ヤマ「そうだったんですか~、勇儀の上司さんなんですね。あ、お酒空いてますね。お注ぎしま~す」
私の上司に酒を注いだり、中身のない話に笑顔で耳を傾ける蜘蛛妖怪。彼女は接待やご機嫌取りといった相手の懐に入る事が得意な様だ。私には到底真似できない。
蜘蛛妖怪のよいしょに、デレデレになって喜ぶ上司を横目に肉を頬張っていると、弟分が慌てた様子でやって来た。
鬼助「姐さん、萃香さんを止めて下さい!」
勇儀「どうしたんだい? いったい」
鬼助「もう半数が潰されています。地獄絵図です」
弟分に言われ周囲を見回すと参加者の殆どの顔色が悪い。これはどう考えても彼女の仕業。この状況を黙って見過ごす訳にはいかない。
勇儀「こいつはお灸を据えてやる必要があるな」
そう呟くと弟分は顔色を青くし、
鬼助「ね、姐さん。お気持ちは嬉しいんですが、ここで暴れられるのは、ちょっと
と私を
勇儀「安心しな。平和的に解決してやる。しかも萃香にとっては一番の特効薬だ」
鬼助「と、言いますと?」
勇儀「おめえの出番だダイキ!」
ダイ「ん?
鬼助「ちょ、姐さん正気ですか!? ダイキはまだ5つで酒なんて飲めませんよ!? それに特効薬って……」
私の作戦に目を丸くし、大声を上げながら詰め寄る弟分。そんな弟分の肩をポンポンと叩きながら、
勇儀「いいから、いいから」
と落ち着かせる様に言い残し、キョトンとした表情で私を見つめるダイキの下へ。
勇儀「あのなダイキ、今萃香とても楽しそうにしているだろ?」
ダイ「うん、楽しそう」
勇儀「だけど、ちょっとみんなにも迷惑かけちまってるんだ。だからダイキから注意してくれないかい?」
ダイ「でも……、そんな事言って……嫌われない?」
勇儀「大丈夫、それは絶対に無いから。よし、行ってこい!」
不安そうに見つめて来るダイキの背中を軽く叩いて送り出すと、重い足取りでゆっくりと友人の方へ歩を進めて行った。
鬼一「え? アレは勇儀姐さんのところの……」
鬼二「何をする気……だ?」
鬼三「そっちは危険だ……」
鬼四「よせ、やめろ…!」
鬼五「お前はまだ若いんだ、生き急ぐな……」
ちらほらと屍から上がるダイキを心配する声。それはダイキが萃香へ近づく毎に増えていき、やがてざわめきへと変わった。
だがそんな声が上がっているとは
萃香「あははは~、他にい
萃香「あ、えっ!?」
ダイキが友人の前へ。
彼女はダイキに気付くなり慌てて立ち上がり、急いで乱れた服と髪の毛を直すと、両手を前で組んで俯いた。そして2人とも頬を赤くし、今朝と同じ状況が出来上がった。
鬼助「あの……、姐さん。コレ何ですか?」
ヤマ「キャーッ! すごくいい雰囲気! 2人ってそういう仲だったの!? こっちまで恥ずかしくなっちゃうよ!」
パル「あの空間が妬ましい、すごく妬ましい!」
キス「フッフッフッ……。大好物だ」
キスメ、気が合うな。私もだ。
先程までのざわめきは何処へやら。辺りは「しーん」と静まり返り、他の連中も呆気に取られて口が半開きになっている。
ダイ「あ、あのね。萃香……ちゃん」
萃香「う、うん」
ダイ「今……楽しい?」
萃香「うん……」
ダイ「でもね……。困っている人もいるんだって」
萃香「……うん」
ダイ「だから……みんなと仲良く……ね」
萃香「うん」
声が小さくてここからでは何を話しているのか分からないが、友人が小さく
鬼助「ダイキ、大丈夫ですかね?」
ヤマ「もう萃香があんなに可愛くなっちゃって〜」
パル「パルパルパルパルパルパルパルパル……」
キス「フッフッフッ……。まだ足りぬ」
キスメ、また気が合ったな。私もだ。
萃香「ごめんね。私……。もう、しないから。それで、ダイキ。あ、あのね……私……その……」
言葉を交わす度、視線を交わす度顔色に赤みが増す2人。そしてその空間は何人たりとも入る事ができぬ2人だけの空間。その手の事に鈍感な者が多い私の仲間も流石に気付いた様で、2人を黙って温かい目で見守っていた。
鬼助「オイラ体中が
ヤマ「萃香が乙女だ。キャー」
パル「パルパルパルパルパル」
キス「フッフッフッ……。この後大きな波の予感」
キスメ、本当に気が合うな。私もそう思う。
ダイ「萃香ちゃん、あのさ! もし、よかったら……。あああっちで一緒にご飯食べない!?」
萃香「うん。……え?」
するとダイキが突然大声で叫び出し、友人の手を引いてこちらに向かって歩き出した。少し強引な気もするが、これはこれで……。
鬼助「へー、ダイキ男見せたな」
ヤマ「ダイキ君やる〜。今のヤマメ的に点数高いよ」
パル「もう……、妬ましすぎ……」
キス「フッフッフッ……。ゴチ」
有だな。ダイキ、ゴチ。でももう少しデカイやつを期待したんだが。
鬼一「ダイキ、本当にありがとう」
鬼二「お前は勇者だ」
鬼三「萃香『ちゃん』とは……」
鬼四「甘酸っぺー!」
周りからは歓声が上がっていた。小さな人間の小僧は連中を地獄から救ったのだ。それは正に鬼退治に成功した英雄。彼らにはそう映っていただろう。
しかし当の本人は耳まで真っ赤にして俯き、それでもどこか嬉しそうな表情で戻って来た。
鬼助「よくやったな、ダイキ。オイラお前の事ちょっと見直したぞ」
ヤマ「萃香も可愛いかったよ~。私キュンキュンしちゃったよ~」
2人が着くなり飛び交う野次。
パル「その手のつなぎ方、妬ましいわ」
そして嫉妬妖怪のこの一言で、ダイキと親友の間に視線が集まる。そこにはダイキの左手を、両手で優しく包み込む様にして握る友人の手が。
キス「フッフッフッ……。もうお腹いっぱい」
既に満足とった様子の桶妖怪。だがここ一番の大きな波は
ダイ「みんな、萃香ちゃんも一緒にいいかな? 僕……萃香ちゃんと一緒にいたいんだ!」
ここでやって来た。
ボンッ! シュー……。
小さな爆発音と共に友人の頭から上がる湯気。どうやら許容量を超えたらしい。
ヤマ「キャーッ! ダイキ君もうそれ告白だよー」
萃香「ここここここくこく告白ーッ!?」
パル「このリア充め……、爆発しろ。パルパル……」
キス「フッフッフッ……。グハッ!」
吐血。キスメがやられた。私も期待以上の波に満足だ。
ここから2人がどう進展するのか、今日だけでどこまでの仲になれるのか想像しただけでワクワクしてくる。
鬼助「塊肉いい感じですよ。ダイキ食うか?」
だがダイキは弟分のこの言葉に、目を輝かせて満面の笑みを浮かべると、
ダイ「やったー! 食べる!」
萃香から手を放してまっしぐらに肉の下へ。
『おいっ!』
女子一同、意見一致。
--小僧食事中--
友人が合流し、ここのメンバーがまた濃くなった。
弟分はひたすら「火加減が弱い」とか「遠火でじっくりやりたい」とかぶつぶつ呟きながら肉を焼き続けている。鍋奉行ならぬ焼き奉行だ。こういうのが夫だったら、さぞ面倒だろう。うん、コイツはないな。
パルスィ、ヤマメ、キスメは3人でいつも通りの雰囲気で会を楽しんでいるみたいだ。
そして、ダイキと友人は……
萃香「ダイキ、まだ何かいる?取って来てあげようか?」
ダイ「えっと……、萃香ちゃんが好きなのを……」
萃香「え!? すすすす好き!?」
ダイ「へっ!? ちがう! ちがくなぃ……けど」
もはや喜劇だ。「邪魔をしてはいけない」と、1人で放れた場所から2人を見守りながら酒を飲んでいると、友人の方からこちらにやって来た。彼女は私の隣に座ると膝の上で頰杖を突き
萃香「は〜……☀︎ 私、幸せ過ぎ」
のぼせ出した。
勇儀「そいつは良かったな」
今ここには私と友人の2人だけ。幸せいっぱいのところ悪いが、
勇儀「それで、今朝の続きだけど」
聞くならこの時以外にない。私が話を切り出すと友人の表情が一変した。
萃香「うん……。ダイキは、この世界の人間じゃないよ」
勇儀「萃香の能力で外の世界も調べられないか?」
萃香「出来るけど、すごく時間がかかるよ。それにもう……時間がないの……。私勇儀の家に行く前に町で聞いちゃったの」
勇儀「なんだ? 何を聞いた?」
萃香「組合の会議。明日なんだって」
勇儀「そんなバカな! この前
萃香「きっと決めなきゃいけない事が多いんだよ。地霊殿の事とか祭の事とかダイキの事とか。だから会議の日程を前倒しにしたんだよ」
勇儀「じゃあ、ダイキの親が見つかってない今、もし会議で……」
心臓が大きく脈打った。それと同時に込み上げる不安と恐怖。「もし会議で」その先を考えただけで辛くなる。今から外の世界に居るであろうダイキの母親を探すにも……。打つ手は無いのか? 頭を抱えて必死に考えを巡らせていると
グラッ……ゴゴゴ……
下から急に突き上げるような振動が。地面は不気味な音を立て、天井から小さな石がパラパラと雨の様に降ってきた。しかしそれはあっという間に落ち着き、また静かになった。
勇儀「地震? だったのか?」
萃香「う、うん。今確かに揺れたよ」
地震なんて珍しい。この町は地震が起き難い場所にあるはずなのに。
ダイ「ユーネェ、今のって地震?」
勇儀「……の様だな。でももう収まったみたいだし、大丈夫だろ」
心配そうな表情を浮かべているダイキにそう伝えると、ほっとため息を零して安心した表情を浮かべた。さっきの揺れが怖くなってやって来たのだろう。可愛いやつだ。
ダイ「あ、あのさ。それでユーネェ……。萃香ちゃんの……隣、いい……かな?」
萃香「ふぇっ!? あ、うん」
だが結局こっちが本音だったようだ。
ダイキは友人の隣に座るとみるみる赤くなり、友人も視線を落として無言になってしまった。また出来上がった2人だけの空間に居辛くなった私は
勇儀「じゃ、じゃあ私は行くから」
2人を残し妖怪3人組の輪に入ることにした。
--鬼女子会中--
勇儀「それで急に抱きついてさぁ」
ヤマ「キャー! ダイキ君だいたーん!」
パル「ダイキ……、いい加減に妬ましいわ」
キス「フッフッフッ……。やりよる」
勇儀「そしたら『離して!』とか言ってたクセに、顔赤くして『私にできることなら』って。もう驚いたよ。あの時だね」
ヤマ「あー、それ見たかったー」
パル「パルパルパルパルパルパルパルパル……」
キス「フッフッフッ……。盗まれたか」
勇儀「キスメ、今度この手の話で飲み明かそうか」
キス「フッフッフッ……お主も好き者よのぉ」
ヤマ「私ももっと聞きたーい」
私が妖怪相手に和気あいあいと、ダイキと友人の話に花を咲かせていると、
鬼助「あの、姐さん方。ちょっとあちらを……」
弟分が耳打ちをする姿勢で向こうを指差しながら、小声で話し掛けて来た。言われるがまま視線を移すと、
勇儀「へーえ」
ヤマ「キャー! もう2人共可愛い~」
パル「そういうの本当に妬ましいわ」
キス「フッフッフッ……。デザート頂きました」
鬼助「和みますよね」
そこには仲良く並んで寄り添いながら、幸せそうな表情で眠るダイキと友人の姿が。微笑ましい光景に胸の奥が温かくなる一方で……。
パル「嫉妬の臭いがして……」
勇儀「ほっとけ!」
パル「勇儀、我慢しなくていいんだよ? その嫉妬心に素直になれば……」
ガッ!(パルスィの服を掴む音)
パル「パッ!?」
勇儀「この、バッッッカヤローーーッ!!」
パル「ルううううぅぅぅぅぁぁぁぁ。。。……☆」
勇儀「私はお前の事少し見直してたんだぞ! いいか覚えておけ!私は友達の嫉妬心を
『はいっ!!』
見事に揃ったいい返事。振り返るとそこには難を免れ、生き残った戦士達が綺麗な敬礼をしていた。
前にもあったな、こんな事。さて、それはそれとして……。
私は気分を入れ替えるため大きく伸びをしながら、わざと大きな声で言い放った。
勇儀「よーし! 2人共寝ちまった事だし、やーっと羽が伸ばせるな」
鬼助「あの……、姐さん?」
勇儀「萃香で半分ということは、まだ半分は元気があるって事だろ?」
鬼 「御嬢、おっしゃっている意味が……」
勇儀「お前さん達! 退屈させるなよ?」
『ひーーーーっ、助けてー!』
BBQ大好きです。
主は鬼助同様、焼き奉行だと思います。