畳まれていく物は少数。その原型を未だ保ってはいるものの、灯りは消され、陳列されていた品を片付けられ、主人もいなくなった屋台が大半を占める旧地獄街道。街中に吊るされた祭りの
現時刻はまもなくで、夜中と呼ばれる時間帯に差し掛かろうとしている。そんな中、灯台の様に一際明るい光を放ち、大勢の話し声が飛び交う、昔ながらの和風の屋敷が。そこでは盛大な後夜祭が開かれていた。
--鬼等宴会中--
??「がっははは!やっぱりこの組み合わせは
最強だ!」
襖の隙間から見えるその部屋では、戦利品を両手に抱えて誇らしげに高笑いをする父さんと、
??「そうなのか?コウ、後で飲ませておくれよ。
鬼助も飲んでみてぇだろ?」
鬼助「へい!是非頂きたいです!」
戦いに敗れたにも関わらず、嬉しそうにその様子を見つめる親友の親父さん。そしてその2人に話し相手兼、盛り上げ役兼、名誉ある生贄に選ばれた弟分が男臭い宴会を繰り広げていた。
そう、あの決闘の勝者は父さん。親友の親父さんが場外へと吹き飛ばされた時、土俵へと落下したのが幸いだった。決まり手は一応「突き出し」という事にはなっているが、あのスケールであのルール上では、そんな型にはまった名前では収められない。
2人の実力者の我儘から生まれた相撲
??「『大江山颪』ぃ〜」
??「だから違うって!親方様は右手だって
言ってるだろっ!!」
先程から隣の部屋でそれの『ごっこ遊び』に勤しむ2人の子供達。代わる代わる役を演じて楽しんでいる様だが、その回数は私が記憶している限りでも、5回は繰り返されている。
そして
大鬼「左利きなんだからしょうがないでしょ!」
カズ「そしたら俺が全部反対の動きをしなきゃ
ならなくなるだろ!」
目を離せばすぐコレだ。でも今日は、
??「2人共喧嘩しない!」
最強の監視役がいる。いや、来て頂いた。
??「大鬼君、確かに親方様は右手だったよ。
それで腰はもっと落として。そうそう。
カズキはその位置じゃないでしょ!」
まさかの忠実再現を始める「お母ちゃん」さん。「最後くらいはゆっくり楽しみな」と言われ「ならば」と素直に甘える事にして、大鬼の事をお願いしている。でも…。
お母「はい、そこから。よーい…。スタートッ!」
ああいう事に
鬼監督が加わり、クオリティが上がっていく『ごっこ遊び』。それを「まぁ頑張りな」と哀れみを込めた視線で見守っていると、
『あはははは、ほらやっぱりぃ~』
すぐ側で上がる黄色い笑い声。
勇儀「ん?何の話だい?」
何を隠そう私達は今、この男子禁制の空間で絶賛女子会中なのだ。
ヤマ「えー、聞いてなかったの?」
萃香「もう言わないからね!」
顔を赤くして外方を向く親友。その様子から察するに、彼女絡みの話なのは間違いないのだろうけど…。
勇儀「じゃあ、ヒントくらいおくれよ」
萃香「イヤッ!」
断られた。こうも頑なに断られると、余計に気になるのが性。「さて、どうしたものか」と腕を組んで作戦を練っていると、
ヤマ「ヒント1〜」
ヤマメからの援護射撃。味方ができた。そしてそれに続く様に、
お空「お父さん!」
我先にと口火を切る地霊殿の鴉。
萃香「ちょちょちょっとぉっ!?」
キス「
お燐「小さい頃の~…ニャ」
まさかの展開に慌て出す親友を他所に、更なる援護射撃。これはありがたい。すると親友は、
萃香「も、もうね…。その辺で…」
「それ以上はいけない」と流れを止めに来た。
だが萃香よ。この流れ…、そんなもので止まる訳がないだろ。
パル「ヒント3」
さと「『夢』ですね」
そして彼女の味方は誰もいなくなった。
与えられた3つのヒントを基に、私は固い頭をフル回転させる。「お父さん」「小さい頃」「夢」。これから連想される事…。
萃香「わ、分かった?」
勇儀「ダメだ…。全然分からない。
もう少しヒントおくれよ」
今はみんな私の味方だ。もう一つくらいは…。
『ダーメ』
満場一致。全員寝返った。否、初めから私の味方をしていた訳ではない。この状況を純粋に楽しんでいただけだ。
萃香「良かった〜」
「助かった」とため息と共に胸をなで下ろす親友。そしてニコニコと私を見つめる一同。きっと腹の中では、「考えろ考えろ」と
勇儀「うーん…」
腕を組んでも、唸ってみても、皆目検討がつかない。「何か決定打が欲しい」そう思っていた。
??「お嫁さん♪」
そこへ突然聞こえて来た声に、全身に鳥肌が立った。
勇儀「誰だっ!?」
聞いた事の無い声に体は一気に戦闘モードへ。だがその直後、
『こいし様!?』
さと「こいし?いるの?」
「こいし、こいし」と声を発する地霊殿組。何の事だか分からず、私の頭は「?」だらけ。
さと「隠れてないで、ちゃんとご挨拶しなさい」
さとり嬢がそう言い終えた途端、
??「
ゾクリ…
背後から殺気。慌てて退きながら振り向いた。
そこには
勇儀「え?」
誰もいなかった。「でも確かに今声が…」そう思った矢先だった。
??「やっはー♪」
『わーっ!!』
お燐「こいし様いらしてたんですかニャ」
お空「もう、びっくりさせないで下さいよ」
私の真後ろ、さっきまでは正面だった方面が騒がしくなったのは。再び視線を背後へ戻すと、そこにはさとり嬢と似たような格好をした緑色の髪の女が、笑顔で両手を上げてポーズを取っていた。
突然現れた人物に平然としているのは地霊殿組だけ。他の連中は
ポカーン…
だ。
さと「突然で申し訳ありません。やっと捕まえる事
ができました。私の妹の…」
こい「古明地こいしだよー♪」
時が止まった。そんな気がした。
『えーーーっ!?』
ヤマ「さとりちゃんの妹!?」
萃香「姉妹いたんだ」
パル「気配が無かった…」
さと「それがこの子の能力でして…」
こい「無意識を操るんだよ♪」
勇儀「どういう事だい?」
さと「早い話がパルスィさんが言われていた様に、
気配を消すんです」
こい「違うよ、気付かれない様にしてるんだよ♪」
「なるほど」と納得した。それでさっき私が気付かない間に2度も背後を取ったんだ。でもその時に感じたアレは…。コイツ、見た目によらず相当な実力者だ。
キス「フッフッフッ…、アサシンか…」
パル「その能力があれば…」ブツブツ…
ヤツが顎に拳を当てて呟き始めた。その内容は大方予想出来ている。それはヤツが次に放つ言葉で答え合わせできる。
パル「妬ましい!」
やっぱりか。絶対今よからぬ事を考えていただろ?
それはそれとして、驚かされてばかりいるさとり嬢の妹君には、
ガッ!(こいしの服を掴む音)
こい「へ?」
お燐「ニャッ!?」
さと「え?勇儀さんまさか…」
萃香「ちょちょちょちょっと勇儀!?」
ヤマ「勇儀落ち着いて!」
キス「フッフッフッ…、来るか?」
パル「このパターンは!?」
お空「なになに?」
一度御退場願おう。
勇儀「土足厳禁!」
こい「はーい♪」
私に首根っこを掴まれて宙ぶらりんになりながらも、両手を上げて底なしの明るい笑顔で返事をする妹君。楽しそうで何より。
そんな彼女に「姉とは随分とタイプが違うな」と頬を掻きながら眺めていると、
『ふ〜〜〜…』
ドッとため息が湧き上がった。お前さん達、今何と勘違いしたんだ?
--妹君郵送中--
こい「お姉ちゃん凄いね♪頑張ってね♪」
さと「うん…。ちゃんと出来るか自信ないけど…」
決闘が終わった直後にあった母さんからの緊急発表。それは私を含め、町の住人達に衝撃を与え、会場中をざわつかせた。その時深い理由は語られなかったけど、あの母さんが後任に選んだんだ。きっと大丈夫、
こい「お姉ちゃんなら大丈夫だよ♪」
さと「こいしがそう言うなら…」
お空「さとり様、ガンバっ!」
さと「お空、ありがとう」
キス「フッフッフッ…、ではこの際に妖怪にも
稼ぎのいい仕事への参加を…」
さと「あ、はい。それは常々感じていたので、
前向きに検討し、改善を…」
萃香「みんなに町の掃除する様に言ってよ。
祭のゴミじゃないのも沢山あったんだから」
さと「そうなんですか?では最低月に一度、
全員参加の町内清掃を…」
パル「是非年に一度の妬み祭りを」
さと「えっと、それは…。検討致します…」
ヤマ「もう気軽にお茶会出来なくなるかな?」
さと「いえ、そんな事にはさせません!
あれは私の楽しみなんです!」
お燐「でも気軽に大鬼君と遊べ
だからアタイが〜」
さと「ん゛っ?」
萃香「あ゛っ?」
お燐「ニャッ?」
なのか?腰は低いし大鬼の事になると直ぐコレだし…。母さんみたいに皆を率いていくタイプじゃないと思うのだけど…。
などと不安を抱きつつ、手にした酒を飲んでいると、妹君と偶然視線が合った。すると彼女は口元を緩めて笑顔を浮かべると、
こい「鬼さん凄い力だったねー♪」
勇儀「ブーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
突然私の真横に現れて腕をペタペタと触り出し、私は驚きのあまり口に含んでいた物を吹き出してしまった。しかもその吹き出した先が、
うっとり♡
ヤツ。
勇儀「パルスィ悪い。酒臭くなっちまうな。
今風呂と着替えを用意するから」
一応形式的に言ってはみるが、
パル「イヤ♡」
そう来ると思った。それと頬を赤らめるな!その頬に手を当てて恥じらうな!!私の気遣いを断るな!!!
勇儀「どうしても?」
パル「イヤ♡」
ヤマ「ラーメンだけじゃ?」
パル「イヤ♡」
キス「餃子も付けなきゃ?」
パル「イヤ♡」
なるほど、じゃあ仕方がない。
ガッ!(パルスィの服を掴む音)
パル「パッ!?」
照準、パルスィの家方面。打ち上げ角度、30度。力、もちろん全力!
『あー、やっぱり』
勇儀「着替えて出直して来ーーーいッ!!」
パル「ルううううぅぅぅぅぁぁぁぁ。。。…☆」
私がパルスィを投球した直後、ヤマメとキスメが耳に手を当て、外の様子を伺いだした。「何をしているんだ?」と首を傾げていると。
ヤマ「うーん、音がしなかったから、
今のはいつも通りだね」
キス「フッフッフッ…。勇儀よ、手を抜いたか?」
勇儀「いや、全力だ!」
ヤマ「私はてっきりまたパルスィが…」
キス「フッフッフッ…。あの力を見せられてはな」
そう言う事か。確かにあの時の力であればヤツは今頃「壁ドン」だっただろう。「でもアレは…」等と考え事をしていると、
ツンツン
不意に腕を突かれた。そちらに視線を向けると、
キラキラキラキラ☆
眩しい視線で訴えてくる妹君が。謎の反応に私が「なんだ?」と首を傾げている中、
萃香「アレ凄い力だったよ。あの大きさの親父を
片手で『ポイッ』だもん」
お燐「あの時はありがとうございましたニャ」
お空「うつほもびっくりだった」
さと「ヘカーティア様も言われておりました。
『あの力は神様をも脅かす力だよ』と。
腕相撲だったらヘカーティア様でも勝てない
かもって」
ヤマ「きっとそれが勇儀の能力なんだよ」
キス「フッフッフッ…。開花おめでとう」
口々に私を称賛していく者達。でも私は複雑な気持ちだった。なぜなら、
勇儀「たぶん、能力じゃないと思う」
『えっ?』
勇儀「あの時の力、もう出せないんだ」
そう、あの時感じた体の内側から湧き上がる不思議な力が、今では踏ん張ってみても、力んでみても再現しないのだ。だから私はこう結論付けた。
勇儀「あれはきっと『火事場の馬鹿力』だ!」
この言葉に皆が腕を組んで唸り出してしまった。それは「そうなのかも知れないし、違うかも知れない」と、半信半疑な気持ちを表していた。
と、そこへ、
??「ユーネェ、今いい?」
男子禁制の秘密の花園に侵入とする者が。
一気にいこうと思いましたが、
諸事情により分けさせて頂きました。
次回【三年後:鬼の祭_後夜祭(中)】