町を抜けて更に進んで行くと大きな橋がある。焼肉会の会場はその奥。唯一地上と繋がっている『大穴』と呼ばれる場所で行われる。小さな川が流れている上、風も通る事から焼肉会を行う時はいつもここで開かれている。
到着するともう皆が
勇儀「鬼助、遅くなってすまない。他は揃っているかい?」
鬼助「姐さん、おはようございます。もう皆揃っています。いつでもいけますよ」
準備は万全。後は私の開始の言葉を掛けるだけ。他の連中も私に気付くと酒を片手に注目し始め、私はその視線に大きな声で答えた。
勇儀「みんな! 毎日お疲れさん。それと、早い時間から準備をしてくれた者達には感謝している。どうもありがとう」
鬼助「姐さーん! 話長くなりますかー?」
勇儀「もう終わりだ! じゃあ、今日は楽しむぞー! うおおおーーー!!」
『うおおおーーー!!』
歓喜の雄叫びと共に聞こえて来る肉の焼く音。そして漂う空腹を刺激する香り。私の腹も我慢の限界だ。早く食べたい。けどその前に……。
勇儀「みんな! 今日は特別な参加者がいる。久しぶりの者も多いだろ。伊吹萃香だ」
萃香「みんな久しぶり~。元気にしてた~?」
『萃香さんっ!? お、お勤めご苦労様です!』
萃香が挨拶をすると多くの者が頭を下げ、丁寧に挨拶を返した。それもそのはず。彼女は私と同じく……。
鬼一「四天王が2人……だと……!?」
鬼二「勇儀姐さんだけならまだしも、 萃香さんもとなると……」
鬼三「間違いない。今日は死体の山が出来るぞ……」
鬼四「勇儀姐さんはダイキがいるんだから、あまり飲まないだろ?」
鬼五「いや、日頃の鬱憤をここで……という事も」
鬼六「御嬢の相手は鬼助にやらせろ!」
鬼七「あと萃香さんを誰が……」
あちらこちらから悲鳴にも似た絶望に満ちた声が聞こえて来る。
でも今日はそうならないから、安心して楽しんでくれていいぞ。 たぶん。おそらく。んー……、どうかな?
萃香「みんな~、今日は久しぶりに会ったんだ。楽しく飲もうよ~」
輝かしい笑顔で挨拶をして職場の仲間達へと近づいて行く友人。酒が好物で宴会事が大好きな彼女。だが、
『ひーーーーっ、助けてー!』
周りを巻き込む事で有名である。
嬉しそうに焼肉会に参加した友人を見送り、餌食になった者達を哀れんでいると、ダイキがいつも間にか姿を消している事に気が付いた。何処へ行ったのかと辺りを見回していると、
??「ほれ、どんどん焼くから食え、食え」
ダイ「ほいひー♪ バーベキュー大好き!」
近くでダイキの声が聞こえて来た。声のする方へ視線を移すと、直ぐそこで上司に肉を焼いてもらい、スゴイ勢いで平らげるダイキが。
勇儀「ごめんなさい。面倒を見てもらって」
上司「いいって、こういう時は無礼講だ。しかし、よく食べるな。家のガキはもういい歳だが、それよりも食うんじゃないか?」
勇儀「それについては、私も毎回驚かされます。特に蕎麦なんかは私と同じ量を食べます」
上司「そいつはスゴイな。大好物なんだな」
上司と2人で小さな人間の小僧の底知れぬ胃袋に感心していると、そいつはが首を横に振りながら予想外の事を言い出した。
ダイ「んーん、違うよ。蕎麦は3番目。1番好きなのはお肉。お肉はずっと食べられる」
勇儀「ウソだろ!? いつも以上に食べるのか!?」
ダイ「うん、それに朝ごはん食べてないから、その分も食べないと」
取り損ねた一食分をこの場でしっかりと補おうとするダイキに開いた口が
まずい…。肉はなかりの量を貰ってはいるが、これは早いうちに無くなってしまうかもしれない。何とかしてダイキの気を食べ物から反らさないと……。
考え抜いた末、
勇儀「そうだ、ダイキ。アレ何だか分かるか?」
大穴を指してダイキに尋ねた。興味を持ってくれるか否か、かなり苦しい。
ダイ「わー、大きな……穴? 入口? 出口?」
だが幸いにも興味を持ってくれたようだ。
勇儀「近くには川もあるんだ。見に行ってきたらどうだ?」
ダイキにそう告げると、「ちょっと行ってくる」と言い残し、喜んで大穴の方へと走って行った。危機は去った。これで私も暫く楽しめそうだ。
--鬼等宴会中--
ダイキが遊びに行ってくれたので、私は仲間達と肉を食べて酒を飲み、中身のない薄っぺらな話に笑いながら会を楽しんでいた。そして友人はと言うと、色々なところへ行ってはちょっかいを出し、必ず一人
連中からすると恐怖と迷惑の対象でしかないのかもしれないが、普段は地底にいない彼女からすれば仲間に会えるのがすごく久しぶりで、嬉しくて
萃香「あはははは〜。まだいけるだろ〜?」
鬼 「萃香さん、もうムリ…ッ!?」
萃香「ほれほれほれほれ~」
……程々にな。
??「ユーネェ! 友達できた! 連れて来ちゃった」
友人を遠目に見守っていると、背後からダイキの声が聞こえて来たので、振り向いてみると
??「やっほー。楽しそうで気になってたんだ」
パル「焼き肉、楽しそう、妬ましい」
??「フッフッフッ…ブツブツ」
金色の髪に茶色のリボンをした明るくて人懐っこい性格の蜘蛛の妖怪、黒谷ヤマメ。そして緑の髪を頭の上で二つに結び、いつも桶の中にいて危ない性格をした妖怪、キスメだ。
2人とも能力をもっており、キスメは『鬼火を落とす程度の能力』をヤマメは『病気を操る程度の能力』を持っている。特にヤマメの能力は厄介極まりない。
ダイキめ……、またとんでもないヤツ等を連れて来てくれたものだ。
ダイ「あっちに行ったら、パルパルとキスメーとヤマメーが3人で話しをしてたの」
笑顔で説明してくれるダイキだったが、その隣で
パル「私がいなかったらダイキ危なかった」
と聞き捨てならない事を呟く嫉妬妖怪。
勇儀「は? どういう事だい?」
眉間に皺を寄せて尋ねる私に、蜘蛛の妖怪は苦笑いで手を縦に振りながら答えた。
ヤマ「そんなー、大袈裟だよ。ちょっと悪戯しようとしただけだよ」
ポカッ!
ヤマ「あイタッ!」
勇儀「お前は何をしようとしたんだ!?」
ヤマ「いやいやぁ。そんな心配する様な事はしてないよ。それよりも勇儀、この子病気が効かない能力でもあるの?」
勇儀「いや、そういう物じゃないらしいぞ。でも、抗体はあるって診療所の爺さんが……。は? 何でそんな事を聞くんだい?」
ヤマ「そういう事か〜……。いや、挨拶ついでにちょっとリンゴ病とオタフクを……はっ!」
ボカッ!
ヤマ「イタタ〜……」
勇儀「お前さんダイキに能力使ったのか!? 何かあったらどうするんだよ!」
ヤマ「も、もうやらないよ。そういう事かぁ。でもそれなら、機会があれば今流行りのイ○フレ○ザA型を……いや、B型の方が……」
反省の色が見られない上、懲りていない。そんな彼女には
勇儀「どうやら除菌が必要な様だな」
「ボキボキ」と拳を鳴らしながら本気の威嚇。
ヤマ「しないしない! 何もしないから!」
パル「ヤマメはまだいい方。問題はあっち」
顎で「向こうを見ろ」と合図を送って来た嫉妬妖怪に従い視線を移すと、ダイキとキスメが何か話をしていた。その会話に耳を傾けてみると……。
キス「フッフッフッ……。お前の落とした死体はこれかい?」
ダイ「わっ! ガイコツだ。どこから出したの?」
キス「フッフッフッ……。お前もこうしてやろうか?」
ダイ「ねー、なんでそこから出ないの?」
キス「フッフッフッ……。首を刈ってやろうか?」
ダイ「僕もそこ入っていい?」
なんだアレ? 見事に噛み合っていない。
パル「一応言っておくけど、キスメは本気だよ。それなのにダイキの方が興味持っちゃって……。私が事情を話さなかったら今頃は……」
勇儀「パルスィありがとう。助かった」
なぜだろう。この時だけパルスィが一番まともに見える。
勇儀「キスメ、もしダイキに手を出したら、その桶を粉々にするからな」
キス「フッフッフッ……。小僧、命拾いをしたな」
勇儀「ダイキもこっちに来て食べよう。さっきとは違う肉だぞ」
ダイ「やったー、お腹ぺこぺこだ」
ヤマ「美味しー。すでに頂いてまーす」
パル「先に食べてるとか妬ましい」
キス「フッフッフッ……。肉、くださぃ」
ちょっと(?)変わった3人の妖怪を新たに加え、会は更に賑やかになっていく。
黒谷ヤマメとキスメが登場です。