千のスキルを持つ男 異世界で召喚獣はじめました!   作:長野文三郎

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21.吉岡の初陣

 ドルトランフルへ近づくにつれて不快なにおいが強くなっていった。

説明はされていないが想像はつく。

メルさん達がゾンビ討伐を終えて、亡骸を焼却したのだろう。

焦げ臭さと腐敗臭がブレンドされた吐き気をもよおす匂いが立ち込めていた。

 

 村に着いた時には既にメルさん達の姿はなかった。

おそらく雪についた足跡をだどってダンジョンの場所を探っているのだ。

フィーネが村はずれでメルさん達の痕跡を見つけてくれた。

「北へ向かう六人組の足跡がありました。谷に降りていくようですね」

「間違いなくメルセデス殿だろう。私たちもいくぞ」

 

 

 追跡を初めて30分。

今度は森の中で戦闘の痕跡を発見する。

足跡が縦横無尽につき、モンスターらしき死骸が三体転がっていた。

メルさん達が討伐したに違いない。

これはサルか? 

いや、サルというよりはもっと大型のヒヒみたいな感じだ。

だけど俺の知っているヒヒとはちょっと違う。

背中に小さな黒い翼が生えているぞ。

「シュレクトパービアンです。すでに額の魔石は持ち去られていますね」

死骸を調べていたフィーネが教えてくれる。

猟師だけあってモンスターにも詳しいようだ。

魔石というのはほとんどの場合モンスターの額部分についている。

もしもモンスターを討伐できたら俺も忘れずに回収しないといけないな。

重なる出費を少しでも取り戻さなきゃならない。

 

 一般的にこの地域ではモンスターはダンジョンの中にのみ存在している。

地上をうろつくモンスターは非常に稀だ。

何代にもわたる人類とモンスターの戦いの歴史の中で、人間はモンスターのダンジョンへの囲い込みに成功していた。

地上をモンスターがうろついているということは、管理されていない新しいダンジョンが出現した証拠に他ならないのだ。

「警戒を怠るな。いつモンスターが出ても対処できるようにしておくんだ」

 

 尾根の斜面を下っていくと枯れ沢にぶつかった。

普段は水の流れていない沢のようだ。

きっと雨が降った時だけ川になるのだろう。

足跡は沢を遡上(そじょう)する形で続いている。

「コウタ、一度高い場所から様子を見てくれないか」

「承知しました」

手頃な木を見つけて「ヤモリの手」を使って上までのぼる。

他の木より大きかったので、てっぺんからの見晴らしはよかった。

 手をかざして地形を見ると、枯れ沢は大きくカーブしながら1キロほど続いている。

木が点在していて詳細はわからないが、沢のどん詰まりが急斜面になっているようだ。

もしダンジョンがあるならあの辺りかもしれない。

おや? 

木々の間からうっすらと煙のようなものが立ち上っているぞ。

あれはメルさん達の焚火じゃないだろうか。

「クララ様、どうやら近いようです。この先で焚火らしき煙が見えました」

「そうか。少し急ごう」

クララ様はモンスターの気配を感じているようだ。

 

 さらに足跡をたどっていくと大した時間もかからず人の声が聞こえてきた。

なんか賑やかだけど……。

「全員注意しろ! 前方で戦闘が起きているぞ。現場へ急行する!」

荷物をその場に置いて俺たちは走り出した。

 

 いまや剣戟の音ははっきりと聞こえていた。

「押し返せ! これ以上モンスターをここから出すな」

あの声はメルさんだ。

「わかってるけど、数が多すぎますよ。それにこいつがデカすぎて」

「入口まで押し返せば数の展開はできないんだよ、少しは楽になるさ!」

若い兵士の泣き言を叱ったのはペトラさんだな。

 

 木々の間を抜けて駆け付けると、メルさんたちはダンジョンの外で交戦中だった。

外へ抜け出そうとするモンスターたちを何とか内部に封じ込めようとしている最中だ。

メルさん達が苦戦しているのは身長3メートルを超える化け物だった。

「フィーネ、あれは?」

「トロールです。かなりの強敵ですよ」

トロールが最前列で頑張っているので、後ろから少しずつ小型のモンスターが出てきてしまうのだ。

大きな棍棒と巨大な盾を装備していて中々有効打を当てられないようだ。

 

「アキト、土魔法でダンジョンの入口を塞げるか?」

「もっと寄らないと無理です」

「わかった。私がトロールをなんとかする。機を見て塞げ」

「はっ!」

「コウタ、一瞬でいい。麻痺魔法でトロールの動きを止めてくれ」

「御意!」

御意って一回言ってみたかったんだよね。

ほら、騎士の従者ぽくない?

 

「加勢する! 道を開けられよ!」

クララ様の声が響き渡り、激しい槍の攻撃がトロールに突き出された。

そういえばクララ様が実際に戦っている姿を初めて見たぞ。

バルキリーってあんな感じなのかも……。

メチャクチャ強いじゃないか! 

そして美しい!

素人目に見てもこの場で一番強いことがわかる。

しかもあの青い光は……。

クララ様の攻撃がトロールの盾に当たるたびに盾やそれを持つ手が少しずつ凍り付いている! 

「すごい……、これが騎士の戦い……」

フィーネも初めて見たのだな。

って、見とれている場合じゃないか。

トロールが防戦一方になっている今がチャンスだ! 

手の上に俺にできる最大のパラライズボールを作り出す。

前回はピンポン球くらいだったが、今回はソフトボールくらいのやつを作れたぞ。

クララ様の攻撃にトロールの腕が下がった。

勝機到来。

「くらえっ!」

 側頭部に特大のパラライズボールをくらいトロールの背中が気をつけの姿勢のようにピンと張る。

その瞬間を見逃すクララ様ではなかった。

電光石火で振るわれたクララ様の槍は正確無比にトロールの眉間を貫いていた。

大地を震動させてトロールの巨体が倒れる。

「今だ! 一気に押し込め!」

よく通るクララ様の声に全員が歓声で応えた。

敵の大物が倒れたことによりこちらの士気は俄然上がっている。

既に大勢は決したな。

後はダンジョンの入口を土魔法で塞ぎ、その後に簡易の出入り口を取り付ければいいだけだ。

 多分、そんな油断が皆の心にあったのだと思う。

俺自身がそうだった。

後は麻痺魔法で動けなくなった敵を殲滅するだけ、簡単なことだ。

そんな風に考えていたんだ。

あの時、俺の眼の端に吉岡の姿はちゃんと映っていた。

ダンジョン入り口付近で土魔法を展開している最中だったよ。

入口さえ塞いでしまえば新たな敵は出てこない。

ちゃっちゃと済ませてくれよ。

他人事のようにそんな風に考えていた。

だが、次の瞬間に心臓を掴まれたような気がした。。

ヒヒのモンスター……。

シュレクトなんちゃら……。

吉岡! 

後ろだ! 

なんで……? 

なんで声が出ない!?

「吉岡ぁああああああああああ!」

自分の意識から一瞬遅れて俺の叫び声が響いた。

振り返った吉岡は不思議そうな表情でこちらを見ている。

慌てて手の上のパラライズボールをシュレクトパービアンに放つが……。

だめだ、間に合わない!

羽の生えたヒヒの上からの攻撃が吉岡の頭をかち割ろうとしていた。

………………

鮮血がダンジョンの入口を赤く染めた。

だがそれは吉岡ではなく、吉岡を庇ったペトラさんの血だった。

 パラライズボールを受けて硬直したシュレクトパービアンの頭を鉈でかち割る。

振り返ると血まみれのペトラさんを抱いて吉岡が震えていた。

「やだねえ……一回しただけなのに……つい情が……移っちまったよ」

「ペトラさ……」

「まあ、肌を重ねた男の胸で死ねるんだ……私にしちゃ上等な……死に……かた……」

「吉岡ぁ! 回復魔法ぉ!!」

「あっ!!」

茫然としていた吉岡の思考が動き出す。

吉岡の指が緑色に光りペトラさんの頭部の傷が治癒していく。

これまでにない高魔力を感じる。

「こ、これは……」

ペトラさんの意識もはっきりしてきたようだ。

「僕が死なせませんよ……死なせるもんですか……」

泣きながら回復魔法をかけ続ける吉岡の涙をペトラさんが優しく拭った。

「ふふっ。だったら覚悟しとくんだね。今夜は……寝かさないよ」

いつの間にか周囲の戦闘音は止んでいた。

ようやく吉岡の初陣が終わろうとしていた。

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