東方迷子伝   作:GA王

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MAIGO●

◆   ◇

 

 

 出される指の本数は5本。そこから始まるカウントダウン。指の本数が減る毎に場に緊張感が一つ、また一つと高まっていく。そして、カウントはいよいよ――ゼロ。

 

??『おはようございます』

 

朝の挨拶と共に頭を下げる2人の姉妹。まず初めに口を開いたのは、しっかり者の妹の方。

 

??「あさの情報番組、

   『Moon side 

    Announce

    Information to

    Gensoukyou.by

    Otohime』のお時間です」

 

『by Otohime』という名前が付いているところから察するに、彼女の姉が企画した番組の様である。そう、ここは幻想郷から約384,400 km程離れた場所。マッハ20では約16時間で着いてしまう身近な星、月である。

 そして今、そこで暮らす暇を持て余した姫様が、妹、家来と友人を巻き添えにして、何やら不可解な事を始めていた。

 

豊姫「長いからMAIGOって覚えてねぇ」

 

謎の略称。笑顔で言い放つも、そのネーミングセンスは皆無である。

 

豊姫「最近一段と暑くなって来たわね」

依姫「そうですね。皆さんも脱水症状、

   熱中症には十分に気を付けてください」

 

と、出だしのコメントを終え、2人は次の指示を確認するため、前方へと視線を向ける。

 そこでは、一人の少女がスケッチブックを開き、待ち構えていた。

 

??[出番キターーー(゜∀゜)ーーーッ!!]

  『へ?』

 

出された指示に困惑する姉妹。だが本番はもう始まっている。と、そこへ

 

??「にししし。サグメ様、そっち『感想欄』用で

   すよ。あっちあっち」ヒソヒソ

 

小声で別のスケッチブックを指差すカメラマン兼、月側の技術担当。お団子大好き鈴瑚(りんご)である。カメラマンが指差すその先へ、駆け足で取りに行くAD。

 

サグ「んっ!」

 

そして、お礼の代わりのサムズアップ。

 彼女が無事元の位置に戻った事を確認した姉妹。この間約5秒。たかが5秒、されど5秒。TV番組において5秒間の沈黙は事故レベルである。

 

依姫「番組の最中、大変失礼致しました」

豊姫「失礼致しました」

 

ともなれば、きちんと謝罪するのが礼儀。

 しかしこの時、2人は頭を下げながらも、スケッチブックに書かれた指示を確認していた。そこには……。

 

サグ[お天気のコーナー!いっきまーす(≧∀≦)]

 

これには姉妹、仲良く苦笑い。

 

依姫「では改めまして、まずは本日の幻想郷の

   天気はどうでしょうか?」

豊姫「呼んでみましょう。レーセーン!」

 

姫のその声を合図に、スイッチを入れ替える裏方さん。

 

??「ふぁ〜…」

 

大きな欠伸と共に、大きな伸び。

 (そば)には、エネルギーチャージ用のドリンクの空き瓶と、カフェインがキツめの缶コーヒーの空き缶が累々(るいるい)。それは、この日の為に用意したVTRの過酷な編集作業の痕跡。起きている時は編集作業、うっかり眠ってしまった時は、その世界でも編集作業。寝ても覚めても編集作業。

 そう、彼女こそは夢の支配者、その名もドレミー・スイート。『夢の支配者』である彼女だが、その立場を姫姉妹に目を付けられ、()()()()付きで、編集担当者を引き受けたのだった。しかし、その過酷さは想像を絶していた様で、

 

ドレ「これが終わったら、絶対長期休暇をもらって

   やるんだから!」

 

目の下にクマを作りながら、固くそう誓っていた。

 

 

◇   ◆

 

 

??「中継入るっす!」

 

慌ただしくカメラを構える兎が1人。

 

??「うん、大丈夫」

 

覚悟を決めた表情で、マイクを握る兎がまた1人。

 

??「\わくわく/」

 

さらに箒を片手に持った犬(?)が1人。幻想郷の人里、そのど真ん中でスタンバイしていた。

 そして、カメラマンからのGOサインから始まる、

 

??「おは…」

??「\おはようございまーす!/」

 

里中に響き渡る元気な挨拶。挨拶は心のオアシスである。しかしその声量、側にいた彼女達には少々耐え難い物だった様で、

 

  『きゅ〜……』

 

目を回させていた。

 兔は人間の2000倍の聴力を誇る。だがそれは通常の兎の場合の話。人型の、普通の兎よりも感覚の優れた彼女達だったら……。

 

豊姫「{レイセンと清蘭、大丈夫?}」

 

片耳に当てたイヤホンから聴こえて来た声。それは月からのメッセージだった。

 

レイ「あ、はい。大丈夫です。お見苦しいところを

   お見せして、申し訳ありません」

 

謝罪の一礼。そして気を取り直して、

 

レイ「今日の幻想郷は晴れ。最高気温は29℃と、

   絶好のお洗濯日和です」

 

任務を遂行。

 

レイ「それと、人里から少し離れた所にある

   『命蓮寺』から、山彦の幽谷響子さんに来て

   頂いてます」

 

 

◆   ◇

 

 

 レイセンからの紹介で、モニターいっぱいに映し出される山彦。そのタイミングで、始まる彼女へのインタビュー。

 

豊姫「山彦さん、おはようございます」

響子「{\おはようございます/}」

 

モニター越しの山彦は大きな笑顔。

 

豊姫「朝からすみませーん!」

響子「{\こちらこそー!/}」

豊姫「やっほー!」

響子「{\ヤフー!/}」

 

そして山彦とのやり取りを楽しむ豊姫。と、そこに

 

 

コンコンッ!

 

 

スケッチブックを叩く音。豊姫が視線を向けるとそこには、

 

サグ[時間ですよー( ・∇・)]

 

この指示に、姉妹は両手でメガホンを作ると、揃ってカメラへ向けて、

 

  『今何時ー!』

 

 

◇   ◆

 

 

 

響子「\そうね大体ねー!/」

 

お得意のセリフに満面の笑みで答える山彦。しかしやはりと言うべきか、

 

  『きゅ〜……』

 

そこには目を渦にした兎が2人倒れていた。だがゆっくりもしていられない様で、

 

清蘭「レイセン起きるっす!移動するっす!」

レイ「う、うん…」

 

2人はキーンと余韻が残る頭を押さえながら、ゆっくりと立ち上がった。

 

レイ「山彦さんありがとうございました」

響子「\どういたしまして/」

 

山彦にお礼を済ませ、

 

レイ「清蘭、次何処?」

清蘭「無縁塚っす!」

 

足早に次なる中継地点へと急ぐ2人。避雷針の様な物体をその場に残して――。

 

 

--二兎移動中--

 

 

 その頃、スタジオではVTRが流れていた。

 その内容は人里から離れたとある雑貨屋、ほぼ趣味の寄せ集めで埋め尽くされた雑貨屋、ガラクタ屋敷として名高い雑貨屋の品が、たったの半日にして無くなったというもの。

 それもとある規則性がある様で、無くなった物の多くは、幻想郷では役に立たない物ばかり。収集癖がある店主でさえも、持て余していた物だった。

 そして、詳しい話を聞くという事で。

 

清蘭「っす!」

 

清蘭の合図で繋がる中継。カメラはマイクを握るレイセンへズームイン。

 

レイ「はい、レイセンです。今こちらに香霖堂の

   店主、森近霖之助さんに来て頂いています」

 

リポーターの言葉と共にズームアウト。やがて2人の姿が映し出されたところで、それは止まった。

 

霖之「いやいや、どうも。森近霖之助です」

 

少し赤み掛かった顔で、白髪を掻きながら自己紹介。

 

レイ「店の品が瞬く間に無くなったそうですが?」

 

雑貨屋店主へマイクを向け、その真実に迫るリポーター。

 

霖之「うーん、『無くなった』というのはちょっと

   違うかな?」

レイ「売れたのですか?」

霖之「とも違うね。正確に言うのであれば、

   『引き取ってもらった』になるかな?」

レイ「それは『無償で』という事でしょうか?」

霖之「そうだね、お互いに金銭のやり取り無しに。

   能力で名前と用途が分かっていても、

   使い方が分からなかったり、この世界では

   使えなかったりする物が多かったから、

   こちらとしても非常に助かったね」

レイ「どういった方がそれを?」

霖之「河童と里の鍛冶屋だね」

レイ「かなりの量だったと思いますが?」

霖之「そうそう、初めは少しずつ台車に乗せて、

   往復していたんだけど、突然山の様に積みだ

   して…。そこからあっという間に全部」

レイ「凄い力ですね……」

霖之「ホント、あれには驚かされたよ」

 

最初こそ緊張していた雑貨屋店主だったが、次第に調子が乗ってきた様だ。と、そこに

 

??「{店主さん}」

 

イヤホンから姉姫の声。

 

霖之「はい、え?誰?」

 

突然耳に入って来た聞き覚えのない声に彼、思わず本音が(こぼ)れる。

 

豊姫「{綿月豊姫です。初めましてぇ}」

霖之「あー、月の都の。これはこれは初めまして」

豊姫「{その方達から何に使うのか、

    聞いてませんかぁ?}」

霖之「いいえ、でも河童は大方予想出来ますね」

 

彼がそこまで答えた時、再びイヤホンから聞き慣れない声が。

 

依姫「{綿月依姫です、初めまして。私からも一つ

    質問よろしいでしょうか?}」

霖之「え?あー、はい」

 

「どんな事を聞かれるのだろう」と身構える彼だったが、

 

 

ガーー…ザーッ

 

 

そこで音声は砂嵐に変わった。

 

霖之「あれ?」

レイ「音声切れちゃった」

清蘭「電波が拾えなくなったっす!すみませーん、

   それを少し月に向けて傾けて下さいっす!」

 

カメラマン兼、地球側技術担当が指示を送る方角には、

 

??「ん?あー、はいはい」

 

まだ薄っすらと形を残す月へ、避雷針を傾ける大きな耳の少女が。主人の監視役兼、落し物の探し役。ダウジングが特技、ナズーリンである。

 ここ『無縁塚』は彼女の家の近くでもある。日課の朝のダウジングをしていたところに、奇妙な連中を見かけ、傍観していたのだが、結果的に巻き込まれた様だ。

 

ナズ「どう?」

清蘭「オッケーっす!中継戻るっす!」

 

カメラマンからの指示と共に月からの通信が回復。

 スタジオでは電波障害の謝罪が行われ、改めて妹姫からの質問へ。

 

依姫「そもそも何で使えない物を拾って来ているの

   ですか?」

 

このごもっとも過ぎる質問に、店主

 

 

グサッ!

 

 

痛恨のダメージを受ける。更に、

 

霖之「えーっと…」

 

返す言葉が見つからない。故に、

 

霖之「いやははは…」

 

笑って誤魔化す。そこへ、リポーターからのファインプレー。

 

レイ「えーっと、こちらからは以上です」

 

この言葉と共に切られる中継。

 そして再び慌しく片付け始める2人。その様子を彼達は呆然と見守っていた。

 

ナズ「結局あの2人何しに来たの?」

霖之「さあ……」

 

 

--その頃、お茶の間では--

 

 

響子「\ただいまー。映ってたの見てくれた?/」

水蜜「おかえりー、いいなー私も出たかったなー」

ぬえ「私はさらし者にされるなんて絶対イヤだね」

星 「あ、今ナズがチラッと」

一輪「何か持ってなかった?」

雲山「避雷針かの?」

白連「さあ?なんでしょう?初めて見たわね」

??「あれはアンテナですね。電波を拾うんです。

   おや?もうこんな時間。では、私は寺子

   屋へ行ってきます」

  『はーい、いってらっしゃーい』

 

 




はい、彼女のご要望にお応えしました。
「出たい出たい」とせがまれまして…。

サグ「やっと」
  [出番キターーー(゜∀゜)ーーーッ!!]


喜んで頂けて何よりです。

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