--女鬼休憩中--
呼吸が落ち着いて、体も大分楽になった。とは言え、全快までは程遠く、出来る事ならもう少しだけ休みを取っていたい。しかしそうゆっくりもしていられない。今日この後、私とヤマメは仕事がある。それに大鬼も和鬼と約束があると言っていた。何をする気か知らないが……もう喧嘩を起こさない事を切に願う。冗談抜きに。いつぞやの連日筋肉痛はもうこりごりだ。
勇儀「よし、やろう!」
膝を叩いて重い体を奮い立たせ、鍛錬を再開。
大鬼に協力してもらっての能力発動。ここまでの流れはもう慣れたもの。ただ発動する度に、湧き上がる力が弱くなっている事が少々気になる。けど鍛錬を行うにはこの程度でも問題ない。
パンッ
ヤマメが手を叩く音に合わせて
勇儀「ぐっ!」
さっきの要領で光の弾を作る。だが……。
勇儀「うわっ!」
ヤマ「力み過ぎだよ。大きいよ。もっとリラックス、リラックス」
勇儀「リラックス、リラックス……」
ヤマ「そうそれ。はい、もう一回」
パンッ
勇儀「ほっ」
ヤマ「今度は小さいよ、もう少し力を入れて」
なかなか上手くいかない。自分でも思う。「これは時間が掛かりそうだ」と。
その後もヤマメの指導の下、光弾作りの反復練習を行い、この日の早朝練習は終了。
そしてその翌日から私の鍛錬は本格的に始まった。早朝練習の他に、私とヤマメが休みの日は一日中。もちろんそれは大鬼の協力があっての事。つまり大鬼は私の鍛錬に付き合わせられていた。ずっと。何をするわけでもなく、ただ手を握られるためだけに。
やがて私は光弾を安定して飛ばせる様になり、一度に作れる数もかなり増えた。ヤマメも「基礎はもう充分」と言ってくれ、鍛錬はいよいよスペルカードの魅せ方、作り方へと移行しようとしていた――
勇儀「大鬼、手」
いつも通りに、さも当たり前の様に大鬼に手を差し出し、協力を求めた。
大鬼「……」
だがその手はなかなか出て来なかった。手を握っては開きを繰り返し、催促をしてみるが、一向にその様子は見られない。その上、冷めた目で不服な表情を浮かべる始末。その態度に少々ムッと来た。
私の表情の変化に気が付いたのだろう。すると大鬼はここぞとばかりに……
大鬼「あのさ……、いい加減に自分無しでも出来る様になってくれない?」
不満をぶつけてきた。
ヤマ「そうだよね、大鬼君は付き合わせられて辛いよね。勇儀どう? 出来そう?」
師匠にそう言われて、試しに能力の発動無しで光弾を作ってみる事に。もう慣れた感覚。あの要領でやればいい。簡単な事だった。
勇儀「……できない」
だがそれは姿を現わす事は無かった。手に力を込めようと、力の塊だという事を強くイメージしようと、何をしようと。
それならばと大鬼との繋がり無しに、能力の発動を試みる。だが結果はそれも不発。その
勇儀「能力も出せない……」
ヤマ「そうなの? でも大分前に……それこそ、あの年のお祭りの時に大鬼君とは……」
そう、あの時……私が大鬼達の元へと向かった時は、手も届かない距離だった。それが一番の謎。その時のきっかけが分かれば、私は自由に能力を解放できるのに……。でも分かっている事もある。それは祭りの後に、実家で開いた宴の席での事。実験は成功し、その時疑惑は確信へと変わった。それが、「大鬼に触れれば能力が発動する」という事。
だから今もこうして大鬼に協力を頼んでいる。ただ不思議なのが、当時は離れていても持続していたのに、最近では離れた途端消えてしまうのだ。やっぱりアレじゃないとダメなのか?
勇儀「おい、大鬼」
これを頼むのは何年ぶりだろう。
勇儀「ん!」
懐かしいが……は、恥ずかしい。
大鬼「は? 何やってるの?」
ヤマ「?」
もう忘れてしまったらしい。仕方なく頬を人差し指で2度叩き、分かりやすく合図。さらにもう一度、先程よりも強めに
勇儀「んっ!!」
もう分かるだろう?
大鬼「だから何ッ?」
これでも伝わらないのかっ!? 師匠は目を輝かせて待っておられると言うのに……。
勇儀「だ、だから……その……、く、くち……」
大鬼「しないから」
食い気味の回答。コイツ……。分かっていただろ?
勇儀「でもそっちの方が、ずっと手を握っていなくて済むんだぞ?たぶん……」
大鬼「あのさー、手を握られっぱなしなのが嫌だって思っているわけ?」
勇儀「いや、そうじゃないのは分かるが……。でも約束だろ?」
「約束」コレを言えば「大鬼は何も言い返せずにまた黙る」。そう思っていた。安易に考えていた。だがこれが引き金となり、
大鬼「もうそれ以上に付き合わせられてる!割に合わない!」
勇儀「毎月小遣いだってあげてるんだ!家の手伝いだってしてないんだから、もう少し付き合ってくれてもいいだろ!!」
私と大鬼は、互いに溜め込んでいた日頃の不満が大爆発。顔を近付け、激しく火花を散らして睨み合っていると、
ヤマ「ちょ、ちょっと待った。2人とも落ち着いてよ」
その間を裂くように、ヤマメが割って入って来た。
ヤマ「大鬼君、毎日朝早くから一緒に来てくれて、大変なのはすごく分かる。エライと思うよ。勇儀だって感謝してるよ?ね?」
勇儀「あ、あー……」
大鬼「……」
ヤマ「でもね? 勇儀は仕事に行って、ご飯も作ってくれているんでしょ? もう少しだけ勇儀の鍛錬に付き合ってくれないかな?」
さすがヤマメだ。素直にそう思う。そして彼女の言葉で気付かされた。私は大鬼への配慮が足りていなかったのだと。
勇儀「頼む大鬼もう少しだけでいいから……」
大鬼「……ナンデ?」
『え?』
大鬼「どうして……どうして……どうして我慢するのはコッチばかりなんだよ……。この前の肉屋の手伝いの時だってそうだ。我慢して、ヤマメに言われたから
ヤマ「ちょっと大鬼君!?」
聞き捨てならなかった。恐らくヤマメが大鬼に「私に謝ってくれないか?」と頼んだのだろう。ヤマメの事だ。丸く収めようと気を使ってくれたのだろう。
それはいい。
だが、あの時の「ごめん」が
勇儀「大鬼、お前さんそういうつもりで謝ったのか?」
大鬼「じゃなければ言わない! あの時は全面的に姐さんが悪い! それに我慢しているのはそれだけじゃない!! もっと前から……ずっと、ずっと我慢しているんだ!!」
これには心当たりがあった。ちゃんと話さないといけないとも。
勇儀「だったら何であの時、『もう探さない』と言った時に、『いいよ』と答えたんだッ!?」
けど、こんなタイミングで、この話題を出す事になるなんて……。
ヤマ「えっ……」
大鬼「は?」
私がそう放った言葉は、大鬼のみならず、ヤマメまでもを呆気に取らせていた。まるで予期していない事を言われたみたいに。
勇儀「だってそうなんだろ? お前さんが言う『我慢』って言うのは。やっぱり本当の親に会いたいんだろ? お前さんにとって唯一の親だもんな?」
確信があった。コイツが変わり出したのが、その頃だったから。そう尋ねた私の声は、少しばかり震えていた。
ヤマ「勇儀、それ……」
大鬼「ヤマメ!」
ヤマメが私に何かを伝えようとしたその時、大鬼が大声を出して「それ以上話すな」とでも言うかの様に、その言葉を停止させた、そして私に鋭い視線を向け、威嚇するかの様に語り出した。
大鬼「いいよ……、勝手にそう思っていれば。ずっと勘違いしてろよ! その都度『また勘違いしてる』って心で笑ってやるから!!」
勇儀「なんだよその口の聞き方! それが目上の者対する言い方かっ!?」
大鬼「また説教すんの!?
バチンッ!
黙っていられなかった。悔しかった。悲しかった。私の心は限界を超えていた。
勇儀「出て行けよ……。そんなに私の事が嫌なら出て行けッ!」
私がそう言い放つと、大鬼は殴られた頬を抑えて食いしばる歯を見せながら、先程よりも強く、刺すような視線を向けた後、その場から走り去って行った。
ヤマ「大鬼君! 待って!」
勇儀「ヤマメ追うな! 放っておけよ。あんなヤツ……」
パチンッ!
頬に違和感を覚えた。決して強くはない、大したダメージにもならない一打。だがそれは、胸に強く響いていた。
勇儀「えっ?」
ヤマメは……泣いていた。両目から大粒の涙を流しながら。それが大きなダメージだった。
ヤマ「なんで分かってあげないの!? なんで気付いてあげられないの!? みんなが気付いているのに、どうしていつも側にいる勇儀が分からないの!?」
私は泣きながら語る彼女の言葉を、ただ呆然と聞く事しか出来なかった。そして彼女は全てを告げると、くるりと背を向けて歩き出した。
勇儀「ヤマメ? どこに……」
ヤマ「知らない! 来ないで! ちゃんと気付けるまで、大鬼君と仲直りするまで、何も教えない!」
取り残された私。ヤマメは私に「気付け」と告げた。そしてアイツは「勘違いをしている」と。
私には、それが何なのか分からない。分からない限り、私はアイツとは仲直りする事が出来ないだろう。けど、今は例えそれが何か分かったところで、仲直りだなんて……。
祭まであと数日、今年の祭はほぼ例年通り。一大イベントもなければ、特別なゲストもいない。いつかの慌しい祭りとはならないだろう。と同時に、これが親友の、萃香にとって最後の祭当番。
本来の罰則であれば、祭当番は20年間。残りはまだ半分くらいあるが、それを私が肩代わりする事にし、
そして去年頃から地上に移り住み、今は
だから大鬼もそれを理解してくれて、彼女が地上へ行くと知ったあの時、笑ってくれたんだ。
次回はちょっと別の話を。
はい、アイツです。