--翌朝--
この時期の朝はまだ涼しい方。体を動かすには少しばかり暑いが。
朝食の
でもやるからには1日に2〜3回はやっておきたい。となると、早朝練習は必須。私は準備運動を終え、気合も充分。けれど……
大鬼「ふぁ〜…。ねむ……」
コイツが……
勇儀「ぼちぼち始めるけど、いいか?」
大鬼「どーぞご自由に」
手を差し出して「勝手に使え」と。やる気は一切感じられない。でもコイツがやる気になったところで、鍛錬をするのは私。この状態でも支障はない。
勇儀「じゃあ、手を借りるぞ」
深い意味などない。そのままの、文字通り。大鬼の手を取り、意識を集中――
少し大きくなった手。この手を握りしめて生きることを願ったのが、もう遠い日に感じられる。口も達者になって、最近じゃすれ違いと口論ばかり。それでも私は……
ゾクゾクッ
背筋に走る合図。そこから始まる、血と共に全身を駆け巡る力。発動する私の能力。『怪力乱神を持つ程度の能力』。
勇儀「うし!きたきた」
その力を感じたところで、大鬼の手を握った状態でまずは軽くおさらい。
深く腰を落として、手を腰の位置に。そしてそこから勢いよく手を前へと……突き出す!
勇儀「
父さんの技。莫大な力を必要とする技。だが裏を返せば、それだけの事。力があれば、
バッチコーーーッン!
難なく出来る。しかも能力を発動している私ともなれば、
バッチコーーーッン!
バッチコーーーッン!
バッチコーーーッン!
連射も可能。私が放った力任せのただの掌底は、家の塀に当たり、
パラパラパラパラ……
小さな
勇儀「マッズ……」
大鬼「あーあ、またやっちゃった。穴だらけ」
そしてこうなると、
大鬼「修理頑張ってねー」
勇儀「はー……」
直さなければならない。一応そういう仕事をしているだけあって、訳無い。だが面倒くさい。
勇儀「大鬼、修理してみるか?」
大鬼「お断り」
即答。でもそれはそうだろう。誰だって尻拭いは嫌だ。かく言う私もだ。
それは後でやるとして、今は鍛錬に集中。能力が生きている内に、やれる事を。
勇儀「手に意識を集中…」
勇儀「バーンッ!」
掛け声と共に勢い良く飛ばす。成功だ。
ズドーンッ!
地面に大穴を開けるが…。だが一々気にもしていられない。残された時間はあと
勇儀「『鬼符:怪力乱神』」
イメージは花と
と、頭では浮かんでいるのだが、
ふよふよ〜…
実際は光弾が1つ、
勇儀「……」
大鬼「……何アレ?シャボン玉?」
目を細めてそちらへ視線を向けたまま、ポツリと呟く大鬼。自分で放っておいてなんだが……気があったな。私もそう思う。
と、ここで能力切れ。そして一気に襲って来る。
勇儀「ゼェー…ゼェー…」
疲労感。能力を発動するのはいい。だがその状態での『大江山颪』と光弾は、能力が切れた瞬間その反動が一気に襲って来る。とは言え、その2つは現状能力なしでは出来ない。いわば諸刃の剣。一休みにと、大鬼から手を離して隣に腰を掛ける。
勇儀「ふー…、やっぱりコレ疲れるな」
大鬼「どうにかなんないのそれ?」
勇儀「どうにも出来ないから困ってる」
大鬼「せめて自分無しでも出来る様になってよ。
鍛錬の度に呼び出されたんじゃ……」
大鬼の言い分は分かる。でも、
勇儀「約束だろ?」
それ込みであの時大金を渡したのだから。それはコイツも分かっている様で、私がその一言を告げると何も言わなくなった。
けど、今のままだとマズイ。それは間違いない。仮に光弾を操れる様になっても、「大鬼無しでは使えない」となると、対戦の度に大鬼を巻き込む事になる。それだけは何としても避けたい。さっきは出来たのだから、「ものは試しに」と手を前へ出し意識を集中してみるが、
勇儀「……ダメだ」
あの感覚が来ない。予兆もない。気配もない。完全お手上げ状態。
勇儀「もう少しだけ付き合ってくれるかい?」
大鬼「別にいいけど。
勇儀「なあ、大鬼……」
大鬼に胸の内を明かして欲しくて、尋ねようとした瞬間、
ズザーーーッ!(ブレーキ音)
??「ゆ〜うぎっ」
「うぎ」で首を傾けながら笑顔。湿っぽい雰囲気が一変、最悪の状況へ。
黙っていれば美少女。だがその実態は犯罪スレスレのス○ーカー。妬みを嗅ぎつければ、何処でも出現。それでも一応橋姫。
パル「勇儀、今日こそは受けてもらうよ?対等に勝
負!」
一気にピンチ。疲労が抜けていない上、あのルールでは勝ち目ゼロ。そのつもりで来ているのは分かっている。だから、
勇儀「お、おう。朝から相撲の勝負か。いいぞ、い
いぞ。じゃあ今準備するから……」
誤魔化す。誤魔化しきる!そして逃げきる!!
そう言い残してこの場を離れ、その勢いで逃げ出そうと考えていた。
パル「なにを言ってるのかな〜?もう分かってるで
しょ?妖怪と鬼が
ら、方法は1つしかないでしょ?」
が、それを阻止する様に私の前に立ち
パル「今まで散々逃げて来たよね?私の事、避けて
たよね?妬ましかったよ?」
しかもかなりヤル気満々。準備は万全と言っても過言ではない。
パル「早くスペルカード用意して。私知ってるよ。
3枚は作ったんでしょ?だから3枚でやろう
よ。もし勇儀が勝ったら、私なんでも言う事
聞くよ?でも、私が勝ったら……」
言葉を発する度に、ヤツの目の色が変わっていき、そこまで語った頃には、ギラギラと光を放っていた。そして口からは
パル「毎日起きる時に私におはようのチューして!
毎日寝る前に私におやすみのチューして!
毎日ご飯食べる時にいただきますの(ry
毎日ご飯食べ終わった時にごち(ry
毎日出かける時に私に(ry
毎日帰っ(ry
毎(ry
(ry」
過多。そして走る寒気。このままでは私は……
パル「パルパルパルパルパルパルパルパルパル…」
ニヤニヤと笑いながら妖気を上げていくヤツ。間違いなく勝利を確信している。コレが勝負?こんなのただの弱い者イジメ。弱い者……それは私?私が……弱い?
事実だ。私はヤツよりも弱い。だがそう考えると…。
勇儀「あ゛ーーーッ!」
無性に腹が立つ!!
ガッ!(パルスィの服を掴む音)
パル「パッ!?」
勇儀「……」
パル「ルううううぅぅぅぅぁぁぁぁ。。。…☆」
いつも通りの展開。毎度お馴染みのパルスィ投げ。けど、
勇儀「おーっ!飛ぶ様になったか!」
私は何もしていない。
大鬼「……迷惑」ボソ
「とうとうここまで来たか」と、素直に嬉しかった。そして、そのおかげで私はコイツに初めて……助けられた。弱かったコイツに。「守ってやる」と誓いを立てたコイツに。
勇儀「大鬼、ありがとうな」
大鬼「別にぃ〜、
ないし」
ぶっきらぼう。でも私は知っている。視線を横に外すこの昔からの癖。コレは内に別の事を秘めている時の仕草。
勇儀「そうかい」
大丈夫。ちゃんと分かっているから。
大鬼「あとさ、直ぐ熱くなって勝ち目のない勝負に
挑もうとしないで」
勇儀「う゛っ……」
痛いところを突かれた。反論の余地なし。私の悪いところなのは分かっている。
勇儀「悪い、気をつける」
長く一緒にいると、お互いそういうところばかりに目がいってしまうのだろうか?私もコイツのそういうところは、聞かれればゴロゴロ出てくる。すぐ冷静さを失ったり、ムキになったり、目上の者に対する口がなってなかったり……アレ?
大鬼「あのさ……」
勇儀「ん?」
突然呼ばれて返事をしてみても、そこまで。
そして暫く経った頃、その重い口はようやく開かれた。
大鬼「き、昨日は……その……ごめん」
勇儀「ああ、いいよ。私にも悪いところあったんだ
から。すまなかったな。ヤマメにも謝ってお
けよ?」
大鬼「ヤマメには……もう謝った」
勇儀「え?そうなのかい?」
大鬼「昨日帰る前に寄って来た」
恥ずかしそうに鼻の下を擦りながら語る大鬼。「コイツ……」私の中でその一言が引き金になり、湧き上がる感情は、ダムが決壊したかの様に勢いよく
勇儀「コイツコイツコイツコイツーッ!」
大鬼の頭を鷲掴みにして、果汁を絞り出す様にグリグリと私の心をねじ込んでいた。
大鬼「なになにッ!?髪の毛抜ける!
勇儀「偉いじゃないか!」
大鬼「べべべ別に普通だし!当たり前の事だしッ!
子供じゃないんだから、そんなに過剰反応す
るなよ!」
「子供じゃない」か。確かにな。いつの間にか表情も少し大人びて来て声も低くなって、もうあの頃とは違う。けどだ。
勇儀「真っ赤な顔でニヤニヤと嬉しそうにしやがっ
て。そんな顔で言われても説得力ないぞ?」
変わらないものもある。
大鬼「ううううるさい!」
純粋なんだよ、お前さんは。
棟梁「なんなのですか?朝から騒がしい」
そこに寝巻きに一枚羽織った姿の現町のNo.2が。
勇儀「あ、母さん。おはよう」
朝は挨拶、コレは基本。私はいつも通りの昔と変わらぬ挨拶。
大鬼「
大鬼が成長するにつれ、多くの者の呼び方が変わった。各々がその変化に戸惑いながらも、
「まあいっか」と受け入れていく中、それを受け入れられず、良しとしない者がいる。しかもそれが身内にいたりするわけで……
勇儀「ば、バカ!」
ピクッ
棟梁「ん?大鬼今なんと?」
頭に血管を浮き上がらせ、笑顔を浮かべる母さん。怖い……その笑顔が怖い!
大鬼「え、えっと……」
目はキョロキョロ。汗はダラダラ。さぞ「やってしまった」と後悔の念でいっぱいなのだろう。だが大鬼よ。もう言い放ってしまった手前、逃れる事は出来んぞ。
必死に逃げ場を探す大鬼。するとある方向で視線を止め、そちらを指差した。母さんも釣られる様に、そちらへと視線を動かす。その方向は……
棟梁「勇儀っ!あなたまたやったのですか!?」
勇儀「ご、ごめん。つい……後で直すから」
棟梁「いつも言っているでしょ!鍛錬をするなら他
所でやりなさいと!コレで何度目だと思って
いるのですか!?あなたの所為で塀がもう至
る所ツギハギだらけなのですよ!?
毎度毎度……
--20分後--
分かりましたか!?」
勇儀「はい……」
秘技、ちくわ耳。我ながらホント便利。話?そんな物、まともに聞いていたら神経がいかれる。だいたい最初の方だけを聞いていれば、要点は分かる。残りは愚痴に近い物だし。
棟梁「もうすぐで父さんも起きて来ます。朝食にし
ますよ」
そう言い残して去って行く母さん。母さんの事といい、ヤツの事といい、今日は朝から散々だ。
そろ~…
逃すか!
ガッ!(大鬼の服を掴む音)
勇儀「よくも標的をこっちに反らせてくれたなぁ」
大鬼「い、いやぁー…、あの場合はさ……」
勇儀「ナ・二・カ・イ・ウ・コ・ト・ハ?」
大鬼「め、めんご」
言葉に気持ちが入っていない。こいつはお仕置きが必要だ。
大鬼「いだだだだッ!筋肉痛が来た!」
勇儀「パルスィのでか?」
大鬼「他にないでしょ!」
ほー……そいつはいい事を聞いた。
勇儀「筋肉痛?」
大鬼「う、うん……」
勇儀「歩けるか?」
大鬼「ぎ、ギリギリ……」
よし、決行!
勇儀「朝飯までには戻ってこーーーいッ!」
大鬼「ウううううぅぅぅぅぁぁぁぁ。。。…☆」
力は
--そう遠くない場所で--
店長「まいどー」
いつもより早く目が覚め、朝食に蕎麦を食べに来た者。かけ蕎麦を注文したところ、店長の
??「ん?」
と、そこに現れる飛来物。徐々にその全貌が露わになり……
ドゴッ!
衝突。そして、
ズザーーーッ!
地に背を付けて砂塵を巻き上げる。
大鬼「いたたた…。ごめんなさい!だいじょ……」
己を助け、下敷きになってしまった者へ、感謝と謝罪の言葉を送ろうとする少年だったが――
大鬼「なんだ……鬼助か」
鬼助「何でオイラだけ……」
少年を受け止めた彼は思った。「やっぱり今日は厄日だ」と。
【次回:十年後:ある日の出来事_地底七不思議(壱)】