勇儀「うーん……」
食事の支度を済まし、「夕食の時間までに」と筆をとってみたはいいが、
勇儀「思いつかない……」
あと一つくらいは欲しいところ。私がこうして頭を抱えるのには訳がある。
事の発端は去年だった。親友が外の世界へと大鬼の本当の親を探しに行き、その報告をそこの縁側で聞いていた時――
勇儀「そうかい……やっぱり見つからなかったか」
萃香「……うん」
もう彼女にはずっと、それこそ10年近く大鬼の本当の親を探し続けてもらっていた。
萃香「
私に気を使わせない様に、陽気に話してくれていたけど、その苦労は計り知れない。
萃香「でもそういうのって、大体が子供にしろ、お爺ちゃんにしろ、ちゃんといてね〜。存在を確認出来なかったのは、産まれて来る前の子供くらいかな〜」
勇儀「そうかい、それじゃあ違うな」
いつかは見つかると思っていた。けど……意を決して、内に秘めたものを伝え様としたその時、
『あのさ』
被った。「何か他に言いたい事でもあるのか?」と思い、
勇儀「なんだい? 先に言っておくれよ」
発言権を譲る事にした。しかし彼女は、
萃香「えっ!? ゆ、勇儀からでいいよ」
両手で「どうぞどうぞ」と勧めて来たので、そこは言葉に甘える事にした。
勇儀「萃香……もういいよ」
萃香「え?」
勇儀「大鬼の本当の親の事」
萃香「諦める……って事?」
彼女のこの質問に私は黙って頷いた。本心を隠す様に、彼女の顔を見ない様に。
萃香「それ……本気?」
この質問にも同様に答えようとしていた。でもそれは本心ではない。つまり『嘘』。私はこの時、初めて嘘をつこうとしていた。
ガッ!
その瞬間、それを阻止する様に胸倉を掴まれた。
萃香「急にどうしちゃったのさ?! 大鬼とちゃんと相談したのッ!?」
勇儀「それは……」
してないなかった。私の勝手な判断だった。
萃香「してないんでしょ? 私は大鬼と約束したよ! 『絶対にダイキの親見つけてあげるから』って。私、大鬼を裏切りたくない! 裏切れないよ!! 勇儀だってそのつもりだったんじゃないの!?」
彼女の言う事は痛い程理解していた。その為に何度も何度も、何年も何年も、外の世界へ探しに行ってくれていたのだから。だからこそ、
勇儀「裏切りじゃない……」
もう彼女の事を
勇儀「そういう事なんだよ」
この呪縛から解放してあげないと。
勇儀「大鬼の親は……いないんだよ」
もう考えられる事はコレしか無かった。それは残酷な、悲しい結末。初めて大鬼に会った時にはまだいたはず。でも、それから10年近く。今はもう……
萃香「……」
私の胸倉を掴む手の力が抜けていくのを感じた。やがて小さな手が私から離れると、彼女は視線を落としながら語り出した。
萃香「なるべく考えない様にはしていたけど、実は私もそうじゃないかって……。外の世界でも、人知れず命を落とす人もいるみたいだし……もしかしたら、大鬼がこっちの世界に来ちゃって……ショックで……」
やはり彼女も私と全く同じ事を考えていた。その事に気付くのは、きっと私よりも早かったはず。
勇儀「萃香、だからもう終わりにしよう」
萃香「でも大鬼には……」
勇儀「私から話す。それにお前さんもやりたい事、他にもあるだろ?」
当てずっぽうで言ったつもりだった。具体的に何がしたいのかなんて知らなかった。
でも私のこの質問に彼女は、
萃香「……うん」
と答え、
萃香「やっぱり勇儀にはバレてたか……」
と苦笑いを浮かべた。さらにそこから今度は明るい笑顔を作ると、衝撃的な事を言い出した。
萃香「本格的に地上に移り住もうと思ってるんだ」
耳を疑った、目を丸くした、言葉が出なかった。
萃香「地上ではね、ここと同じくらい……ううん、それ以上の変化があったんだよ」
勇儀「……」
萃香「って言ってもパッと思い浮かばないよね? 博麗の巫女がかわったんだよ」
勇儀「え?」
私が知っている博麗の巫女はまだ若かった。それも人間の年齢換算でだ。だから「性格的に?」とか「考え方が?」とかそっちの方で考えていた。
でも、それは違った。
萃香「今度の博麗の巫女は女の子だよ。それこそ大鬼くらいのね」
勇儀「はぁーーーッ!?」
ここ最近一番の驚きだった。彼女が地上に住むという事が、
萃香「普通そうなるよね? でもそいつ、もう
勇儀「異変?」
聞き慣れない単語だった。首を傾げる私に、彼女は地上で起きたその異変について、丁寧に説明してくれた。
突然発生した紅い霧。それは昼でも日光を遮り、曇りと呼ぶには生易しいもの。その発生源は紅い洋館。そこへ小さな博麗の巫女が乗り込み、激闘の末勝利を収めたというものだった。しかもその主犯というのが、
勇儀「吸血鬼……本当にいたんだな」
噂ぐらいでしか聞いた事のない一族。でも、
萃香「勇儀……私達がそれを言う?」
それな。
勇儀「あの一族って言えば、私達に匹敵する力があるはずなのに……それを人間の小娘が一体どうやって……」
純粋で
萃香「あ、気になっちゃう〜?」
意味深な笑顔を浮かべて
勇儀「いいから教えろよ」
目を細めながらそう告げると、彼女は
萃香「コレを使ったんだよ」
この時、「で?」そんな私の心境を察したのか、彼女はそれがどういう物なのか説明してくれた。
萃香「ね? 面白そうじゃない?」
勇儀「ふーん……スペルカードルールねー……」
光の弾で技の華やかさ、美しさを競う事を主とし、規定枚数を攻略されたら素直に負けを認める……か。
勇儀「苦手だなぁ、そういうの」
と言うよりも、
勇儀「光弾出せないし……」
こっちの方が由々しき問題。
今まで完全実力主義の、力が主の世界で生きてきた私達にとって、このルールは不利以外の何物でもない。「素直に従ってやる必要も無いだろう」そう楽観的に考えていた。けど……
萃香「そんなに難しくないよ。コツを覚えたらすぐだって。それに、この世界で意見を通すには絶対に必要だよ?」
勇儀「そうかい」
萃香は能力の事もあって、私よりも遥かに器用だ。単に私が不器用と言われてしまえばそれまでだが……そんな者から「簡単だ」と言われても……。
萃香「一先ずやってみる?」
彼女はそう告げると、手をパンッと叩き、
萃香「はい、手を前に出して〜」
勝手にコーチを始めた。あまり気乗りしないが、言われるがまま手を前へ。
萃香「意識を手に集中して〜」
勇儀「……」
萃香「バーン!」
勇儀「ば、バーン」
静かに通り過ぎる風が心地良かった。
萃香「うん、今日はこれくらいにしとこ」
勇儀「おい、投げるな」
萃香「だって〜……もう教えられる事のなんて、こんな感じだもん」
この時、つくづく「彼女は教える側の者ではない」と思った。誰がアレで理解しろと?
勇儀「はー……、やっぱりセンスないな」
天を
萃香「そ、そんな事……ないと……思うよ…。多分……」
目をキョロキョロと泳がせるな! 一々間を開けるな! 発言に自信を持たせろ!
そんな私の心中を察したのか、彼女はスパッと話を切り替えた。
萃香「じゃあカードの名前だけでも考えたら?」
勇儀「先にか?」
萃香「そしたら『やってやるぞー』って気にならない?」
「そういうものか?」と疑問を抱きながらも、2人でスペルカードの名前を考える事にした。
彼女から「4つくらいあった方がいい」とアドバイスをもらい、4種類の技名を考案することに。2種類は直ぐに決まった。
1つ目は『鬼符:怪力乱神』。私の能力の名前。
2つ目は『四天王奥義:三歩必殺』。私の十八番の大技の名前。名前に『
そして、3つ目。これには少々悩まされた。だが、2人で悩んでいた所に
??「お、萃香来てたのか」
元、町のNo.2。現、呼び名だけが残った一般人。公式最強の鬼、私の父さんがノゾッと登場。すると、彼女が父さんへ事情を話し出し、巻き込む事に。その直後だった。
親方「なら父さんの技名をくれてやる」
この鶴の一声で不本意ながらも決定。
3つ目は『力業:大江山颪』。なんの捻りもない、そのままの、ゴリ押し感が全面に出た一枚。
けど、そこまで。4つ目はなかなかしっくり来る物がなく、保留となった。
萃香「あとは、どういう形で魅せるのかと、やっぱり光弾だね。そこは……頑張れ!」
勇儀「はいはい。で? 萃香はもう作ったのか?」
萃香「へへ〜ん、見たい〜?」
またしても私の顔を覗き込みながら、得意げな顔で勿体ぶる。この時、普通にイラッ!
ガシッ(萃香の角を掴む音)
勇儀「イ・イ・カ・ラ・ヤ・レ・ヨ!」
萃香「いだだだだぁーーーッ!」
鬼の急所。さすがに効いた様で、彼女は角を
萃香「もうちょっと面白い反応してくれてもいいじゃん」ブツブツ
口を曲げて分かり易く
勇儀「そりゃすんませんね!」
萃香「もう……、おじさんもちゃんと見ててね」
親方「おうよ!」
萃香「『鬼符:ミッシングパワー』」
聞き覚えのある、私にとっては馴染みのある技名だった。すると案の定、彼女は立ち所に巨大化。「そこからいったいどういうものに!?」そう期待を寄せ、瞬きをしない様に注目していた。
勇儀「……」
親方「……」
萃香「……」
この日に吹く風は本当に心地良かった。
勇儀「え? 終わり?」
思わず本音がポロリと。
すると彼女はスルスルと元の大きさに戻り、出てもいない額の汗を拭いながら、
萃香「ふ〜っ、スキルブレイクで私の負けだね」
眩しい笑顔。
『おいっ!』
勇儀「そんなのいつもと同じじゃないかよ。光弾関係ないだろ」
萃香「そこは……現在検討中って事で」
勇儀「あのなー……、私は手本が見たいんだよ」
そう告げると、
萃香「分かったよ、見せればいいんでしょ? 見せれば……」
またブツブツと。でも「おふざけはここまで」とでも言うように、真剣な表情を浮かべると、
萃香「危ないから上でやるよ?」
上空へ高々とジャンプ。そして……
萃香「『百万鬼夜行』!」
その途端、光弾が彼女を中心にゆっくりと渦を巻く様に現れた。大・中・小の3種類の大きさの玉が赤や青といった光を放ち、それは私の心を掴んだ。
萃香「よっと、どうだった?」
親方「いや、見事! 祭りの後にやって欲しいくらいだ」
勇儀「あぁ、見事だったよ」
萃香「ありがとう。でもそれだと勇儀の負けだからね。これは
勇儀「き、肝に銘じておくよ」
いやに熱心に語る彼女の迫力に圧倒されっぱなしの私。それでもどこか他人事の様に思っていた。でも、そうは言っていられない事態になっていると、その後に気付かされた。
萃香「じゃあいいね、これで
勇儀「は? みんな?」
萃香「うん、みんな。キスメ、ヤマメ、パルスィ、それに地霊殿の一家」
勇儀「ま、待て待て! もう全員この事を知っているのかい?」
萃香「うん、知ってるよ。私が話したらみんな直ぐにスペルカード作ったよ。キスメは、『フッフッフ……、それなら萃香に投げ飛ばされた時のが丁度良い…』って言って一枚作ったし、ヤマメは『元々の技があるから、それを使うよ』って」
この時点で既にイヤな予感がしていた。それを確かめるため、いつも通りに尋ねるつもりだった。だが、気持ちが先走った。
勇儀「ヤツは? パルスィは!?」
私は彼女の肩を掴んで揺すりながら尋ねていた。
萃香「へ!? ぶ、分身する技あるでしょ? あれ使うって言ってたよ」
「マズイ」と直感した。
しかもヤツ等妖怪達は妖術、秘術といった
出遅れ。置いて行かれた。そして感じる身の危険。
勇儀「こんな状態でヤツに勝負に挑まれたら……」
萃香「や、やばいよねぇ〜……」
もう腹は決まった。己を守るために、安心して眠るために、明るい未来を獲得するために!
勇儀「修行じゃーーーっ!」
私は拳を握りしめて立ち上がった。と、そこに現れたのが、
??「ん? どうしたの?」
タイミングは……最悪。
開始早々、回想シーンでした。
【次回:十年後:新しい決まり事(後)】