東方迷子伝   作:GA王

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十年後:鍛錬の成果

--翌朝--

 

 

 この時期の朝はまだ涼しい方。体を動かすには少しばかり暑いが。

 朝食の下拵(したごしら)えは済ませてある。あとは焼く物を焼いて並べるだけ。飯は蒸らせているところ。みんなで食べる頃には……少し冷めているかも…。

 でもやるからには1日に2〜3回はやっておきたい。となると、早朝練習は必須。私は準備運動を終え、気合も充分。けれど……

 

大鬼「ふぁ〜…。ねむ……」

 

コイツが……

 

勇儀「ぼちぼち始めるけど、いいか?」

大鬼「どーぞご自由に」

 

手を差し出して「勝手に使え」と。やる気は一切感じられない。でもコイツがやる気になったところで、鍛錬をするのは私。この状態でも支障はない。

 

勇儀「じゃあ、手を借りるぞ」

 

深い意味などない。そのままの、文字通り。大鬼の手を取り、意識を集中――

 少し大きくなった手。この手を握りしめて生きることを願ったのが、もう遠い日に感じられる。口も達者になって、最近じゃすれ違いと口論ばかり。それでも私は……

 

 

ゾクゾクッ

 

 

背筋に走る合図。そこから始まる、血と共に全身を駆け巡る力。発動する私の能力。『怪力乱神を持つ程度の能力』。

 

勇儀「うし!きたきた」

 

その力を感じたところで、大鬼の手を握った状態でまずは軽くおさらい。

 深く腰を落として、手を腰の位置に。そしてそこから勢いよく手を前へと……突き出す!

 

勇儀「大江山(おおえやま)(おろし)ッ!」

 

父さんの技。莫大な力を必要とする技。だが裏を返せば、それだけの事。力があれば、

 

 

バッチコーーーッン!

 

 

難なく出来る。しかも能力を発動している私ともなれば、

 

バッチコーーーッン!

バッチコーーーッン!

バッチコーーーッン!

 

連射も可能。私が放った力任せのただの掌底は、家の塀に当たり、

 

 

パラパラパラパラ……

 

 

小さな瓦礫(がれき)(こぼ)しながら、その痕を残していた。しかも放った分だけの。つまり今塀は、

 

勇儀「マッズ……」

大鬼「あーあ、またやっちゃった。穴だらけ」

 

そしてこうなると、

 

大鬼「修理頑張ってねー」

勇儀「はー……」

 

直さなければならない。一応そういう仕事をしているだけあって、訳無い。だが面倒くさい。

 

勇儀「大鬼、修理してみるか?」

大鬼「お断り」

 

即答。でもそれはそうだろう。誰だって尻拭いは嫌だ。かく言う私もだ。

 それは後でやるとして、今は鍛錬に集中。能力が生きている内に、やれる事を。

 

勇儀「手に意識を集中…」

 

(てのひら)に少しずつ熱が集まっていくのが分かる。温かい。やがて出来上がる赤色の光の弾。そして、最後にそれを

 

勇儀「バーンッ!」

 

掛け声と共に勢い良く飛ばす。成功だ。

 

 

ズドーンッ!

 

 

地面に大穴を開けるが…。だが一々気にもしていられない。残された時間はあと(わず)かだろう。私は「能力が消えぬ間に」と、急いで札を一枚(かか)げて宣言。

 

勇儀「『鬼符:怪力乱神』」

 

イメージは花と(つる)。蔓が成長していく様に光弾を連ねる。手前で一周、そこから伸ばして一周。さらに蔓を成長させ、等間隔の場所で三度(みたび)一周。そこまでは準備段階。用意出来たところで光弾の色を変え、一気に花弁が舞い散る様にばら()く。

 と、頭では浮かんでいるのだが、

 

 

ふよふよ〜…

 

 

実際は光弾が1つ、(さび)しげに飛んで行くだけ。やがてそれは塀にぶつかると、パッと姿を消した。

 

勇儀「……」

大鬼「……何アレ?シャボン玉?」

 

目を細めてそちらへ視線を向けたまま、ポツリと呟く大鬼。自分で放っておいてなんだが……気があったな。私もそう思う。

 と、ここで能力切れ。そして一気に襲って来る。

 

勇儀「ゼェー…ゼェー…」

 

疲労感。能力を発動するのはいい。だがその状態での『大江山颪』と光弾は、能力が切れた瞬間その反動が一気に襲って来る。とは言え、その2つは現状能力なしでは出来ない。いわば諸刃の剣。一休みにと、大鬼から手を離して隣に腰を掛ける。

 

勇儀「ふー…、やっぱりコレ疲れるな」

大鬼「どうにかなんないのそれ?」

勇儀「どうにも出来ないから困ってる」

大鬼「せめて自分無しでも出来る様になってよ。

   鍛錬の度に呼び出されたんじゃ……」

 

大鬼の言い分は分かる。でも、

 

勇儀「約束だろ?」

 

それ込みであの時大金を渡したのだから。それはコイツも分かっている様で、私がその一言を告げると何も言わなくなった。

 けど、今のままだとマズイ。それは間違いない。仮に光弾を操れる様になっても、「大鬼無しでは使えない」となると、対戦の度に大鬼を巻き込む事になる。それだけは何としても避けたい。さっきは出来たのだから、「ものは試しに」と手を前へ出し意識を集中してみるが、

 

勇儀「……ダメだ」

 

あの感覚が来ない。予兆もない。気配もない。完全お手上げ状態。

 

勇儀「もう少しだけ付き合ってくれるかい?」

大鬼「別にいいけど。()()だから拒否権ないし」

 

(とげ)の残る言い方。何でコイツは毎回毎回喧嘩を売る様な言い方を…。やっぱりあの事で……

 

勇儀「なあ、大鬼……」

 

大鬼に胸の内を明かして欲しくて、尋ねようとした瞬間、

 

 

ズザーーーッ!(ブレーキ音)

 

 

??「ゆ〜うぎっ」

 

「うぎ」で首を傾けながら笑顔。湿っぽい雰囲気が一変、最悪の状況へ。

 黙っていれば美少女。だがその実態は犯罪スレスレのス○ーカー。妬みを嗅ぎつければ、何処でも出現。それでも一応橋姫。()()こと水橋パルスィが不気味な笑顔で登場。

 

パル「勇儀、今日こそは受けてもらうよ?対等に勝

   負!」

 

一気にピンチ。疲労が抜けていない上、あのルールでは勝ち目ゼロ。そのつもりで来ているのは分かっている。だから、

 

勇儀「お、おう。朝から相撲の勝負か。いいぞ、い

   いぞ。じゃあ今準備するから……」

 

誤魔化す。誤魔化しきる!そして逃げきる!!

 そう言い残してこの場を離れ、その勢いで逃げ出そうと考えていた。

 

パル「なにを言ってるのかな〜?もう分かってるで

   しょ?妖怪と鬼が()()に勝負するって言った

   ら、方法は1つしかないでしょ?」

 

が、それを阻止する様に私の前に立ち(ふさ)がるヤツ。しかも嫌味たらしく顔まで覗き込んでくる。ついに……ついに、その時は来てしまった。もう……逃げられない。

 

パル「今まで散々逃げて来たよね?私の事、避けて

   たよね?妬ましかったよ?」

 

しかもかなりヤル気満々。準備は万全と言っても過言ではない。

 

パル「早くスペルカード用意して。私知ってるよ。

   3枚は作ったんでしょ?だから3枚でやろう

   よ。もし勇儀が勝ったら、私なんでも言う事

   聞くよ?でも、私が勝ったら……」

 

言葉を発する度に、ヤツの目の色が変わっていき、そこまで語った頃には、ギラギラと光を放っていた。そして口からは(よだれ)(したた)らせ、手をワキワキと動かしていた。さらにその状態で突きつけて来た要求事項が――

 

パル「毎日起きる時に私におはようのチューして!

   毎日寝る前に私におやすみのチューして!

   毎日ご飯食べる時にいただきますの(ry

   毎日ご飯食べ終わった時にごち(ry

   毎日出かける時に私に(ry

   毎日帰っ(ry

   毎(ry

   (ry」

 

過多。そして走る寒気。このままでは私は……

 

パル「パルパルパルパルパルパルパルパルパル…」

 

ニヤニヤと笑いながら妖気を上げていくヤツ。間違いなく勝利を確信している。コレが勝負?こんなのただの弱い者イジメ。弱い者……それは私?私が……弱い?

 事実だ。私はヤツよりも弱い。だがそう考えると…。

 

勇儀「あ゛ーーーッ!」

 

無性に腹が立つ!!

 

 

ガッ!(パルスィの服を掴む音)

 

 

パル「パッ!?」

勇儀「……」

パル「ルううううぅぅぅぅぁぁぁぁ。。。…☆」

 

いつも通りの展開。毎度お馴染みのパルスィ投げ。けど、

 

勇儀「おーっ!飛ぶ様になったか!」

 

私は何もしていない。

 

大鬼「……迷惑」ボソ

 

「とうとうここまで来たか」と、素直に嬉しかった。そして、そのおかげで私はコイツに初めて……助けられた。弱かったコイツに。「守ってやる」と誓いを立てたコイツに。

 

勇儀「大鬼、ありがとうな」

大鬼「別にぃ〜、()さんを助けようとしたわけじゃ

   ないし」

 

ぶっきらぼう。でも私は知っている。視線を横に外すこの昔からの癖。コレは内に別の事を秘めている時の仕草。

 

勇儀「そうかい」

 

大丈夫。ちゃんと分かっているから。

 

大鬼「あとさ、直ぐ熱くなって勝ち目のない勝負に

   挑もうとしないで」

勇儀「う゛っ……」

 

痛いところを突かれた。反論の余地なし。私の悪いところなのは分かっている。

 

勇儀「悪い、気をつける」

 

長く一緒にいると、お互いそういうところばかりに目がいってしまうのだろうか?私もコイツのそういうところは、聞かれればゴロゴロ出てくる。すぐ冷静さを失ったり、ムキになったり、目上の者に対する口がなってなかったり……アレ?

 

大鬼「あのさ……」

勇儀「ん?」

 

突然呼ばれて返事をしてみても、そこまで。(うつむ)いたまま無言。「何か言いたい事がある」それは分かっていた。だからコイツがそれを言うまで待とうと決めた。

 そして暫く経った頃、その重い口はようやく開かれた。

 

大鬼「き、昨日は……その……ごめん」

勇儀「ああ、いいよ。私にも悪いところあったんだ

   から。すまなかったな。ヤマメにも謝ってお

   けよ?」

大鬼「ヤマメには……もう謝った」

勇儀「え?そうなのかい?」

大鬼「昨日帰る前に寄って来た」

 

恥ずかしそうに鼻の下を擦りながら語る大鬼。「コイツ……」私の中でその一言が引き金になり、湧き上がる感情は、ダムが決壊したかの様に勢いよく(あふ)れて出し、

 

勇儀「コイツコイツコイツコイツーッ!」

 

大鬼の頭を鷲掴みにして、果汁を絞り出す様にグリグリと私の心をねじ込んでいた。

 

大鬼「なになにッ!?髪の毛抜ける!禿()げる!!」

勇儀「偉いじゃないか!」

大鬼「べべべ別に普通だし!当たり前の事だしッ!

   子供じゃないんだから、そんなに過剰反応す

   るなよ!」

 

「子供じゃない」か。確かにな。いつの間にか表情も少し大人びて来て声も低くなって、もうあの頃とは違う。けどだ。

 

勇儀「真っ赤な顔でニヤニヤと嬉しそうにしやがっ

   て。そんな顔で言われても説得力ないぞ?」

 

変わらないものもある。

 

大鬼「ううううるさい!」

 

純粋なんだよ、お前さんは。

 

棟梁「なんなのですか?朝から騒がしい」

 

そこに寝巻きに一枚羽織った姿の現町のNo.2が。

 

勇儀「あ、母さん。おはよう」

 

朝は挨拶、コレは基本。私はいつも通りの昔と変わらぬ挨拶。

 

大鬼「()()()()()おはよう」

 

大鬼が成長するにつれ、多くの者の呼び方が変わった。各々がその変化に戸惑いながらも、

「まあいっか」と受け入れていく中、それを受け入れられず、良しとしない者がいる。しかもそれが身内にいたりするわけで……

 

勇儀「ば、バカ!」

 

 

ピクッ

 

 

棟梁「ん?大鬼今なんと?」

 

頭に血管を浮き上がらせ、笑顔を浮かべる母さん。怖い……その笑顔が怖い!

 

大鬼「え、えっと……」

 

目はキョロキョロ。汗はダラダラ。さぞ「やってしまった」と後悔の念でいっぱいなのだろう。だが大鬼よ。もう言い放ってしまった手前、逃れる事は出来んぞ。

 必死に逃げ場を探す大鬼。するとある方向で視線を止め、そちらを指差した。母さんも釣られる様に、そちらへと視線を動かす。その方向は……

 

棟梁「勇儀っ!あなたまたやったのですか!?」

勇儀「ご、ごめん。つい……後で直すから」

棟梁「いつも言っているでしょ!鍛錬をするなら他

   所でやりなさいと!コレで何度目だと思って

   いるのですか!?あなたの所為で塀がもう至

   る所ツギハギだらけなのですよ!?

   毎度毎度……

   --20分後--

   分かりましたか!?」

勇儀「はい……」

 

秘技、ちくわ耳。我ながらホント便利。話?そんな物、まともに聞いていたら神経がいかれる。だいたい最初の方だけを聞いていれば、要点は分かる。残りは愚痴に近い物だし。

 

棟梁「もうすぐで父さんも起きて来ます。朝食にし

   ますよ」

 

そう言い残して去って行く母さん。母さんの事といい、ヤツの事といい、今日は朝から散々だ。

 

 

そろ~…

 

 

逃すか!

 

 

ガッ!(大鬼の服を掴む音)

 

 

勇儀「よくも標的をこっちに反らせてくれたなぁ」

大鬼「い、いやぁー…、あの場合はさ……」

勇儀「ナ・二・カ・イ・ウ・コ・ト・ハ?」

大鬼「め、めんご」

 

言葉に気持ちが入っていない。こいつはお仕置きが必要だ。

 

大鬼「いだだだだッ!筋肉痛が来た!」

勇儀「パルスィのでか?」

大鬼「他にないでしょ!」

 

ほー……そいつはいい事を聞いた。

 

勇儀「筋肉痛?」

大鬼「う、うん……」

勇儀「歩けるか?」

大鬼「ぎ、ギリギリ……」

 

よし、決行!

 

勇儀「朝飯までには戻ってこーーーいッ!」

大鬼「ウううううぅぅぅぅぁぁぁぁ。。。…☆」

 

力は(おさ)えたし、そう遠くまでは飛んでないだろう……たぶんね。

 

 

--そう遠くない場所で--

 

 

店長「まいどー」

 

いつもより早く目が覚め、朝食に蕎麦を食べに来た者。かけ蕎麦を注文したところ、店長の(いき)な計らいで天ぷらをサービスされ、「今日は吉日だ」と鼻歌を歌いながら店を後に。

 

??「ん?」

 

と、そこに現れる飛来物。徐々にその全貌が露わになり……

 

 

ドゴッ!

 

 

衝突。そして、

 

 

ズザーーーッ!

 

 

地に背を付けて砂塵を巻き上げる。

 

大鬼「いたたた…。ごめんなさい!だいじょ……」

 

己を助け、下敷きになってしまった者へ、感謝と謝罪の言葉を送ろうとする少年だったが――

 

大鬼「なんだ……鬼助か」

鬼助「何でオイラだけ……」

 

少年を受け止めた彼は思った。「やっぱり今日は厄日だ」と。

 

 

 




【次回:十年後:ある日の出来事_地底七不思議(壱)】
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