出すだけで意外と情報が膨らむ。俺の場合は……肩を押すことで他人の記憶を思い出させることができる。常日頃からやっていたことだったからなのか知らねぇけど。
んでこいつはあくまでも俺の予想だ。俺たちの中に『最大の負を持っている人』がいるなら、それは逆に『最大の正を持っている人』でもあるんじゃねぇかって。必ずプラマイゼロってわけじゃねぇと思ってるが、一人だけに全負担をかけるよりも、全員に分担させてなるべくそうなるようにすんだろ。
俺がここまで記憶を戻してることに疑問を抱いても別にいいが、確かに記憶は戻りはしているし思い出させることも出来ないわけじゃねぇ。だが俺は人前で口にすることを許されてない上、感情が封じられたから言えなかった。これもこいつで録ってる理由だ。俺としては俺が最大負とは思わねぇし最大正とも思ってねぇ。
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またここまでの流れで国門が一時停止をした。
「宮原くん……阪本さん……」
「けど確かに橘の言う通りだな。もしそうなら俺の記憶についても納得がいく。気がかりなのは才能が引っ掛かるっていうのがわからないな」
私たちには負と正、どちらも備わっているってこと? …………私は最大負でも最大正でもない。正はピンと来ないけど、負ならきっと…………いや思い出すのも気持ちが悪い。
「……続けるぞ」
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んじゃ次いくぞ。……俺と、数学者の過去の話、そして愚かな俺の今までを。どうでもいいなら飛ばしてくれても構わねぇよ
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餓鬼の頃の話だ。俺は西のほうで生まれ育った。幼なじみと一緒に。そいつが数学者、江上和枝だ。ずっと昔から居たもんだから互いに仲良かったし大好きだった。はは、思い出せば、餓鬼ん頃からあいつ数学得意だったんだなぁ。
平和に暮らしていたんだ。けれどそれも束の間だった。小学生卒業直後の話。俺は親父の急死でさらにお袋の体が生まれつき良くなくて、親父の死の後に精神をやらかしてしまった。お袋を病院に入院させるにも、俺の住んでたところじゃ数が足りないし、少しだけ技術も足りなかった。仕事もろくに出来やしなかったし、それなら都会で俺が働きながら生活を支えるほうがいいかも知れないって思った。
それは必然的に数学者との別れを意味していた。正直離れたくもなかった。だけど当時の俺の家庭環境じゃそうせざるを得なかった。親戚から金を借りて、家も賃貸にして俺はお袋と電車で故郷を離れることになった。
電車に乗ろうとする、まさにそのときだ。こいつをもらったのは。離れていても一緒だからって和枝からくれたもの。嬉しかったなぁ…………そして俺からも昔っからあげたかったものを渡したんだ。大きさは小せぇし種類は違ったけど形は同じもんを渡した。お互いの『目の色』と同じものを。俺たちは離ればなれになった。けどこいつに込めた想いが届いているって信じ続けた。
…………そして和枝は数学者として、俺はたまたま使った杖で希望ヶ峰学園に入学することになった。それで最初あたりの話に戻るが俺たち全員は少なくとも二年は一緒に過ごしていた。和枝との関係は周知の事実だった。会ったときは嬉しくて泣いたぐらいだったし。
けど、俺たちはさっきの通りコロシアイに捲き込まれた。記憶を消されほぼ初対面に近い形で接することになりやがった。それで過ごすうちに……悲劇が起こった。俺の記憶がほとんど全て思い出されてしまったこと。写真を受け取った瞬間浮かぶ昔の頃の記憶。みんなとの学園生活。そして和枝との関係を。言いたくても言えないもどかしさに腹が立ってつい自棄になってあのヤギを…………いやあのモノを破壊したくなった。
だが悲劇は俺にさらに強くのし掛かった。それが和枝が鷹山を殺したこと、俺の記憶を完全に思い出してくれなかったこと。しかも俺に会って確かめたいっていう動機で。目の前にいたのに気づいてもらえなかったのにショックを受けた。それと同時に俺は思い出させないといけないって思った。……体が自然に動いた。好きだから、モノに殺されることを恐れた。今でもなおよみがえる笑顔が俺を支配してきた。けれど感情を封じられた俺に直接ものを言うことは出来ない上、杖で攻撃したって俺にあいつを殺すことなんて出来やしなかった。だから……少しでも記憶を思い出してほしいと肩を押した。これならあいつは気づいてくれるって信じたんだ。……結果はてめぇらが見た通りだ。
俺の助けを求める声に反応したかった。手を伸ばしたかった。なのに俺は最後の最後まで俺はあいつにっ……和枝に何もっ、何も出来なかったっ!! ツラくてツラくて仕方がなかったっ!!!! 何を思ったか俺はてめぇらの飯に睡眠薬を入れて……そして部屋に戻ってしきりに泣き叫んだっ……泣いたって何も変わらない!! 泣いたってそれはただ逃げてるだけにしかならないって!! わかってるのにっ!! 泣いて、泣いて泣いて泣いて!! ずっと泣いてッッ!! モノに俺が殺したって言われたときも悔しくてっ!!!!
裁判終わりに次の場所が解放されることを、俺は知っていた。その光景を俺たちはここに来る前に見ていたから……先にそこへと向かい、カフェに行き着いた。そこで見たのが直樹も見たあの森の恐怖の事件だった。そしてさらに記憶を思い出して……ダグラスに当たって……
それに森の恐怖を終息させた『F.T』の存在をダグラスは知っていた。……はずだった。そいつは失われた記憶になっていた。それに腹が立ったが……モノに制御されたんだ……
『F.T』についてもう少し触れりゃあ、やつは俺たちがここに来る原因となった事件において最後まで戦ったやつだ。俺も玉柏も最後まで残ったものの、結局こうして
んでよ……あのあと記憶について話しただろ。あれについては俺も確かにって思った。だってその通りだったから。国門の言った今の自分が自分でないってところもまさにそうだった。直樹が倒れたのは予想外で、何か出来たらよかったが信用されているかもわからねぇのにそんなこと出来なかった。
……近衛と一対一は楽しかったなぁ。声掛けてくれて嬉しかったし、何よりあんなに体を動かせて一時の幸福すら覚えた。幾人かで食った菓子も旨かった。あれも嬉しかったんだぞ? 甘党か聞かれたときとか風呂あとに髪の毛のこと指摘されたときは若干こそばゆかったが。
………………次の日だったか。宮原が死んだのを目撃したのは。やつには色々聞かなきゃいけねぇことがたくさんあったのに……なにも言えずに呆気なく。すぐさまみんなを呼ばなきゃならねぇって。………………殺したのが阪本だったのにも驚いた。男の苦手なあいつが一番になついたのが宮原だったから。
秘密を渡されたときに俺が受け取ったのは玉柏のだった。才能のことが書かれていてなぜかおかしいと感じた。嘘か真実か、今の俺にはわからねぇ。
……ここではこんなにも共通してるところがあったり、すれ違うものが多い。そのすれ違いこそコロシアイを生む要因。それが俺たちを殺し合わせているってわけで……
今の動機の運命ダイスだかがよくわからねぇし、『刺客の七には気を付けろ』なんて置き手紙まで部屋にあるわで。けどこの中に確実にそいつがいるのは事実……だと思う。曖昧なのは俺の記憶の中にそんなやついなかったからだ。もしかしたら次の事件はそいつが起こすかもしれねぇから気を付けろよ。
………………多分、話したいことはほとんど話したと思う。
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静かに停止ボタンが押された。
「…………なぜじゃ」
「そんな過去……あったんだ……」
「私たちのこと、こんなに気にしてたの……? あんな態度取ってたのに……?」
「……こんなの……あんまりでしょう。橘くん……」
長々と綴られた橘の過去と今までが、それまで謎だったところを解きながらさらなる謎を生み出す。けれどそれよりも橘の心境が浮き彫りになったことで、いっそう辛さを増させた。
「……ばかやろう……っ」
「…………皮肉だよ……本当に」
みんなの声が震える。直樹は未だに声が出せないでいた。
「刺客の七には気を付けろ、ですか……巡間くんも言ってましたね」
「けどこの感じだと、刺客の七はまーだ生存しているかもしれないね」
「厄介なのには変わりないということじゃな……」
そして刺客の七とか言う人物への謎も膨らんだ。
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最後に、今の俺の思ってることを言う。
泣けよ…………
なんで泣かない? なんで強がる? なんでそんなに自分を追い詰めるような真似をする?矛盾してるのは百も承知。だけど俺はてめぇらとは違う。てめぇらみてぇにいつでも泣いたり笑ったりすることが出来やしねぇ。けどてめぇら感情ちゃんと出せんだろがっ!!? だからこそ言う。なぜ泣かない!!!?
特に湊川っ!! てめぇは阪本の死以来ずっっと無理しすぎだろうが!!? あんな見え見えの強がり笑顔なんてやめろよっ!! やめてくれっ!! もっと、心の底から……っ思ってること言ってくれよっ!!? 思ってること全部っぶちまけちまえよッッ!!!! 虚しいって!! ツラいって!! 苦しいって!! 悲しいってっ!! 言ってくれよっ!!? 名指ししてない他のやつらもおんなじだ!!!! 死んでツラいのは一人だけじゃねぇんだっ、みんな、みんなみんな同じように、ツラくてツラくて仕方がねぇんだ!! そうじゃなくとも、どこかで悲しい気持ちがあるんだよぉっ!!
おれなんかっ……っ一人じゃなきゃ、っこんなの吐き出せないからっ……っ、だからっ……だからっ!! お願いだからぁ!! てめぇらの心の声をっ!! 胸の奥底の本心をっ!! 聴かせてくれよ!! ちゃんとっ、支えてくれるひとっ、いるっ、からぁ……っ……たのむ、からぁ…………みんなっ、やさしくて、っ、いいやつら、ばかり、だからっ…………なぁっ!!!!
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泣きの涙で彼の全てが吐き出される。彼の泣きじゃくる声が、レコーダー内部で反響し部屋を包む。
「うわああああああああっっ!!!!!!」
立ちながら聴いていた湊川が泣き崩れる。何かがぶつりと切れた気がした。
「ツラいっツラいのっ……悲しくて悲しくて仕方がないのよっ!! 友達がっ、人を、殺したって事実はっ、変わらないけど、っ、それでも!! 目の前であんな風にされて!! ツラくないわけないじゃないっ!! 泣きたいって、思ってもっ、強くならなきゃって……っそればっかりで!! けどそれは……間違ってたっ……ウッ、うあっ、……ただっ、ただただ、現実からっ目を反らしてただけだったっ!!!! そばに、ダグラスくんがいて、大丈夫だって、思っちゃって……浮かれてっ……!! 隣にいる人すら!! 失うってことを、知っていたはずなのに!! わかってたつもりだったのにぃ!! 結局、いなくなってからっグスッ、後悔ばかりしてるっ……ウウッ、ごめ、んなさいっ……ごめんっ……」
声の限り泣き叫ぶ湊川に触発されるように、直樹の隣で座っていた渡良部も顔を覆いながら泣き、その近くで立っていた近衛も静かに涙を流していた。
「ぁっ、ダグ、ラスっ……」
「ダグラス、どのっ……」
渡良部が近衛の裾を引っ張るとそれに答えるように近衛がツラさを共有しながら、彼女を抱き締め背中を優しく撫でる。渡良部の嗚咽がだんだんと増していく。
「…………っ」
泣きはしなかったものの矢崎は悲しく目を赤くし、柱に寄りかかっていた灰垣も悔しそうに唇を曲げていた。
「あほかよ……」
レコーダーの近くで座っていた国門も、そんな悪態をついたところで正直な涙腺の緩みは簡単に治まらず。金室もハンカチで零れた涙を拭う。
「あっ、アアアアッ、っ、ウエアッ、ああっ……」
直樹も泣いた。今までのこと全て吐き出すように。嘆き悲しみ、もう届かぬ謝罪が掠れる。
「…………悪い……やらなきゃいけないことを、っやってくる……」
玉柏が逃げるようにその場から離れた。彼の声も同様であった。誰も止めることはなかった。止める余裕すらなかったのだ。
一度ついた火が消えない。それぞれ海底に沈むような孤独感を抱いていて、胸の中がぽっかりと空いてしまった喪失感に襲われていて。海底に火は着かないというのに。今まで失った全員の存在が幾度となく頭の中を過り、それぞれの喜怒哀楽が支配してくる。切ない思いが込み上げてきてさらに海底で溺れた。
しばらくして、レコーダー内で泣いていた声が少しだけ冷静さを取り戻す。
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っ、見苦しくてごめんっ、ごめんなぁ……? こんな男がみっともなく泣いてて……どうせ飛ばしてんだろうけどよ……っ、てめぇら全員っ、いい仲間だから、だから……これからもよろしく頼むな……? 生きてる間に……誰かがこれに気づいてくれることを、祈る。俺は……っ、絶対死なねぇから……
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死なない、なんて、今となっては嘘になってしまった。けれどそんなことどうでもよかった。ただただ、心傷に浸っていたかったから。レコーダーの録音が切れても、みんなの泣き声は止められなかった。
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コツ、コツ、コツ…………
先に後にした玉柏がいつ盗んだかもわからぬ、いや、すでにあのとき盗んでいたやつの手帳を取り戻しⅡ棟で使い部屋へと入った。
「…………おおばかやろうがぁ……」
彼はそう呟いて、雨を誤魔化すように一本煽った。
______
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散々泣きじゃくって、みんながその場で寝てしまった。校則に違反することはないがやや事案ものである。
そんな中、紙を読みながら歩を進める人がいた。
【橘は江上と恋仲である】
これを初めて読んだときどうにかなってしまいそうなくらい混乱した。秘密とは幅が広い。そういえば、あれは不器用なやつなりの愛情表現だったなぁと、思い出す。
……そんなことよりとそれをポケットにしまい、ある者はやつの息絶えたところへと向かった。そこにはすでに遺体はなかった。が、ヒントのありかを求めてそこを探る。…………ここだけ、なにかが違う。直感で思った。ある者はそこの周辺を探す。嗚呼あった。見つけたと、そこを開いた。
ゴオオォォ…………
開くとその寒さに凍りそうになる。防寒具を身に纏うことはせず、閉まらないように棚一つで押さえつけた。…………Ⅲ棟の寒さはこれが原因か。するとあるものに目がいった。ある者はそこに向かいゆっくりと取り出して中を見た。
…………………………
「どういう、ことだ……?」
目を見開いて目の前の謎に疑問符を浮かべる。おかしい。明らかにおかしすぎる。
……刹那
ゴッ!!
ドサッ……
ある者は突然の衝撃に倒れ気絶した。
…………
「…………『刺客の七』には気を付けろ……ってね……」
カランっ………………
「世界に必ず、誰にも見えない『七の世界』が潜んでいるのだから」
運命の骰はまだ
転がり始めたばかりだった
***
「すべてわたしのせい」
***
“赤い包帯”を手に入れた
とある人物が片眼を撃たれた巡間のために気休めとして止血用として巻いた包帯。血液はすでに乾燥しているが、その血液量はおぞましい程のものであったと窺える
***
第三章
消えた雁追うものども
終
***
next→第四章「転がる骰にゃ影潜む」
ついに表論も三章を完結しました。いやほんとに思いの外残酷に描くことになってしまった。これがあの子たちの運命かと。「可哀想」ってスッゴい皮肉だと思います。
次回は一旦区切りということで番外編を挟むつもりです。それまでまたしばらくお待ちください。