知らない子供と入れ替わったら……。 作:らんまる
松田が部屋を出た頃、エルエルフは拘束用の特殊なテープを用いてトルネロの手足を拘束。
彼はヴァルヴレイヴの前に佇んでいた。
「さて、もうすぐコイツを運び出そうと思うのだが……」
「貴様!!一体何者…いや、誰の差し金だ!!」
冷たい床に転がされたトルネロは増悪の視線をエルエルフに向けながら何度目か分からない質問を繰り返していた。
「貴様の質問に答えるつもりはない。
お前は俺の質問に答えろ」
「ふざけるな!!」
トルネロがエルエルフに反論した瞬間乾いた音が研究室に鳴り響く。
エルエルフがトルネロの足に向かって銃を発砲したのだ。
「ぐあぁあああ!!」
そして、傷口から流れる血と共にトルネロの絶叫が響き渡る。
エルエルフはそんなトルネオをゴミを見るような瞳で見下ろすと淡々と告げる。
「これから、貴様が質問に答えなかったり、抵抗を見せた場合。
手足に一発づつ打ち込んでいく。
では、最初の質問だが……この機体の動力はなんだ?」
「きざまぁ…この私にこんなことをしてタダで済むと…ひぎゃぁあああ!!」
「二度は言わん。素直に答えろ」
突如、抹殺対象に尋問を始めたエルエルフ。
彼は一体何を考えているのだろうか?
銃弾を足に二発も被弾したトルネロは湯水の如く、情報をエルエルフに話した。
動力に使う燃料から、機体の詳細なデータ。
そして、機体やナノマシンの情報をもたらしたウィスパードについて……。
「なるほど……これで納得した。
十年以上も様々な知識を収集したが、今の科学ではコイツには到底追いつけない。
何かのカラクリがあったと思ったが……まさか、生まれる前からオーバーテクノロジーに関する知識を持った人間が存在するとは……」
「これで全部だ!!これ以上の事は何も知らない!!」
「なら、もう貴様は用済みだ」
「なっ!?」
必要な情報を手に入れたエルエルフは容赦する事無く、トルネロの額に弾丸を打ち込んだ。
彼は驚愕の表情を浮かべながら額に穴を開け、後方に脳漿を炸裂させた後、二度と起き上がる事はなかった。
「さて、そろそろ出てきたらどうだ?松田誠二」
「……何故、標的の尋問をしていた?」
エルエルフの声に応えるように物陰から姿を現す松田。
「何、革命機と大層な名前だったからスペックと俺から全てを奪った研究の発案者に関する情報の裏を取りたかっただけだ。
お前も見たのだろう?データベースにあった
「ナノマシンが投与されていない俺の体で、よくもまぁそこまで予測出来るな……。
実は予知能力者なんじゃないか?」
「そんなくだらないものと俺を一緒にするな。
で?お前の事だ、恐らく俺とお前の体を戻す情報を手に入れる為に非検体であるパイロットを確保したんだろ?」
「ああ、そうだ。
…殺すのか?」
「何をバカな……これほどの力が手に入るんだ。
非検体は擦り切れるまで、有効利用させてもらう」
「意外だな…適正のあるお前の体を持った俺を乗せようとはしないんだな」
「あの女は洗脳教育を施されている為、貴様と違って従順な兵器として活用できる。
そして…貴様を乗せようと考えないのは、ここで死んでもらうからだ」
先ほど、トルネロに打ち込んでいた拳銃をすぐに松田に向けて発砲を始めたエルエルフ。
エルエルフの行動に松田の体内に潜伏しているナノマシンが反応。
松田の意識レベルでは避けられない事からナノマシンによる強制回避が実行される。
「やはり、中身は欠陥品でも俺の体は厄介だな」
「何を考えているんだエルエルフ!!約束はどうした!?」
近くにあった研究機材の影に隠れながら銃を構える松田。
エルエルフは彼の言葉を聞いて鼻で嗤った。
「馬鹿かお前は。
お前はただの駒だ。
駒の命令に従うプレイヤーが居るのか?」
「そうか…なら、元の体に戻った後でお前が死ね!!」
「はっ!?この状況で元に戻る事にこだわるとは筋金入りのバカだな!」
この後、二人は言い合いを続けながら銃撃戦を開始。
戦闘経験から未来を予測し、殺しにかかるエルエルフ。
片や、自分の肉体の損傷を最小限にする事を目標にナノマシンによる強制回避でどんな銃撃も躱していく松田。
「いい加減に諦めたらどうだ!?」
「四年以上も待ったんだ!そう簡単にあきらめきれるか!!」
二人の持つ拳銃の弾丸が全て尽き、二人は武装をナイフに切り替えてじりじりと距離を詰める。
そして、二人がお互いを制圧する為に飛び掛かる。
「ようやく訪れた復讐の機会なんだ!!邪魔をするな!!!」
「それが本音か、クソガキ!!その為にあの子を殺すってか!?」
「そうだ!!他人がどうなろうと知った事か!!」
ナイフが一合一合、切り結ぶたびに飛び散る火花。
お互いの力が拮抗し、一進一退の攻防が繰り広げられる。
「ようやく、人間に戻れたんだ。
…復讐も俺の人生のやり直しも、誰にも邪魔をさせてたまるか!!」
「エルエルフ!!」
だが、二人の戦いに終わりがやって来る……。
エルエルフの肉体は四年間の厳しい訓練で兵士としてそれなりのものに仕上がった。
彼の戦闘経験や知識もあり、エルエルフは元の体とは格段に劣るものだが、一流の戦士として活動できる。
しかし、相手が悪かった。
周囲の情報を蓄積するナノマシンによる回避率の上昇。
ユーザーである松田の状況と作戦目的に合わせた攻撃の軌道。
何よりも、ナノマシンによって生態強化されたスタミナ。
逆にエルエルフは思考と肉体に疲労が蓄積され、判断を鈍らせていく。
次第に二人の実力の均衡が崩れ、エルエルフが押され始めた。
「俺は終われない!!終われないんだぁああああ!!」
「返してもらうぞ、俺の体を!!」
松田がエルエルフに出来た隙を狙って顔面に拳を振るい、エルエルフがバックステップによる威力軽減を測った瞬間。
「なぁ!?」
エルエルフは、床に落ちていた薬莢を踏んでしまい、そのまま机の角に頭部を打ち付ける形で倒れ込み。
……エルエルフはそのまま動かなくなった。
一方松田は、拳を振り切った体勢のまま、あまりにも酷い幕切れに呆気をとられて身動きが出来ないでいた。
そして、顔を真っ青にしてエルエルフに駆け寄った。
「おい!エルエルフ!!意識はあるか!?」
瞳が開いたまま、動かないエルエルフの襟首をつかんだ松田はエルエルフをぶん殴った。
「ふざけんなよ!!何、人の体で死のうとしてるんだ!!
死ぬんだったら入れ替わってから死ねよ!!」
その後、松田はエルエルフを力の限り罵倒し続けた。
沢山の涙を流し、人間体で容易に死んだエルエルフを妬んだ。
「畜生…何で俺がこんな……」
少女との銃撃戦で負った傷を見る松田。
そこにはあったのは、傷のない白い肌とうっすらと残った血の跡だけだった。
「畜生ぉぉおおお!!!」
――――。
どれくらい時間がたっただろうか?
松田はエルエルフの死体を眺めながらボーっとしていた。
そして、自分はこれからどうすればいいのだろうか?
家族や友人にはもう会えないのだろうか?
日本に帰る事が出来ないのだろうか?
俺はもう……一人なのだろうか?
答えの出ない思考のスパイラルに落ちた松田。
だが、最後の自身の思考が引っ掛かった。
本当に俺は一人なのだろうか?
もしかしたら俺以外にナノマシンを投与された人間が居るのではないだろうか?
非検体となっていた少女の存在を思い出し、死んだようになっていた彼の瞳に光が宿る。
もしかしたらこの思考は生命活動の停止を阻止する為にナノマシンが行った思考誘導なのかもしれない。
しかし、元の体に戻ると言う希望が絶たれた今、松田に生きる希望を与えるのは同じ苦しみを共有する事の出来る同胞の存在。
彼の希望は後ろ向きで、負け犬達の傷の舐め合いのようなものかもしれない
松田は同じ存在である少女をここから連れ出す事を決めた。
――――。
未だに眠ったままであった、少女を連れ出した彼はとんでもない脱出作戦を決行した。
そう、真紅の機体…ヴァルヴレイヴに搭乗し、この研究所の破壊と脱出だ。
ヴァルヴレイヴにコックピットに侵入した松田は少女を搭乗席の横に寝かせ、搭乗席に座り機体のメインシステムを起動させる。
すると、システムが起動したことにより座席から怪しい機械が出てきて、松田の首に針を打つ。
《生態適正…クリア》
《動力である情報原子を蓄積したナノマシンを確認……接続》
「っく。データベースで詳細なデータがなければ抵抗していた所だ。
作った奴はとんでもない悪趣味の変態野郎だな……。」
平坦な機械の案内音声がコックビットに鳴り響くと、作った技術者に悪態をつく松田。
それはそうだろう。
適正が有っても子供たちが壊れてしまった原因はこの機体の燃料にある。
半永久機関というだけあって素晴らしいスペックを誇る動力炉であるがその燃料は情報。
つまり、記憶。
植物人間になってしまった彼らは記憶のすべてを食われ、対策の為リミッターを付けて吸収される情報量を少なくしても、最終的には呼吸するだけの肉の塊にされたのだ。
故に研究者達は兵器を問題なく運用する為に必要な知識をウィスパードの少女から獲得し、ナノマシンを開発した。
完成したナノマシンは2種類。
反射神経や生態保護と修復を目的とした生態強化のナノマシン。
そして、ヴァルヴレイヴの動かす為に必要な燃料となる情報を二十四時間体制で蓄積するナノマシン。
このナノマシンによって非検体の五感から蓄積した膨大な情報データを非検体の記憶としてヴァルヴレイヴに与える。
それにより、ヴァルヴレイヴは非検体の記憶を貪る事なく無事に稼働させることに成功したのだ。
《パイロット登録を開始…お名前をどうぞ》
「…松田誠二」
《パイロット情報登録完了》
「ヴァルヴレイヴ…出るぞ」
ヴァルヴレイヴの各所から緑の光が灯った。
そして、機体は研究室の屋根を突き破り上空へと勢いよく飛び出した瞬間、研究所が爆発した。
松田が屋根を突き破った後、エルエルフが持っていた研究所に設置された爆弾の起爆装置を起動させたのだ。
「さて、これからどうしたものか……」
特殊な爆弾で瓦礫の山となった研究所をコックピットから眺めた後、松田は少女を見る。
「仮でもいいから名前がないと不便だよな……」
松田は少女に与えられたアルファベットと数字を思い出しながら考える。
そして、彼なりに考えた女の子っぽい名前を口にする。
「サキ…なんてどうだろうか?」
SK12だからさ行の一番目とか行の二番目の文字をくっつけただけの単純な名前。
松田は後で文句を言われたら、また考えればいいと思い機体を飛ばす。
紅い軌跡を描きながらヴァルヴレイヴは松田と少女を乗せて空を駆ける。