ここは冥界、白玉楼。今日も朝からノルマを達成すべく刀を構える少女が一人。
カチャッ ∥ザッ
ヒュッ ∥ブンッ
ヒュッ! ∥ブンッ!
妖夢「あの…、先程から
海斗「みょんのマネ」
と手にした箒を振り回すヲタク。そして2人の会話は徐々に文字数が減っていき、
妖夢「何故?」
海斗「暇」
とうとう一文字に。
妖夢「鍛錬に集中できないので、
あっちでやってもらえませんか?」
庭の隅を指差し「向こうへ行け」と命令する白髪のおかっぱ頭。しかし、ヲタクはキリッとした表情でそれを全力で拒否した。
海斗「だが断る!それじゃあ見えないじゃーん」
妖夢「これは真剣なんです!
もし当たったりしたら大怪我しますよ!」
そう、彼女が持っているのは、切れ味抜群の日本刀。彼女がその気になれば、剣圧だけで岩をも切り裂く程の切れ味を誇る。それを振り回している最中に近くにいられては、稽古に身が入らない上、気が気ではない。彼女は、お調子者の事を彼女なりに気を付かって言ったのだ。とそこへ。
幽々「あらあら。それなら、みょんちゃんが模擬刀
にしてあげたら?」
いつも通りの穏やかな口調で、お気に入りの扇子を広げ、口元を隠しながら登場する主人。彼女からの提案に「味方ができた」と喜ぶヲタクだったが、
妖夢「えー…、あれ調子出ないんですよ…」
世話係は酷く嫌そうな表情を浮かべた。だがそんな彼女には「お構いなし」とでも言う様に、主人は更にもう一つ提案をした。
幽々「海斗ちゃん、剣術に興味あるみたいだし、
教えてあげたら?」
海斗「やた!みょん教えて!」
彼としては剣術を教わるまたとないチャンス。しかも師となるのは、あの『剣術を扱う程度の能力』の魂魄妖夢。剣のスペシャリストである。ここは頭を下げてでも、弟子入りをお願いしたいところではあるが、
妖夢「えー…」
その師匠は先程以上に嫌そうな表情をしていた。
――ヲタク懇願中――
お調子者がしつこく、ねちっこく、妖夢に頭を下げ続けた結果、彼女は不本意ながらも渋々それを承知した。彼の粘り勝ちである。
何とか弟子入りを果たした彼だったが、「初心者にいきなり真剣は危険」という事で、しばらくは模擬刀での訓練となった。
妖夢「では、先ず初めに…」
刀を持つ前に『剣術の心得』を伝授しようとする師匠。
剣術のみならず武道はまず『心得』である。心得を知らぬ入門したばかりの弟子に、教えを説こうとする師匠であったが、
海斗「あっ、その前にさ、アレやって」
その弟子からの謎の要望。
妖夢「アレ?」
『アレ』と言われ何の事だか分からず、真顔で首を傾げる師匠。「ドレ?」と聞き返そうとした時…。
海斗「妖怪が鍛えたこの
妖夢「うぐっ、やりませんよ」
弟子からのリクエストに赤面し、後退りをする師匠。「そんな事まで知っているのか」と驚きを隠せずにいた。
幽々「斬れぬものなど~?」
そこへ笑顔の主人からの追撃。
妖夢「やりませんって!」
強く否定するも、
『斬れぬものなど~?』
その
『斬れぬものなど~?』
そして…、
『斬れぬものなど~?』
とうとう…、
『斬れぬものなど~?』
妖夢「あんまり無い!」
軸足を踏み込むと同時に両手の模擬刀でいつもの構え。彼女の決めポーズと共に、その言葉は放たれた。
『…』
風が通り過ぎる音だけが響き渡る白玉楼。
パチパチパチ…
やがて出遅れてパラパラと鳴る観客からの静かな拍手に、彼女は耳まで赤くしながら、歯を食いしばって、内から沸々と湧き上がる物に堪えていた。
妖夢「も、もういいですか……?」
海斗「うん、ありがとう。満足!」
幽々「ふふ、久しぶりに見たわね」
彼女の代名詞ともいえる名台詞が聞けて、ご満悦な観客達。
彼女はそそくさと、そのポーズを解いて大きくため息をすると、わがままな入門生のために心得の伝授をすることにした。
海斗「ねえねえみょん、また今度やって」
妖夢「絶対にイヤですッ!」
--ヲタク学習中--
おかっぱ頭が教えを説いている間、弟子は彼女をじっと見つめ、終始無言でその言葉に耳を傾けていた。彼らしくない真面目な姿勢に、彼女は「剣術に強い興味があるのだろう」と、心得の伝授を早めに切り上げ、型と構えの伝授へと移ることにしたのだった。
妖夢「それでは構えの伝授に入ります。
ここに3本の模擬刀があるので、
お好きな物を選んでください」
彼女は用意した3本の模擬刀を「1本だけ選べ」という意味で彼に差し出した。だが彼はその3本全てを手に取ると、
海斗「
やりやがった。
妖夢「刀を一本口に咥えただけじゃないですか。
そんなの役に立ちません!」
海斗「
妖夢「は?」
海斗「
妖夢「…」
海斗「
妖夢「もう何を言いたいのか分かりません!」
「いい加減にしろ」と言わんばかりの口調に、お調子者は口で構えた模擬刀を外すと、
海斗「つまりは男の心意気なんだよ」
と言葉を残し、己の言葉の余韻に浸りながら、2度頷いた。
妖夢「ああそうですか…」
海斗「そんなに怒らないでよ。ほら、刀」
妖夢「それ今あなたが咥えていたヤツじゃないです
か!そっちの2本にして下さい!」
――ヲタク稽古中――
師を正面に見よう見真似で同じポーズを取るヲタク。時折、師が近づいて彼の姿勢を微調整し、正しい形へと導いていた。最初こそ頻繁に型を直させられていた彼だったが、その持ち前の運動神経とセンスの良さから、彼女が口を挟む回数が瞬く間に減っていった。
そして、
妖夢「筋はなかなか良いと思います」
師からのお褒めの言葉が。
海斗「マジ!?」
妖夢「海斗さんも日々稽古を積めば、
そこそこの実力になると思います」
海斗「どれくらいでみょんの相手になれるかな?」
「見込みがある」剣術の達人である彼女からのその勿体無いお言葉に、彼の心は舞い上がり、勢いそのままに、何気なく彼女に尋ねていた。
妖夢「え?」
しかしその言葉がきっかけで、彼女の表情はこの時曇り始めていた。
幽々「ふふ、海斗ちゃんはみょんちゃんと
勝負をしたいのかしら?」
海斗「ちょっと違いますね。一人の稽古は退屈そう
だから、練習相手にでもなれればと…」
笑いながら主人に話すお調子者。だがこれは戯れ言ではなく、彼の本心。
妖夢「バカにしないでください!」
しかしそれは不覚にも彼の逆鱗に触れていた。
妖夢「私は今までずっと剣の道を歩んできて、
毎日鍛錬をしているんです!
今日剣を始めたばかりのあなたが、
私の相手を務められる日が来るなんて、
絶対にありえません!」
プライドだった。
剣の道一筋だった彼女にとって、剣術こそが彼女の存在価値であり、アイデンティティ。長年の鍛錬があるからこそ、
それを初心者である彼は「追いついてみせる」あわよくば「超えてみせる」とも解釈できる言葉を放った。彼女自身も「そうではないだろう」とは心の底では感じていた。しかし万が一にも、その様な事があれば彼女のこれまでは…。
足元へ視線を落として
幽々「みょんちゃん、それはちょっと言い過ぎよ」
優しく注意した。
海斗「…いえ、いいんです」
お調子者の彼もまた、足元へ視線を落とし、項垂れていた。
ドンヨリとした空気に包まれる白玉楼。時刻は朝と昼の調度真ん中。そしてこのタイミングで鳴る
グ~~~…
腹の音。
『え?』
視線は自然とその出所へと集まる。
幽々「なんかお腹空いちゃった。
みょんちゃん、お昼ご飯にしましょ」
妖夢「もうですか?さっき朝ごはん食べたばかり
ですよ?」
主人の申し出でに「まだ早いのでは?」と尋ねてみるが、
幽々「おーなーか、すーいーたーのー。
た―べーたーいーのー」
その主人は腕をぶらつかせながら地団駄。それは「待て」がイヤで駄々をこねる子供そのもの。
妖夢「もー…。分かりましたよ。
でも夕飯はいつもと同じ時間ですよ?」
幽々「は~い。よろしくね〜」
ため息を吐いて台所へと歩き出す世話係を、主人が笑顔で手を振りながら見送る。その光景に、この世界の予備知識を持つ者は、苦笑いを浮かべて
海斗「(マジでもう食べるの?)」
と、想像を超える大食主人に距離を置き始めていた。
幽々「海斗ちゃんもお腹空いたでしょ?」
海斗「いやー…まだちょっと…」
幽々「そうなの?体調良くないの?」」
海斗「いや、そういう事では…」
――ヲタク昼食中――
早めの昼食、それはそれは静かなものだった。庭師もお調子者も言葉を発せず、自身に割り振られた料理を黙々と食べていた。
そして、食事後。縁側には湯気の立つ湯飲みを持って庭先を見つめる2つの影。
ズズー…。
幽々「はぁ~。お茶が美味し~」
まったりとしていた。だがそれは主人だけ。彼女の隣に座っているお調子者は、
海斗「…」
呆然と猫背で上空を見つめ、柄にもなく落ち込んでいた。そんな彼の様子に主人は、再び湯飲みに口を付けてお茶を
幽々「海斗ちゃん。これから私とデートしない?」
正式なお誘い。否、爆弾発言。となればお調子者、
海斗「よっしゃーーーーーーーーーーーーっ!!」
大声で大歓喜。ご機嫌は鰻上り。その変化角、まさに178度。
海斗「えっ?えっ?えっ?嘘じゃないですよね?
聞き間違いじゃないですよね?」
それが現実である事を念のため確認するお調子者。
幽々「ふふふ、本当よ。楽しみましょ」
そしてそれにキラキラの笑顔で答える主人。そう、今彼の身に起きている事は紛れもなく現実。この幸福極まりない現実に彼は思う。
海斗「(幽々子様ルートきたーーーーっ!)」
と。彼は自然と立ち上がり、両手の拳を高々と突き上げ、勝利のガッツポーズを取っていた。
??「あの…、どうかされましたか?」
と、そこへ食後の片付けを終えた庭師兼世話係が、首を傾げながらやって来た。
幽々「みょんちゃん調度いいとことに来たわね。
今日の夕御飯は何かしら?」
妖夢「もう夕飯の話ですか!?それは流石に…」
早めの昼食を食べたばかりだと言うのにも関わらず、もう次の食事の事を考え始めている大食女に、驚きを隠せず後退りをする世話係。すると主人は両手を顔の前でパンッと叩くと、
幽々「それじゃあ私が好きな物を買って来てもいい
かしら?」
明るい表情で意外な提案をした。そう彼女はここ白玉楼の主人であり、買い物等は世話係である白髪おかっぱ頭の仕事だった。
妖夢「構いませんが…。本当に幽々子様が直々に
行かれるのですか?」
故に何かの聞き間違いではないかと、改めて確認する事になる。
幽々「ええ、お散歩がてらに行ってくるわ。
それじゃあ海斗ちゃん、行きましょ」
海斗「はーーーい!」
妖夢「え?えええぇぇぇッ!?」
それもお調子者というオプション付きで。もう彼女の頭は理解が追いつかず、やがて脳内は髪の毛と同じ色に。そんな呆然と
幽々「それじゃあみょんちゃんお留守番お願いね」
笑顔で手を振りながら、オプションを連れて長い階段を下って行った。
--ヲタク移動中--
人里に到着した2人。その主な目的は「デート」。だが2人の間はデートと呼ぶにはほど遠い距離。笑顔で道を行く白玉楼の主人を、お調子者がただ無言で付いて行く。その図は、
幽々「あっ、いっけな~い」
主人が声を出して立ち止まった。すると彼の左側へと移動し、
幽々「えいっ」
その腕へ大きな幸せ袋を押し付ける様に飛び付いた。
幽々「ふふふ、デートだったわね♡」
彼の肩へと頭を寄せるというサービス付きで。
その図は、
と、鼻から忠誠心をマスタースパークしているかと思いきや、
カチッ…,、コチッ…ガチガチッ
パーフェクトフリーズ。
白髪のおかっぱ頭には「嫁にならない?」と言い、主人へは豊満な胸元へ進んでダイブをするお調子者。黙っていれば爽やかな好青年のお調子者。周囲の女性を見た目のみで魅了するお調子者。そんな彼の実態は
意外な反応を見せたお調子者に主人は、
幽々「あら?あらららら?」
困惑。と同時に、
幽々「か、か、か可愛いーーー」
この
そして抱きつく腕に少し力を加え、擦り寄る様に更に密着度を高め始めた。
他の者から見れば「道のど真ん中でイチャつくな!」と、爆破予告も来るであろう状況だが、
海斗「あああの、ゆゆゆゆ幽々っ子さままま」
幽々「ん~?」
海斗「いいいいいろいろとままままずいです。
は、離れてはももっもらませーか?」
お調子者にとっては耐え難い状況。
抱きしめられた腕は動く事を許されず、更には密着度が上がった事により、手首の角度を90度にして、折り畳み続けなければならない始末。ましてや、その変わった性格であるが故、身動きすらできない。
そんな彼の危機的状況を知ってか知らずか、主人は
幽々「ダーメ。甘味処まではこ・の・ま・ま♡」
と色気を覗かせながら、お調子者の耳元で
海斗「ひゃいっ!?」
と奇声を上げると、主人に腕を掴まれたまま、ゴールを目指して全速力でスタートを切った。
幽々「はや~い。でも海斗ちゃん、せっかくの
デートなんだから、もっとゆっくり…」
海斗「腕が限界!!」
――ヲタク逃走中――
幽々「ん~♡やっぱりここで食べるお団子は格別
ね」
店先に置かれた席に腰を掛け、温かい日本茶と共に甘味に舌鼓を打つ2人。デートと言えばカフェでお茶。定番のコースである。ここはお調子者が、以前庭師と共に訪れた店でもある。
海斗「こういうのって雰囲気が大事なんだよなぁ」
お調子者、7割くらい復活。
幽々「あら、気が合うわね。海斗ちゃんがお望みな
ら、また一緒にいかが?」
海斗「いいですね、でも今度は俺にリードさせてく
ださいよ」
幽々「ふふ、なら期待しちゃおうかしら」
お調子者、9割くらい復活。
その後も柔らかく通り過ぎる風に、少し肌寒さを覚えながらも、何気ない会話で心と体を温めていく2人。暫く彼等は時を忘れ、話に夢中になっていた。
そして、湯呑みのお茶が猫舌の者でも、一気に飲み干せる程の温度になった頃、主人は瞳を閉じて語りだした。
幽々「海斗ちゃん、ごめんなさいね」
海斗「何がですか?」
幽々「今朝の、みょんちゃんの事」
彼女のこの言葉にお調子者、4割くらいまで凹む。更に表情はどんどん暗くなっていき、
俯いてしまう始末。
海斗「いえ…、自分も…」
彼が塞ぎこんで反省の色を全面に出しながら、そこまで語った時、
幽々「ううん、そうじゃないの」
彼女は首を横に振った後、微笑みながら柔らかい口調で、更に続けて語り出した。
幽々「稽古はいつも一人、剣の事で話せる友達もい
ない。『練習相手になりたい』って言って
くれたのは、海斗ちゃんが初めてよ。
だから本当はみょんちゃん、凄く嬉しかった
はずよ。でも、あんな性格でしょ?
きっと素直になれなかったのよ」
長年共に暮らしていた彼女だからこそ、気付いている庭師の本音。それを「誤解しないで汲み取って欲しい」と丁寧に語るも、
海斗「なるほど、ツンデレというわけですね」
このヲタク、一言でまとめた。
幽々「ふふ、そうなるかしら?仲直りできそう?」
海斗「はい!任せてください!!
こういう事は色々なシミュレーションツール
で体験済みなんです!」
更には主人の真面目な依頼に、得意気に胸を叩いて答える始末。
だがそんなふざけたお調子者にも、微笑ながら「よろしくね」と伝える彼女。その笑顔は母性に満ち溢れ、彼の目を釘付けにしていた。すると彼はその笑顔に導かれる様に、あの言葉を放っていた。
海斗「嫁になりません?」
この言葉に彼女は目を丸くした。それもそのはず、何の前振りもなく求婚されたのだから。答えも当然…。
幽々「ふふ、いいわよ」
海斗「えーーーっ!?いいの?え?マジで!?」
まさかの回答にうろたえ出すお調子者。「これは夢ではないか」と頬を強く
海斗「い、痛てぇ…」
である。そしてようやく落ち着いたところで、主へと視線を戻すと、彼女は心を照らす笑顔で答えた。
幽々「本当よ。海斗ちゃんだったら良かな?って」
海斗「いよっしゃーーーーーーーーっ!!!!!」
ヲタク、夢が叶い大興奮。その場で拳を握りって万歳、勝利のポーズである。これで彼の「嫁捕獲作戦」は…。
幽々「でもね?」
と思いきや、主人は逆接の接続詞を呟くと、お気に入りの扇子で口元を覆い、子供をからかう様に語り出した。
幽々「旦那様になるなら、私を残して先に成仏され
たくないかな~。だからって私に手を掛けさ
せるなんて事、させて欲しくないわね〜」
彼は知っていた。彼女の能力を、彼女がどういう存在であるかを。
彼女は決して成仏する事ができない者。そしてその能力は、『死を操る程度の能力』。この能力で殺された者は成仏する事できない。だがそれは「やりたくない」と言う理由でNG。
故にこの言葉は遠回しのお断りサイン。でも不思議と
海斗「(やっぱりこの人には敵わないな)」
と。と同時に、ため息を吐いて笑顔を作り、
海斗「じゃあ、幽々子様を悲しませたくないので、
諦めます」
幽々「そうね。それがいいかもね」
彼のこの回答は彼女の想定通り。「これで後腐れなく綺麗に終われる」と、安心していた。
海斗「で・も!」
だが彼は、
海斗「成仏するまではお
彼女の目の前で
幽々「ええ、宜しくね」
美しく咲く笑顔。
海斗「じゃあ、そろそろ買い物に行きましょう。
あまり遅くなるとみょんが心配しますし、
夕飯が遅くなります」
彼は立ち上がって主人にそう言葉を残すと、会計をするため店内へ。
その後ろ姿を主人は少し冷ややかな視線で見つめ、ポツリと呟いた。
幽々「困ったわね〜…」
開いた扇子でその言葉を隠す様にしながら。
--ヲタク買物中--
『ただいまー』
『デート』という名の夕飯のお使いを終えた2人。仲良く揃ってご帰宅である。
甘味処を出発してからは、また腕を掴まれる事も無く、終始リラックスしてお使いを楽しんでいた彼。だが、
妖夢「幽々子様!大丈夫でしたか!?
変な事されませんでしたかっ!?」
その言われようは散々である。
海斗「みょん、流石にそれは傷付くぜ…」
幽々「ふふ、大丈夫よ。それに私が誘ったんですも
の。多少何かあっても良かったんだけど〜」
妖夢「幽々子様!?」
幽々「ふふ、冗談。誘ったのは本当だけどね。
でもまさか海斗ちゃんが……ねー?」
含みのある言い方で、彼にニヤニヤと視線を送る主人。
妖夢「何かあったんですか?」
海斗「幽々子様、お願いします。どーか、
どーかそれだけはみょんにはぁ~…」
彼女が首を傾げて尋ねるも、彼は手をピクピクと
幽々「ふふ、そうね。2人だけの秘密ね」
妖夢「はー…、そうですか…」
こんな光景を見せられては、「気になります。教えて下さい」となるのが通常。だが彼女 は「あっそう」と
妖夢「それよりも何ですかこの量!?」
そこには大量の肉と魚とお惣菜が。
幽々「たまにはいいじゃない♡安くしてもらったん
だから」
妖夢「いったいいくら使われたのですかっ!?」
驚き、呆れ、そして怒り。その3つの感情が入り混じり、放たれた言葉は屋敷の空気を一変させた。と、そこへ
海斗「みょんさん、ちょっと宜しいでしょうか?」
お調子者が腰を低くして、彼女に近付いた。そして2人で主人に背を向けると、
海斗「悪い、幽々子様の暴走を止められなかった。
でも、コッソリ色々やってかなり値切った。
それで出費はこんな感じ」
緊急決算報告会を開催した。
彼から秘密裏にと手渡された領収書。それは長い、長い、長い、長い……物だった。だが、その割にはお安く済んでいた様で、
妖夢「よくこれで済みましたね。助かりました」
会計係を感心させた。
海斗「そう言ってもらえると助かるぜ」
彼女から怒られると覚悟を決めていた彼。
結果的に言ってしまえば、彼は食べたい物を
例えば、こっそりと高級な肉からセール品に変えたり、こっそりと牛カツを豚カツに変えたり、こっそりと大トロを赤身に変えたりといったものだ。再三になるが、これは『こっそりと』である。
そして会計時に、肉屋と魚屋の店長を
安心した彼はホッとため息を
彼の突然の態度の変わり様に、おかっぱ頭、
妖夢「な、何かご用ですか?」
引き
海斗「調子にのってすみませんでしたっ!」
誠心誠意の謝罪の言葉を述べた。その角度、寸分狂わず45度。この見事な姿勢に、一時は戸惑う彼女だったが、直ぐに何の事か理解した様で……
妖夢「ふんっ!」
またツンとして不機嫌に。「やっぱりダメだったか」と彼が諦めかけたその時、
妖夢「で、でもあなたが『どうしても』と言わ
れるのでしたら、また稽古をつけてさし
あげなくも…」
デレはやって来た。待望のそれにお調子者、
海斗「ほんとッ!?サンキュー!」
心で萌えながらガッツポーズ。
--ヲタク夕食中--
この日の夕食は、2人の従者を終始ハラハラとさせる展開になるかと思われた。だが
そして夕食後、縁側には月を眺めながら、主人と従者達が仲良くお茶を
幽々「2人が仲直りしてくれて、私も一安心よ」
海斗「色々とありがとうございます」
妖夢「ご心配をお掛けしました……」
幽々「みょんちゃん、明日から海斗ちゃんの稽古、
よろしくね?」
海斗「お願いしまーす」
妖夢「はい!」
幽々「あと海斗ちゃん、まだまだ幻想郷観光したい
みたいだから、連れて行ってあげてね」
海斗「お願いしまーす」
妖夢「はい?」
幽々「海斗ちゃんもみょんちゃんの事よろしくね。
彼女しっかり者の様で少し抜けているところ
があるから」
海斗「任せて下さい!なんせみょんはオレの…」
妖夢「嫁ではありませんからね!」
嫁捕獲作戦_二人目:西行寺幽々子【無理】
文字数が主、最長記録です。
長ければ良いってものではないのは、
重々承知しているのですが…。
書きたい事が頭をよぎると、
書かずにはいられないのです…。
まとめる力が欲しいです。
そして、久々の彼登場。
やはりムカつく。