【完結】英雄戦機ユナイトギア   作:永瀬皓哉

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激戦-アサルト-

「で、俺が来た時にはもうレイダー5頭ほとんどグロッキー状態だったんだが……俺が来る意味あったのかこれ」

「ユナイトギアじゃないとトドメ刺せないんですから、大いにありますってばっ!」

望月(もちづき)……。お前もう正規ELBシステムの免許とれよ。いくらなんでも宝の持ち腐れすぎるわ。俺も楽できるし」

 

 ELBシステム免許というのは、簡単に言えばユナイトギア装着者になるために必須となる免許のことだ。正規は15歳以上で取得でき、簡易なら12歳以上で取得可能だが、簡易を15歳未満で取得する場合には保護者の同意が必要となる。

 望月芽愛(めあ)の場合、14歳の時にレイドリベンジャーズに入団する際、希望部署に「前線部隊」を希望したが、必須資格として「簡易または正規のELBシステム免許」が提示されていたため仕方なく楽な簡易型の免許をとったという経緯がある。

 逆に希繋(きづな)は希望部署に「支援部隊」を希望したが、それ以前に「入団に有利になるか」くらいの気持ちで正規ELBシステム免許をとっていたがために前線部隊に配属されてしまった、という経緯を持つ。

 

「いいんですよ簡易型だけでっ! いざとなったら希繋さんが助けに来てくれればいいだけなんですからっ!」

「なぁ諸星(もろぼし)、こいつの他力本願なとこ誰に似たんだと思う?」

「いやどう考えてもお前だろ。いつも隊長や他の部隊に世話になりっぱなしのくせに」

「少なくとも俺はギリギリまで自力でどうにかしてるから。どうにもならない時はすぐ頼るけどさ」

 

 望月と諸星は、簡易型ELBシステムを用いる前線メンバーの中でも、特に優秀なレイドリベンジャーズたちだ。

 望月は鉄鎖タイプの簡易型ELBシステムを操るパワー型のレイドリベンジャーズ。半径30メートルまでの空間は彼女の射程距離であり、空を飛ぶレイダーも地上を走るレイダーも関係なく捕えてしまう。

 また普段は遠方から狙撃銃タイプの簡易型ELBシステムを用いて部隊を支援している諸星は、前線に出てもその正確無比な射撃の腕は活かされ、二挺拳銃タイプの簡易型ELBシステムでレイダーを抑え込む。

 

「ま、いいや。こちら第二前線部隊・攻撃隊の桐梨。A-11ポイントおよびA-10、A-12で確認されたレイダーは全て撃破したものと判断した。次の指示を頼む」

『こちら第二前線部隊・本部の香坂。ついさっき第一前線部隊からA-02ポイントおよびA-03、A-05ポイントで発生した全レイダー撃破の報告があったわ。ひとまず私たちの出番は終わりね。帰還しなさい』

「了解。……ちょっと気になることもあるが、それも込みで逢依(あい)と話し合う必要もあるし、さっさと帰還しよう」

 

 今回、希繋たち第二前線部隊が請け負った区域の中で、真っ先に対応しなければならないのは居住区であるA-10ポイントだった。

 人が多く集まる地域は、それだけ正と負の感情どちらも高まりやすい。つまり、負の感情エネルギーを糧とするレイダーにとって、最も効率のいい狩り場であり、レイドリベンジャーズにとっては絶対に守り抜かなければならないフィールドでもある。

 しかし、今回A-10ポイントに出現したレイダーは僅かに3頭。大型公園が存在する以外、ほとんど人も家もないA-11ポイントの方が多くのレイダーが出現していた。

 

「いやー、今日のレイダーは数が多かったねぇ……」

「今回は永岑市の西側に相手の数が集中してたから第一部隊と第二部隊だけで対応できたが、もし今後さらに増加するようなら第三部隊と第四部隊もいよいよ本格的な出番になりそうだな」

 

 レイドリベンジャーズの前線部隊は、基本的に4つの部隊が存在する。

 隊員全員が正規ELBシステム免許を持ち、精鋭クラスのユナイトギア装着者ばかりの第一前線部隊。レイダー対策は主にこの第一前線部隊が主力となって動き、諸星が途中までこの部隊と連携していたのもそれが理由だ。

 そして正規組と簡易組の混合によって構成されたのが、第二前線部隊。個レベル(10頭未満)のレイダーが出現した際はこの第二前線部隊が主力となり、それ以上のレイダーが出現した場合は第一前線部隊のサポートをするのが仕事だ。

 だが第三前線部隊と第四前線部隊は、この二つの部隊とはだいぶ異なり、全員が簡易ELBシステムしか持たず、必然的にどんな状況においても第一部隊か第二部隊のサポートとして出撃することになる。

 

「えーっ、でもそのためには、第三と第四にもユナイトギア装着者が必要になるんじゃないですかーっ?」

「まぁ、そうなるな」

「じゃあ無理ですよー。ユナイトギアは世界中に1440機しか存在しませんもん。ひとつの支部に10機あれば多い方なんですからっ! ギアもなければお金も足りませんって!」

「まぁ、そうだろうな」

 

 現在、永岑(ながみね)支部が保有するユナイトギアは13機。

 希繋のエクレール、逢依のクリュスタルスの他、第一前線部隊全員分として10機、そして支部長が持つ1機の、合計13機だ。

 先にも述べた通り、永岑市は世界有数のレイダー出現区域であるため、日本では最多の保有数を誇っている。

 

「第三部隊と第四部隊が今よりさらに活躍してくれれば、俺たちも少しは楽になるし、そうでなければ第一部隊か第二部隊と合併……は、無理か。無理だな。チームは数が増えると纏まらなくなるし」

「特に第一部隊と第四部隊は仲悪いですからねー。あそこはたぶん意地でも合併しませんよっ!」

「仲が悪いっていうか、第四部隊が勝手に噛みついているだけにも思えるが……まぁ、仕方のないことか」

 

 諸星が「仕方ない」というのも、当然といえば当然のことであった。

 元より簡易ELBシステム免許しか持たず、第一と第二のサポートとして組まれた第三部隊とは異なり、第四部隊は「第一部隊に入れるユナイトギア装着者でなく」「第二部隊に入れる柔軟性がなく」「第三部隊に入れるサポート能力がない」と判断された、いわば二軍落ちのような存在である。

 つまり、中には正規ELBシステム免許を持つ者さえいるにも関わらず、「主戦力」「準戦力とサポート」「サポート」という明確な目的がない「落ちこぼれ集団」である以上、第一部隊は「憧れの部隊」である以上に「嫉妬の対象」なのである。

 

「俺は原石揃いのいい部隊だと思うんだが……ユナイトギアの数が限られてる上、きちんと適合するかどうかはユナイトギア次第だからな。そう思うと、全員が装着者っていう第一部隊のバケモノ集団っぷりがよくわかるよ」

『おかげで出動時は全員が前に出ちゃうから、こうして第二部隊の私とオペレーター組が指揮をとることになるんだけどね……』

「逢依が愚痴なんて珍しいじゃないか。どうした、なんか問題でも起きたのか?」

 

 逢依が単なる愚痴のためにオペレーション用のコールモニターを使うとは誰も思っていない。

 おそらく、想定外の問題が発生したがための緊急報告だろう、と希繋は身構えた。

 

『A-08ポイントの漁港で取りこぼしと思われるレイダーが確認されたわ。第一前線部隊は既に全員帰還してしまっているし、相手の数はたった1頭のみ。言ってる意味、わかるわね?』

「A-08ポイントは永岑市で最も東に位置する区画……。あー、はいはい、スピード自慢のお兄さんがすぐ向かいますよっと」

『悪いわね。他のみんなはそのまま帰還しなさい。相手が1頭なら、たとえ大型レイダーだったとしても希繋1人で十分だわ』

 

 そして予想は的中。

 しかし、A-08ポイントというのが引っかかる。今回、レイダーが出現したの場所は、中心部となるA-05とA-10を除き、全てが永岑市の西側。東側ではまったく確認されなかったはずだ。

 A-08ポイントに最も近いのは、A-09ポイントを挟んだA-10ポイント。しかしあそこは居住区であり、市街地であるA-09に繋がる東側には1頭たりとも通さないつもりで戦っていたし、希繋含む全員がそれを注意して見ていた。

 もしもこれが前線第二部隊全員が見逃していたとなれば、重大な注意不足による責任問題に問われることになるが、もしそうでないとしたら、「誰かが北側のA-05ポイントから東側のA-08ポイントに追いやった」ということになる。

 

『希繋……わかっているとは思うけれど、もしもの時はすぐにコールしなさい』

「了解。まぁ、逢依の思ってる通り、問題なのはレイダーよりも……ってことだと思うぜ」

 

 希繋以外の全員が疑問符を浮かべるが、希繋はそんなことを気にも留めず、四人とは異なる方向へと走り出した。

 

「……希繋さん、どうしたのかな?」

「さぁな。だが、隊長が希繋だけで大丈夫だと言うのなら、大丈夫なんだろう。俺たちはひとまず帰還しよう」

 

 

 

 

『――――ッ!』

 

 希繋がA-08ポイントに突入した時、既にそのレイダーの巨体は漁港近辺の建物を隔てても確認することができた。

 相手は大型レイダー。飛行型や潜伏型ならばあるいは、とも思えたが、この体躯を希繋たちが全員揃って見逃すというのは考えられない。

 そしてやはりというか、そのレイダーは何者かと交戦しているのか、何度か後方に倒れたり、よろめくような様子を見せている。

 ここまで来たら、もう希繋の中の「気になること」というのも、即座に解決された。

 

(やっぱりだ……! 第一前線部隊が到着する前に、何者かが市民からレイダーを守るために交戦していた……。そしてA-05ポイントで本格的な交戦が開始されると同時に、その身を隠しつつレイダーを郊外へと移動させた、ってところか……!)

 

 そして、そんなことができる「現時点で永岑市のレイドリベンジャーズに登録されていない人物」といえば、数は限られる。

 

『所属不明のユナイトギアが、こちらの存在に気付いたようです。如何(いかが)しますか、ディアマスター』

「如何しますかって、そりゃ決まってんだろ。あそこで誰が戦ってるかは知らないが、レイダーの討伐は俺たちレイドリベンジャーズの仕事だ。一撃で決着(ケリ)をつけるぞ」

 

 希繋からレイダーへは南東へ800メートル。亜音速で接近すれば2.9秒で目標に到達する。

 エクレールによって肉体を電気に変換すれば、そのタイムはさらに縮めることが可能だ。

 しかし、ここからレイダーに向かって一直線に進んだ場合、接触による速度の減衰を考慮しても、海に落ちることは避けられない。

 もしも電気化した状態で海に入れば、落雷と同じように落下地点から半径30メートル圏内の海面付近に存在する海の生物に大きな影響を与えることになるだろう。

 

「エクレールッ!」

『了解。アクセルアクションを使用します。エモーショナルエナジー、充填開始(チャージ)

 

 といっても、エクレールの強みとなる部分は電気だ。だからこそ、その強みを使わないという手はない。

 電撃を外に洩らしたくないのなら、体内の電気を高速循環させて動作を加速すればいい。

 希繋はレイダーの動きに集中しながら、その狙いを研ぎ澄ましながら、エクレールのチャージを待つ。

 

充填完了(コンプリート)。アクセルアクション、いけます』

 

 エクレールの声と同時に、希繋は全速力でレイダーへと突貫。その右脚を突き出し、大型レイダーの胴を穿った。

 

『――――ッ!?』

「……おわっぷ!?」

 

 が、やはりその勢いは殺しきれず、希繋はレイダーを貫通したまま海へと落下。

 すぐさま海面に出るが、運の悪いことに今日の波はやや強く、元々全体的な筋力バランスの悪い希繋は泳ぎが得意ではなかった。

 そのため海面に浮くことはできても、うまく泳げず岸にたどり着けないまま流されそうになっていた。しかし――、

 

「無駄に体力を使うな! 流れに逆らわずこれに掴まれ! 引き上げてやる!」

「……! 助かるっ!」

 

 おそらくさっきまでレイダーと戦っていたと思われる人物が、希繋の数メートル後方に救命浮輪を投げ入れ、そのまま彼を引き上げた。

 レイダーを倒したはいいが、あわや自分が溺れ死ぬなどという事態になりかけ、希繋は苦笑しながらもその人物に礼を言う。

 

「助けてくれてありが――」

「お前はバカか! さっきの蹴りの入射角からして、その速度と角度からじゃレイダーを倒しても海に落ちることはわかっていたはずだ!」

「いや、でもほら、一応お前のおかげでなんとかなって……」

「俺がもしもお前を助けなかったらどうするつもりだった! そんな脆弱な肉体で夜の海に入って……! 海をナメているのか! 海はな、この地球上において最も恐ろしい領域(フィールド)なんだぞ!」

 

 が、礼を言おうとした途端、相手から浴びせられるのは怒声の連続。

 しかし、彼の言う通りだ。希繋は普段、地上での活動を主としており、時には人命救助も行うが、それはレイダー襲撃による建物の崩落や火災から要救助者を救うためのものであり、海との接点は少ない。

 電気を力としている分、海水と電気の関係性などについては一応学んだが、海そのものについて知ろうとしたことは多くない。せいぜい、水族館で海の生物を見た程度の知識である。

 そのせいだろう、その知識の少なさが、海の恐ろしさに対する無知となり、そしてそれがさらに海を軽んじる結果となった。

 

 レイダーへの攻撃によって勢いの大部分を失っていたとはいえ、希繋が出す超高速キックから海へ落下した場合の潜水深度、そこから海面にあがるまでに要する時間、それまでに受ける水の抵抗や、海面に出た後の波の強さまで、彼はまったくの無知だった。

 肉体を電気に変換できれば呼吸は必要なくなるが、それでは先程も言った通り海面付近の海棲生物に影響を与えるばかりでなく、伝導率の高さから希繋を構成している電気が周囲に伝播し、「希繋」という形を再構成できなくなり、彼は死んでいたかもしれない。

 いずれにせよ、希繋にとって海というフィールドはその男が言う通り非常に危険なフィールドであり、彼が「地球上で最も恐ろしい領域(フィールド)」というのも、なまじ大袈裟な話ではないのだ。

 

「わかった! わかったってば! 悪かったよ……。お前の言う通り、俺は海をナメてたのかもしんない。レイダーを倒すにしても、ちょっと角度を変えれば海に落ちなくて済んだわけだしな。ホント、ごめん」

「……わかったならいい。でもこれだけは肝に刻んどけ。海はこの地球上で最も恐ろしいフィールドだ。人間では呼吸が敵わず、特に深海に至っては未だそのほとんどが謎に包まれている。謂わば第二の宇宙だ。人間を一人殺すなんて、海にとってはなんてことないことなんだってな」

 

 希繋が素直に謝ると、相手の男も少し不満そうではありつつも納得したように怒気を収めた。

 しかし、希繋にとっても問題なのは、正直なところ海のどうこうではなく、相手の人物その人のことだった。

 

「じゃ、改めて。助けてくれてありがとう――海凪総交(みなぎそうま)

「……ああ。お前に礼を言われるのは、少し複雑な気分だな、桐梨希繋」


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