東方迷子伝   作:GA王

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十年後:すれちがい(参)

--女鬼休憩中--

 

 

 呼吸が落ち着いて、体も大分楽になった。とは言え、全快までは程遠く、出来る事ならもう少しだけ休みを取っていたい。しかしそうゆっくりもしていられない。今日この後、私とヤマメは仕事がある。それに大鬼も和鬼と約束があると言っていた。何をする気か知らないが……もう喧嘩を起こさない事を切に願う。冗談抜きに。いつぞやの連日筋肉痛はもうこりごりだ。

 

勇儀「よし、やろう!」

 

 膝を叩いて重い体を奮い立たせ、鍛錬を再開。

 大鬼に協力してもらっての能力発動。ここまでの流れはもう慣れたもの。ただ発動する度に、湧き上がる力が弱くなっている事が少々気になる。けど鍛錬を行うにはこの程度でも問題ない。

 

 

パンッ

 

 

 ヤマメが手を叩く音に合わせて

 

勇儀「ぐっ!」

 

 さっきの要領で光の弾を作る。だが……。

 

勇儀「うわっ!」

ヤマ「力み過ぎだよ。大きいよ。もっとリラックス、リラックス」

勇儀「リラックス、リラックス……」

ヤマ「そうそれ。はい、もう一回」

 

 

パンッ

 

 

勇儀「ほっ」

ヤマ「今度は小さいよ、もう少し力を入れて」

 

 なかなか上手くいかない。自分でも思う。「これは時間が掛かりそうだ」と。

 その後もヤマメの指導の下、光弾作りの反復練習を行い、この日の早朝練習は終了。

 そしてその翌日から私の鍛錬は本格的に始まった。早朝練習の他に、私とヤマメが休みの日は一日中。もちろんそれは大鬼の協力があっての事。つまり大鬼は私の鍛錬に付き合わせられていた。ずっと。何をするわけでもなく、ただ手を握られるためだけに。

 やがて私は光弾を安定して飛ばせる様になり、一度に作れる数もかなり増えた。ヤマメも「基礎はもう充分」と言ってくれ、鍛錬はいよいよスペルカードの魅せ方、作り方へと移行しようとしていた――

 

勇儀「大鬼、手」

 

 いつも通りに、さも当たり前の様に大鬼に手を差し出し、協力を求めた。

 

大鬼「……」

 

 だがその手はなかなか出て来なかった。手を握っては開きを繰り返し、催促をしてみるが、一向にその様子は見られない。その上、冷めた目で不服な表情を浮かべる始末。その態度に少々ムッと来た。

 私の表情の変化に気が付いたのだろう。すると大鬼はここぞとばかりに……

 

大鬼「あのさ……、いい加減に自分無しでも出来る様になってくれない?」

 

 不満をぶつけてきた。

 

ヤマ「そうだよね、大鬼君は付き合わせられて辛いよね。勇儀どう? 出来そう?」

 

 師匠にそう言われて、試しに能力の発動無しで光弾を作ってみる事に。もう慣れた感覚。あの要領でやればいい。簡単な事だった。

 

勇儀「……できない」

 

 だがそれは姿を現わす事は無かった。手に力を込めようと、力の塊だという事を強くイメージしようと、何をしようと。

 それならばと大鬼との繋がり無しに、能力の発動を試みる。だが結果はそれも不発。その(きざ)しさえも感じられなかった。

 

勇儀「能力も出せない……」

ヤマ「そうなの? でも大分前に……それこそ、あの年のお祭りの時に大鬼君とは……」

 

 そう、あの時……私が大鬼達の元へと向かった時は、手も届かない距離だった。それが一番の謎。その時のきっかけが分かれば、私は自由に能力を解放できるのに……。でも分かっている事もある。それは祭りの後に、実家で開いた宴の席での事。実験は成功し、その時疑惑は確信へと変わった。それが、「大鬼に触れれば能力が発動する」という事。

 だから今もこうして大鬼に協力を頼んでいる。ただ不思議なのが、当時は離れていても持続していたのに、最近では離れた途端消えてしまうのだ。やっぱりアレじゃないとダメなのか?

 

勇儀「おい、大鬼」

 

 これを頼むのは何年ぶりだろう。

 

勇儀「ん!」

 

 懐かしいが……は、恥ずかしい。

 

大鬼「は? 何やってるの?」

ヤマ「?」

 

 もう忘れてしまったらしい。仕方なく頬を人差し指で2度叩き、分かりやすく合図。さらにもう一度、先程よりも強めに

 

勇儀「んっ!!」

 

 もう分かるだろう?

 

大鬼「だから何ッ?」

 

 これでも伝わらないのかっ!? 師匠は目を輝かせて待っておられると言うのに……。

 

勇儀「だ、だから……その……、く、くち……」

大鬼「しないから」

 

 食い気味の回答。コイツ……。分かっていただろ?

 

勇儀「でもそっちの方が、ずっと手を握っていなくて済むんだぞ?たぶん……」

大鬼「あのさー、手を握られっぱなしなのが嫌だって思っているわけ?」

勇儀「いや、そうじゃないのは分かるが……。でも約束だろ?」

 

 「約束」コレを言えば「大鬼は何も言い返せずにまた黙る」。そう思っていた。安易に考えていた。だがこれが引き金となり、

 

大鬼「もうそれ以上に付き合わせられてる!割に合わない!」

勇儀「毎月小遣いだってあげてるんだ!家の手伝いだってしてないんだから、もう少し付き合ってくれてもいいだろ!!」

 

 私と大鬼は、互いに溜め込んでいた日頃の不満が大爆発。顔を近付け、激しく火花を散らして睨み合っていると、

 

ヤマ「ちょ、ちょっと待った。2人とも落ち着いてよ」

 

 その間を裂くように、ヤマメが割って入って来た。

 

ヤマ「大鬼君、毎日朝早くから一緒に来てくれて、大変なのはすごく分かる。エライと思うよ。勇儀だって感謝してるよ?ね?」

勇儀「あ、あー……」

大鬼「……」

ヤマ「でもね? 勇儀は仕事に行って、ご飯も作ってくれているんでしょ? もう少しだけ勇儀の鍛錬に付き合ってくれないかな?」

 

 さすがヤマメだ。素直にそう思う。そして彼女の言葉で気付かされた。私は大鬼への配慮が足りていなかったのだと。

 

勇儀「頼む大鬼もう少しだけでいいから……」

大鬼「……ナンデ?」

  『え?』

大鬼「どうして……どうして……どうして我慢するのはコッチばかりなんだよ……。この前の肉屋の手伝いの時だってそうだ。我慢して、ヤマメに言われたから()()()()こっちから謝って!」

ヤマ「ちょっと大鬼君!?」

 

 聞き捨てならなかった。恐らくヤマメが大鬼に「私に謝ってくれないか?」と頼んだのだろう。ヤマメの事だ。丸く収めようと気を使ってくれたのだろう。

 それはいい。

 だが、あの時の「ごめん」が()()()()? それはつまり、偽りの心、偽りの言葉……嘘。

 

勇儀「大鬼、お前さんそういうつもりで謝ったのか?」

大鬼「じゃなければ言わない! あの時は全面的に姐さんが悪い! それに我慢しているのはそれだけじゃない!! もっと前から……ずっと、ずっと我慢しているんだ!!」

 

 これには心当たりがあった。ちゃんと話さないといけないとも。

 

勇儀「だったら何であの時、『もう探さない』と言った時に、『いいよ』と答えたんだッ!?」

 

 けど、こんなタイミングで、この話題を出す事になるなんて……。

 

ヤマ「えっ……」

大鬼「は?」

 

 私がそう放った言葉は、大鬼のみならず、ヤマメまでもを呆気に取らせていた。まるで予期していない事を言われたみたいに。

 

勇儀「だってそうなんだろ? お前さんが言う『我慢』って言うのは。やっぱり本当の親に会いたいんだろ? お前さんにとって唯一の親だもんな?」

 

 確信があった。コイツが変わり出したのが、その頃だったから。そう尋ねた私の声は、少しばかり震えていた。

 

ヤマ「勇儀、それ……」

大鬼「ヤマメ!」

 

 ヤマメが私に何かを伝えようとしたその時、大鬼が大声を出して「それ以上話すな」とでも言うかの様に、その言葉を停止させた、そして私に鋭い視線を向け、威嚇するかの様に語り出した。

 

大鬼「いいよ……、勝手にそう思っていれば。ずっと勘違いしてろよ! その都度『また勘違いしてる』って心で笑ってやるから!!」

勇儀「なんだよその口の聞き方! それが目上の者対する言い方かっ!?」

大鬼「また説教すんの!? ()()()()()()()()()()()親面するな! やっぱり前言撤回だ! 見つけろよ、今すぐ! 本当の親を!! そしたらすぐに、口うるさくてわからず屋の姐さんからさよならだ!」

 

 

バチンッ!

 

 

 黙っていられなかった。悔しかった。悲しかった。私の心は限界を超えていた。

 

勇儀「出て行けよ……。そんなに私の事が嫌なら出て行けッ!」

 

 私がそう言い放つと、大鬼は殴られた頬を抑えて食いしばる歯を見せながら、先程よりも強く、刺すような視線を向けた後、その場から走り去って行った。

 

ヤマ「大鬼君! 待って!」

勇儀「ヤマメ追うな! 放っておけよ。あんなヤツ……」

 

 

パチンッ!

 

 

 頬に違和感を覚えた。決して強くはない、大したダメージにもならない一打。だがそれは、胸に強く響いていた。

 

勇儀「えっ?」

 

 ヤマメは……泣いていた。両目から大粒の涙を流しながら。それが大きなダメージだった。

 

ヤマ「なんで分かってあげないの!? なんで気付いてあげられないの!? みんなが気付いているのに、どうしていつも側にいる勇儀が分からないの!?」

 

 私は泣きながら語る彼女の言葉を、ただ呆然と聞く事しか出来なかった。そして彼女は全てを告げると、くるりと背を向けて歩き出した。

 

勇儀「ヤマメ? どこに……」

ヤマ「知らない! 来ないで! ちゃんと気付けるまで、大鬼君と仲直りするまで、何も教えない!」

 

 取り残された私。ヤマメは私に「気付け」と告げた。そしてアイツは「勘違いをしている」と。

 私には、それが何なのか分からない。分からない限り、私はアイツとは仲直りする事が出来ないだろう。けど、今は例えそれが何か分かったところで、仲直りだなんて……。

 祭まであと数日、今年の祭はほぼ例年通り。一大イベントもなければ、特別なゲストもいない。いつかの慌しい祭りとはならないだろう。と同時に、これが親友の、萃香にとって最後の祭当番。

 本来の罰則であれば、祭当番は20年間。残りはまだ半分くらいあるが、それを私が肩代わりする事にし、棟梁様(母さん)にその旨を伝えた。これには母さんも了承してくれたし、彼女に「今までありがとう」と感謝もしていた。

 そして去年頃から地上に移り住み、今は(ほとん)どこっちに来る事はない。きっと地上で楽しくやっているのだろう。今年の祭が終われば、こちらへ戻って来る必要はもう無くなる。そうなると、昔みたいに余程の事が無い限りは戻らないだろう。でもそれが、ようやく自由になった彼女のやりたい事。誰も邪魔をしてはいけないし、引き止める事なんてしてはいけない。

 だから大鬼もそれを理解してくれて、彼女が地上へ行くと知ったあの時、笑ってくれたんだ。

 

 

 

 




次回はちょっと別の話を。
はい、アイツです。
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