表裏ダンガンロンパ ~共通とすれ違いの物語~   作:炎天水海

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 どうも。四章も3部屋目となります。ここまで来るのはとても長い道のりだったと思いつつ、そんな風に思うのはやいわってなる感じもします。ま、大概そんなもんです。

 では、傷負い鼠に3部屋目

 あなたはたくさんぶつけられても強くいられるか?



第四章(非)日常編 傷負い鼠に3部屋目

 

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 突然視点が変わることがあります。

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 17日目

 

 

 

 『おはようであーる!! 今日もはりきっていくであーる!!』

 

 

 

 

 

 

 

 …………朝か。七時………………今日も聞くか。シャワーを浴びながら、鏡の前に手をつけて目を合わせる。…………鏡の中の自分は半分化け物のように見えた。普通に悩む表情をしているって思っていても、半分は化け物。

 

 『やあ。調子はどうだ?』

 「…………どうもこうも僕を貶める野郎に毎日会わなきゃ、本当の自分が保てているかわからない体になってきた」

 『ははははは!! 嬉しいな!! だけどわからないか? 俺様はもう少しで貴様を奪えるんだぜ』

 「……やめろ……反吐が出る」

 『出せばいいだろう~??? 俺様はこの空間に来るよりずっと前から貴様によって作られた【人格】……まあ今の貴様には【イマジナリーフレンド】のほうが正しいかも知れねぇけど、それだって自身がよくわかっているんだろう?』

 「…………くそが。これ以上人格を増やさせてたまるか……」

 『ヒヒヒヒヒッ、いつまでその威勢が持つかねぇ? 裁判は俺様が出ているが……あの相棒の二人は手強いねぇ~?』

 「あいつらは……絶対負けない。お前なんかに……」

 『……ははは、目に光がなくなってきたなぁ~? そろそろ貴様自身、精神を保てなくなってるんじゃあないかぁ~?』

 「……僕は……カレンダーと裁判以外では何の取り柄もない男だ。精神が磨り減ろうと……今やれることを、伝えられることを伝えなければならない」

 『無理だろうぜ。貴様の記憶のほとんどをこっちへと引き抜いている。刺客の七とやらは俺様も貴様と同時に倒れたから、正体までは知らないけどよぉ。というか…………いつまで****つもりなんだぁ? 貴様は本物の貴様じゃないのによぉ?』

 「それは!! っ………………」

 『人格者じゃないなんて、よく言ってくれたぜ杖小僧は。しかもここの空間の正体まで、すでにあいつは気づいてた』

 「!! おいそれはどういう!!」

 『おっと口が滑った。まあ今気にすれば貴様は怪しまれる。刺客の七がどうして【あそこ】を知っていたかはわからねぇけど、考えられることだとすれば…………ははははは、そいつは裏で黒幕側と繋がってるかも知れねぇぜ』

 「……っ!!」

 『さてと、貴様はどうするんだ? どうせ俺様に奪われる記憶。せいぜい足掻いて見せてくれだぜ。そして……生きて俺様に取り込まれるんだな。頑張れ、【本物】』

 「っおんまぇええええええ!!!!!!」

 『ははははははははははははははは!!!!!!!! じゃああああなあああ!!!!』

 

 ……………………半分の化け物は僕から消え戻った。どうすればいいんだ。鏡に映る僕は元通りの自分。シャワーの流れるのを感じているだけの自分。いつ暴れるかわからない【侵食者】にいつまで怯えなければいけないんだよ……!!

 

 

 

 

 

 

 

    こんなにも死にたいと思ったことはない

 

 

          いや違う

 

 

     過去に一度の大罪をまだ僕は……

 

 

 

 

 

 

 

 **********

 

 目を覚ます。昨日はしっかり寝られなかったから、今日は『とりあえず』よく寝れた。けどこの日記の内容……気掛かりすぎる。だってあの『F.T』の日記なんだから。

 パッパとシャワー浴びて食堂に行こう。

 

 

 ***

 

 

 今日は意外とみんな早く食堂にいた。遅れたかな? でもまだいない人はいる。

 「よっ」

 「君そんなキャラだっけ玉柏くん」

 「なんとなくだよ」

 「昨日は結局どうなったの?」

 「ああ……俺の部屋に来たがそのまま寝かせた」

 「そのまま寝かせた!?」

 「Ⅲ棟の控え室だかで化粧して誤魔化してたけどな、あいつ隈がはっきりしてた。折り紙してた影響だけじゃない明らかな寝不足を感じたから寝ろって」

 あんたはお母さんか!!

 「で、俺は置き手紙書いてⅣ棟に逃げた」

 「言い方何なんですか」

 金室近くにいたのか。

 「俺は俺でやり方知ってるからいいんだよ。人前ではやらないけどな。朝にもやってるし」

 「まあ……いいでしょう」

 「ったく……」

 ため息をついて頭をポリポリと掻く。そういえば玉柏の髪めっちゃふわふわしてる気がする。

 「どうした?」

 「いや、いつも髪ふわふわしてるなって」

 「なんだそりゃ。まあ気は使ってるけど。親譲りだし」

 「あっ」

 「別に構わないけどな。顔すら覚えてない父親の譲りだから」

 そんなこと話していたら他のみんながぞろぞろやって来た。…………国門の顔色はどこか悪くみえた。

 「国門殿、どうかなさいましたか?」

 「……なんでもない。ただもう、キツい……」

 まさか人格のことなのか。そろそろそっちの方にも気を使わなきゃいけないんだ。

 「言っておくけど、人格の性格はクソだ。クソの中のクソ。お前らを犠牲にすることすら厭わない。今まで僕が制御できるようにしていたけど、今回ばかりはもうそれは出来ないと思ったほうがいい……」

 右側の顔を手でおさえながらそう言った。ぐしゃりとされた右が狂った世界が描かれていた気がした。

 「どうにかしたいのに出来ないから、自分を見失いそうになる。誰が自分でどれが自分なのか……もう何もかもがぐちゃぐちゃで…………」

 そこから先は少し聞こえなかった。……悟ってるのかもしれない。自分の死期を。歪んでる、そう思えるのに、どこか別の歪みに放られた気がする。きっと気のせいじゃない。

 「……ねえ、あんたのそれが抑えられるのはどういう状態なわけ?」

 「…………はっきりとは言えないけど、気を紛らわしてるときとか……激しい運動とかだと体と脳が追い付いてないからか影響が出ない……多分」

 多分言うなし。

 「そういえばみんなでバレーしたときはあまり出てなかったような」

 「あれは本当に出る暇すらなかったんだと思うけど……」

 「んーなら今度はプール行ってみる? どうせならいろんなところで気分転換したいわ」

 「…………」

 渡良部だけ浮かない顔してたけど話の流れに逆らえず、午後プールに行くことになった。

 「水着はあるのかい?」

 「Ⅲ棟探せばありそうですね。行ってみましょう」

 金室がさっさと行ってしばらくしてると、電子生徒手帳が矢崎から鳴った。

 「はーい」

 電話を取る矢崎がコクコク頷きながらこっちをチラチラ見ている。何話してるんだろう。

 「ねえみんな」

 「何かしら?」

 「スク水は着る?」

 「「「着ない!!!!」」」

 その話かい!!

 「全員着ないって~…………あたいも着ないよ~」

 金室着せる気だったのか。

 「とりあえずあるやつ適当にね。うん、わかった。……男子のも持ってきてくれるみたいだから適当に選んでだって」

 「わかった」

 「女子は更衣室に置いておくみたいだよ。あとで確認してだって」

 はーい、……とは答えたけどあの中にスク水入ってたら怖いな。

 

 *****

 

 午後になるまでの間にチラッとⅡ棟のカフェ寄ったら矢崎が作業に集中してた。さすがに声をかけるのが忍びなくてそのまま出てきた。

 予定何もないし、ここからの出方だってまだまだわからないし……あっ昨日の日記のこと忘れてた。プールだと濡れたら困るし夜でいいかな。

 「んー」

 「どうしたんです?」

 振り向いたら金室がいた。

 「いやこれからどうしようか悩んでて」

 「午前中はやることないですもんね」

 そうだ。せっかくだしちょっと聞いてみたいことを。

 「えっとさ、金室さんってどうして茶道をやろうとしたの?」

 「いきなりなんですか。まあ確かに気になりはするのでしょうけど」

 前触れなくしたのまずかったかな。

 「簡単に言えば実家がそうなんですよ」

 「実家?」

 「ええ。古くから茶道の家で、規律や作法などは嫌というほど叩き込まれました。それもあってなのか遺伝なのか、うちのこの毒舌もそのまま」

 毒舌家族ってなんか、いろんな意味で怖いな。

 「お茶を点てるときも厳しくされましたね。ですが終わったあとに飲むまろやかな味わいは、忘れることない絶対の味なんです」

 「絶対の味……」

 「ここに道具さえあれば見せたのですが……」

 「和室がそもそもないもんね……」

 「そうなんですよ。落ち着いて過ごせるあの空間!! 心地よい藺草の香りが気分を落ち着かせ、わび茶が確立された安土桃山の時代へと誘われるかのような静けさ……あれが堪らなくて……一度でもいいから京の都とかに行ってみたいものです」

 「え!?」

 「あら言ってませんでしたっけ? うち静岡出身ですよ」

 マッジデ

 「関西弁とかはそれなりに憧れはあるんですけど、何分エセが地雷な人は結構多いんですよ」

 ごめん普通にエセ遣ってる。

 「だからせめて一人称だけでも『うち』にしてる……なんて、笑える理由です」

 「……憧れはあってもいいと思うよ」

 「ふふ、ありがとうございます。まあ素も『うち』なんですけどね」

 素もなのかよ。

 「そういえばさっき和室の話しましたよね」

 「したね」

 「……時に直樹さん。和室に入ったことは」

 「あるよ?」

 これでも石の上とかで寝たことある人だから。

 「それなら早いですね。先程も言ったんですが、畳には藺草が使われてます。そしてあの独特の香りはリラックス効果があるんですよ。それにごろごろしやすい。椅子なんかは不要。座布団だけで十分快適」

 わかる

 「素材が素材なので冬は暖かく、夏は涼しいという多くのメリットが存在するわけなんですけど…………素材故に非常に傷みやすいんですよね……汚れを落とすのも困難でシミができるケースは多いんです」

 「ああ……」

 「おまけにダニやらカビも出やすいのでアレルギーなんてのもありますし……逆に洋室ですけど、掃除がしやすくおしゃれな雰囲気は出しやすいと思いますね」

 「部屋シンプルイズベスト派だからそこまでオシャンティーなことしてない」

 「なんですそのださい名前の紅茶は」

 「紅茶じゃない!!」

 「それはさておき、うちらの部屋もどれも洋室ですよね。大差はないと思いますけど」

 「マンション、だからかな?」

 「あなたはあの固い固い床で寝ようと思います……?」

 絶対思わない。首を横に振る。

 「スリッパとか欲しくなりますし、布団よりもベッドがいいです。なので部屋のスペースを確保しにくいかもしれないんですよ。音も響きやすく正直うるさいです。ここはその心配ありませんけど。あと埃が舞うので掃除はこまめにしないといけませんし」

 こう考えると和室にも洋室にもメリットデメリット激しいんだな……

 「うちは和室で布団派なんですけどね」

 だろうね。

 「好みは誰にでもあります。好き嫌いや感性はそれぞれ違いますしね。でも……その違いを受け入れて来なかった自分にとって、そういうものを少しでも受け入れるということは大切なんだと……時折思い知らされます。自分の思っていた現実は甘くありませんでしたから」

 彼女は近くの壁に寄りかかる。

 「どれだけすれ違ったんでしょう。どれだけ間違ったんでしょう。どれだけ人を傷付けたんでしょう……うちにはわかりません。理解も共感もできない毒を撒き散らすだけなのですから」

 突然重くなってすみません、と彼女は少しだけ悲しそうにそのまま去っていった。……言いたいこと、よくわかる。私はどこかで……そんな人を見た気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 無自覚で傷付けてるかもしれない。お節介みたいな優しいが人を傷付ける。……自分の考えを述べればたちまち否定され、或いは別の考えで砕かれて逃げられる。意識的違いを理解しながら、意図的に否定する。否定したわけでもない言葉が、誰かを追い詰め沈めていく。合わないからの一言で絶ちきれる人がいれば、逆もまた然りなわけで。

 金室は言っていた。誰かと馴染むことが少なかった、と。そう思うと……彼女が思ってる自身の苦しみをいつまで保てるのだろう。この……余計なのかもわからない考えが支配してきた。

 でもこのあとの楽しみを壊すわけにもいかなくて、念頭において忘れないで起きたい……なんてことも思っていた。

  

 *****

 

 昼を食べ終えてしばらくしてから、全員でプールに行こうということになり、更衣室で着替える。結構いろんな水着があったからサイズ合うように決める。スク水はあったよおい金室。もちろん全員変わらず却下した。そりゃそうか。……って

 「渡良部さんなんでTシャツ着てるの」

 「いや泳ぐ気ないし……カナヅチだから」

 「あら意外ね」

 「動くのは本当ね……」

 そういえば足も遅いほうだったっけ。

 「あとこの中で『きょうい』格差あるし」

 「え、脅威なんてあったっけ」

 「そっちじゃない!!」

 項垂れてため息を吐かれた。…………あ、脅威じゃなくて『胸囲』ね。

 「ああ~そっちの」

 「はい着替え終わったら一人ずつどんどんプールに行こうねぇー!!」

 なんとなくこれ以上言及してはいけない気がした。というか結構みんなスタイルいいな……

 

 

 ***

 

 

 全員がプールに入った。あ、メガネ掛けてない玉柏と近衛何かすごく新鮮。シャワーを軽く浴びて適当に準備体操を済ませてから水の中に入る。

 「冷たっ!!」

 「思えば久しぶりだなプール入るの」

 ちなみに私はホテルとかにあるから暇潰しで入ってたりする。だからそこそこ泳げる。軽く泳いでいると矢崎が浮き輪を持って下りてきた。

 「矢崎さんは浮き輪必要なんだ」

 「あまり泳ぐ機会なかったしそもそも泳ぎは苦手だからねぇ。北はどっちかっていうと、スキーの方が出来る人多いからね」

 あそっか。

 「でもせっかくみんなで入るのになーんにもしないのは野暮だからね」

 「そっか」

 適当に話してる最中、ちらっと他の人のことを見てみる。国門と金室は適当に話してて、渡良部は足だけ浸かっている。灰垣と玉柏は競争していて、近衛とか湊川も自由に泳いでいる。え待って湊川泳ぐのうまっ!?

 「ふう!! こういうのって高いところから落ちて入るのもスリリングで楽しいのよね!!」

 「すっごい……人魚みたいに泳いでなかった?」

 「水泳習ってたからかしらね。これでもダイビングとかシュノーケリングとか経験したことあるのよ」

 「うわあダイビングは経験したことないからやってみたいなぁ」

 「ふふ、楽しいわよー?」

 なんだか楽しそう。前みたいに無理した雰囲気はないみたい。

 

 バッシャーン!!!!

 

 奥の端の方から大きな波の音が聞こえる。そっちを見てみると玉柏と灰垣が同時に顔を出していた。

 「ぷはっ!! 同着とは……なかなかやるのぉ?」

 「動けないと、盗賊はやってられないからな」

 「はっはっはっ。続けるか?」

 「もちろんだ。用意……どん!!」

 

 バッシャーン!!!!

 

 あの二人も結構楽しんでいる様子で。そうだ、私たちはコロシアイに捲き込まれているとはいえ、実際は年相応の高校生。まるで青春時代に取り残したことを回収してるみたいでおかしい。

 「渡良部殿は泳がないのでございますか?」

 「えっ、う、うん。カナヅチだし……」

 「……わたくしでよろしければ少しお手伝い致しましょうか?」

 「いいの? 近衛(リーチ)は」

 「皆でプールに来た以上、一人楽しめないというのも酷でございましょう。もちろんこうしているのがよろしい場合もございますが、あなたは一人よりも多くの方と一緒にいらっしゃったほうがよろしいのではないかと存じます。それにわたくしが渡良部殿に手を差し伸べて差し上げたいのでございますから」

 なんだこの口説いてるみたいな雰囲気は。渡良部は満更でもない様子だけど。たじろいでいるのがもどかしい。いいから手を取りなさい、と視線で合図したら素直に近衛の手を取ってプールにゆっくり入水した。

 「ひいぃぃ冷たい!!」

 …………ちょっと慣れるのには時間かかりそうだけど。

 一回あがってサウナに入ろう。熱が篭った部屋はとにかく暑い。けど汗を流すのにはちょうどいい。でも暑い。しばらくしてるとさっきまで競争してた二人がやって来た。

 「ふう、やはりサウナはよいな」

 「あっつい……」

 二人真逆のこと言ってるよ。

 「さてと少し電子生徒手帳で確認でもするか」

 「ここに来る前に取ってきてたのそれか」

 さっき取ってきたであろう電子生徒手帳を取り出して起動させる。するとん? と顔をしかめた。

 「今ここにいるのは9人じゃよな?」

 「うん」

 「サウナにいるのは3人、プール側にいるのは6人……ちゃんとおるというのに……なぜⅡ棟のライトがついているんじゃ?」

 え? Ⅱ棟は人がいればつくんじゃ? って思ってたら

 「!? なっ、急に画面が暗くなったぞ!?

つけようとしてもつかん!?」

 「は? ちょっと貸せって無理だな……校則違反になる」

 「もしかして熱暴走で壊れたんじゃ……」

 「あっ」

 なんかその可能性高そう……今までそんな話出てきてはなかったけど、一応でも電子危機だし。防水はあっても耐熱はあまり聞かない。となると………………

 「……あとでモノヤギに聞くしかないな」

 玉柏の意見に賛成。とりあえず一度サウナを出てまた一泳ぎしてきた。金室と国門が泳いでるところ見てないけど。

 「お前らは泳がないのか」

 「うちらは眺めるだけにしておきます」

 「話してるだけでいいぜ。こいつ何回も血吐いてるのに下手に動いてまた倒れるのも嫌だろ」

 気遣いなのね。というか動くために来たはずなのに二人会話だけってなんか、本末転倒?

 「…………」

 あ、玉柏がなんかあのちょっと怖い笑み浮かべてる。水の中に入ってよ。上がってた矢崎を手招きしてなんかしようとしてるみたいなのかな? その様子を眺めてるけど。

 「うわっ!? ちょ、何するんですか!?」

 「一度もプールに入らないのは反則だよね~?」

 「だよなぁ?」

 「いだだだだ!! 肩めちゃめちゃ痛い握力つっよ!!?」

 矢崎が金室をお姫様抱っこして、玉柏が国門の肩を思いっきり掴んで引っ張り出す。なんか、いやな予感する。

 「「そーい!!」」

 「イヤアアアアア!!?!?」

 「エエエエエ!!!?」

 

 

 ザッパーン!!!!

 

 

 「ヘブッ!!?」

 「わっ!!」

 「おっと」

 「キャッ!?」

 プールにダイレクトにインしたお。私たちにまで水がかかってきた。バシャンと二人が顔を出す。

 「何するんですか!?」

 「ゲホッゲホッ、ちょっと鼻に水入った……いってぇ……」

 そんな二人を投げた二人は

 「なかなか華奢な体つきしてるんだね」

 「間抜けな姿さすがだな」

 「グッドじゃないですよ!!!?」

 グッドサインしながら笑ってた。金室と国門はなんというか、お疲れ。

 「そういえば波とか渦とか作れるんじゃったな。一回やってみるか?」

 「そうね」

 わちゃわちゃしつつ、一旦プールから全員出てしまう。灰垣が動力室に行って水の調整をしている。しばらくすると、前に聞いた同じザアアアアアアっという音が支配してやがて渦を作り出した。

 「少し試してみるわ」

 湊川が水の中へ入ると、あっという間に渦に飲み込まれたようだった。しばらくすると湊川は渦の中心からひょっこり出てきた。

 「湊川さーん!! 大丈夫ー?」

 「大丈夫!! ただ上級者向けよ!! 止めてもらってくれる!?」

 まあでしょうね。灰垣に止めてと伝えて渦を止めてもらった。

 「やっぱりあれか」

 「ちょっと無理ありそうだったね」

 結局普通にプールで泳いだり水の掛け合いでもしてた。

 いろいろなことあったけど、終始騒いで時間になった。

 

 

 *****

 

 「楽しかったぁ!!」

 「人数が少ないのが痛いところだけれど、それでも楽しめたわね」

 湊川が一番楽しんでたよ。

 「遊園地とかも行きたいね~」

 「絶対楽しいやつ!! 私遊園地一回しか行ったことないけど、絶叫系はすっごく楽しかった!!」

 「ジェットコースターとかあとあの上下するやつ? あれはすっごい楽しいのわかるぜ」

 「ホント!!?」

 確かに絶叫系は楽しい。場所によっては本当の本当にスリル満天だからおもしろいったらありゃしない。めちゃくちゃ頷くだけの人になってる。

 「…………」

 「あれもしかして近衛くん、絶叫系苦手かい?」

 「っ!! な、ななな何のことでございますかね!!?」

 「苦手なんだね~」

 「……お恥ずかしい話でございますよ」

 冷やかされてちょっと顔が赤くなってる。

 「なにぶん最初に体験したものが360度回転するジェットコースター……それも幼少の頃でございましたから」

 ああ~

 「お嬢様は逆にそういうのが大好きであられまして……心臓がいくつあっても足りませんよ……思い出して寒気がして参りましたので、戻ってよろしいでしょうか」

 「ははは……戻っていいよ」

 足早に近衛が戻っていった。私たちはのんびり歩いていった。

 「今日の晩御飯なにかなぁ~」

 渡良部が不意にそう言った。ちょっとクスッと笑ったらむすっとされた。

 「ちょっと何なの!?」

 「んー? いや何でもないよ」

 「何でもないわけないでしょそれ!!」

 「だってそういうのでもないのに夫婦感あるから」

 「ふっ!!?」

 あ、真っ赤になった。余計に笑っちゃいそうになったところを背中バンバン叩かれてって痛い痛い痛い!!!!

 

 

 *****

 

 「痛いって」

 「あんたが変なこと言うからじゃん!!」

 あれを笑わずにどう反応すればいいの。

 「まあまあ、二人はとーっても仲がいいよね~」

 確かによく一緒にいる感じはしてるし、私としても渡良部とは居やすい。こういうバカをするのも楽しいし。

 食堂に着く前、少しスパイシーな臭いが鼻をつく。これはもしかして

 「カレー?」

 「カレーっぽいわね」

 うん、やっぱり。カレーだ。個人的には中辛派。

 「カレーは……甘口でなければいいかな」

 「玉柏くん甘口嫌いなんだ」

 「甘いものは嫌いだ。金平糖とかそのまま食べられる人の気が知れないな」

 砂糖しか使ってないのにそこまでか。というかカレーの甘口もって。

 「辛くないカレーのどこがカレーなんだ!? サドンデスかけて食べたくならないのか!!?」

 「そういうカレーなんだよ!! っていうかデスソースかけられるのすごいね!!?」

 「サドンデスかけたい気持ちわかるか」

 「いやぁさすがにわからないかなぁ。あたい一応辛口派だけど」

 「僕もさすがにそこまでは……」

 ええーって玉柏言うけど、そのデスソースでよくひいひい言わないな……

 「ま、ここにそれないのがなぁ。またそのまま飲みたいものだな」

 そのまま飲める代物じゃないよね!?

 

 

 ***

 

 

 いろいろとツッコミどころ満載だったけど、まあとりあえず食堂へ。近衛がまだ厨房にいるみたいだった。渡良部がその手伝いに行って、他はスプーンとかを用意する。

 しばらくすると近衛がカレーとご飯両方鍋ごと持ってきた。って片手!? しかも鍋しっかり水平!?

 「え、近衛くん重くないの?」

 「まあまあでございますが?」

 まあまあって言ってのけるの!? 鍋敷きの上に置かれた鍋2つを一つずつ両手で持ったけど、どっちも重かった。これ片手で水平って相当じゃ……

 「ああでも出来なくはなさそうだね~」

 矢崎も何言ってるの!?

 「これでも力仕事はできるからね」

 あ、酪農ってそういうのあるからか。すごいな……

 いつも通りおいしい。近衛曰くよく箱に書いてるカレーの辛さで言うと3らしい。

 「ふむ。あまり食べないから久しぶりな味じゃな」

 「あらそうなの?」

 「シチューとかハヤシライスとか……あまりそういうものを食べた記憶がない」

 なんか意外。

 「運動部系だから結構がっつくのかと」

 「食べるほうではあるんじゃが、如何せん食べるペースの問題があってな」

 そういえばよく噛んでるって言ってたから遅いほうなのか。

 「って灰垣(ロン)こぼしてる」

 「はい? ……げ、袈裟にかかってしまったんじゃな……これはあとでランドリーに行かねばならんな……」

 灰垣は近くのタオルで軽く落として残りはあとでにした。あ、そういえば

 「そうそう、昨日近衛くんに頼まれたやつだいたいの翻訳が出来たよ」

 「左様でございますか!?」

 「翻訳?」

 みんなに軽く説明しつつ、日記の内容に触れる。

 「『F.T.』の日記……?」

 「そう。ここに来るまでの過程……みたいにも取れるけど……所々読めなかったんだよね。多分人とかなんだろうけど」

 

 

 カーン……

 

 

 その音は確かにした。スプーンが手から落ちる音。金室の手からするりと落ちたそれに……ではなく、金室に目がいった。その目は、完全に動揺していた。

 「か、金室さん?」

 「………………まさか、本当に……本当に、うちの…………うちのせいで……みんな、ここ……に……?」

 「え」

 「うちが………………うちが見たから……」

 「おいかなむ」

 「ごめんなさい!!!!」

 バーン!! っとテーブルが音を立て揺れる。

 「ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!!!!!」

 何がなんなのかさっぱりで、呆然としてしまった。金室はただただ謝り、流れかそのまま膝から崩れ落ちていった。

 「何を謝る必要が……」

 「…………そういうことでございましたか……」

 近衛何かを察した風に言う。

 「何かあったのか」

 「……秘密の封筒を、覚えていらっしゃいますでしょうか。金室殿のやつを受け取ったのはわたくしでございます……」

 あの封筒……まだ私たちを……

 「あれに書かれていた内容はこちらでございます」

 近衛が渡良部に渡す。渡良部は見るよと一言告げながらその中身を取り出す。私は覗き込む形でそれを見た。

 

 

 

 『金室が見たお菓子のおまけにある占いはほぼ的中する』

 

 

 

 占いが的中する……? お菓子のおまけってことは飴とかクッキーとかの……?

 「まさかとは存じましたが……」

 「……つまり金室ちゃんは、フォーチュンクッキーを見たことで不幸が現実になったってことなのかい?」

 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、うちがあんなの見たからこんなことに……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 「謝るのはやめろ……多分、お前の推理通りだろ。それと今のでもう1つわかったことがあるぜ」

 「それは?」

 「前回の裁判で言ってたけど、こいつが倉庫に行かなかったってことだ。地雷があるかもしれない、だなんて食料しか入ってない倉庫に対して言えることか?」

 そういえば……いくつかある倉庫のなかでそこに行ったことがないっていうのはなかなか不思議な話だとは思ってたけど……そう考えると納得がいく。確かに何が置いてあるかわからないけど、仮にあったとしたら怖くなる。しかも彼女はそれを自覚してる。なおさらだ。

 「となると日記にある反対したあの子っていうのも金室だろうぜ。良からぬ占い結果を見たせいで…………ったく、ますます『F.T.』の謎も深まる……」

 支えていた人がいたらしいけど、それもわからないんだよな……

 「謎はそれだけじゃないでしょ。このてぃーでぃーなんちゃらってやつ……作り物みたいだけど、計算嫌いが作ったってどういうこと?」

 「まるで機械みたいなコードでもあるな。サポートってことは手伝いロボットか何かか?」

 日記だけでこんなたっぷりな謎なんてお腹いっぱいなんだけど……

 「ん、落ち着いたか」

 「すみ、ませんでし、た……あのっ」

 「言わなくてもいいわよ。金室さんにそういう類いのものを見せないことぐらいみんなで出来るわ。ね?」

 「あっ、ありがとうございます……」

 毒舌家の彼女だけど……些細なところで弱いところもある。私も、そう。まだ、これからも呪縛から逃れられそうにないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「オマエラァアアアアアアアア!!!!」

 

 

 はいっ!!? 突然の叫び声にひっくり返った。

 「え、も、モノヤギ?」

 「何のようだ」

 「しらばっくれるなであーる!! 特に灰垣ィ!!!!」

 「ん? わしか?」

 キョトンとして灰垣はなんのこっちゃというご様子。そんな彼にモノヤギはコツコツ音を立てながら迫る。

 「なーに電子生徒手帳壊してるであーるかァアアアアアアアア!!?!!?」

 「電子生徒手帳を壊した?」

 あ、まさかサウナの……

 「ああああああれかあ……やはり壊れてたのか……」

 「壊すなァ!! あれはァどんな爆撃にも衝撃にも水にも強いであーるがァ……熱だけはダメなのであーる!! 熱!! 重要なことであーる!!」

 最初から言いなさいや。

 「……で、どうすればいいんじゃ。別に校則違反ではあるまいて」

 「はあァ……今回は特別に新しい電子生徒手帳を用意したであーる。ただしィ!! 次壊しても知らないであーるからなァ!!!!」

 とイライラしながら新しい電子生徒手帳を渡してモノヤギは出ていった。まあ……それは怒るよね……

 「……解決したか」

 「みたいじゃな」

 ……………………

 「今日はもう、戻るか」

 

 満 場 一 致

 

 *****

 

 

 Ⅰ棟の部屋に戻ってごろんとベッドに寝転がる。ああこのまま寝ちゃいそう。最近頭を使うところが多すぎる。おちおちゆっくりしてられない。

 また倒れる予感がしてる。そんなことになりたくないな。と、目を閉じた。そのまま眠ってしまってもいいかなと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピンポンパンポーン…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し目を閉じていたら、アナウンスが鳴り響いた。時間的にも夜時間じゃないはずなんだけど。すると

 

 

 『嗚呼ァ今回はァ少しお知らせがあるからァ、アナウンスを通じて発表したいと思うのであーる!!』

 

 

 なんの知らせなんだ? 

 

 

 『これはァ、オマエラにィ残念なお知らせなのであーる。よく聞くであーる。ヒィッヒッヒッヒィ……』

 

 

 不気味に笑う声に震える。何なんだ一体。残念な知らせが残念でなかった試しはない。息を飲んでよく聞いてみる。

 

 

 『オマエラの中にィ、ずゥっと前からオマエラを騙し続けてきたァ内通者ァ及び!! 【裏切り者】がいるのであーる!!』

 

 

 裏切り者、私はすぐさまベッドから飛び起きた。金室の予想は当たっていたんだ。

 

 

 『そんなわけでェ早速公表しちゃうのであーる!! 裏切り者の正体はァ…………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      『近衛陣であーる!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 近衛が? 裏切り者?

 「な、何? 何の冗談?? どういうこと!?」

 

 

 『もし嘘だと疑うならァ本人に聞けば分かるであーるからなァ。あとはオマエラで煮るなり焼くなりなんとかかんとかするであーる!! ではではおさらばサンバッ!!』

 

 

 ブツン……

 

 

 無慈悲に途切れるアナウンスが遠く聞こえるくらい、私は勢いよく扉を開け部屋から飛び出していた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 近衛の居場所はどこだ。上の階にいるのか。近衛の部屋の前で戸を叩く。何度も何度も叩く。けれど開く気配はしなかった。ここじゃないの?

 

 

 プルルルル!!!!

 

 

 不意に鳴る生徒手帳。それを取り出し耳に当てながら階段を駆け降りる。

 「だれ!?」

 『わしじゃ!! 今どこにおる!?』

 「今Ⅰ棟!! ここにはいないみたいだった!!」

 『わかった。さっきⅢ棟は隅々まで探したが誰もおらん!!』

 Ⅲ棟には誰もいない。あとⅡ棟とⅣ棟か。

 「私一旦外出るからね!!」

 『了解』

 

 通話を切って外に出ると幾人かそこにいた。近衛の姿はなかった。

 「近衛くんは!?」

 「居なかったよ。Ⅱ棟はすぐにわかるし、あたいはⅢ棟にいたんだけど、そこを探しても居なかった」

 灰垣も言ってたしそこは間違いないのか。

 「Ⅳ棟もいなかったぜ。女子のほうも金室が探してくれた」

 「え、Ⅰ棟にもいなかったよ」

 ドタドタ走る音が聞こえてきた。灰垣がこちらに来ていた。

 「Ⅱ棟のほう、あの部屋も風呂も探したがおらんかった」

 「……じゃあ一体どこに?」

 

 

 

 

 

 

 …………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 沈黙と静寂が訪れる

 

 

 

 どこだ

 

 

 

 どこにいるんだ?

 

 

 

 焦り

 

 

 

 不安

 

 

 

 心臓が激しくいっている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そういえば……渡良部ちゃんは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たったその一言で全員辺りを見渡す。確かにいない。渡良部が。あと玉柏も……と思ったら木の上にいた。あの姿(・・・)で。

 「玉柏くん!!」

 「………………」

 

 シュッ、何かが私たちに飛んできた。条件反射でそれを受け止める。紙? いや手紙か。投げたと思ったら玉柏は木の上を軽やかに飛んでⅠ棟へ入っていった。そんなことよりと、私は手紙の中身を読んだ。走り書きをしたようでちょっと字が汚い。

 「これは……」

 「【近衛がⅠ棟から出てない。居留守の可能性がある】…………行こう」

 私は走ってもう一度彼のいたところに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ねえ!! ねえってばぁぁあ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上の階から叫び声が聞こえてきた。間違いなく渡良部のだ。まさか本当に居留守? 全員で階段をドタドタと駆け上がる。そこには強く何度も何度もドアをノックする渡良部と玉柏の姿があった。

 「玉柏くん!!」

 『よっ』

 「……何で……さっきも私結構叩いたはずなんだけど……」

 『入れ違いしたんだろな。あとお前灰垣と通話しながら降りたんだろ? そのときに聞こえてたらしい。渡良部は外にいたからな』

 今もなお訴える声に胸が苦しくなる。涙声が混じって余計に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キィィイ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくしたとき。近衛の部屋の扉がゆっくりと開いた。近衛の顔がちらりと見えた。瞬間、渡良部がドアを強引に開いて近衛の胸にしがみついた。

 「っ!!」

 「ねえ……本当なの……? 裏切り者……近衛(このえ)なの…………?」

 廊下一帯が静かになる。言いようもないような空気がもどかしい。

 「………………」

 「っ答えてよぉっ!!!!」

 激しく叫ぶ甲高い声で耳がつんざく。近衛の胸を弱々しく叩いては叫び続ける。彼は難しそうな顔をしてそれを受け止めたまま。

 「っどうなの!? ねえ近衛(このえ)!! 答えてよ!! ねえってば!!」

 渡良部は必死になって問う。自分が好きな人が今裏切り者としてモノヤギによって告発されたのだから。何も知らない渡良部は自分の一番身近な仲間をこれ以上失いたくないんだ。

 「近衛(このえ)!!」

 「…………全て事実でございます。わたくしは内通者……もといモノヤギの『裏切り者』でございます」

 「っ!!」

 近衛の口からもあの衝撃の事実。モノヤギの言う通り彼は裏切り者だった。

 なんて酷く滑稽なのか。さっきまで仲睦まじく遊んでいた人が、それよりも前から私たちみんなに尽くしていた人が。裏切り者だったなんて。今でも信じられない。彼は渡良部の手をはらって続ける。

 「……いずれわかるとは存じておりました。しかし、わたくしは訳あってそれを皆様に申し上げることができなかったのでございます」

 「脅されでもしたのか」

 近衛は息を飲んだように見えた。私たちから目を反らして戸を閉めようとした。

 「おいお前!!」

 「()が好きでやってるわけないだろ!!」

 叫ぶ怒鳴り声。こちらを睨む近衛の目が鋭かった。

 「……好きでやるわけないだろ……やりたくなくても、やらなきゃならなかったんだよ!! 仕方がないでしょうが!! 僕に課せられてしまったことなんだ……けど、これが執事の務めなのであれば……別になんてこと……むしろ、他の人に当たらなくてよかったよ……」

 「だからって」

 「じゃあぁぁああなたがたはっ!! 僕と同じ立場にさらされてたらどうなってた!? 僕みたいに、告発されていたらどうなっていた!? こっちは孤独になるかもしれないってずっと怯えてたんだよ!!」

 ドンッと壁によりかかる音が露骨に聞こえる。同時に何か重みのあるジャラジャラとした物の音が聞こえてきた。

 「僕にまとわりついた鎖も見えてないくせして……こっちはっ!! 裏でみんなのことを話すのがしんどくてしんどくてたまらないんだよ!! 他の人がそんな様子だったら僕はもっとたえられなかっただろうね!!? っだから!!」

 そういって近衛は拳を突き出した。何か、受け取れと言う風な素振りを見せて、渡良部がそれに応えるように手のひらを添える。拳が開き何かを渡せば腕は引っ込んだ。手のひらに置かれたもの、それは近衛が常に着けていた片眼鏡(モノクル)だった。

 「今はもう、僕に、近づくな……」

 そういって、彼はドアはバタンっと閉めた。廊下はまた一気に静かになって渡良部はそのまま膝から崩れ落ちる。

 「そん……な………………」

 なんともいえない空気が漂う。

 「……孤独になろうとしたのは……自身ではないんですか……近衛くん」

 金室の毒でさえも弱かった。信頼していた人の株が暴落していく様は見ていてひどくカッコ悪かった。

 「まずいことになったんじゃないかこれは」

 「え?」

 「最悪の場合、近衛が『刺客の七』である可能性があるってことだ」

 「じゃがあの反応されたら……もう確定では」

 「そんなわけないっ!!」

 一瞬で廊下が静かになった。渡良部の嗚咽だけが取り残されて。

 「近衛(リーチ)が……近衛(このえ)が刺客なわけない!! そうじゃなかったら!! あんなっ……あんな辛そうな顔するわけがない!! ったとえ……それが本心じゃなかったとしてもっ……このえはっ、近衛(このえ)は『刺客の七』なんかじゃないッッ!!」

 いつも一緒にいたから、好きだから、信じているからこそ、渡良部は……

 「……今日はどうする。もう夜時間になりそうだがこのままじゃ……」

 『どうもこうも、追うのはよせな。今の近衛に何を言っても無駄。あいつにも頭を冷やす時間を与えなきゃならない。俺たちも少し、舞い上がりすぎた。冷静にならないといけない』

 一度整理しろ、そう言われた気がした。

 それと同時にここに来て間もない頃に鷹山が言っていたことも思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ________

 

 

 

 『いつも生きていた当たり前の生活が当たり前じゃなくなるのって実はかなり恐ろしいんだ』

 

 

 

 ________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今になってこんな形として突き刺さるセリフをぐるぐると反復していく。そう簡単に受け入れろなんてことも、順応しろなんてことも出来やしない。どうしても時間がなくてはならなかった。居心地の悪い空気の中、私たちは解散した。

 

 

 *****

 

 

 衝撃的な告白と近衛の本心をみせられて混乱している中で、渡良部を自分の部屋に招いた。渡良部は相当ショックを受けているのは……一目瞭然。

 「………………どうしよう……気づけたはずなのに……身近に居たからこそ……気づけた……はずなのにっ……」

 ズズッと鼻をすすりながら渡良部は嗚咽をもらす。私はどう声をかけるべきかわからなかった。

 「ねぇぇ……どうしようぉ……」

 ツラそうにしてるのを見ている……けど……そんな顔されるとこっちもやるせない気持ちになる。

 「どうしようって……っ……」

 どうすればいいのか、どうすればいいのか。考えようとするたびにその答えは余計に見つからない。

 「…………ねえ直樹(なおき)、あんたには見えた? あのとき……近衛(このえ)が泣いてたの……」

 「っ!?」

 全くわからなかった。気づかなかった。

 「苦しんでるの……近衛(このえ)はずっと苦しんでるの……!! でもそんな彼に、何かしてあげられないかなって……考えてもわからなくてっ……嫌だ……いやだ……いろんなところで殺人が起こってるの……もう、いつ私が殺されるかもわからないのに………………怖くて怖くて仕方がないよ……」

 「!!!? わ、渡良部さんっ、それって」

 「もうっ、いやだよっ……たった今死んだ人もいるのに!!」

 まさか渡良部は……コロシアイの人数把握を……? いやでもここで死んでる人は七人……それ以上の人が死んでるってこと?

 「壊れそう……自分が、壊れそうだよ………………」

 「っ……」

 弱々しい嗚咽がずっと止まらない。仕方がないんだ。私は思わず渡良部の手を取って握りしめてみた。少しでも、少しだけでもいいから、彼女の不安が取り除けたら……そんな淡い祈りをしながら。 

 「ごめん……手握ったままでいて……」

 「……わかった」

 不安なんだって。わかってる。けどそのわかってるが『つもり』になってるような自分がとても嫌になってきた。でもそんな私を見透かすように渡良部が肩に頭を置いてきた。

 直感で私は触ってはいけないと感じた。彼女が求めているのは私ではなく近衛()なのだから。

 非日常が日常だった渡良部が、なおも非日常に揉まれる状況で、彼の救いをどれだけ求めているのか。私はあれ以上のことを何も聞かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 __________________

 

 

 

 

      枝は垂れても嘘をつく

 

 

 

       芝に潜んだ臆病さ

 

 

 

       重さ8とて教育上よ

 

 

 

     山の綺麗に見とれるべからず

 

 

 

        冬の寒さは

 

 

 

      冷たく静かで笑ってる

 

 

 

        1人のソナタ

 

 

 

        彼岸を見届けん

 

 

 

       そうわたしは刺客だ

 

 

 

         刺客の七だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ………………………………

 

 

 

      ふふふふふ…………

 

 

 

      ははははは!!!!

 

 

 

       さあサイコロ

 

 

 

       何を『うつす』

 

 

 

        何を示す

 

 

 

        モノヤギも

 

 

 

    モノリュウも知らなかった!!

 

 

 

    わたしの本当のすべてを!!

 

 

 

     さあ暴いてみせろ!!

 

 

 

    この骰が再び投げられたとき!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    『刺客の七』が動き出す 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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         →to be continue……

 

 

 

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