たった一人で世界を救う話   作:KiRIN(きりん)

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第四話「江ノ島鎮守府」

 鎮守府、と言われて真っ先に思い浮かぶのは横須賀鎮守府だ。

 神奈川は日本の中央付近にあるし、ちょうどいい。

 もし横須賀鎮守府の建物が残ってたらそのまま使うことも出来る。

 これはかなりいい立地だ。

 

「というわけでやって来ました。江ノ島です!」

 

 選ばれたのは江ノ島でした。

 

 確かに横須賀はいい立地かもしれない。

 否、良すぎるのだ。

 海軍から目を付けられること請け合いである。

 

 いくら艦娘が強いと言っても、ミサイルが当たれば死ぬ。

 流石に自国にミサイルを撃ち込むことはないと思うが、まあ念のためだ。

 それに艦娘はともかく、ミサイルじゃなくても、毒ガスでも撒かれたら俺は死ぬ。見つからないに越したことはない。

 

 そこへ来て江ノ島は、長年人の手が入ってないせいで木が生い茂ってて隠れやすい。

 灯台もあるし、使われてない民家もある。

 抜錨に関しても、艦娘達が普通の船と同じサイズだったら問題大有りだが、幸い彼女達は人型サイズだ。普通の鎮守府にあるような、大規模なドックを作ってやる必要はない。

 そしてこの島に入るには、橋を渡ってくるしかない。見張りがやり易いし、最悪橋を落とせば侵攻を防げる。

 結構理想的な立地なのではないか、と俺は思う。

 

 

 衣・食・住。

 人に必要な三要素だ。

 服については妖精さんが出してくれるので問題ない。

 残るは食、住。

 特に食べ物の不足は重大な問題だ。

 しかし解決するのは中々難しい。

 一応街を出るとき色々買い込んで来たが、一週間持つかどうかというくらいしない。畑を作って、安定的に食料を調達出来るようにする必要がある。

 そこで先ずは住む所を決めて、しっかり腰を据えて取り掛かろう、ということになった。

 

「し、失礼しまーす」

 

 もう誰も住んでない。

 とはいえやっぱり、人の家に入るのは少し緊張する。

 そろそろと家の中に入ると、案の定中は酷い物だった。

 

 自分達で家を建てることも考えたが、やはり民家が使えるならそれに越したことはない。

 とりあえず、近くの民家をそれぞれ探索することにした。

 もちろん、床や天井なんかは補強しないといけないだろうが。

 使えないことはないだろう。

 と。思ってたんだけど……

 

「思ってたより酷いな」

 

 床や壁、天井が朽ちていたのはまあ、予想通りと言ったら予想通りだ。

 しかし天井や壁から雨が染み出し、苔類の類が繁殖、胞子を撒き散らしていたのは予想外だった。

 野生動物の住処にもなっているらしく、糞尿が汚いし、臭いも酷い。

 民家を再利用するのは、諦めた方がいいかもしれないな。

 

「はい、集合ー!」

 

 他の民家に入っていた吹雪と加賀を呼び戻した。

 二人の話によると、やはり他の民家も似たり寄ったりらしい。

 この辺は木造の建築が多く、どこも老朽化が激しい。

 集合トイレや灯台下の受付所なんか鉄で出来ててまだマシだったが、錆び付いてるし、何日も住むのは勘弁したい。

 

「私達で建設する必要がありそうね」

 

 加賀の言うことに、俺と吹雪は頷いた。

 そうは言っても、家を建てる、か。

 日曜大工くらいなら経験があるが、家を建てるとなるとレベルが違う。

 道具なんかは妖精さんが用意してくれるだろうけど、やっぱり難しいんじゃないか。

 

「そんなに難しく考える必要はないんじゃないかしら」

「……というと?」

「とりあえず、丸太小屋を作りましょう。家具は……そうね、ベッドだけでいいんじゃないかしら。そこを拠点として、後々に発展させましょう」

 

 なるほど。

 家を建てる、というとつい現代的な家を想像してしまうが、ログハウスのような、とりあえず雨風が凌げる物でいいわけか。

 何か必要になったら、随時新しく作っていけばいい。

 それならまあ、なんとかなりそうだ。

 さっきも言った通り材料や道具は妖精さんが出してくれるし、吹雪と加賀が居ればマンパワーには困らない。

 

「先ずは整地する必要がありそうだな」

「そうね」

 

 この島は、どこもかしこも植物だらけだ。

 マイナスイオン出まくりである。

 療養とかには良さそうだが、建築には向かない。

 先ずは地面をならす必要がある。

 

「妖精さん、作業着を三つ。それと草刈り用の鎌を出して」

「がってんさー」

 

 何事も形から入るのが大事だ。

 それに真面目な話、洗濯機がない。

 妖精さんに服を出してもらえるとはいえ、この後どれくらい体力を消耗するか分からない以上、温存しておいた方がいいだろう。

 

「それじゃあ着替えましょうか」

「おおい! ここで脱ぐなよ!」

 

 躊躇なく、目の前で加賀が服を脱いだ。

 なんなの、この人。痴女なの?

 

「分かりました。次からは気をつけます」

「今から気をつけろ、今から!」

 

 どうして、と。

 加賀は小首を傾げた。

 

 どうしてじゃない。

 俺はいい。

 むしろご褒美だ。

 しかし将来、これでは加賀が困ってしまう。

 落ち着いて来たら、いつか常識とか貞操概念とか教えよう。

 

 仕方がないから、今日は俺が茂みで着替えよう。

 そう思い、森の中に入った。

 加賀達から見えないくらいまで入ったところで、

 服を脱ごうとすると、後ろに吹雪が立っていた。

 

「お伴します、司令官!」

「おお、悪いな……っていやいやいや。お伴しなくていいから」

 

 何故かやる気に満ちた吹雪をなだめて、追い返した。

 普通逆ではないだろうか。

 艦娘って普段は気のいい奴らなんだけど、どっかおかしい。

 

 

 作業着に着替えて、二人に合流した。

 吹雪はやたら作業着が似合うな。

 中学生のボランティアみたいだ。

 逆に加賀はあんまり似合ってない。

 キャリア組の人がたまたま視察に来ました、って感じがする。

 

「よし。それじゃあ草刈りを始めます」

「はい、司令官!」

「もう俺は司令官じゃない。今から俺のことは『親方』と呼べ!」

「は、はい! 親方!」

「元気が良くてよろしい!

 加賀、返事はどうしたぁ!」

「……はい、親方」

「元気は無いがよろしい!」

 

 吹雪は元気いっぱいに返事してくれたが、加賀は呆れてる風だ。

 でも俺はめげないぞ。

 こういうのは形から入るのが大事なんだ。

 

 中腰になって、ひたすら草を刈る。

 加賀の航空機や吹雪の砲撃で吹っ飛ばしてしまうことも考えたが、目立つし、地面そのものを吹っ飛ばしてしまう恐れがある。

 なのでアナログ式に、鎌で草刈りから始めることにした。

 

 家一つ分とは言っても、そんなに広い面積じゃない。

 だというのに、作業は中々進まなかった。

 

 艦娘は、俺とは比べ物にならない身体能力を持ってる。

 実際、邪魔な木は軽々引っこ抜いてくれるし、大きな石なんかも簡単に退かしてくれた。

 しかし草刈りみたいな細々した作業が抜群に速いかと言われると、そうでもない。

 力は強いし、腰の痛みとか疲れを感じない分俺よりは速いが、本当にわずかな差だ。

 今日一日かければ家分の草刈りは終わるかもしれないが、他にもやらなきゃいけないことは山のようにある。

 それこそ草刈りだけ取っても、島全体が草木に覆われてる以上、いつかは全部やらなきゃいけない。じゃないと畑だとか、後から来た艦娘の家なんかが建てられないからだ。

 このままだと、全部の作業が終わるのは10年後とかになってしまう。

 

 そこでちょっと考えてみた。

 艦娘のパワーを、そのまま利用出来る方法を。

 思いついたのは、巨大な剣だ。

 普通の剣とは、造形も違う。

 両側に柄がついているのだ。

 イタリアンで使う、メッザルーナに近い。

 両端を吹雪と加賀に持ってもらって、一気に全部切ってもらおうという算段だ。

 

「妖精さん、こんなの作れる?」

「へえ。ほう。これはふた妖精は必要だなー」

 

 地面に書いた設計図を妖精さんに見せると、妖精さんが二人いると言われた。

 作り自体は単純だが、鉄で出来ているからだろう。

 妖精さん二人で作ってもらうのは疲れるが、仕方ない。

 これからも役に立つだろうし。

 

「じゃあ、お願い」

「はいはいさー」

 

 身体から体力がごっそり抜ける感触があった後、刃渡りが10m程もある巨大な剣が出て来た。

 切れ味も良さそうだ。

 流石は妖精さんである。

 

「おーい、二人とも! ちょっと集合!」

「はい、親方!」

「かしこまりました」

 

 出来たものを、早速二人に見せてみた。

 吹雪は目をキラキラさせているが、加賀はちょっと怪訝な顔をしている。

 ややあってから、加賀はなにかを閃いたようだ。

 

「海軍の人間を処刑するようですか?」

 

 発想が物騒過ぎる。

 

「いや、違くて。二人に両端を持ってもらって、走り抜けてもらえば一気に草が刈れるんじゃないかと思ってさ」

「なるほど。流石です、親方!」

「そうだろう!」

 

 吹雪が手を叩いて褒めてくれた。

 すごく嬉しいが、吹雪は俺のすることならなんでも褒めてしまう。

 何か変なところはないか確認したい。

 そう思って、加賀の方を見た。

 

「感心しました。流石私の親方です」

「お、おう」

 

 やべえ。

 なんか思ったより嬉しい。

 顔がニヤつく。

 ちょっと褒められただけなのに。

 童貞か、俺は。

 童貞だったな。

 

「それじゃあ早速、やってみるか!」

 

 吹雪と加賀は、元気よく返事してくれた。

 

 

 念のため大きい石と木を退けてもらった後、吹雪と加賀に剣を持ってもらった。

 端から端まで、二人が一瞬で駆け抜ける。

 草は、全て根元の方から刈り取られていた。

 成功だ。

 

「それじゃあ吹雪、頼む」

「はい。いきますよぉー!」

 

 仕上げに、吹雪の空砲で残骸を吹き飛ばしてもらった。

 根っこなんかはまだ残っているが、上に家を建てるだけなら問題ない。

 

 そこからの作業は速かった。

 妖精さんに丸太を出してもらって、二人がログハウスを組み立てる。

 後でわかったことだが、丸太を作るのは意外と大変らしい。育てる行程を無しにしても、皮を剥いだり、乾かしたり、磨いたり……二年はかかるそうだ。それも職人の人が手がけて、の話。素人が一からやろうとしたら、一体どのくらいかかるんだろうか。

 それを一瞬で作れる妖精さんの便利ぶりよ。

 ボルトを打ち込むのも、二人の力なら一瞬だ。

 何かミスしても、妖精さんの物を消す力でやり直しが効く。

 家はあっという間に形になっていった。

 

「やりました」

「ああ。完成したな!」

 

 床に柱を立てて、天井で蓋をしただけ。

 家というより箱に近い造形だが、

 それでも俺たちで作り上げた家だ。

 

「ドア脇に、何か掘りましょうよ! 記念です」

「吹雪」

「はい?」

「お前いいこと言った」

「ありがとうございます!」

 

 しかし、何と掘ろうか。

 俺たちの家だから『遠野家』はどうだろうか。

 ……これはないな。

 住んでる内、三分の一しか遠野じゃないんだし。

 じゃあ俺がリーダーということで『遠野一味』はどうだろうか。

 いや、どこの盗賊団だよ。

 そうだな、ここはひとつ、大先輩である横須賀鎮守府を見習うとしよう。

 

「『江ノ島鎮守府』と掘るのはどうだろう?」

 

 吹雪はもちろん大賛成。

 加賀も悪い気はしていないようだ。

 俺は早速、妖精さんにノミを出してもらって掘った。

 

 これがなかなか難しくて、三回もやり直したのは内緒だ。

 

 

   ◇

 

 

 江ノ島鎮守府が発足して三日が経った。

 

 周りの設備は充実し始めてる。

 鎮守府()の前には、巨大なテントを張った。

 火を使った際、目立たないようにだ。

 もちろん、天井はない。

 

 最初に目につくのは、二つの暖炉だろう。

 妖精さんが作ってくれたレンガを、泥で固めて作った。

 

 一つは小ぶりで、

 街で買ったインスタント食品の調理に使ったりしている。

 

 二つ目はかなり大きく、上に斜めった屋根が付いている。

 これは海水を煮て、水を作るためのものだ。

 水蒸気が天井に張り付き、水滴になって天井を滑り、バケツへと溢れる仕組みになっている。

 1日に取れる水の量をそれほど多くはないが、何とか生きていける程度にはなった。

 また副次的に、塩も手に入るようになった。

 もっとも味はあまり良くない。

 海水が濁ってるせいだろうか……

 

 とにかく、真水が確保出来た。

 おかげで、風呂もできた。

 といってもドラム缶風呂だし、水は無駄に出来ないから、あまり使わないが。

 家具の方も、最初はベッドだけという話だったが、作業着をしまうタンスが必要になり、

 それを皮切りに色々なものを置いた。

 少しずつ、進歩してきている。

 

 だが現在、俺たちは行き詰まっていた。

 言わずもがな、食料についてである。

 艦娘は飲まず食わずでもいきていけるらしいが、お腹が減ると性能が大きく落ちてしまうらしい。

 艦娘の力は、生命線だ。

 失いたくない。

 心情的にも、恩人である二人には、お腹いっぱい食べてほしいものだ。

 

 とはいえ、安定して食べ物を作るのは、やはり難しかった。

 一応地面を耕して、畑らしき物を作ってみたものの、あまり上手くいっていない。

 

 当たり前だが、俺たちには知識がない。

 地面を耕して、種を植える。知っているのはこのくらいだ。

 嵐が来た時どうすればいいだとか、間引きについてとか、詳しいところはてんでダメだ。

 それにそもそも、種を植えたからといって今日明日芽吹くわけじゃない。

 今、土の中でどんな風になっているかまったく分からないのだ。

 収穫する時期はもっと遅い。

 安定した食事が出来るようになるまで、どれくらいかかることか。

 

「というわけで、路線変更しようと思う」

 

 夜、俺は二人にそう持ちかけた。

 同じように限界を感じていたのだろう、二人はうなずいた。

 

「私は海から攻めるのがいいと思うわ。貝や海藻は簡単に採れると思うの。魚も、少し工夫すれば安定して捕まえられるのではないかしら」

「海、か」

「……そう。やっぱりまだ、忌避感があるのね」

「まあ少しは」

 

 俺とて、少し前までは教育を受けていた身だ。

 海が恐ろしい場所だということは、散々聞いてる。

 だが同時に、深海棲艦が現れる前までは、あらゆる生物の故郷なんて言われていて、沢山の恵みをもたらしてくれていたことも知っている。

 

「吹雪はどう思う?」

「私は、えっと、司令官が嫌ならいいと思います」

「まあ、どうしても嫌ってほどじゃないんだけどな」

 

 必要なら仕方ない。

 そのくらいには割り切ってる。

 やはり、関わらないには越したことないが。

 

「なんか代案はあるか?」

「街に出て食料を盗めばいいのではないでしょうか」

 

 盗む、か。

 その発想はなかったな。

 優しい吹雪らしからぬ発想だと思ったが、悪くない。

 だけど。

 

「却下だ」

 

 万が一にも俺たちの居場所は知られたくない。

 それに、俺はいつか艦娘の悪評を消したいと思ってる。

 海軍との仲は悪くなってしまったが、幸い、民間人には存在が知られてない。深海棲艦に対抗する正義の味方、としてデビューするだってあるかもしれない。

 その時誰かが「あいつ、コソ泥だぜ」なんて言ったらアウトだ。

 

「他には?」

「動物さんを捕まえるのはどうでしょう?

 この前お散歩してて気がついたんですけど、この島にはいっぱいいるみたいですよ!」

 

 なるほど。

 ここには天敵である人間がいないし、野生動物の住処になっててもおかしくはない。

 実際、俺も何度か見たことある。

 橋を封鎖してしまえば逃げれないだろうし、罠を仕掛けなくても二人の身体能力なら捕まえるのは簡単だ。

 問題は解体だな。

 やり方がさっぱりわからない。

 

「となると、やっぱり海か」

 

 貝も海藻も魚も、とりあえず煮れば食べられる……らしい。

 今のご時世海産物には中々お目にかかれないから、本で読んだ知識しかない。

 まあ知識があるだけましだ。

 畑も動物も、まったく知識がないんだから。

 

 俺たちは早速準備に取り掛かった。

 といっても、準備をするのは俺だけだ。

 二人は実働隊で、俺は後方支援。役目はきっちり果たさなければ。

 魚を捕獲するようの網を、妖精さんに作ってもらう。

 追い込み漁のやり方はよく分からないから、今回は設置型のやつを四つこしらえることにした。

 筒状にした大きな網、

 これに竹の節目のように、円形の網をくっつける。

 行くときは簡単だが、出ることは出来ない。

 そういう仕組みだ。

 これを潮の流れに沿って設置して来てもらう。

 

「それじゃあ、頼んだぜ」

「お任せ下さい!」

 

 網を背負った吹雪が、元気良く答えた。

 かわいい。

 犬にやるみたいに、わしゃわしゃしたくなる。

 

「……加賀」

「はい」

「気をつけてな」

「心配いらないわ。提督の方こそ、何かあったら直ぐに連絡をちょうだい。何があろうと駆けつけるわ」

 

 たしかに。

 俺の方が心配される側だな。二人がいない時に襲われたら、ひとたまりもない。

 実際俺を一人残して行くのに、二人はかなり反対した。

 しかし、俺は一人で残り、二人で海に行ってもらうことにした。

 

 理由は二つ。

 

 一つは、深海棲艦と遭遇した時、二人の方がいいだろうと思ったということ。

 駆逐艦である吹雪は前衛部隊で、正規空母である加賀は後衛部隊だ。

 お互いがいないと、力が出し切れない。

 

 二つ目は、これから先も、俺が一人になる場面が必ずあるだろうということ。

 俺の護衛の為に彼女達を張り付かせておくのは、時間の無駄だ。

 もちろん安全には欠けるが、二十四時間一緒にいるわけにはいかない。

 今回のことはその第一歩だ。

 

「いってらっしゃい!」

 

 俺の言葉に、加賀は敬礼、吹雪は両手を振って応えた。

 二人は海へと向かって行った。

 島の裏手は、崖のように切り立っている。

 そこから飛び込めば、そのまま海へと行ける。もちろん艦娘以外がやれば、ただの自殺だが。

 

 二人は崖から飛び込み、見事に着水した。

 事前に聞いていたが、本当に海の上を歩いている。

 

「凄いな」

 

 話を聞くのと実際に見るのとではまるで違う。

 海の上を歩くというのは、どんな感覚なんだろうか。

 想像もつかないが、きっと気持ちがいいんだろう。

 こうして海風を浴びているだけで、こんなに清々しいんだから……。

 吹雪と加賀はシルエットになり、豆粒になり、そして水平線の彼方に消えて行った。

 

 さて、俺は何をやろうか。

 二人がいないと出来ることはほとんどないが、何もやらないのは時間の無駄だ。

 

 俺に出来ること。

 というより妖精さんに出来ることは、物を作ることと、物を消すこと。

 二つとも制限はあるが、便利な能力だ。

 この能力を使って、今、何か出来ることは何か。

 

 ……。

 ………。

 …………。

 考えても分からない。

 

 思いついてれば、とっくにやってる。

 何かヒントはないかと、辺りを見渡して来た。

 相変わらずジャングルみたいだ。

 手を加えなくても、草木がモリモリ育ってる。

 畑の植物と、この植物達で何が違うのだろうか。

 こいつらが全部食えればな。

 美味しくなくても、せめてどれに毒があれば分かれば……。

 

 そこで、はたと思いついた。

 その辺の草を千切って、妖精さんに渡す。

 

「妖精さん。この植物から毒素と虫を抜き取って」

「おーけー」

 

 見た目には何も変化がないように見えるが、毒を抜いてくれたらしい。

 一口かじってみる。

 

「……オエ!」

 

 にげえ。

 そしてエグみが強い。

 

「妖精さん、苦味とエグみも取って」

「あいあいさー」

 

 もう一口。

 無味無臭で、味もないが、食べられる。

 

 そう。

 植物の毒素とかエグみとか、

 動物だったら血抜きや寄生虫も、

 妖精さんに抜き取ってもらえばいい。

 これならどんな物でも、安心して食べれる。

 味がほとんどなくなってしまうのが欠点か。

 その辺は調味料でどうにかするしかない。

 味はあまり良くないとはいえ、塩は無限にあるわけだし。

 とりあえず、食料は格段に確保しやすくなった。

 

 二人が帰ったら、この事を早速報告しよう。

 そう思っていると、無線機がなった。

 この無線機は、艦娘用のものだ。

 吹雪の無線の時もそうだったが、艦娘用の装備なら、複雑な物でも作れるらしい。

 

「提督、聞こえてますか?」

 

 加賀の声だ。

 

「ああ、聞こえてる。どうかしたか?」

 

 そう言いながらも、俺の中には一つの予感があった。

 悪い予感が。

 通信をして来たのが吹雪なら、あるいは海の感想だとか天気がいいだとか、そういった報告だと思ったかもしれない。

 だが、今回連絡して来たのは加賀だ。

 何か重大なことが起きたのだろう。

 そして海で起こる重大なことと言えば。

 

「深海棲艦と接敵しました」

 

 これしかない。

 

「指示をいただけるかしら」

 

 いつかこうなることは、予想していた。

 それが初日なのには少々驚いたが。

 しかし深海棲艦と遭遇した時の指示は、前から決めていた。

 

 ――撤退だ。

 

 吹雪達なら倒せるのかもしれないが、万が一怪我でもしたら、今の設備じゃ治療出来ない。

 

 撤退しろ。

 そう言おうとしたが、できなかった。

 何故か?

 俺の手に、無線機がなかったからだ。

 

 いつの間にか、横に人が立っていた。

 そいつの手には、無線機が握られていた。

 俺から奪った物だ。

 敵だ。

 生まれてこの方、殺気というものを感じたことはなかったが、これがそうなのだろう。

 こいつからは、明確な敵意を感じた。

 そして俺は、今、一人だ。

 

「……提督? どうしました?」

 

 加賀の声が、無線機から響いた。

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