東方迷子伝   作:GA王

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十年後:すれちがい(弐)

--時を少し(さかのぼ)って--

 

 

店長「らっしゃい!」

 

 来店者に威勢のいい声をかける店長。だが、その客の姿を目視するや否や、

 

店長「これはこれはチャンピオン様。ようこそおいでくださいました」

 

 態度をガラリと変えた。

 

??「あの、店長さん……」

 

 (うつむ)いてワナワナと震える客。

 

店長「はい、なんでしょうか?」

 

 両手を繋いで、にぎにぎと動かしながら、その客に笑顔で尋ねる店長。分かりやすいごますりである。すると客は、この質問に柱を指差し、

 

??「あの数字を……」

 

 初めはゆっくりと、

 

??「額に入れて飾るの……」

 

 段々と早めていき、

 

??「やめて頂けませんかッ!?」

 

 そして爆発。このお得意様の反応に店長、

 

店長「まあまあ、誰もあの数字を出したのが貴女だなんて知りませんよ。それに、アレを超える事を生き甲斐としているヤツもいるんですから」

 

 どーどーと、手で壁を作りながら(なだ)める。

 

店長「それよりも今日は新記録を?」

??「しません! 5杯()()食べて帰ります!」

 

 

--そして翌朝--

 

 

 大鬼の指示の下、作り上げられた秘密基地。今となってはただの公園。久々に来てみたが――

 

勇儀「大鬼……、これはやり過ぎだろ?」

 

 なぎ倒され、横たわる木々の屍。しかもその数、累々たるもの。南無三。

 

大鬼「誰のせいで……」ボソ

勇儀「あ゛っ? なんか言ったかい?」

大鬼「別にぃ〜」

 

 朝から不機嫌。寝起きだから? それもあるが、単に「面倒事に付き合わされて災難だ」とでも思っているのだろう。

 

ヤマ「勇儀やっはろー。朝は涼しくていいね」

 

 そこへ師匠登場。今日も笑顔が眩しい。そして謎の挨拶。よし、流行らそう。

 

勇儀「やっはろー」

 

 少し恥ずかしいが。

 

ヤマ「大鬼君も来たんだ。やっはろー」

大鬼「あ、うん。おはよう」

 

 違うぞ。そこは「やっはろー」だ。

 

ヤマ「ここしばらくぶりだなぁ。もう随分クタビレちゃったかぁ……」

 

 そう独り言を言いながら、昔の自分の作品を見に行くヤマメ。作品一つ一つを懐かしみ、時折手でなぞる様に触れていく。さぞ感慨深いものがあるのだろう。気持ちは分かる。

 

大鬼「ねー」

 

 呼ばれたか?

 

勇儀「ん?」

大鬼「さっきの何? バカっぽいからやめて」

勇儀「う゛ぐッ」

 

 冷たい視線。冷静に見るとやっぱりそうなのか? もうやめておこう。

 作品を一通り鑑賞し終えたヤマメ。戻って来るなり、大鬼の事を見つめてポツリと「大きくなったね」と。そして一度大きく深呼吸をし、

 

ヤマ「それじゃあ始めようか」

 

 鍛錬の開始を告げた。

 

ヤマ「早速だけど、光弾を出してくれる?」

勇儀「分かった。大鬼」

大鬼「はいはい」

 

 大鬼に協力を頼むと、いつも通りのやる気のない感じで、手を差し出してきた。私がその手を掴もうとした丁度その時、

 

ヤマ「ちょ、ちょっと待った」

 

 ヤマメから停止の指令が。

 

ヤマ「え? なに? 何してるの?」

勇儀「光弾を出すんだろ?」

ヤマ「そうだけど……、何で大鬼君の手を?」

勇儀「能力を発動させるためだ」

ヤマ「それは分かるけど……、もしかして……」

勇儀「ああ、能力無しじゃ光弾が出せない」

ヤマ「えー……」

 

 肩の力を抜いて猫背。しかも「これは大変だ」と言わんばかりの表情。私の出来の悪さに、早くも根を上げ始めているのだろう。

 

勇儀「やっぱり難しいか?」

 

 私のこの質問に、ヤマメは腕組みをして「んー……」と唸りながら、難しい表情を浮かべた後、「取り敢えずやってみて」と。私はその指示に「分かった」と一度頷き、大鬼の手を握って意識を集中。……感じる。湧き上がるこの感じ……。

 

勇儀「よしッ!」

 

 成功。でも、いつもより心なしか弱い感じがする。それこそ数年前と比べたら全然。不思議に思いながらも、ヤマメの言われた通りに、光弾を放つ準備に取り掛かる。

 手を前へ。掌に意識を集めて……

 

勇儀「バーン!」

 

 

ドッカーン!

 

 

 光弾の発射は成功。私が放ったそれは、地面に接触した途端に大爆発を引き起こし、その威力をくっきりと残した。我ながら上出来だ。

 

勇儀「どうだ?」

 

 少し誇らしい気に尋ねてみると、ヤマメは口をへの字に曲げて

 

ヤマ「ん~……。あのさ、思うんだけど……」

勇儀「なんだい?」

ヤマ「力み過ぎじゃない?」

 

 と。思いもよらぬ感想に私は衝撃を受けた。

 

勇儀「え? そうなのか?」

ヤマ「スペルカードルールって魅せる戦いだから、威力は2の次、3の次なんだよ。それじゃあすぐに疲れちゃうよ。それと勇儀、光弾を出す時に何をイメージしてる?」

 

 私はヤマメのこの質問に、すぐに答える事ができなかった。と言うのも、私が光弾を出す時は、ただ意識を集中させているだけで、イメージを持たせるなんて事は、これまで一度も考えた事が無かったからだ。

 私の口からは一向に答えは出ず、「うーん」やら「えーと」といった声が出るだけだった。するとヤマメも察してくれた様で……

 

ヤマ「あ、うん。分かった。もういいから……」

勇儀「すまない……」

ヤマ「いいよいいよ。初めはみんなそんな感じだから。(ちな)みに私はね、糸を飛ばすイメージで出してるよ」

勇儀「糸を? 飛ばす?」

ヤマ「実際に見せた方がいいかな?」

 

 ヤマメはそう言い残すと、私の横に並び「見ていてね」とだけ告げ、掌に糸を出し始めた。

 それは細い糸。静に流れる風に(あお)られる程のか細い糸。それは紡がれ、太さと強さを生み、身を(ゆだ)ねていた風にも逆らう糸へ。それはクルクルと回り出すと、やがて球体へ。

 私はその巧みな技に魅入っていた。そして、出来上がったその球体を見てこう思った。「毛玉か?」と。

 

ヤマ「えいっ!」

 

 掛け声と共にその毛玉は飛んで行き、少し離れた所で、

 

 

バッ!

 

 

 と傘が勢いよく開かれるかの様に、大きな蜘蛛の巣へと変貌を遂げた。

 それはまるで手品。私は目を見開き、

 

勇儀「すごいな」

 

 本心を(こぼ)していた。するとヤマメ、目を輝かせて「見てて見てて」と言わんばかりのウキウキとした声で……

 

ヤマ「今のはゆっくりやった場合ね。で、コレが」

 

 

シュッ! バッ!

 

 

ヤマ「早くやった場合」

 

 とドヤ顔で言われたが、何が起きたかさっぱり。彼女の手から何かが出たのは見えた。ただ次の瞬間には蜘蛛の巣が現れていて……

 

勇儀「は?」

 

 頭が追いつかず、これまた本心がポロリ。

 

ヤマ「ま、まあいいよ。私ね、昔からコレが得意でさ。光弾を出す時に、このイメージをよく使うんだ」

勇儀「私に糸を飛ばせって事かい?」

ヤマ「違う違う、なんかさ勇儀にもない? それに近い様な特技とか技とか」

勇儀「んー…」

 

 再び上がる唸り声。そうは言われてもパッと思いつく物が無く、自然と眉間に力が入る。そんな私の様子に見かねたのだろう。ヤマメが苦笑いを浮かべ、

 

ヤマ「な、無いかなぁ?」

 

 恐る恐ると再び尋ねて来た。と、そこに

 

大鬼「大江山(おろし)は?」

 

 (かたわ)らから声。そして気付かされた。「それがあった!」と。

 

勇儀「そうだ! 大江山颪、あれなら連射できる!」

ヤマ「それって親方様の?」

勇儀「ああ、ちょいと見ていておくれよ」

 

 私はそう告げると、手頃な岩を正面に……構えッ! そして放つ

 

勇儀「大江山颪!」

 

 1発目。その後に間髪入れず、2発、3発、4発……と連続して発射。

 

 

バチコーーッン!

 

 

 1発目が岩に。表面を(えぐ)り、己がそこに到達したと存在を主張した。そして、そこから等間隔に奏でるサウンド。それはまるでリズム、刻まれるビート。そのミュージックが止んだ時、Rockの表面は……ボコボコに。

 

勇儀「ドヤッ」

 

 得意気にヤマメへと視線を移すと、目を見開いて口をあんぐり。いいね、その反応。

 

ヤマ「す、すごいね。それ、どんな感覚でやってるの?」

勇儀「どんなって……こう力を押し出す感じで……」

 

 彼女の質問に最後まで説明しようしていたが、そこに彼女が突然、

 

ヤマ「それだよ!」

 

 大声を上げて割り込んできた。

 

ヤマ「その感覚で光弾を出そうよ。しかも今の技って光弾に凄く近いよ。ただ形が無いだけで」

勇儀「いや、でもアレは空気を……」

ヤマ「いいからやってみて! 師匠命令!」

 

 ヤマメに師匠稼業に熱が入り始めた。さらに私を見つめるその瞳には炎が。「もっと熱くなれよ!」とか言い出さないよな?

 

ヤマ「まず光弾を出すところまでやってみて。その時なるべく『力』をイメージして」

勇儀「力?」

ヤマ「『この光弾は力の塊なんだー』って感じで。勇儀の場合はその方がいいと思う」

 

 ヤマメの言われるがまま、全身に(みなぎ)る力を、掌へ集める様なイメージで……。思わず手にグッと力が入る。とその時、

 

勇儀「うわっ!!」

ヤマ「えーーーッ!?」

大鬼「デカッ!!」

 

 とんでもなく大きな球体が目の前に。その大きさは私の倍程度。眩いまでの赤色の光を放ち、それはまるで……。地底世界では拝めない物、地上でしか見られない物。太陽そのもの。

 

大鬼「まぶしッ」

 

 その光に目を背ける大鬼。

 

勇儀「わ、悪い悪い」

 

 慌てて力を抜くと、それはみるみる小さくなっていき、掌サイズまでになろうとしていた。

 

ヤマ「ストップ!」

 

 まさにその時だった。ヤマメから静止を呼びかける声が上がったのは。私は慌てて少量の力を込め、状態を維持する様に試みた。すると光の玉は少しだけ膨らみ、その大きさでピタリと変化を止め……。

 

ヤマ「それ! その力加減を覚えて! まずはその大きさをすぐに出せる様に練習しよう。飛ばすのはその後。そこまで出来る様になったら、スペルカードの魅せ方を一緒に考えよ」

勇儀「わ、分かった」

 

 そこから力加減を覚えるための反復練習が始まろうとしていた。だが、そのタイミングで運悪く

 

勇儀「ゼェ……、ゼェ……、ゼェ……」

 

 能力切れ。大鬼から手を離し、両手を膝へ。昨日よりも披露度が大きい。立っているのもやっとの程だ。

 

ヤマ「どどどどうしたの勇儀!? 大丈夫?」

 

 普段見せない私の姿にさぞ驚いたのだろう。ヤマメが慌てながら声を掛けて来た。それに比べて大鬼ときたら……

 

大鬼「あー……、いつもの事だよ。姐さん、能力使っている時に普段出来ない事をすると、反動でこうなるんだよ。」

 

 私を(あわ)れむ様な目で見ながら、淡々と説明。でも悔しいがこれは本当の事。その上言い返そうにもそんな余力もない。

 

勇儀「す、すまないヤマメ……。少しだけ休ませておくれ」

 

 これでは鍛錬のしようがない。私がそう頼むとヤマメは

 

ヤマ「へー、そうなんだ」

 

 と納得しながらこう呟いた。

 

ヤマ「なんか大鬼君みたいだね」

大鬼「はーーーッ!? 全然違うし!」

ヤマ「そう? そっくりだよ。2人とも」

勇儀「そっくりって事はないだろ? 私とコイツで同じところなんて、利き手とそれくらいだろ?」

 

 そう、私とコイツの共通点なんてそれくらい。食べ物の好みも近いけど、ただそれだけの事。それ以上は思い浮かばない。性別が違うし、角もない。コイツとはただの他人同士。でもヤマメにそう言われて不思議と嫌な気持ちにはならなかった。




【次回:十年後:すれちがい(参)】

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