知らない子供と入れ替わったら……。 作:らんまる
会社務めの26歳独身。
出身地は日本の東京。
趣味はゲームと読書。
戦争を知らない世代であり、それなりに幸福な人生を送っていた彼。
これは、そんな平凡であった彼がとある事故によって生活が一変した事から始まる物語。
――――――。
どうしてこうなった?
松山誠二は何度目か分からない問答を見知らぬ部屋のベットの上で繰り返していた。
「まだ、状況が理解できないのか?」
彼の耳に届く、聞きなれた男の声。
松山誠二は複雑な表情で声を掛けて来た目の前に立つ男の顔を見る。
男の顔は鼻が低い事以外は特に特徴が見当たらない平凡なもの。
なのに、彼が男の顔を見て複雑に思うのは何故か?
それは……。
「そろそろ、
「……俺は
男は松山誠二と同じ顔と声をしていたからだ。
勿論、目の前の男は鏡に映った偶像ではなく、確実に存在している。
彼等の会話を聞いて分かるとは思うが、男は松山誠二の双子や腹違いの兄弟でもない。
男は紛れもなく本物の松山誠二だった。
体の細部から細胞のひとかけらまで医療機関が鑑定すれば、男が本物の松山誠二と証明できる。
ならば、今…目の前で男《松山誠二》と相対している彼は何者なのだろうか?
「始めは驚いたが、任務には支障がないからな…。
中身が
「入れ替わった程度だって!?
戸籍も何もない君はいいかもしれないが、俺は普通のサラリーマンだったんだぞ!!
しかも、俺の戸籍も抹消されて会社も勝手にやめるなんて……」
そう、彼は見知らぬ少年の姿になっていた。
銀色の髪に紫の瞳。
明らかに普通の少年ではない。
「さて、次の任務までにさらなる技術向上を目指してもらうぞ
「ちくしょう!!」
―――――。
全ての始まりは、松田誠二が会社から自宅への帰り道で起こった。
彼が歩道にある自販機でジュースを購入しようとした時だ。
財布に十円以下の小銭しかなかった彼は千円札を使ってジュースを購入しようと投入口に札を入れようとした瞬間。
突風に手に持っていた千円札を浚われしまい、彼は千円札を取り戻すべく、千円札を追いかけた。
彼の持っていた千円札はオフィスビルが密集する裏路地へと飛び、彼が裏路地へと入った瞬間。
空から振って来た何かと衝突した。
内臓が飛び出るのではないかと思う程の衝撃を受けた松田誠二はそのまま意識を失った。
そして、彼が目を覚ますと医療設備が整った部屋のベットの上だった。
はじめは病院だと思っていた彼は自分の状態を知って困惑した。
なんと、彼は手足を拘束されて身動きが出来ない状態にされていたのだ。
普通の病院ではない事を悟り、困惑しているそんな彼の元に現れたのが……。
自分そっくりの男と見知らぬ外国の中年男性だった。
松田は自分そっくりの男に驚愕した。
見知らぬ医療設備が整った特殊な部屋のせいだろうか、彼の頭には数年前に見たクローンとオリジナルが殺し合う映画のワンシーンがよぎる。
だが、彼等の話を聞くと事態はクローンと脚色が無い程、深刻であった。
自分の体が、暗殺や戦闘の英才教育を施された抹殺者の少年と任務中の事故で体が入れ替わってしまったと言うのだ。
しかも、少年はエリート中のエリート。
裏社会を震撼させる不吉の象徴として、世界を支える組織に所属しているという中年男性の莫大な財産を投資した最高傑作。
戦場と暗殺のプロによる英才教育とナノマシンによる身体強化によって通常の人間ではありえない回復力と身体能力をこの少年の体は保有しているらしい。
少年の体となった彼は中年男性に選択を突き付けられた。
自分の体に入った少年と共に抹殺者として任務をこなし、元に戻る方法を組織の情報力と科学力を使って探すか?
それとも、自分が入っている少年の体をバラバラにされた後、新しい抹殺者を作る為のサンプルとなるか?
一つしか選べない選択肢を迫られた彼は、生き残る為に抹殺者になる道を選んだ。
その後の彼は抹殺者としての教育プログラムを遂行し、抹殺者としての人生を歩む事になったのだ。
――――。
戦場と裏社会でエルエルフのコードネームと《一人旅団》が不変の伝説になった頃。
彼は未だに元の体に戻る事はなく、おっさんとなった自分の体に入っているエルエルフと共に中年男性から特別なラインで送られる任務が届いた。
「なあ、そろそろ元に戻る方法を見つけられたんじゃないか?
身体能力を向上させるナノマシンが開発出来るんだろ?
だったら入れ替わりなんてすぐに……。」
「…しつこいぞ、それならミスタ・Hgが探してくれていると言っている」
「もう、うんざりなんだよ!!
お前、自分の顔を見てみろよ!もうすぐ三十路なんだぞ!!
あれから何年経ったと思っているんだ!!」
ミスタ・Hgの用意した隠れ家のログハウスで依頼の通知が届いた瞬間。
彼は怒りの赴くままに、腰のホルスターから拳銃グロック19を素早く抜いてエルエルフが入っている自分の肉体に向ける。
「戻りたい体に銃を向ける……正気か?」
「ああ、正気だね!!これ以上、戦場を駆け巡ったり暗殺をしながら時間を潰すくらいなら俺は……」
「…わかった。この任務が終わったらミスタ・Hgに急いでもらうように申請をしておこう」
「本当だな?嘘だったら殺すぞ!!」
「問題ない」
拳銃を下ろし、腰についているホルスターに拳銃を乱暴に仕舞った彼はミスタ・Hgが用意してくれた隠れ家であるログハウスの地下へと向かう。
地下室に降りて行った彼を見送った本物のエルエルフは、ミスタ・Hgと直接つながる特別な無線機を手に取った
『…そろそろ限界かね?』
「はい。奴はもう使い物にならないと思います」
『ふむ、もう少し使いたかったのだが…仕方があるまい』
「では、今回の標的と共に抹殺します」
『頼むよ、死体はちゃんと例のASと共に持って帰ってくるように』
――――。
エルエルフと松田誠二はイギリスの森林の奥地にある研究所へとやって来た。
任務の内容は視察に来ている責任者の闇の武器商人トルネロの抹殺と研究所の爆破。
研究所のすぐそばにあるヘリポートから降りてくるターゲットのトルネロを森林に身を隠しながら視認した彼等は、二手に別れて研究所へと潜入する。
エルエルフはヘリに爆弾を仕掛けた後、裏口から潜入。
松田誠二は正面からの潜入だ。
一件、無謀としか見られない正面からの潜入。
しかし、ナノマシンによる身体強化と一人旅団と呼ばれるようになった彼ならば問題はない。
「誰だ!?」
「敵襲!!敵襲!!」
正面に集まる警備兵達。
飛び交う弾丸が一方的に彼等の肉体へと打ち込まれ、真っ赤な血液を噴出させ、研究所の玄関先を紅く染めた。
「アイツ!!なんで弾丸の雨を避けられるんだ!!」
「化け物め!!」
「おい!まだ終わらないのか!?敵は何人居るんだ!?」
「一人でッぺ!?」
緊急事態を知らせるアラームと共に増員される警備兵。
松田は強化された五感を使って弾丸を避け、ゆっくりと…確実に警備兵たちを制圧していく。
一人、また一人と松田の銃が火を噴くたびに倒れていく警備兵。
この異常な光景を作り出している青年の異常な戦闘力と特徴で一人の警備兵が戦闘中にも関わらず戦場の噂を思い出した。
「銀色の髪…ま、まさか……《一人旅団》か!?」
「嘘だろ!?あんなガキが!?」
「あれは戦場のおとぎ話だろう!?」
生きる伝説が目の前に居るわけはないと射撃の手を休める事なく大声で反論する彼等。
そんな彼らの元に手榴弾が投げ込まれた。
「ひぃ!?」
研究所の玄関先は手榴弾の爆発によって大破。
警備兵も爆発に巻き込まれ、数十人の屍が転がっている。
「元の体に戻るんだ…元の体に……」
玄関先から侵入に成功した松田は屍を踏み越えて研究所の中へと歩を進めた。
そして――――。
裏口からの潜入に成功したエルエルフは研究員達が避難し、
そこで目的のASを発見した。
「見つけた……世界を変革する力をもったAS。《革命機ヴァルヴレイヴ》」