たった一人で世界を救う話   作:KiRIN(きりん)

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第五話「最初の戦い」

 

 

 

 ――――敵だ。

 

 

 俺は、目の前にいる女を敵だと認識した。

 そいつは俺を、憎い仇を見るような目で見ていたから。

 そう思ったんだ。

 

「球磨型軽巡の四番艦、大井といいます」

 

 だが、違ったらしい。

 自らを艦娘だと名乗った。

 落ち着いて見てみれば、たしかに吹雪や加賀の様な何かを、この女の子からは感じる。

 俺が提督だと艦娘達が分かるように、

 彼女達が艦娘だと分かる。

 これも俺の中の提督レベルが上がったおかげだろうか。

 しかし彼女が艦娘だとすると、どうして大井は俺を敵視しているんだ。

 

「……どういうつもりですか?」

「な、何が?」

「先程送ろうとした指示です。撤退を告げようとしていませんでしたか?」

「してたよ。だって、深海棲艦と遭遇したんだ。

 吹雪達なら勝てるかもしれなけど、負けるかもしれない。万が一にも、二人を殺すわけにはいかない」

「ちっ。こんな何も分からない人が提督だなんて……」

 

 そう言われても。

 俺は確かに、何も分かってない。

 海上戦の勉強どころか、艦娘の存在さえつい最近知ったんだ。

 仕方がないことじゃないか。

 

 そんな言葉が出かけた。

 だけどそれを、口の中で飲み込んだ。

 

 こんなのは言い訳だ。

 俺が何も知らない素人だからって、相手がそれに合わせて手加減してくれるわけじゃない。

 一度の失敗が命取りになるかもしれないこの状況で、

 素人だから分からなくて当然、

 失敗してもいい、

 なんていうのは甘えだ。

 一つ一つの行動を、しっかり考えなくちゃいけないんだ。

 

 大井は何を言いたい。

 彼女は、俺の敵じゃない。

 もし本当に敵なら、とっくに殺してるはずだから。

 それなのにこうして、指示を遅らせて、待ってくれてる。

 何かあるはずだ。

 

 ここまでのことを整理してみよう。

 先ず、吹雪と加賀を海に送った。

 俺の護衛をしていたら作業が遅くなるから、二人とも送った。

 次に加賀から連絡が来て、深海棲艦と遭遇したことを知った。

 そして『撤退』の指示を出した。

 

 そう、そうだ。

 俺は何も考えず撤退の指示を出した。

 前から決めていたから、と何も考えずに。

 俺は命令したんだ。

 敵の規模や加賀の意見を聞こうともせず。

 そもそも撤退の命令を出したとして、撤退出来る状況にあるのか。

 その場の情報を何も知らないのに、俺は命令を出そうとしてしまった。

 

 考えよう。

 仮に撤退出来る状況だとして。

 それは本当に正解なんだろうか。

 作業が遅くなるからと、俺はリスクを承知で二人を送り出したんじゃないのか。

 それなのに深海棲艦に出会ったからと、二人を即座に下がらせていては意味がない。

 これから毎日だって深海棲艦に遭遇するかもしれないのに。

 それを考えれば、撤退なんて指示は絶対に出ない。出しちゃいけなかったんだ。

 

 いつかは立ち向かわなくちゃいけない。

 それが今日だった、という話だ。

 

「加賀、現状を教えてくれ」

「! ――そっちは大丈夫なの?」

「こっちは問題ない。少し無線機から離れただけだ」

「そう。問題ないならいいわ」

 

 安堵したため息が、無線から聞こえて来た。

 しかしそれも一瞬のことで、加賀は直ぐにいつもの調子に戻り、情報を教えてくれた。

 

「こっちもそう問題ないわ。駆逐艦イ級が二体だけよ」

「ごめん。駆逐艦イ級って何か教えてくれるか?」

「簡単に説明させてもらうわね。駆逐艦というのは――」

 

 軍船というのは、大まかに六種類に分類されるらしい。

 先ず一番弱いのが、駆逐艦。

 燃費はいいが、その分武装や火力に欠ける。

 駆逐艦をスケールアップした物が軽巡洋艦、

 軽巡洋艦を更にスケールアップした物が戦艦。

 詳しく説明するとまた違うらしいが、とにかく今はそういう認識でいいらしい。

 

 加賀は正規空母で、戦艦タイプとはまた別物らしい。

 戦艦達が正面に立って殴り合いをする一方、加賀達正規空母は遠くから艦載機を飛ばして、アウトレンジで戦う。

 遠距離での戦いなら戦艦達には先ず負けないが、逆に接近されたらほぼ勝ち目はない。

 また艦載機にも色々種類があって、ただ戦うだけじゃなく、索敵にも使える。

 軽空母は、単純に正規空母をスケールダウンさせた物だ。

 

 最後に潜水艦だが、これは特殊なので、今は覚えなくていい。

 そう言われた。

 

 今回の場合、相手は駆逐艦が二隻だけだ。

 艦載機は持てないから、当然索敵も出来ない。

 逆にこっちは、早い段階から相手を見つけられた。

 素人の俺でも分かる。

 こっちが極めて有利だ。

 加賀がアウトレンジから一斉攻撃、近付こうとして来たら吹雪が足止めすればいい。

 こんな状況で『撤退』なんて指示を出そうとしていたんだから、大井が怒るのも無理はないというものだ。

 

「加賀、今から指示を出す。何か間違ってるところ――いや、どんな些細なことでもいい。気になる点があったら指摘してくれ」

「……そう。いいけれど」

「今回、俺は戦おうと思う」

 

 敵は弱い。

 最初の戦いとしては、条件もいい。

 それに、江ノ島鎮守府は発展途上だ。

 もし敵の大群が報復に来たとしても、今なら放棄して逃げられる。

 発展しきってから攻めてこられたら、どうしようもない。

 深海棲艦を攻撃したら大群が押し寄せてくるなら、今の内に知っておきたい。

 

「先ず、加賀に先制攻撃をしてもらいたい。相手が生き残っていたら吹雪が応戦、戦線維持だ。その間に加賀が再装填、追撃をかけてもらいたい」

「今のところ、問題はないわ。けれど、吹雪さんが戦線を維持出来ずに轟沈した場合は、どうするの?」

 

 轟沈。

 人間で言うところの死だ。

 もちろん、吹雪を死なせる気はない。

 沈みかけたら、今度こそ躊躇なく撤退を指示する。

 だけど、状況によっては、撤退出来ないかもしれない。

 

 吹雪が轟沈する可能性。

 それも考えなくてはならない。

 俺は、指揮官だから。

 目を背けちゃいけない。

 

「その場合、加賀は鎮守府とは違う方向に進んで欲しい。敵を誘導しながら戦線を離脱してくれ。索敵は最低限して欲しいが、攻撃はしなくていい。その後、何処かで落ち合おう」

「そう。いい判断ね」

 

 いい判断、なのだろうか。

 よく分からない。

 

「少し進言させてもらっていいかしら」

「もちろんだ。是非聞かせてくれ」

「今は余裕があるのだから、艦載機を周回させて攻撃しましょう。上手くいけば、私達のいる方向を勘違いさせられるわ」

 

 いい案だ。

 俺が敵なら、艦載機が来た方向に敵がいると思って、そっちに向かう。

 完璧に上手くいかなかったとしても、少しでも迷ってくれれば、その分加賀の再装填時間が稼げる。

 そうすれば、吹雪が生き残る確率も上がるはずだ。

 

「それでいこう」

「そう。では、行ってきます」

「ああ、頼む」

 

 こんな時、なんて言えばいいんだろう。

 武運を祈る、とかか。

 でもそれだと、ありきたり過ぎて、言葉の重みがない気がする。

 それに俺は、祈っちゃいけないんだ。

 神頼みなんてしてる場合じゃない。

 考えて、考えて、たくさん考えて。二人のために考えなくちゃいけない。

 だから、そう。

 

「一緒にがんばろう」

「……心配いらないわ。鎧袖一触よ」

 

 その言葉を最後に、通信が切れた。

 後は、次の報告を待つしかない。

 

 

   ◇

 

 

「――ふう」

 

 どっと疲れが出た。

 頭がくらくらする。

 正直休みたい。

 

「休んでる暇はありませんよ」

「分かってる」

 

 大井の言う通りだ。

 今は休んでる暇なんかない。

 いや、流石に休もうなんて、元から思ってないけどね。

 

 しかし、大井の態度が少し軟化した気がする。

 さっきは激怒していたけど、今はそこまで怒ってない。

 俺のことを少しは認めてくれたんだろうか。

 

「先ずはありがとう、大井。おかげで変な指示をしなくて済んだ」

「別に。当たり前のことをしたまでです。私はともかく、北上さんが来た後でもそんな指示をされていたら困るので」

「北上さん……?」

「……はあ。北上さんのことも知らないんですか?」

「ごめん」

 

 知ってる軍艦なんて、大和と武蔵くらいしかない。

 しかも軍艦は全部戦艦だと思ってたくらいだ。

 この辺は反省すべきだな。

 今回のことだって、事前に吹雪と加賀の性能を聞いていれば、もっと良い作戦が出たかもしれない。

 戦場の状況だけじゃない。

 次からは事前の情報、準備ももっとちゃんとしよう。

 

「いいですか。北上さんというお方は――」

「待った。北上さんと、それから大井のことも聞きたい。だけど今は、別のことをしようと思うんだ」

「何をするんですか?」

「今の時間と、出会った深海棲艦の規模を書き記して置こうと思う」

「……そうですね。いい案だと思います」

 

 何故かちょっと不満気だけど、大井の同意も得られた。

 妖精にペンと紙を出してもらって、早速今日のことを書いていく。

 深海棲艦のことはまだまだ分かってないことが多い。

 しかし、生態系と言わずとも、こうして記録を重ねていけば、深海棲艦が多い時間帯や少ない時間帯くらいは分かるかもしれない。

 やっておいて損はないはずだ。

 

 もう逃げない。

 だけど、戦わないに越したことはない。

 

「後何か、書き足した方がいい物はあるかな?」

「そうですね。時間帯の他に、気候や温度を書いておいたらどうですか」

「なるほど」

 

 統計の結果、深海棲艦はお昼に出現するものだ、

 と思っていたら実は暖かくなると出現する性質で、夏だと早い時間帯に出てくる、なんてこともありうる。

 気候・温度・湿度、潮の状況。

 妖精さんに調べてもらって、出来るだけ細かく書いた。

 

「ありがとう、大井」

「……別に。当たり前のことです」

「いや、この世に当たり前のことなんてないよ」

 

 そう、当たり前のことなんてない。

 今までの常識や生活なんて、簡単に壊れてしまう。

 俺がそうだったように。

 食べ物一つ、恩一つ、全てに感謝するべきだ。

 

「とにかく。これからよろしく、大井。

 俺は遠野総一郎。君たちの提督だ」

 

 手を差し出した。

 握手だ。

 加賀の時と同じように、握手だ。

 大井はちょっと嫌そうな顔をした後、手を掴んでくれた。

 最初の時は慣れないと思ったが、今回は妙にしっくり来た。

 

「軽巡洋艦、大井です。

 一応提督の部下ですけど、甘ったれたことをしたら酸素魚雷を撃ち込みますから。

 それでもよければ、よろしくお願いいたします」

 

 もちろん、不満なんてない。

 むしろそうして欲しいくらいだ。

 まだまだ、学ぶべきことは多い。

 ……大井だけに。

 

 

   ◇

 

 

 あの後、直ぐに加賀からの報告が来た。

 

 結局、深海棲艦は最初の先制攻撃で沈んだそうだ。

 向こうはこっちの存在に気がついてさえいなかったから、無防備に攻撃を受けたらしい。

 

 その時になって、俺はようやく実感した。

 俺はまだ、心のどこかで深海棲艦を恐れていた。誰にも倒すことは出来ないんだと、無敵の存在なんだと、勝手に敵を大きくしていた。

 深海棲艦は絶対の存在じゃない。

 艦娘が攻撃すれば倒せるんだ。

 毎回激戦を繰り広げわけでもなく、

 条件さえ整えば、呆気なく倒せるんだ。

 やっとそのことを実感できた。

 

「お疲れ様。吹雪、加賀」

「ありがとうございます! 私は何もしてませんけど……えへへっ」

 

 恥ずかしそうに吹雪が笑った。

 そんな風に表現すると吹雪がおちゃらけてるように感じるかもしれないが、それは大きな間違いだ。

 吹雪は、本当に恥ずかしがっているのだ。

 何もできなかった己を、恥じている。

 

「吹雪」

「……はい」

「そんな風に思うな。

 加賀だって、いざとなれば前線で戦ってくれる吹雪がいたから、安心して攻撃出来てたんだ。

 実際、俺だって吹雪がいなかったら、撤退を命じてたと思う。

 撤退していたら、それだけ作業が遅れた。

 そもそも海に出ることだって、俺じゃ出来ないことなんだ。

 みんなのがんばりで、俺は生きてる。

 だから、何にもしてない、なんてことはないんだよ」

 

 誇張も、お世辞もない。

 ただ事実を並べた。

 それだけで吹雪がいかに役に立ってくれたか分かる。

 感謝しないわけがなかった。

 

「ありがとう、ございます。

 次からは、もっとがんばります!」

 

 ちょっと涙目になったけど、最後はしっかりと敬礼してくれた。

 吹雪は実直だ。

 素直に受け止められるのが、凄いと思う。

 

「加賀も、よくやってくれたな」

「私は命令に従っただけよ。今回の功績は、提督のものだわ」

「それこそ、そんなことはない。

 俺は最初、撤退を命令しようとしてたんだ。だけどある人の助言で、思い直すことが出来たんだよ」

「……ある人?」

「ああ。今から紹介するよ。――大井!」

 

 呼びかけに応じて、林の陰から大井が出て来た。

 帰って来た二人を純粋に労いたかったから、最初は隠れててもらった。

 大井がいると、そっちに話題が行っちゃうからな。

 

「軽巡洋艦の大井です、よろしくお願いします!」

 

 俺の時とはまるで違う、猫撫で声だった。

 こいつ、猫被ってやがる――!

 まあ、いいんだけどね。うん。

 女の子同士、難しいところもあるんだろう。

 

 お互い知識がある艦娘同士、

 相変わらず挨拶は簡単に済んだ。

 

 その後は、報告会だ。

 というより、主には俺の反省会である。

 最初は撤退を命令しようとしたことに始まり、

 大井が来てくれて優しく諭してくれたこと、

 その結果ああいう指示を下したこと、

 全部包み隠さず話した。

 

「また少し、成長したのね」

 

 全部聞いた後、加賀はそう言ってくれた。

 責めるのではなく、よくやったと、そう言ってくれた。

 一度失敗して、そこから学んで、結果を出せた。

 この嬉しさは、ちょっと言葉に出来ないくらいだ。

 でも、これで満足しちゃいけない。

 次は、今回以上にがんばろう。

 

「――こっちの報告は終わりだ。

 次は、吹雪達の話を聞きたい」

 

 妖精さんに海図を出してもらって、机の上に広げた。

 

「どの海路を通って、どの辺で深海棲艦を見つけたのか。教えて欲しい」

「はい!」

 

 吹雪達は、江ノ島鎮守府を出て、20ノットの速度で沖に向かったそうだ。

 ちなみにノットというのは、船の速度を表す単位で、毎時キロメートルの船版みたいなものらしい。

 1ノットは約1.8km/h。

 20ノットだと、約36km/hということになる。

 

「深海棲艦と発見したのはここです」

「……近いな」

「はい。場合によっては、ここまで来ることもあるかと」

 

 吹雪が指差したのは、江ノ島鎮守府から50km程しか離れていない位置だった。

 まあ、考えてみれば当たり前のことだ。

 吹雪達が漁に向かったポイントは、この鎮守府からそう離れてはない。

 加賀の偵察機だって、そう遠くまでは行けないはずだ。

 それなら、この距離は妥当な線だろう。

 

 深海棲艦は謎に包まれている。

 今回は駆逐艦しかいなかったが、次はどうか分からない。

 遠くない未来、大軍を率いて来るということもあるかもしれない。

 どうしてあそこにいたのかだって分からないんだ。

 周期的に同じルートを移動しているのか、

 それとも気ままに世界中の海を渡っているのか。

 何も分からない。

 慎重になりすぎる、ということはないだろう。

 

 いつかこの島で、深海棲艦と戦うことも覚悟した方がいいか。

 

 

   ◇

 

 

 報告会は終わった。

 ここからは、先のことについての話し合いだ。

 

 大井が来てくれた。

 やって欲しいことは山ほどある。

 だけど、先ずは情報収集だ。

 大井に出来ることと、出来ないこと。

 その辺りをよく聞いてから、仕事の割り振りをしなきゃいけない。

 

「私は、北上さんを探して日本中を旅していました」

 

 北上さん、というのは大井の姉妹艦らしい。

 姉妹艦というのは、造りが似ている船の総称だ。

 大井は球磨型軽巡洋艦の四番艦だから、球磨型姉妹の四女ということになる。

 北上さんは、球磨型姉妹の三女らしい。

 ……姉妹、か。

 それは早く見つけたいだろうな。

 

「その途中で、提督を近くに感じました。北上さんもいるかと思って、訪ねてみたんです」

「まあ、艦娘はみんな、俺の方を目指してるらしいからな。残念ながら今はいないけど、いつか会えるだろ」

 

 早く会わせてやりたいが、こっちからは何も出来ない。

 向こうから来てもらうのを待つしかないのが現状だ。

 

「はい。私もそう思ったので、ここにお邪魔させていただくことにしました」

 

 ……お邪魔させていただく?

 お前が邪魔、みたいな目で見てたけどな。

 

「いっつ!」

「? ……どうかしましたか、提督」

「いや、なんでも」

 

 そう思って大井の方を見ると、机の下で太ももをつねられた。

 暴力はいかんよ、君。

 いや、冗談抜きで。

 艦娘くらいの力になると、つねられただけでうっかり死にかねないからね。

 その辺分かってるの?

 

(余計なこと言わないで下さい!)

(いや、最初から言ってないから。一回も口に出してないから)

(……そうでしたっけ?)

 

 冤罪もいいとこだった。

 

「……こほん。とにかく、長く旅をして来ましたので、お役に立てると思います」

 

 俺はもちろん、吹雪も加賀も普通の人間のように暮らして来た。

 だからレンジャー的な部分には疎い。

 話が本当なら、大助かりだ。

 

 俺たちは早速、

 今までして来たこと、

 それからこれからしようとしてる事を話した。

 と言っても、整地をして、家を建てて、漁をしただけだがね。

 ゆくゆくは畑を作りたいが、やり方はさっぱり分からない。

 

「魚を捕る、というのはいい案だと思います。ですがこの辺で獲れる青魚は、恐らく泥臭くて食べられませんよ」

「泥抜き……水槽を作ればいいんでしょうか?」

「そうですね。少ない人数分なら、あまり大きくない物でも大丈夫だと思いますよ」

 

 吹雪と多いが、そんな話をしていた。

 こんな話を聞いたことがある。

 かつて日本では、寿司や刺身など海の魚を生で食べていた。

 しかし世界を見渡してみても、魚を生で食べる国は少ない。

 その差は泥抜きの技術の差なのだという。

 他の国では泥抜き技術があまり発展していなく、油につけたり香草で香りづけしなければ食べられなかったそうだ。

 当然ここ江ノ島鎮守府にも、泥抜きの技術などない。

 しかし。

 

「いや。その件は多分問題ない」

「どういう事ですか?」

「さっき二人がいない間実験してたんだけどな。とりあえず、これを食べてみてくれ」

 

 俺が取り出したのは、どくだみ草の葉っぱだ。

 味と臭いが奇抜な事で知られてる。

 試しに、と。

 吹雪が一口。

 

「うぐっ!」

 

 青い顔をした後、直ぐに吐き出した。

 

「すまん吹雪」

「いいえ、これくらいへっちゃらです!」

「じゃあもう一枚」

 

 新しく、どくだみ草を吹雪に渡す。

 大井が隣から物凄く睨んでる。

 吹雪も裏切られたような顔だ。

 うん、側から見たら酷いな、これ。

 でも食べて。

 騙されたと思ってさ。

 

 少しの間沈黙していた吹雪だったが、結局口にした。

 

「……あれ。こっちは変な味や臭いがしないです。食感だけして、変な感じですね」

「妖精さんの力だ」

 

 妖精さんの物を消す力。

 それの応用で、エグミや臭いを消した。

 その分風味も薄れてしまったが、食べる分には問題ない。

 多分、泥抜きもこれで出来るだろう。

 

「これでタンパク質確保だな」

「やりましたね!」

 

 嬉しくなって、吹雪とハイタッチを交わした。

 贅沢は言わないが、やはりインスタントだけでは飽きる。

 それに俺は、魚を食べたことがない。

 嬉しくなるのも仕方ないことだ。

 

「……まあ、獲れてれば、の話ですけど」

 

 俺だけに聞こえる大きさで、大井がつぶやいた。

 俺は気にしないことにした。

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