【完結】英雄戦機ユナイトギア   作:永瀬皓哉

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感情-プレイ-

 白露がレイダーと遭遇した翌日から一週間、レイドリベンジャーズ永岑支部では軽度のパニック状態が続いていた。

 あのレイダー襲撃がまるで何かのトリガーを引いたかのように、連日レイダーが市内に出現し、永岑支部のレイドリベンジャーズたちはその対応に追われていた。

 

「永岑市内において、レイダーと思われる多数のエネルギー反応を検知!」

「座標特定。モニターに出ます」

 

 モニターに表示されたのは、永岑市南部に位置するA-09エリア。

 レジャー施設が多く並ぶ永岑市の娯楽スポットであり、おそらく市内で最も人口が密集するとされる区域であり、ともなれば当然、レイダー出現時の被害が甚大なものになりかねないポイントだった。

 これを見た逢依は、即座に被害状況の確認と、レイダー出現情報の発信、避難勧告を出すように指示すると、攻撃隊のメンバーに各々の役割を割り振った。

 

「最前線メンバーは希繋・望月ちゃん・空宮くんの3人。望月ちゃんはレイダーの行動範囲を把握しつつ誘導、希繋が確固撃破していくわ。空宮くんは二人が取りこぼしたレイダーを処理」

 

 最前線メンバーの中でレイダーを確実に撃破できるのは正規ELBシステムを持つ希繋のみ。よって、作戦の主軸となるのは希繋となる。

 とはいえ、望月と空宮のサポートは決して軽んじることのできるものではない。簡易ELBシステムは正規のものと違い、レイダーを撃破できるだけの致命性がないとはいえ、確実にダメージを与えることのできる武器である。

 まして、望月の単体戦闘力については、希繋を軽くいなせるだけの力があり、こうした殲滅戦において彼女のタフネスは大いな戦力となる。

 

「狙撃隊の諸星くんは三人の援護をしつつ、状況の把握に努めて。何かあれば随時こちらに連絡。天宮くんは諸星くんの護衛をお願い」

 

 そして、第二前線部隊唯一の狙撃隊メンバーである諸星の役割は、前線の死角を常に把握しつつ、そこに入った敵を攻撃。その死角から弾き出すか、仲間にそれを伝えることで最前線メンバーのサポートをすること。

 基本的に高速で動き続ける希繋は諸星でも把握しきれないので、主にサポートする対象となるのは望月と空宮となる。特に望月は最前線で相手の誘導をするためにあまり動き回れないので、諸星のサポートは必須だ。

 

「何か質問はある? ……ないみたいね。なら、第二前線部隊・攻撃隊および狙撃隊、出動」

 

 作戦開始の号令を聞いて、前線メンバーたちは即座にオペレーションルームを後にした。

 バチン、という音を立てて姿を消した希繋は、おそらく既にガレージに到着し、出撃したものと見て間違いないだろう。

 こうした火急の事態において、希繋のようなスピード特化型は極めて有用だ。単独で現場に向かうリスクはあれども、現場は人口密集区域。相手がレイダーである以上、彼が一番槍として突貫するのは作戦的にもおかしなことではない。

 

「望月、諸星、空宮、天宮の四名がガレージに到着。出撃しました」

「希繋の現場到着予測は?」

「エクレールの展開を確認しました! ですがこれは……ッ!」

 

 モニターに映ったのは、エクレールの展開範囲。通常、装着者のコンディションを確認するためのものだが、そこに表示されたものは――。

 

「XD400Rへのエクレール展開……。XD400Rを自らの肉体の一部として認識する(思い込む)ことのできる、希繋にしかできない荒業……」

 

 ELBシステムに共通する性質。それは、装着者の感情や思想に応じて、ギアの出力を向上、あるいはギアの持つ力の変質を行うこと。ユナイトギアが「感情を威力に換える」と称される、根底的な性質だ。

 故にユナイトギアを纏う者は総じて感情の起伏が激しく、そうでない装着者はそれを補うためにデトネイターを服用するのだが、この感情や思想に応じて力を生み出すという点を逆手にとったのが、希繋の『XD400Rへのギア展開』である。

 感情や思想に応じて力の方向性を決める。それは即ち、装着者の認識、あるいは思い込みによって、ギアの力の一部を変質させることができるということだ。

 希繋の場合、本来であれば感情を持たないバイクがギアを纏うことはできないが、彼はバイクを「装備」ではなく「肉体の一部」として思い込むことでエクレールの展開範囲を拡張し、出力をブーストさせることができるのだ。

 

「桐梨、現場に介入しました」

「まずは市民の避難が優先よ。市民とレイダーの位置を把握して希繋に伝えなさい。望月ちゃんと空宮くんの現場到着予測は?」

「あと15分ほどです!」

 

 今回、出現したレイダーの勢力レベルは「個」と「群」の間に位置する「徒」。15頭以上30頭未満が対象となる勢力で、「第二前線部隊が単独で処理すべき」と判断される規模では、最大となる。

 そのため、個レベルの時と違い、希繋が最優先すべき行動は「レイダーの駆除」ではなく「市民の防衛および避難誘導」であり、避難の完了を確認した後か、あるいは他の前線メンバーが到着するまでは積極的な戦闘行為はすべきでないとされる。

 

(この一週間、続けざまに繰り返された襲撃によって、永岑支部のレイドリベンジャーズたちのフィジカルコンディションは著しく消耗している……)

 

 戦況の確認と対応に追われながら、逢依は今回のレイダーにより連続襲撃について思考を巡らせていた。

 そもそも、レイダーが出現する頻度とは、本来ならば週に1度ほど個レベルの勢力が確認される程度であり、週に3度、時には群レベルの勢力が出現する永岑市は、誰がどう見てもおかしい状況に陥っているといえる。

 しかし、今回はその永岑市でさえ異常事態だと認識する、徒~群レベルの一週間連続襲撃。これがただの悪い偶然であるのなら、その偶然が途切れるまでの付き合いだと割り切れる。

 だがもしもそうでないのなら。この異常な現状が、何かの「理由」があるのなら、その理由を取り除かない限り、この逆境はいつまで続くかわからない。

 

(レイダーは感情から生まれ、感情によって形を成す。理性という制御装置のない彼らを操作する術は、少なくとも現代の人類には存在しないはず)

 

 つい先月、希繋たちと衝突した『仲間たち(パートナー)』と呼ばれる未来の戦士たちは、レイダーカプセルと呼ばれる器具によって、レイダーの制御を行っていた。

 しかし、あれは制御というよりもレイダーが持つ「ヒトを襲い、感情を貪る性質」を利用し、そのベクトルをELBシステムと呼ばれる「強烈な感情兵器」に向けさせただけのもので、根本的な「制御」とは異なるものだった。

 だからこそ、今のこの状況は現代の人間だけでなく、未来から訪れた『仲間たち(パートナー)』たちも異常と判断したのだ。

 

(あるいは操作しているのではなく、レイダーカプセルのようになんらかの理由で「レイダーの性質」がこの地に引っ張られているのだとしたら?)

 

 レイダーの性質は、すでに語った通り「感情から生まれ」「感情によって形を成し」「感情を襲い」「感情を取り込む」という四つの点だ。

 だがより詳しく言うのであれば、彼らは「負の感情から生まれ」「負の感情によって形を成し」「正負を問わず強い感情を襲い」「襲われたことによって生まれる負の感情を取り込む」のだ。

 だとしたら、レイダーが優先的に襲うとすれば、その感情は――。

 

「隊長! 緊急事態です! レイダーとは異なる、膨大な感情エネルギーを検知!」

「感情エネルギー反応? ユナイトギアではないの?」

「ユナイトギア反応は存在します。ですが起動していません」

 

 ユナイトギアではない、純粋な感情エネルギー。それ自体は、人間ならば誰もが持っているはずのものだ。

 実際、レイドリベンジャーズが避難状況を確認するために表示されるマップ上のポインタは、市内の感情エネルギーを感知することでその数を割り出している。

 しかし、今しがた検知された感情エネルギーの出力は明らかに常人のそれを凌駕しており、まるでユナイトギアを纏っているかのような数値を叩き出しているのだ。

 

「ユナイトギアの起動を確認しました! 波形パターン、照合完了!」

「このギアは……ッ!」

 

 モニターに表示されたのは、逢依が「クリュスタルス」を纏う以前に使っていたユナイトギアの名前。

 その名も――。

 

「『シンクロナイザー』……ッ!!」


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