昔から利用している
ボケー…
口を半開き、腕を両側の
ブラ〜ン……ブラ〜ン……
半桶。昔はコレでよく遊び、取り合いにも発展した彼の思い出深い遊具。
だが、成長と共に増えていく重力と、時間と共に
??「退屈……」
ポツリと呟かれる本音。それを全身でかき消す様に、彼は大きくブランコを漕ぎ出す。が、
バキバキバキバキッ!
とうとう寿命が。彼は雷鳴の様な音と共に地面に落下し、
??「いたたた……」
腰を強打。しかも最悪のタイミングで現れる
??「プププ、見ーちゃった♪見ーちゃった♪」
腐れ縁。
大鬼「和鬼だっせぇー」
和鬼「う、うるさい!ボロくなってたんだよ」
痛めた腰を
大鬼「そこまで気付いていて何で使うのさ?頭悪い
の?」
さらに挑発する小生意気な少年。この言葉にさすがの彼もカチンッと来た様で、
和鬼「お前に言われたくねぇよ…。まだガキのクセ
に……」
冷静な顔で反撃開始。
大鬼「なっ、歳そんなに変わらないクセにガキ呼ば
わりするな!」
和鬼「はっ、すぐそうやってムキになるなんて、ま
だまだガキだな。大鬼ちゃんかーわいい♡」
ブチリッ!
鈍い音を立てて切れる理性。失われる知性。そして剥き出しになる少年の本心。
彼の思惑は大成功。声を上げて迫り来る少年に対し、
和鬼「『大江山颪(未熟)』」
力強い右張り手を繰り出す。が、
ゆらっ……
少年は彼の直前で不自然な動きを取った。そして、まるで川の流れに身を委ねる落ち葉の様に、彼の張り手を
和鬼「あぶねっ!」
焦る彼。慌てて足を一歩前へ出し、踏み止まる。だが彼は知っていた。まだ終わりじゃない事を。この後がある事を。急いでその場で身を屈め、重心を真下へ。その途端、目の前に転げ落ちる様に現れる
大鬼「うわわわ」
少年。形成逆転、彼は少年の服を掴むと地底の天井へ向け、
和鬼「うおりゃーッ!」
大鬼「ウううぅぅゎゎぁぁーー」
全力投球。そして落下地点へと急ぎ、宙で身動きが取れず、あたふたしながら落下してくる少年を、
ガシッ!
ナイスキャッチ。ただその受け止め方が、
和鬼「お怪我はございませんか?」
抱かれる方に精神的ダメージを与え、
大鬼「ヤメロッ!離せって!!」
キュン死不可避の
和鬼「おやおや、わんぱくな姫様ですね」
通称『お姫様抱っこ』。
大鬼「ふざけんな!気持ち悪い!今すぐ下ろせ!」
罵声を上げ、彼の腕の中でジタバタと暴れる大鬼姫。すると王子様、
和鬼「へーへー、分かりましたよ」
「仰せのままに」と姫から手を離し、両手を上へ。となると姫は、
ゴッ!
落下し地に腰を強打。
大鬼「いだだだ…。こ、コノヤローッ!」
当然姫は大激怒。そしてそこから更に激化する
--少年喧嘩中--
地に大の字になって寝そべる2人の少年。互いに顔に
和鬼「お前の『さんぽひっさつ』、大分マシになっ
たな」
大鬼「師匠は『まだまだだ』って。『余計な力が入
ってる』ってさ。姐さんにも『気持ちが見え
見えだ』って言われた。和鬼は力が強くなっ
てるし、もう少しなんじゃない?」
和鬼「全然。アレは普通の力じゃ無理だ。目標が馬
鹿げてるって最近後悔し始めたよ」
反省会。彼らにとって喧嘩は、互いの鍛錬の成果の見せ合いの場でもあった。手を合わせる度、それぞれの成長を確認し合っていた。「昔よりはかなり良くなっている」と認め合っていた。
だが2人の目標は果てしなく先。スタートを切ったのはいいものの、今自分がどの位置を走っているのか不明確。そんな中で走り続けさせられれば、モチベーションも下がるというもの。「何か一つ、目に映る目標が欲しい」あわよくば、「達成感が欲しい」そう思っていた。
2人の前髪を撫でるこの日の風は、暑くなってきた地底世界に心地よさを与えていた。それは地上からの贈り物であるかの様に。
和鬼「なあ大鬼。お前この地底世界、どう思う?」
大鬼「……退屈」
意見があった。それは彼が日頃から感じていた事でもあった。
和鬼「大人はいいよな。仕事は大変そうだけど、賭
博場とか行けるし」
大鬼「やりたいの?」
和鬼「いや、父ちゃん負けて帰る事が多くて、いつ
もションボリしているから、楽しくないんだ
ろうなって思うんだけど…。お前は?」
大鬼「鬼助が言っていたんだけど、姐さんが昔よく
通っていたみたいでさ、なんか大勝ちした事
があるんだって。だから一度はやってみたい
かな?」
和鬼「あー、父ちゃんもそんな事言っていたかも。
でも勇儀さんがね…。全然イメージないな」
少年達は知らなかった。
かつて星熊勇儀がそこをこよなく愛する常連であった事を。そして行かなくなった……いや、行けなくなった理由も。それもそのはず。それは彼ら2人が出会う前の出来事なのだから。
大鬼「そう?結構似合いそうじゃない?手土産とか
持って店に入って行く姿とか」
この時彼は脳内で「果たしてそうなのか?」と疑問を浮かべながらも、その様子をシュミレーションしていた。そして導き出した答えは、
和鬼「……否定しない」
「似合い過ぎ」だった。
大鬼「でも自分達がそこに入れるのってさ……」
和鬼「まだ先なんだよなぁ……」
比較的自由に見える地底世界。しかしその実態は規則により、町の治安を維持している。地上、外の世界となんら変わりはない。
その反面、彼らの様に規則によって縛られてしまう者がいる事も、また事実。『賭博場は未成年厳禁』なのだ。さらに言ってしまえば、『飲む・打つ・買う』この三拍子は成人してからなのだ。
娯楽がその程度しかない狭い地底世界。それでも幼少の頃は、ここに来て遊べば満足できていた。しかし、成長と共に彼らはそれだけでは満足する事が出来なくなっていた。
幼少期を終え、未成年の彼らにとっては
和鬼「今が一番つまらない……」
のである。
大鬼「剣玉は?」
和鬼「子供か?」
大鬼「秘密基地作り」
和鬼「子供かって」
大鬼「じゃあ蕎麦屋の記録に挑戦」
和鬼「一人でやってろ」
大鬼「……」
和鬼「……」
『はーー……』
良い案は出ず、出るのは大きなため息だけ。
大鬼「なんか面白い事ない?いだだだ…」
筋肉痛を発症しながら尋ねて来る少年。彼はその問いに、「何かないか」と記憶の中を模索しだしていた。そして、
和鬼「そう言えば……」
その「何か」を思い出した。
和鬼「随分前……祭の時かな?
『地底世界には不思議が多い』って言ってて
さ。その後、父ちゃんにその事を聞いたんだ
よ。そしたら……」
大鬼「そしたら?」
少年のこの問いに彼は、雰囲気を出す様に声色を低くし、
和鬼「七つの不思議、『七不思議』があるって」
両手で『7』を作って答えた。
大鬼「どんなやつ?迷信とかじゃないの?」
だが、
和鬼「さー……」
その内容までは把握出来ていないご様子。
大鬼「さーって…。知らないんじゃ意味ないし」
少年の言う事は
和鬼「分かった。じゃあ今日また聞いてみる。だか
ら明日またここに集合な」
「明日こそは」とリベンジを約束し、
大鬼「りょーかーい」
和鬼「じゃあな」
少年へ背を向けて歩き出した。だがその間もなく、
大鬼「ちょちょちょっと!和鬼!!」
静止を呼びかける声が。
和鬼「なに?」
大鬼「起こして。そんで家に連れて行って」
この時彼は思った「毎回面倒くせー」と。そして同時に思い浮かぶちょっとしたイタズラ。
和鬼「ったくしょうがねぇな……よっと!」
大鬼「わわわっ、おい!これはヤメロッ!」
和鬼「なんで?」
大鬼「恥ずかしい!顔が近い!気持ち悪い!」
和鬼「だって一人で動けないんだろ?赤ちゃんじゃ
ん」
大鬼「なっ、誰が赤ちゃんだ!」
和鬼「おーよちよち。今家まで連れて行ってあげま
ちゅからねー」
大鬼「ヤーーーメーーーローーーッッッ!!!」
この日の夕刻、町では爆笑の渦が各地で発生し、その都度悲痛な叫び声が上がったそうな。
--そして翌日--
手にメモ用紙を持ち、上機嫌で約束の地で少年を待つ彼。その表情はどこか誇らしげでもある。
和鬼「お、来たな」
そこに遠方の方に人影。それは馴染みのあるシルエット。だが、その背後には
和鬼「うわ、不機嫌そー……」
と。一歩、また一歩と徐々に彼へと近付く少年。歩みを進める度、地響きが聞こえて来そうである。そしてとうとう彼の下へ……到着。
和鬼「よ、よう。七不思議の事なんだけど」
大鬼「カーズーキーッ!何か言う事は!?」
明らかな怒気。火力は強火。下手に刺激すれば、大火事は間逃れないこの状況。ここで素直に謝るのが吉。
和鬼「姫、ご機嫌いかが?」
大鬼「最悪でゴザイマスワ!歯ぁ食いしばれ!」
止めておけばいいものを…。それはまさに火に油。少年の怒りは余裕のK点越え。ともなれば、
和鬼「わ、悪い悪い」
今更謝ったところで、
ゴッ!
手遅れ。それは大きな誤り。
和鬼「いってぇなっ!謝っただろうが!」
大鬼「遅いんだよッ!」
--少年喧嘩中--
大鬼「いだだだ……筋肉痛が来た」
昨日と同様のポーズの少年。
和鬼「お前バカだろ?」
それはこちらも同様。
大鬼「和鬼に言われたくねぇ」
和鬼「これじゃ話が進まないだろ」
大鬼「それは
和鬼「メタ乙」
冗談を言い合える程度までには回復した2人。とは言え、
大鬼「町で笑い者にされたんだからな!姐さんにだ
って……」
根が深い。
和鬼「分かったって、悪かったって。でもあの後、
勇儀さんと何かあったのか?」
彼が少年を丁寧に運んだ時、出迎えたのは休暇中の勇儀だった。その時は「あははは、ありがとうな」とだけ言葉を残し、少年をその状態のまま受け取っていた。彼としては、面白い反応を期待していただけに、その場は不発で終わり、物足りなさを感じていた。
そして今この時、そのリベンジにと、その後の展開に期待に胸を躍らせていた。
大鬼「……泣かれた」
だが少年の口から出た一言は衝撃的なのものだった。
和鬼「ど、どうして?」
大鬼「分からない。けど……」
少年は言葉をそこで区切ると、深呼吸をしてその場を思い出しながら、続けて話し出した。
大鬼「『重くなったな』って」
和鬼「……そうか」
期待していたものとは大分異なるが、「これはこれで良かった」と思う彼。
時刻はまもなく夕食時。町では食欲を
ぐうぅ〜〜……
その気にさせた。
和鬼「七不思議、明日からにするか」
大鬼「というか誰かの所為で動けないし……」
この時彼は思った。「しつこい」と。だがそこは年長者、
和鬼「はいはい、悪うござんした」
やや皮肉を込めて
大鬼「今日はちゃんと運べよ」
この時彼は思った。「図に乗るな」と。そして立ち上がり、少年に近付くと――
ガッ!(大鬼の??を掴む音)
大鬼「いだだだだッ!擦ってる、擦ってる!背中い
てぇ!頭
和鬼「お仕置きだ」
大鬼「はーーーッ!?」
和鬼「お前は歳上に対する口と態度が悪過ぎる」
大鬼「2つしか変わらないだろうが!」
和鬼「ふーん…。反省しないの?なら続行」
大鬼「ヤーーーメーーーローーーッッッ!!!」
この日の夕刻、町では苦笑いの渦が各地で発生し、悲痛な叫び声と怒りに満ちた声が、絶え間なく上がっていたそうな。
そして次の日も彼らは似たような展開となり、七不思議探しを更に後日へと持ち越したそうな。果たして2人が地底の七不思議に迫る日は来るのだろうか?
【次回:十年後:すれちがい(壱)】