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親父「へへ…、お前の娘の方がしっかりしてるじゃ
ねぇの」
眉間に皺を寄せた余裕の無い表情で、依然として起き上がらない大きな存在に声を掛ける。
親父「ま、家の娘の方が小さくて
親方「…」
だが、言葉は返ってこなかった。
大きく深呼吸をしながら何気なく周囲へと目をやれば、彼の親友を心配そうに見つめる大勢の観客達。町の統治者達とゲストも同様の眼差しで見つめていた。そして、
親父「おい、
同じ血が通っている者とは思えぬ発言。まさに鬼。
彼のこの発言に、場内からは大ブーイング。一時はヒーローとまでになった彼の株価は急暴落したのだ。とそんな中、
親方「ガッハハハ!やっぱりバレていたか」
大笑いしながら起き上がるチャンピオン。
親父「お前の三文芝居なんてお見通しなんだよ」
彼はそれをお馴染みのポーズで見下しながら迎えた。
親方「伊吹よ…、お前がそれを言うか?」
親父「うるせぇな…」
「まだまだ大丈夫」と余裕の表情を浮かべ、「フッフッフッ…」と桶姫の様に不適に笑い合う2人。だがそれは見栄であり、強がり。両者とも共に限界が近かった。一方は重なる重いダメージのため。そしてもう一方は…。
親方「何が衰えているだよ。全盛期より長いんじゃ
ないか?」
親父「…その代わり頭痛が酷いけどな」
親方「アレは効いたな…」
親父「確かに…。でもお陰で今なら記録更新出来る
かもな」
親方「は?」
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鳴り止まない拍手。それらは全て傷付き、倒れていた者への後押し。そしてそれに答える様に、いつもの高笑いをしながら起き上がる父さん。
心底ホッとした。けどあのダメージ量、余裕なんてものは一切無いだろう。それは親友の親父さんもしかり…。お互いがそれを隠す様に、覚られない様に笑みを浮かべ、言葉を交わしていた。きっとコレがこの試合最後の会話になる。2人の笑みの奥に潜む闘志がそれを予感させていた。
そして、幕上がった。最初に動いたのは親父さん。能力を使い、みるみる体を巨大化させていく。父さんと同じ大きさへ、その倍へ、更にその倍へ。だが彼は、まだ止まらない。
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やっと巨大化を終えた時、彼の頭は天井スレスレの所にあった。そして休む間も無く、その体格から放たれた一撃は、ただの踏み込み。いや、全体重を乗せた踏み
相手はいち早く危険を察知し、その場から移動して一撃目を躱すも、巨大な足が起こす振動に足を取られた。それを彼は見逃すはずがない。
追撃。再び放った踏み潰しは、見事相手を捕らえた。
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捕まった。そう覚った時にはもう成す術なし。
一撃目を躱す事に成功した彼だったが、二度目は無かった。崩れるバランスの中、咄嗟に体をダンゴムシの様に丸め、能力全開での最大防御。だが、それでも耐え難い破壊力の襲撃に、体が内側からミシミシと悲鳴を上げていた。
しかし攻撃の手は止まない。この一撃を皮切りに、浴びせられる踏み潰しのラッシュ。ズシーンッ、ズシーンッと音を立てて放たれる超重量の一踏み。その都度、土俵までもがビシビシと悶絶を始め、至る所に亀裂を生み出していた。
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想定外だった。それは話でしか聞いた事のないものだった。
今私の目に映る現実は、想像していた以上に巨大で、同族とは思えぬ程の凄味で、規格外。まさに恐怖の化身。バケモノ。私の倍はある父さんがもはや道端に転がる石ころ同然。「無理だ、こんなのに敵うはずがない」そう思った矢先だった。その一方的で残虐的な行為が始まったのは。それは『打撃』と呼ぶには生易しく、『攻撃』と呼ぶには
今まで堪えていられたけど、もう限界。このままじゃ父さんが…。でも今試合を止めたら、私は2人に生涯顔向けできないだろう。なぜなら、間違いなくこれが2人にとって最後の試合。この試合の目的が、過程が、結末が私の背に重く圧し掛かる。
己の気持ちとの葛藤に悩まされながら、「次父さんが意識を失ったら、試合を止める」そう心に誓い、震える体を抱きしめた。
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萃香「もう…いいでしょ?」
彼女の瞳から静かに流れ出したもの。それは心から溢れ出た一滴。
会場中の者が土俵へ視線を向ける中、彼女だけは遥か上を見つめていた。
萃香「どうしてそこまでするの?」
呟いてみるものの、土俵から放たれる大きな地響き音でかき消され、誰にも届く事はない。攻め続けられる者への慈悲。それもあるが、攻撃をしながら顔を
そして彼女はとうとう気付いた。それはこれまで小さな変化だった。近くで見守っていた彼女達でさえも気付けぬ程の。だが、彼が超巨大化したか事により、明らかな異常へと変化したのだ。
萃香「親父ッ!……に、……が!」
しかしその警告さえも、彼は地響きと共に踏み潰した。
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圧倒的、前代未聞、空前絶後。その信じられない大きさに、観客達でさえも恐怖を覚え始めていた。それはまさに怪獣。そしてその怪獣が仕掛ける猛攻は
見るも無残なその光景に、顔を覆い観戦を拒否し出していた。それは、彼女達も同じだった。いや、以上だった。
ヤマ「誰か止めてよ…」
パル「このままじゃお義父様が…」
キス「…笑えない」
防戦一方の者と深い関わりのある者達は、目を
お空「うつほ、怖くなってきた…」
お燐「勇儀さん達どうして止めないニャ!」
そうでない者でさえも、青ざめた表情を浮かべていた。民衆は絶句し、会場には巨大な足音だが響いていた。
??「じぃじーーーーーーーーーーーーーッ!!」
そこに突然響き渡る幼き声。それは静まり返る会場に木霊した。
大鬼「じぃじ頑張れーっ!」
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痛い…。重い…。苦しい…。ギリギリの意識の中、思い浮かぶのはその言葉だけ。だがそれでも止まぬ降り注ぐ壁にとうとう、
親方「(も、もう限界だ…)」
意識が遠のいて…
??「じぃじーッ!!」
その声は攻め続けられながらも、
大鬼「じぃじ頑張れーっ!」
掠れて行く景色の中でも、確かに彼に届いた。そしてそれに続く
??「親方様ーッ!」
??「お義理父様ーッ!」
??「フッ…頑張れー!」
??「負け
??「えっと…、ガンバー」
心からの応援。それは次第に数を増やしていき、会場中が彼への声援一色に染まった。そしてそれを「待ってました!」とでも言う様に、抜群のタイミングで
??「そーれ、おっやーかた♪おっやーかた♪」
音頭をとる若き鬼。その音頭に賛同する者は
『おっやーかた!おっやーかた!』
多数。今会場は空前の親方コールに包まれていた。
親方「う゛お゛お゛お゛お゛お゛ーーーーッ!!」
そして彼は立ち上がる。渾身の、全力の、最後の雄叫びを上げながら。
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足の裏に違和感。それはピンポイントで一点でのみ。彼が掛ける重力に反発する力だった。彼の足は今、地面につく事なく、下から押し上げられていた。更に、
『おっやーかた!おっやーかた!』
彼の耳にもはっきりと聴こえて来た親友への熱き応援。それもチラホラではない。全身で感じられる程の数。即ち満場一致。彼への応援は皆無。そんな中彼は今、
親父「(懐かしいな…)」
笑みを浮かべていた。それは一瞬の気の緩みだった。
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能力は常にON状態。その上での絶対防御。それでも耐え難い程の重い攻撃の連続だった。だが今彼はその暴力的攻撃を立膝をつき、背中と両手で受け止めていた。彼をそうさせるまでに働いたプラスの力。
それは愛する孫(仮)からの応援。
それは彼にとって究極の力。
それに加えて後押しの声援の数々。
親方「ぐうぅぅぅっ…」
耐える。ただひたすら彼は耐える。もう潰されぬ様に、その姿勢のまま耐え続ける。
そして、それが功を奏した。全身にのし掛かる重力が僅かながら和らいだのだ。絶好のチャンス。彼は力一杯押し返した。浮き上がる巨大な足。それは反撃の狼煙。そして幕を開ける彼の独走劇。
【一手目】
彼はまだ離れきれていない足裏目掛け、あの構えから直接掌底を放った。鬼の中でも力自慢。能力を使い倍化した力で放つ物理的掌底。そこに加わるは彼の秘技。
親方「『大江山颪ッ!』」
その力、一瞬ながらも鬼の歴史上最大の破壊力。巨大の爆発音と共に、彼から遠のく速度が加速する巨大な右足。
親方「(バランスを崩した)」
それは全貌が見えずとも明らか。彼は更に畳み掛ける。
【二手目】
足に力を込めて後を追う様に
だがここで左方から彼を鷲掴みしようと、彼の視界を覆う程の右手が迫っていた。
親方「(タイミングは際どい)」
それも普通に着地しては、確実に捕らえられてしまう程の距離までに。
そこで彼は一か八かの勝負。着地できるその距離に達した間合いで、勢いを殺さぬ様に両足で着地し、三度目の跳躍。加速した。
背後に感じる空を切る音と獲物を見失った右手の気配。彼は逃亡に成功したのだ。そして彼は次のターゲットへ一直線に飛んで行く。
親友のバランスを辛うじて保っているのは上半身。それを崩すのに最適な場所、そこは顎下。有効打は下から突き上げる様な攻撃。
彼は身を丸くし、最大防御の構えで引き気味になっている顎下へ体当たりを仕掛けた。が、効果は薄い。その威力は顎を少し浮かせる程度だった。
だがこれで充分だった。いや、
更にそこから彼は防御の構えを解くと、胸元に立って構えた。それは2度目の、連続での
親方「『大江山颪ッ!』」
究極破壊兵器を浮き上がった顎へ放った。と同時に走る激痛。更にミシミシ、ギシギシと音まで立てる始末。蓄積されて来たダメージの所為で、全身が強い衝撃に耐えられなくなり、悲鳴を上げ出したのだ。加えて能力も先程から常にON状態。心身共にボロボロだった。
だがそのおかげで大きな成果を得る事が出来た。彼の放った一撃は親友の頭を勢いよく持ち上げていた。そして降下を始める彼の足元。親友のベクトルが下へと向いたという証だった。
ドシーンッ!
大きな地響き。手に負えない超巨大なモンスターは…。
右足を下げ、踏み止まった。再び顎を引き、彼を巨大な目に映すと、睨みながらベクトルを前方へと戻し始める。が、彼はこの時次の、最後の攻撃へ向け動き出していた。
【三手目】
起き上がる、若しくは立ち上がろうとする者を制するには、反対方向のベクトルを加えればよい。だがそれを少量の力、例えば指一本でとなればどうだろう。出来るだろうか?答えは可。体の正中線上、その中でも最も有効な場所、額にそのベクトルを加えればよい。具体例として、座っている者の額に人差し指で押さえるこの時大きな力は不要。ただそれだけの事で人は立つ事ができない。
そう、この時の彼の狙いはまさに額。全身に受ける鋭い視線の中、そこを目掛けて飛び上がり、体内に残る全ての力を絞り出す。
能力、筋力、加速度、全体重、気力、そして彼を後押しする大勢の声援。その全てを右手に乗せ、全身全霊の駄目押しの究極破壊兵器。
親方「『大江山颪』ィーッ!!」
次回【三年後:鬼の祭_終幕】